FNCA2020研究炉利用プロジェクトオンラインワークショップ 会議報告
2020年12月17日
(仮訳)
序文
COVID-19のパンデミックによるワークショップ実施の難しさを考慮し、2021年の新フェーズ開始に備えて、今年は研究炉利用(RRU)プロジェクトワークショップをオンラインで開催することとした。本オンラインワークショップでは、RRUグループは各国の放射性同位元素(RI)製造の現状について、中性子放射化分析(NAA)グループは各国のNAAを用いた環境モニタリングについてまとめ、2021年の活動のための情報を共有した。全体セッションでは、日本の個々のプロジェクトリーダーからRRUとNAAの現行プロジェクトの現況説明があり、本ワークショップに関するいくつかの主要課題が挙げられた。個別セッションでは、RRU、NAAの各グループでそれぞれ議論の詳細内容をまとめ、総括セッションでそれぞれのサマリーを共有した。
[個別セッション]
カントリーレポートの作成に際し、日本のプロジェクトリーダーは参加者に対し、プレゼンテーションに以下の事項を含めるように求めた。
1) 研究開発活動への影響(勤務状態、施設利用状況、(あれば)追加の特殊業務等)
2) FNCA活動の進捗状況と結果
3) 2021年以降の活動目標
RRU: 新しい放射性同位元素を含む放射性同位元素製造
オーストラリア
パンデミック中も国内市場への放射性医薬品の製造及び供給は通常通り継続した。しかし、民間航空便の減少と国境閉鎖により海外への輸出は中断された。オーストラリアは、放射性同位元素99Mo(モリブデン)、99mTc(テクネチウム)、131I(ヨウ素)、177Lu(ルテチウム)、51Cr(クロム)、191Ir(イリジウム)、198Au(金)の製造を継続しており、サプライチェーンが通常に戻ると予想されるため、特に国際市場への輸出用として2021年初頭からアイソトープ生産を増加する予定である。オーストラリアは新しい放射性同位元素の臨床試験をサポートするため、90Y(イットリウム)、166Ho(ホルミウム)、32P(リン)の製造を行っている。
バングラデシュ
バングラデシュの放射性同位元素(RI)製造研究所が、国内の医学的に重要なRI需要を満たすために、99Mo/99mTcジェネレータと131I経口液剤を週ベースで製造している。RIグループは、医療用の新しいRIとして89Sr(ストロンチウム)の製造を計画している。88Sr (n,γ) 89Sr反応プロセスに続くSrCO3(炭酸ストロンチウム)をターゲットとしたバングラデシュ原子力委員会(BAEC)の研究炉を用いて89Srの調合計算が進行中である。
中国
コロナウイルスのパンデミックの影響はあるものの、スイミングプール炉(SPRR)や中国改良型研究炉(CARR)といった原子炉を含む原子力施設は年間計画に従って稼働していた。現在、SPRRは材料試験やシリコン非破壊試験のために100日(全出力換算日(EFPD))間、CARRは原子核科学や材料試験のために30日(EFPD)間、稼働している。
インドネシア
多目的研究炉(RSG-GAS炉)は、インドネシア原子力庁(BATAN)によって33年間運転されている。研究炉は主に放射性同位元素製造に使用されている。BATANは商用としてMIBI(メトキシイソブチルイソニトリル)、MDP(メドロン酸)、DTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)キット、153Sm(サマリウム)-EDTMP(エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)、131I-MIBG(131I標識メタヨードベンジルグアニジン)といった放射性医薬品を製造している。研究段階の放射性医薬品としては、ナノ材料に基づく99Mo/99mTcジェネレータ、Na-131I(ヨウ化ナトリウム)、[γ-32P] ATP(γ-32P標識アデノシン三リン酸)、 177Lu-ドータ・トラスツズマブ、32P 皮膚パッチなどを製造した。また、天然モリブデンからの99Mo製造を開発した。核燃料要素に関する研究も進行中である。
日本
2020年11月から、京都大学研究用原子炉(KUR)は、最大出力1及び5MWでRI製造や材料研究等のために定常モードで運転されている。47Sc(スカンジウム)、105Rh(ロジウム)、177Lu等の医療用RI製造の研究が行われ、その製造量が直線型加速器によって製造されたものと比較がなされた。また、日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究炉JRR-3は、2021年2月に最大20MWで運転予定である。JRR-3を用いてJAEAスタッフ、大学、企業の研究者がRI製造、物質・生命科学といった研究を継続することになる。
カザフスタン
2020年は世界中のコロナウイルスのパンデミックにより各国にとって困難な年であった。多くの組織で作業が中断され、従事者はリモートワークに切り替わり、航空会社は国際線を一時的に停止した。この期間、カザフスタンの研究炉の作業負荷が減少し、特にRI等の製品輸出に影響を及ぼした。RI製造、中性子ラジオグラフィ(NR)、人材育成、NAA、材料研究、原子核科学といった分野では、概ねすべての作業が継続された。RIの供給はカザフスタン国内市場にのみ行われた。今年は、原子炉ベースのRI製造は、医療用99mTcと産業用192Irである。177Lu製造の研究開発も進行中である。
マレーシア
マレーシア原子力庁は、TRIGA研究炉(Puspati)の利用を引き続き支援している。現在の研究炉は低出力で35年以上稼働している。最大中性子束は1 x 1013 cm-2.s-1である。本研究炉は週4日、1日当たり8時間稼働しているが、状況よって特定の要求に応じるために運転を延長する場合がある。以前は、研究炉を用いて153Smが研究されてきた。医療用RIへの関心が高いことから、177Lu、51Cr、165Hoの研究を効率化している。RI製造に加えて、この研究炉はNAA、中性子ビーム研究、教育及びトレーニングにも使用されている。また、新しい研究炉のフィージビリティスタディの提案が政府に提出された。
モンゴル
モンゴルの研究炉プロジェクトは数年前から議論されてきた。研究炉利用や設計研究、燃料比較分析が行われた。プロジェクト開発のためにロスアトムと最初の話し合いが行われた。提案されている研究炉は、RI製造(放射化法による99Mo/99mTc)、人材育成、NAA、教育及びトレーニング、核物理学、その他の商業サービスに利用される計画である。現在、医療用RIはすべて、韓国、中国、ドイツなど他の国から輸入されている。例えば500mCiの 99mTcジェネレータは2週間ごとに韓国から輸入されている。
フィリピン
COVID-19パンデミックにより、少なくとも3ヶ月間活動がシャットダウンされた。その後6月から10月にかけては50%の作業量しか戻らなかった。訓練・教育・研究用未臨界集合体(SATER)は、当初2020年12月に試運転の予定だったが、パンデミックのため2021年12月に移行された。フィリピン原子力研究所は、核医学開発センター設立のための5ヶ年プログラムに着手しており、それは16.5MeVで稼働する5つのPET/CTシステムを備え、18F(フッ素)、11C(炭素)、13N(窒素)、64Cu(銅)、43Sc、68Ga(ガリウム)を製造するものである。
タイ
研究炉TRR-1 / M1は、最大出力1.2MWの定常モードで運転されている。研究炉は、教育及びトレーニング、RI製造、地質年代学、NAA、中性子イメージング、機器の試験や校正など、様々な研究と幅広い利用を生み出した。TRR-1 / M1は、153Sm、82Br(臭素)、32Pを製造している。最近、核医学利用のため176Luと176Yb(イッテルビウム)の中性子放射化による177Luの製造実験が行われた。177Lu製造戦略の可能性を最大限に引き出すために、今後さらに調査が行われる予定である。
ベトナム
COVID-19のパンデミックにより、現在多くの困難があるが、ベトナムは原子炉の稼働時間を増やすなど、市場に対応すべく効果的な代案を多く探しだした。一方で、他の研究活動は中断せざるをえなかった。
NAA: NAAを含めた複数の測定技術を用いた環境モニタリング
オーストラリア
多目的研究炉OPALは主に医療用RI製造をサポートするためにフル稼働を続けたが、パンデミックによりサイトへのアクセス制限期間が強いられた。しかし他のエリアでの人員削減により、長期のNAA照射は実施できたが、開梱はできなった。短期照射はまだ行うことができた。代案が求められたが、実施できない状態であった。最終的に制限が解除され、6月以降、損失時間を取り戻すのに非常に忙しかった。
バングラデシュ
パンデミック中、不十分な中性子ビーム、液体窒素の供給不足や検出器の故障のため、研究開発活動は非常に滞った。この期間、保留中の学術協力作業が優先的に完遂された。14の論文が発表され、プロジェクトに直接関係のない研究作業が行われた。研究炉の利用可能性に応じて、FNCAの活動目標は今後完遂する予定である。環境モニタリングでは、1)土壌と堆積物、2)石炭と石炭飛散灰、3)植物試料が選択可能である。
中国
COVID-19のため、今年は北京で試料を採取したが、NAAと粒子線励起X線分析(PIXE)での試料分析は遅れた。CARRのNAAプラットフォームはまだアップグレード中である。PM2.5の標準物質のいくつかがNAAで分析された。NAAは中国の大気管理において非常に重要な分析手法である。NAAは、国家主要研究開発プログラム(NRDP)を含め、いくつかの国家プログラムで採用された。2021年は、北京のPM2.5とPM10の試料が採取され分析される。
インドネシア
2019-2020年のFNCA活動は、前回のFNCAワークショップで発表されたように国家研究プログラムの支援に焦点を当てている。発育阻害発生事例の減少を加速することは、現在、政府の優先プログラムの1つである。食品中の必須要素であるヨウ素は、発育阻害に影響を与える重要な栄養源の1つであるが、ヨウ素量は微量であるため、精密で正確な定量値を求める手法を開発する必要がある。食品中のヨウ素元素の測定には、熱外中性子を用いた機器中性子放射化分析(INAA)法の利用が1つの選択肢である。この手法はカドミウムとホウ素シールドを使用して集中的に開発された。地元の食品中のヨウ素の測定に熱外中性子INAAが使用されており、その分析結果が報告された。
日本
現在、京都大学研究用原子炉(KUR)が日本で唯一NAAに使用できる研究炉である。このような状況は2021年早々に変わるだろう。JAEAの研究炉JRR-3が10年にわたる長い休止の後に運転を開始する。NAAのエンドユーザーにとって使いやすさは向上するが、現在のパンデミックの拡大によりNAAの利用率が低下するかもしれない。地球化学試料と宇宙化学試料、地質標準試料を、INAA及び放射化学的中性子放射化分析(RNAA)のそれぞれの方法で分析を実施する予定である。
カザフスタン
研究炉が一時的に停止し、鉱物資源探査と選鉱に従事するパートナーとの関係がロックダウンで停止したため、計画していたNAAによる調査量は大幅に削減された。関係が再開されると新たな懸念が生じた。2021年の主な課題は、U(ウラン)鉱石試料のRe(レニウム)分析、黒色頁岩中の金とその随伴元素の分析、希土類元素の対応試料分析である。
韓国
HANARO研究炉では、熱中性子ベースのINAA、遅発中性子放射化分析(DNAA)、そして冷中性子-即発ガンマ線分析(CN-PGAA)と冷中性子-中性子深さ方向分析(CN-NDP)からなる冷中性子放射化ステーション(CONAS)を稼働させている。HANAROは長い間停止状態であったが、今のところ2021年初頭に稼働予定である。現在、主に半導体、地質、環境、食品などの試料が、エ ネ ル ギ ー 分 散 型/波長分散型-蛍光X線分析(ED/WD-XRF)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)など他の分析機器を使って分析されている。釜山市近くのキジャン郡に新しい研究炉を建設する新プロジェクトが進行中である。
マレーシア
NAA技術を使用して土壌試料分析に関連する研究活動がなされた。現在、汚染源の特定を目的として、周辺地域や工業団地の土壌試料中の汚染元素モニタリングが優先されている。マレーシアはカパール工業団地から採取された土壌中の重元素、微量元素、希土類元素(REE)の汚染源を特定するため、試料分析に参加、実施した。
モンゴル
2020年は、大気汚染、食品汚染、大気形態分布などの環境モニタリングがNAAやその他の関連手法で実施された。形態学的研究結果によると、夏の粒子状物質汚染は土壌由来の球状をしており、冬の粒子状物質汚染は固体燃料の燃焼由来の不揃いな形状であった。食品汚染については、重元素、有毒元素の含有量は許容レベルを越えなかった。
フィリピン
地域の検疫措置による制限にもかかわらず、大気粒子状物質(PM10とPM2.5)の採取は可能な限り最善の方法で継続されている。稼働中の原子炉がない、または原子炉にアクセスできないため、これらの試料にNAAは使われなかったが、フィリピン原子力研究所はベトナムとの共同作業を提案することを検討している。フィリピンは、国内の一部の大気粒子状物質に関する共同研究を確立しており、海洋及び河口の堆積物、火山灰、テクタイトなどの環境試料のNAAも検討することを計画している。
タイ
INAAを使用して、認証標準物質JG-2中のREEとその他の元素濃度が報告された。それらの値は基準値とよく一致した。10の地質学的試料中のREEとその他の元素の測定がINAAとマイクロ波分解及び溶融、溶解操作を伴うICP-MSを使用して行われた。2021年の環境モニタリング物質は、PM2.5、PM10、土壌、作物、地質学的試料である。
ベトナム
ダラト研究炉の研究開発活動はパンデミックの影響を受けず、病院向けの放射性同位元素製造を増やすために継続的に稼働している。ベトナムの科学技術省(MOST)プロジェクトにおいて、30の異なる場所で採取された苔の試料中の10の重金属及び半金属元素の濃度がk0-INAAで測定された。海岸浸食研究のために、k0-INAAを使用して海洋堆積物の元素濃度を分析した。考古学的試料として、50の粘土試料中の14のREEとU、Th(トリウム)濃度もICP-MSによって測定され、REEパターンが求められた。
総括セッション
結論
RRUプロジェクトのトピックは非常に広範囲にわたっており、より良い成果と知見を得られるよう本フェーズ(2020-2023)では特定のトピックに焦点を当てることで合意された。 RRUプロジェクトには以下のトピックが含まれる。
a. 中性子放射化分析(NAA)
b. 新しい放射性同位元素を含む放射性同位元素製造
c. 中性子散乱
d. ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、中性子ラジオグラフィ(NR)
e. 材料研究
f. 新しい研究炉
g. 人材育成など
RRUグループ
ワークショップでは、RRUグループでいくつかのトピックについて議論した。また、各国から返信のあったアンケート結果に従い、フェーズ2(2020-2023)のワークショップの原子核科学分野における代表的なトピックが検討された。考えられるトピックを以下に順番に示す。
1) 新しい放射性同位元素を含む放射性同位元素製造(これは今年議論された報告書に含まれている)、実用的な精製技術や品質保証と品質管理(QA/QC)(もしあれば)
2) 新しい研究炉
3) ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、中性子ラジオグラフィ(NR)
4) 人材育成
5) 材料研究
6) その他の可能なトピックやニュース
NAAグループ
NAAグループは、2019年に環境試料をターゲット材料として採用することに合意した。COVID-19のパンデミックのため、2020年にプロジェクトを開始することはできなかったが、2021年に開始され 2023年まで続く予定である。本フェーズの環境試料は、大気粒子状物質など“一般的”な環境試料だけでなく、地質学的試料、土壌、さらには食品など身の回りの物質も取り扱うことが合意された。NAAは多種多様な固体試料に対して多元素定量が可能なため、このような固体環境試料については、NAAはICP-MSや誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)などの最新の分析法と引けを取らないか、より優れている側面もある。この意味で、研究炉が一時的または恒久的に稼働していない参加国ではNAA以外の分析法をこれらの試料に適用することによって、NAAグループ内でデータの比較及び検証を行うことができるよう推奨された。
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