アジア原子力協力フォーラム(FNCA)バイオ肥料プロジェクト および
日本学術振興会(JSPS)、タイ学術研究会議(NRCT)、フィリピン科学技術省(DOST)、インドネシア科学院(LIPI)、マレーシア国立大学長会議(VCC)のバイオテクノロジーと共生システムを利用したバイオ肥料の開発に関する多国間共同研究プロジェクト 合同ワークショップ 議事録 (和文仮訳)
2003年10月20日〜24日 ベトナム ハノイ・ホーチミン市
2003年3月に日本の沖縄で開催された第4回FNCAコーディネーター会合での合意に基づき、「FNCAバイオ肥料プロジェクト」と「日本学術振興会(JSPS)、タイ学術研究会議(NRCT)、フィリピン科学技術省(DOST)、インドネシア科学院(LIPI)、マレーシア国立大学長会議(VCC)のバイオテクノロジーと共生システムを利用したバイオ有機肥料の開発に関する多国間共同研究プロジェクト」の合同ワークショップが下記の通り開催された。
日 程 : |
2003年10月20日〜24日 |
場 所 : |
ハノイ:ソフィテル・プラザホテル・ハノイ(10月20、21日)
ホーチミン市:レックスホテル(10月23、24日) |
主催・後援: |
FNCA:ベトナム科学技術環境省(MOSTE)
FNCAおよびJSPS:文部科学省(MEXT)
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開発期間: |
FNCA(ハノイ):ベトナム原子力委員会(VAEC)
ベトナム農業科学研究所(VASI)
JSPS(ホーチミン市):カントー大学
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事 務 局 : |
FNCA:(社)日本原子力産業会議 (JAIF)
JSPS:大阪大学生物工学国際交流センター(IC Biotech)
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参 加 者 : |
FNCA:14名
JSPS:19名
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ベトナム原子力科学技術研究所 (INST)の Dr. Vo Van Thuan所長の開会挨拶に続き、町末男FNCA日本コーディネーターから「FNCA活動の紹介」、室岡 義勝・大阪大学教授から「JSPSの多国間共同研究活動プロジェクトの紹介」、Dr. Gudni Hardarsonから「マメ科穀類の生物的窒素固定を促進するための原子力技術利用に関わる国際原子力機関(IAEA)の活動」と題する講演がそれぞれ行われた。
合同ワークショップ参加者は、ピーナッツとジャガイモへのバイオ肥料のフィールド・デモンストレーション(圃場実証試験)が実施されているビンフック県タンドン区のホプシンを訪れ、農家と作物生産およびバイオ肥料利用に関して意見交換を行った。また、松に対するバイオ肥料の効果の評価を実施しているビンフック県メリン区ダイライの林業研究開発センターの視察を行った。フィールド・デモンストレーションおよび比較試験を見学し、ワークショップ参加者は、バイオ肥料を接種した作物とバイオ肥料を接種しないコントロール区の作物、とくにピーナッツの根粒着生の違いを見分することができた。
ワークショップ参加者は、受入機関の協力と指導に対して謝意を表した。
セッション 1とセッション2では、ベトナムと日本からの基調講演に続き、FNCA参加国から合計8つの論文が発表されたほか、ベトナムから2つの招待講演が行われた。
セッション 3では、合計19の講演がJSPSの参加者から行われた。
セッション 4では、東京農工大学の横山正教授と 国際半乾燥熱帯地域作物研究センター ( ICRISAT)のProf. Rachid Serraj教授による特別講演が行われた。
セッション 5では、FNCAとJSPS多国間共同研究計画の協力について討議がなされた。主な論点と合意事項は次の通りである:
JSPSが基礎研究、FNCAが実用化に焦点をあてているという違いはあるものの、両者ともバイオ肥料、バイオ有機肥料( biomanure )という関連したテーマを扱っており、FNCAとJSPSの協力は全ての参加国にとって有益である。FNCAとJSPSが協力することで、両者の活動を通じて得られた成果の技術としての確立とそれらのエンドユーザーへの普及が加速される
- FNCAとJSPSの合同ワークショップを今後、適宜、開催する。共通の目的を持った合同ワークショップの開催は、得られた経験と情報を相互に共有できるため、大きなメリットが期待できる。
- (合同ワークショップが開催されなかった場合) JSPSメンバーのFNCAワークショップへの参加は大いに歓迎する。
- 各国の FNCAおよびJSPSメンバーのよりいっそうの協力を促進する。
- FNCAとJSPSで得られた成果は、とくに1つの国において共有する。
- FNCAおよびJSPSの出版物等も相互に交換を行う。
< FNCA と他機関との協力>
- IAEAとFNCAの協力強化が提案された。FNCAはアジア地域におけるバイオ肥料計画をIAEAに提出するとともに、IAEAからの支援を要請する。
- ICRISATのような他の機関との協力関係の構築もなされるべきである。
セッション 6では、「総括討論」と「2003年のレビューおよび2004年の活動計画」について討議が行われた。討議の詳細は次の通りである:
< 2003 年計画 : 「菌接種剤」>
(1)適切な培地 |
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バイオ肥料として利用される微生物の適切な培地は次の通りである
根粒菌 : ピート (泥炭)、木炭、圧搾サトウキビ茎、土壌および団粒土壌、
液状根粒菌 :キャッサバ澱粉
複数の窒素固定菌および成長促進根粒菌 : 土壌、木炭、圧搾サトウキビ茎
菌根菌 : 土壌、ピート、土壌+砂、農業廃棄物、堆肥 (コンポスト) |
適切な培地は、各国における経済性、環境・産業状況に応じて選択される。 |
(2)滅菌法 |
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放射線滅菌は、培地の滅菌方式としては最良の方式の 1つである。各種の培地別の適切な照射線量を特定する必要がある。 |
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− |
菌接種に先立ち包装 (ビニールパック、アルミパック)した培地を 放射線 滅菌することでコストを削減できる。 |
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− |
照射処理量とコストの関係を調査する必要がある。 |
(3)混合接種材 |
混合接種材を使うことで、農家のバイオ肥料の利用が容易になる。接種材の混合は、利用の直前が望ましい。 |
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−
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根粒菌+ VAM菌 |
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− |
根粒菌+リン溶解菌。 |
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− |
複数の窒素固定菌+ VAM菌 |
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− |
複数の窒素固定菌+リン溶解菌 |
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− |
複数の窒素固定菌+植物生育促進性根圏細菌 (PGPR) |
(4)菌接種剤の品質管理基準 |
菌接種剤のパッケージには次の情報を表示すべきである |
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− |
微生物の名称、種類および含有微生物量 |
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− |
培地の種類・説明 |
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− |
接種法および適用作物 |
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− |
有効期間、使用期限、製造日付 |
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− |
その他の関連情報 |
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− |
含有微生物量は最も重要であり、他の微生物による汚染を防止しなくてはならない。 |
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− |
標準的なバイオ肥料の評価手法を確立する必要がある |
< 2004 年 : 「土壌微生物の改良」のトピックス>
(1)菌接種剤の改良 |
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1) |
バイオ肥料のための有用微生物の生存率を高めるための薬剤の処方 |
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2) |
菌接種剤の仕様 |
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− 培地および添加剤 |
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− パッケージング材 |
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3) |
有用微生物の選抜 |
(2)土壌条件の改良 |
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1) |
有機物による土壌と土壌 pHの改良 |
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2) |
菌接種剤の仕様 |
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− 窒素固定の強化 (根粒着生)のために土壌中の窒素を固定する炭素・窒素比の高い有機物の利用 |
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− 菌根菌を植物根に定着させるための混合腐葉土 (ポッティング・ミックス)有機物の利用 |
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− バイオ肥料の接種前の酸性土壌、アルカリ性または塩害土壌の中和 |
< FNCA の圃場実証試験と 15N 実験>
日本のプロジェクト・リーダーと専門家が 2002年ワークショップで提案した通り、バイオ肥料の圃場実験が合意された。2003年ワークショップでは、参加各国から圃場実験が計画通り実施されているとの報告がなされた(報告書を添付)。
これらの圃場実験の一部では、 15Nとリン 32P をトレーサーとした植物の養分吸収の測定が行われた。
< FNCA のバイオ肥料マニュアル>
日本の FNCAグループは、バイオ肥料マニュアルの原稿を作成することとなった。このマニュアルには、他の参加国からの情報も追加される。提案されている同マニュアルの構成は次の通りである。
1) 有用微生物の選抜
2) 有用微生物の生産
3) 培地の選定および処理
4) 菌接種剤の生産
5) 品質管理
6) 接種法
<放射線照射による培地滅菌>
中国、インドネシアおよびマレーシアは、放射線照射によるバイオ肥料の培地の滅菌の経験を有する。現時点では、放射線照射は、加圧 (蒸気)滅菌や乾熱滅菌に比べて割高であり、バイオ肥料の培地の滅菌方式としては、さらに経済性について研究する必要がある。しかし、培地の放射線滅菌には、次のような長所がある。放射線滅菌は室温で培地を滅菌・殺菌できるため、培地の物理的性状や化学組成、形状の変化を避けることができる。培地はパッケージに入れたままで滅菌でき、その後、微生物を注入することで、他の微生物による汚染を防止でき、バイオ肥料の品質が向上する。
< FNCAウェッブサイトとバイオ肥料メーリング・リスト “ BF-info ” >
日本の大山卓爾プロジェクト・リーダーから、バイオ肥料ウェッブサイトの説明があり、公式サイトとして htpp://www.fnca.jp/english/が紹介された。同ウェッブサイトには、「プロジェクト・レビュー」、「ワークショップ」、「バイオ肥料グループ・ニュースレター」、「バイオ肥料Who ' s Who」および「掲示板(BBS)」などをそのコンテンツとしている。同ウェッブサイトは、関係者同士が容易に直接、コンタクトをとれ、研究者や生産者、農家などの間で簡単に情報交換を行える設計となっている。これまでにバイオ肥料メーリング・リストである ” BF-info ” には合計 114件のメールアドレスが登録されている。「バイオ肥料Who ' s Who」に登録している人は誰でも、このメーリングリストに登録できる(とくに、未登録の人の登録を歓迎する)。同ウェッブサイトは、適宜、更新する。また、参加各国に対して、 “ BF-info ” への投稿が呼びかけられた。
<次回ワークショップ>
次回のワークショップ開催地については、 2004年3月に東京で開催されるFNCAコーディネーター会合で、各国のコーディネーターにより検討される。また、JSPSとの合同ワークショップについても検討される。
<バイオ肥料グループ・ニュースレター>
ニュースレター第 4号は、2004年4月までにベトナムから、また、第5号は7月にマレーシアから刊行される予定である。
本ワークショップでは、「バイオ肥料普及戦略」について討議が行われた。
本議事録は、ワークショップ参加者で討議され、合意された。本議事録は、 2004年3月に東京で開催される第5回FNCAコーディネーター会合に提出される。
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