FNCA2022研究炉利用プロジェクトワークショップ 会議報告
2022年11月22-24日
日本、茨城県水戸市/東海村
(仮訳)
序文
研究炉利用(RRU)プロジェクトワークショップは、日本の茨城県水戸市及び東海村で3日間にわたり開催された。初日(11月22日)前半の全体セッションでは、日本の個々のプロジェクトリーダーが、本ワークショップに関するいくつかの主要課題に言及しながら、現行のRRUと中性子放射化分析(NAA)グループの概要説明があった。初日後半から2日目(11月23日)には個別セッションが開かれた。RRU個別セッションでは、まず放射性同位元素(RI)製造の最新情報を含む国別報告のまとめが発表され、続いてSMRを含む新しい研究炉、中性子散乱について、各国から順次発表がなされた。NAA個別セッションでは、大気汚染、鉱物資源に関連する活動について各国から発表がなされ、続いてエンドユーザーとの連携を含めたトピックスについて議論された。そしてRRU、NAAの各グループでそれぞれ議論の詳細内容をまとめ、総括セッションでそれぞれのサマリーを共有した。3日目(11月24日)は、午前中にJRR-3へのテクニカルビジットが行われた。
[個別セッション]
RRU-1: 新しい放射性同位元素(RI)を含むRI製造に関する国別報告
オーストラリア
比較的新しいオーストラリアのOPAL多目的炉は、年300日超の実稼働という重要業績評価指標(KPI)を維持している。ANSTOは、重要な放射性医薬品である99Mo(モリブデン)バルク、99Mo/99mTc(テクネチウム)ジェネレータ、無担体177Lu(ルテチウム)、131I(ヨウ素)バルク、131I製品、123I製品、51Cr(クロム)-EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、187Re(レニウム) Oncobeta及び多数の委託照射製品の製造を継続している。99Mo及び177Lu(高価な濃縮176Yb(イッテルビウム)から製造)の精製には一連のイオン交換分離が関わり、131I精製には天然TeO2(二酸化テルル)ターゲットの昇華を用いた。ANSTOは、週に最大60万GBqの99Mo、20〜370GBq規模の150の99Mo/99mTcジェネレータ、6,000GBqの131I、1,200GBq(来年には倍増予定)の177Luを製造する能力を有している。ANSTOは英国薬局方に準拠した品質管理(QC)試験及び販売のための品質保証(QA)を行っている。ANSTOは、オーストラリア独自の生産能力を確保するために、オーストラリア政府と協力して世界有数の核医薬品製造施設の設計を行っている。
バングラデシュ
バングラデシュにおけるRI製造の現況について述べる。現在の主要なRI製品は、99Mo/99mTc、131I NaI(ヨウ化ナトリウム)経口液剤、及び131Iカプセルである。99mTcジェネレータの現在の月間生産率は41 GBq、131Iの放射能は373 GBqである。99mTcは診断目的に使用され、131Iは診断と治療の両方の目的に使用される。バングラデシュ原子力委員会(BAEC)のRI製造部門は、国内製品で輸入を完全に置き換えるだけの上記RIの国内需要を満たす能力がある。これに加えて同部門は99mTcベースの放射性医薬品の需要を国内で満たすために、99mTcジェネレータのキット製造施設を成功裏に設置した。
インドネシア
インドネシアの30 MWのG.A. Siwabessy多目的研究炉(RSG-GAS炉)は、RIの製造、研究、教育などに使用されている。RIに関しては、中性子放射化法で製造した98Moに基づく99Mo/99mTcジェネレータの開発、及び、濃縮176Luを用いた177Luベースの放射性医薬品等の研究活動を行っている。放射性核種の製造ラインは6日ごとの稼働サイクルで、Sm2O3(酸化サマリウム)から153Sm-EDTMP(エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)、天然TeO2から131I-MIBG(131I標識メタヨードベンジルグアニジン)、235U(ウラン)核分裂から740 GBqの99Moを供給してきた。高純度の製品を得るために、濃縮物質の多段階ろ過、カラム・クロマトグラフィー、99Mo/99mTcには溶媒抽出法、そして131Iには乾留法といった精製方法が採用されている。商業製品の品質管理は、薬品・食品管理機関の適正製造基準(GMP)の標準許容基準を採用している。研究目的で、32P(リン)、35S(硫黄)、198Au(金)、192Ir(イリジウム)及び64Zn(亜鉛)のRIを製造することができる。現在、RSG-GAS炉は組織変更の過程にある。
日本
京都大学研究用原子炉(KUR)は、2021 年 11 月から、熱出力 1 MW 及び 5 MWで運転されており、材料研究、生命科学などの研究開発が行われ、RI製造では47Sc(スカンジウム)、105Rh(ロジウム)、177Luなどの医療用RI製造の研究開発が行われている。日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究炉JRR-3(熱出力20MW)は、2021 年 2 月に運転再開を果たし、JRR-3の多彩な実験装置を利用した材料、生命科学などの研究開発が行われている。RI製造では、化学分離を伴うRI 製造は行っていないが、198Au と192Irの製造を行っており、2021 年度中に56 GBqの198Auと27 GBqの192Irを製造した。今年、JRR-3は5月9日から供用運転を開始し、12月24日まで運転する計画である。
カザフスタン
2022年において、WWR-K炉では国内市場向けRI製造を継続し、医療及び産業用に192Irは 約1.85 1014Bq/年、99Mo は12,000〜15,000 GBq/年、131Iは3,000 GBq/年のRIを原子炉で製造した。99Mo及び131Iの製造には、放射化法が使用された。131Iは照射した酸化テルルから乾留法で単離し、アルカリ溶液に吸収させ製造した。99Mo/99mTcジェネレータの製造には、99Moのアルカリ溶液からの99Mo-Zr(ジルコニウム)ゲル合成法を使用した。99mTc及び131I放射性医薬品の品質は、欧州薬局方の医薬品各条の要件を満たしており、放射性医薬品の製造はGMPに従って行われた。
モンゴル
モンゴルの研究炉(RR)プロジェクトはここ数年にわたり内部で議論されてきた。研究炉利用や基本設計、使用する燃料等の比較分析が行われた。RRプロジェクト開発は、ROSATOM(ロシアの国営原子力企業)と協働して進行中である。提案された研究炉は、RI製造(中性子放射化法による99Mo/99mTc)、人材育成、NAA、教育及びトレーニング、核物理学、その他の商業サービスに利用される計画である。現在、医療用RIはすべて、韓国、中国、ドイツなど他の国から輸入されており、500mCiの99mTcジェネレータは2週間ごとに韓国から輸入されている。
フィリピン
フィリピン研究炉(PRR-1)の訓練・教育・研究用未臨界集合体(SATER)は、2022年6月にフィリピン原子力研究所 (PNRI)により問題なく試運転が行われた。現在、PNRIの原子炉グループはPRR-1 SATER運転の完全ライセンスの発行を待っており、2023年までに開始される予定である。PNRI核医学研究イノベーションセンター(NMRIC)設立プログラムは2020年に始まった。このプログラムを通して、PNRIは4台のPET/CTシステムを備えた20 MeVサイクロトロン施設を有することとなり、8F(フッ素)、11C(炭素)、13N(窒素)、64Cu(銅)、43Sc、68Ga(ガリウム)を生産する予定である。本施設は2026年に完成予定である。
タイ
タイ研究炉TRR-1/M1は、最大出力1.3 MWで定常運転を行っている。RIを使用する医療処置数は、がんの診断及び治療のための放射性医薬品の重点化に基づき増加しつつある。TRR-1/M1は、153Sm、82Br(臭素)、32Pを製造することができる。近年においては、TRR-1/M1の炉内及び炉外位置で濃縮176Luと天然TeO2を使用して177Luの製造実験を行った。今後、131I及び177Lu製造戦略に基づいて、177Lu製造では出力1 MWで26時間照射したターゲット(約11 GBq/g)からの分離・精製方法について調査が行われる予定である。将来的には、当該ターゲット材は希酸中で溶解され、精製、分注後、蒸気滅菌され製品化される予定である。年に約7.4 GBqの153Sm及び1.5 GBqの32Pが製造されている。放射性核種と最終製品の純度を決定するためにQCプロセスが実施されている。放射性核種濃度(RNP)はRIの最終製品でほぼ100%を達成している。QAスタッフが検査し、顧客への製品のリリースを承認する。TRR-1/M1で製造されるRIは、現在、国内需要向けにのみ供給されている。
ベトナム
ダラト研究炉(DNRR)は、医療用RI(131I、99Mo/99mTc、32P)の製造を行っており、国内40ヶ所の核医学治療施設にRIと放射性医薬品を供給している。研究炉の運転時間は、100時間/週の継続運転で、国内需要の8割を満たすRIと放射性医薬品を生産している。131Iと32Pは国内市場を賄っているが、99mTcなど他の同位体は全量輸入している。177Lu、153Sm、90Yについては、研究用として少量を供給している。 2022 年に医療用として製造された RI の総放射能は 1,138A Ciである。 RI 製造に係るQA/QCは、GMP施設のシステムに則って実施されている。2022年には、RI医薬品研究開発に関する研究課題2件を実施した。
RRU-2: SMR開発に関する取り組み
日立GEにおける小型モジュール炉開発
日立GEニュークリア・エナジーは、カーボンニュートラルの実現に不可欠となる原子力発電所への初期投資の抑制、長期的な安定電源の確保といった社会的ニーズに対応するため、小型モジュール炉BWRX-300の開発を推進している。BWRX-300は、米国GE Hitachi Nuclear Energy社と共同開発を進めている電気出力300MW級の小型軽水炉であり、静的安全システムの導入と原子炉システムの簡素化により、高度な安全性と高い経済性の両立を実現する。使用する燃料及び原子炉系のほとんどの機器には、既存の原子力発電所にて採用実績のある技術を採用する。このように実績のある技術・製品を活用することで、開発リスク及び許認可リスクを最小化している。今後も世界のクリーンエネルギーの発展のために技術開発を実施していく予定である。
RRU-3: 新しい研究炉
ベトナムにおける新しい研究炉プロジェクト
ベトナムは、ベトナムとロシア連邦との政府間協定に基づき、新しい研究炉の建設を計画している。原子力科学技術センター(CNST)建設に関する協定が署名された。CNSTの主たる施設は、10 MWの高出力多目的研究炉(RR)で、15 MWまでアップグレード可能である。プレフィージビリティースタディによるプロジェクトの第一フェーズは完了している。フィージビリティスタディ(第2フェーズ)実施に向け、委託事項(TOR:Terms of Reference)を含む要請された入札はROSATOMに移転し、このフェーズは承認を含め約2年を要する。フィージビリティフェーズが成功裏に達成されれば、EPC契約(第3フェーズ)は2025年末から開始される可能性がある。
新規研究炉建設におけるタイの経験
十分な必要性の議論を経て新しい研究炉(RR)建設検討への着手が決定した。そのために、安全、安心、持続可能な運転と利用を確保し、準備、計画、適切な国内インフラを確保することが必要である。この新しい研究炉プロジェクトは、IAEA原子力エネルギーシリーズ(Nuclear Energy Series)No. NG-T-3.18をガイドラインとして使用したが、これは新規研究炉プロジェクトの準備の自己評価及び要求されるリソース要件の枠組みを提供するものである。
RRU-4: RI製造
国内自給率改善のための既存炉による医用RI生成- PWRや常陽を用いた99Moや225Ac(アクチニウム)の生成
国内の既存の原子炉を用いて医用RIを国内自給する技術の開発を行っている。対象核種は、医学診断に最も多く用いられているMo/Tc、そして「標的α療法」と呼ばれる、効果的ながん治療法に用いられる225Acである。商業炉であるPWRは稼働率が高く、98Mo (n,ɣ)反応に適した熱中性子を有するため、半減期の短い99Moを連続的・安定的な生成に適している。高速実験炉常陽は、エネルギーと中性子束の高い中性子を発生するため、226Ra (n,2n)反応により225Acの効率的生成が可能である。検討の結果、大型の商用PWRは現在のMoの国内需要(約1000Ci/week)の半分以上を、また常陽は225Acの現時点の世界供給量(約2Ci/year)の半分以上を生成できるポテンシャルのあることが示された。この研究プロジェクトはMEXT原子力システム研究開発事業として、東京都市大学、金沢大学、日本医用アイソトープ株式会社(NucMed)、三菱重工業、日本原子力研究開発機構(JAEA)により、2020年〜2022年に実施中である。
RRU-5: 中性子散乱
インドネシアにおける中性子散乱
インドネシアの中性子散乱研究室(NSLBATAN)は、設立から30年を経て、現在も7台の中性子散乱装置で様々な活動を展開している。中性子残留応力回折装置(Residual Stress Neutron Diffractometer)、4軸型中性子回折測定装置(FCD/TD)及び高分解能粉末中性子回折装置(HRPD)、ならびに中性子ラジオグラフィ装置を用いて、様々なユーザー(大学、産業、他の研究センター及びコミュニティ)によって研究開発が行われている。中性子小角散乱装置(SANS)は、生物学的試料の測定においてより利用しやすいものになりつつある。三軸型中性子分光器(TAS)は、インドネシア国内及び外国の大学からの支援を得て全面改修を開始したところであり、近いうちに一部の試料に利用できることが期待される。また、高分解能小角中性子散乱(HRSANS)は、昨年指導してくれたIAEAの専門家から供給された一部の試料を測定しているところである。近い将来、有意義なデータが得られることを期待している。
研究用原子炉JRR-3における中性子散乱の実験的研究
中性子散乱法は熱・冷中性子を用いて物質の原子レベルからナノオーダーの構造を決定する手法である。以前こそ、中性子散乱法は磁性体の磁気構造を決定する手法として主に用いられていたが、現在では、物理、化学、生物学の様々な物質研究から産業利用まで幅広い用途に用いられるようになっている。それに従い、既存の施設の高度化に加え、多くの巨大中性子散乱施設の建設が現在進められている。中性子散乱施設には原子炉型と加速器型があり、我々は用途に応じて使い分けている。本講演では、最新の中性子散乱を用いた研究を紹介するとともに、加速器型に対する原子炉型中性子施設の今後の立ち位置についても述べた。
NAA-1: NAAを含む複数の測定技術を用いた環境モニタリングに関する進捗
オーストラリア
2022年におけるANSTOでのNAA需要は、複数のシステム障害はあったものの、前2年間の出来事から引き続き回復を見せた。いくつかの新しいコンポーネントが届き、今後数週間のうちにさらにいくつかのコンポーネントが納入される予定であり、2023年に向けて研究所は再びフル稼働になる見込みである。NAAグループは組織変更もあり、現在はANSTOの新しい部署で他のガンマ線分光分析ユーザーとより密接に連携している。環境試料の測定は、これまで常に日常業務の一環であったが、2022年も例外ではなかった。また、新たな環境上の懸念となりえる食品包装材料に含まれるフッ素を、NAAを使用して測定できるようにする実験も行った。
バングラデシュ
この期間中、魚類、家禽類及びその飼料試料が、As(ヒ素)及びCrの評価のためにNAAを使用して分析された。原子炉ビームがない場合は、原子吸光分析装置(AAS)を用いてエビ体内の有害金属の蓄積量を調査した。原子炉が改修や保守のために一時的に停止している間、地質試料の環境放射能モニタリングが継続された。本プロジェクト活動に主に関連する16の論文が発表され、そのうちの1つが当組織の最優秀論文賞に選ばれた。
中国
PM2.5及びPM10の試料が、およそ週に2回、北京で採取された。これらの試料は粒子線励起X線分析(PIXE)のために北京師範大学に送られた。中国改良型研究炉(CARR)のNAAプラットフォームは現在もアップグレード中である。今年、嫦娥5号による月の土壌試料、月の隕石、標準物質が、NAAを用いて分析された。NAAは中国において非常に重要な分析方法である。2023年には、PM2.5とPM10の試料が採取され、NAAによって分析される予定である。
インドネシア
6ヶ所の発育阻害発生地域における食品及び海洋水産物の微量栄養素組成を機器中性子放射化分析(INAA)技術により測定した。これらの結果は、発育阻害発生を低減させるための政府の取り組みに貢献することが期待される。それに加えて、インドネシアの食品の成分表、特に、マクロ及びミクロミネラルの含有量について完成させることができる。
日本
分析機器の校正や化学分析の妥当性確認に用いる認証標準物質の開発には、正確な分析法が必要である。NAA法は、認証標準物質の開発に適用可能な一次標準比率法として認知されている。ここでは、NAAの応用例として、プラスチック中の全臭素の精密定量、高純度臭化イリジウムの純度評価、高純度酸化イットリウム及び高純度金属チタンの不純物分析を紹介した。
カザフスタン
低濃縮燃料への移行に伴うIVG.1M研究炉の一時停止により、NAAによる調査予定量は大幅に減少した。2023年の計画は、これまで同様、地質学や関連する科学のニーズに応えるためのNAA手法の開発に関連するものである。私たちは、比較NAA半絶対法化した手法であるk0標準化機器中性子放射化分析法(k0-INAA)を習得することを計画している。
韓国
長期停止していたHANARO炉の運転が、2022年1月より開始された。塵埃の認証標準物質(CRM)と粒子状物質試料中のCo(コバルト)、Cr及びZnを分析するためにシングルコンパレータ-INAA法を標準化した。HyperGamピークフィッティング・ソフトウェアは複雑なピークを解析するのに適したプログラムである。シーケンシャル型の波長分散型蛍光X線分析(WD-XRF)を導入し、Fluxana社の技能試験に参加してその有効性が検証された。
マレーシア
NAA技術を用いて、工業地域から採取された土壌試料中の重金属、U、Th(トリウム)及び希土類元素(REE)の含有量を決定した。データを評価し、土壌の汚染度と汚染源を特定した。得られたデータは今後のベースラインデータとして利用することができる。他の工業地域の土壌試料の採取及び分析も継続される予定である。
モンゴル
過去数年間、ウランバートル市の環境試料中の重金属、有害元素、放射性同位元素を蛍光X線分析、ガンマ線放射化分析、NAAにより調査した。また、モンゴルに未臨界集合体を設置するプロジェクトも実施中である。このプロジェクトが成功すれば、モンゴルでNAAができるようになる。
フィリピン
ダラト原子力研究所を通じてベトナムとのINAA共同研究がごく最近実現し、土壌、堆積物、火山灰、標準比較物質(SRM)のAs及び元素組成の分析が可能となった。これらの試料のINAAの結果は、地下水中のAsとその岩盤との相関を考察するために利用される予定である。有機/無機農業法の識別可能で、認証と産地証明に活用できる元素を探索するために、食品試料の分析も実施された。
タイ
今年は、NAA、PIXE及び誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて、様々な種類のバイオマス燃焼から放出されたPM2.5と土壌試料の元素分析が行われた。パトゥムターニー県から採取されたPM2.5、PM10、土壌及び作物試料もまたPIXE、ハンドヘルド蛍光X線分析(hXRF)及び誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)を用いてその元素濃度が測定された。2022年は、NAA、PIXE及びICP-MSを使用して、PM2.5、PM10、土壌及び作物等の環境試料の分析を継続する。
ベトナム
オケオ遺跡(Oc Eo relic)の考古学的試料及びディンアン沿岸部(Dinh An coastal)の浸食の特徴を研究するために、それぞれ、焼成粘土と堆積物中の元素分析にk0-INAA法が使用された。REEは、グループ分け/分類研究のための重要な指標元素である。2025〜2030年にかけて実施予定の「原子力利用及び関連技術によるカマウ沿岸部(Ca Mau coastal)における堆積物輸送の評価」という新プロジェクトが提案された。
NAA-2:NAAを用いた最近の成果
内部単一標準(Internal Mono-standard)中性子放射化分析の標準化と応用
その場(in-situ)相対検出効率を使用したk0法に基づく内部単一標準NAA(IM-NAA)が、小型・大型及び非標準的形状試料の分析のために最適化された。サブサンプル分析でなく、1個の大きな代表試料分析で十分である。この方法では、当該試料中に存在するある一元素に対する元素濃度比が得られる。IM-NAA法の主たる利点は、複数の元素の内部または外部標準試料を必要としないということである。加えて、この方法は不均一で未知の化学組成の試料分析に応用可能である。この発表では、NAAに関する簡略なレビュー、IM-NAAの標準化手順、及び、考古学的遺物、核物質及び環境試料分析を含む様々な試料への応用について述べる。
宇宙探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの粒子の化学的特性
探査機はやぶさ2はC型小惑星リュウグウの表層と表層下部の試料の回収を行い、それらの試料は、2020年12月6日に地球に持ち帰られた。8個のリュウグウ試料がPhase-2キュレーション高知チームに配分された。約8mgの5個のリュウグウ粒子の元素組成を求めるためにINAAを行った。5個のリュウグウ試料間でCa、Mnと希土類元素に大きなばらつきが見られ、これらのばらつきは、それぞれ、炭酸塩やリン酸塩鉱物の不均一な分布によるものと思われる。水銀を除いて、リュウグウ試料の元素濃度は、CIコンドライト隕石と一致していた。リュウグウ試料とCIコンドライト隕石間のHgの違いは、CIコンドライト隕石が汚染されていることに起因する。
総括セッション
結論
RRUプロジェクトのトピックは非常に広範囲にわたっており、より良い成果と知見を得られるよう本フェーズ(2021-2023)では1、2の特定のトピックに焦点を当てることで合意された。 RRUプロジェクトには以下のトピックが含まれる。
a. 中性子放射化分析(NAA)
b. 新しい放射性同位元素を含む放射性同位元素製造
c. 中性子散乱
d. ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、中性子ラジオグラフィ(NR)
e. 材料研究
f. 新しい研究炉
g. 人材育成など
なお、2023年度のワークショップはタイで開催することが合意された。
RRU
各参加国へのアンケート結果に従い、フェーズ2(2021〜2023年)のワークショップでは原子核科学分野における特定のトピックが検討された。今年は、次のようなトピックを取り上げた。1) 診断と治療を組み合わせたセラグノスティック(イメージングを利用して診断し、治療の適格性や治療薬の投与量などを評価する手)に特に重点を置いた、新しいRIを含むRI製造とその分離・精製、その実用的利用のためのさらなる品質保証と品質管理(QA/QC)、2) 新しい研究炉、SMRに関する将来計画、新しい原子炉のためのいくつかの計画、複数の国における中性子散乱の基礎研究のさらなる活動がワークショップで報告された。
NAA
NAAグループは次の1年間も引き続き環境試料に取り組むことに合意した。環境試料には、大気粒子状物質や土壌のような「通常の」環境試料ばかりでなく、鉱物あるいは食品試料までも含むその他の環境関連試料も含まれる。NAAに使用する原子炉が使えない国はXRFやPIXE、ICP-MS等の代替的方法を使用することができる。可能なら、NAAをその他の手法と比較できれば、それは興味深いと思われる。以前示された結論への変更は提案されていない。
海老原氏:次回のコーディネーター会合報告のためにFNCA活動に関連する刊行物のリストを要請した。
各国の実施状況について、以下が提案されている。
国 |
試料のタイプ |
方法 |
ターゲット元素 |
オーストラリア |
鉱物試料 |
NAA(他の手法と比較) |
測定可能なすべて |
バングラデシュ |
土壌・堆積物、食品 |
(原子炉が利用可能であれば)NAA、でなければ自然放射能 |
できる限り多く |
中国 |
PM10、PM2.5、標準物質 |
NAA、できれば即発ガンマ線分析(PGAA)及びPIXE、ICP-MS |
できる限り多く |
インドネシア |
食品試料 |
NAA、熱外中性子による放射化分析(ENAA) |
できる限り多く |
日本 |
地質学的・化学試料、場合によっては隕石 |
放射化学的中性子放射化分析(RNAA)、PGAA、INAA |
できる限り多く |
カザフスタン |
地質学的試料/砂 |
k0-NAA |
|
韓国 |
粒子状物質、大気塵、隕石 |
INAA、WD-XRF |
S(化学種ごとに)、Cr、Co、Zn(塵、標準試料分析)、できるだけ多く(隕石) |
マレーシア |
土壌(工業地域) |
NAA |
重金属、微量元素及びREE |
モンゴル |
土壌、大気粒子、バイオモニター |
NAA、XRF、ガンマ線分析(GAA) |
できる限り多く |
フィリピン |
海洋堆積物、土壌、食品、おそらくは大気粒子状物質 |
NAA(ベトナム)、おそらくはXRF |
できる限り多く |
タイ |
PM2.5、PM10、土壌及び穀物試料 |
PIXE、ICP-MS、XRF、(NAAと比較) |
できる限り多く |
ベトナム |
土壌(浸食研究用)、考古学的試料、バイオモニター |
NAA/繰り返し照射、全反射蛍光X線分析(TXRF)、ICP-MS |
REE、できる限り多く |
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