FNCA食品産地偽装防止(CFF)プロジェクトは、2022年6月開催のFNCAコーディネーター会合において承認されました。本プロジェクトは、サプライチェーンにおける食品産地偽装事例を抑止するために、食品産地調査技術プラットフォーム及び主要な重点食品品目の連合データベースの構築に向けた研究を行うことを目的としています。本プロジェクトの成果は、食品のトレーサビリティへの核分析技術の適用において、参加国の科学的能力の開発を通して、太平洋地域の発展に寄与することになるでしょう。
2023年12月5日、オーストラリアのANSTOの主催により、オンラインでワークショップが開催され、食品品目の選定、試料収集、2024年の分析計画を含むCFFプロジェクトの実施計画に関して参加各国と討議しました。また、食品産地偽装の抑止への原子力技術の適用について議論するためのトレーニングと知識共有セッションもありました。
オーストラリア、バングラデシュ、インドネシア、日本(オブザーバー)、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムの9カ国が参加し、参加人数は事務局を含め計40名でした。
ワークショップにはFNCA参加国から計9カ国が参加し、食品産地偽装防止(CFF)プロジェクトのプロジェクトリーダーであるデバシシュ・マズムデール氏が司会を務めた。3つのセッションに分けて行われ、セッションのはじめに、ANSTOのサイエンスコミュニケーション・シニアマネージャーであるスーザン・ボーグル氏が、本会合が開催されるダラウォールの土地の伝統的所有者及び管理者に感謝の意を表明し、彼らの過去、現在、そして未来に敬意を表した。氏は、アボリジニとトレス諸島の人々はこの大陸に少なくとも6万年前から、おそらくはそれよりも昔から居住しており、この国の食物と動物に関する伝統的知識により、非常に過酷な地勢と気候の中で生き抜いてきたと言及した。
セッション1
議長:ナターシャ・スパーク氏(ANSTO国内外情勢シニアマネージャー)
セッション開始の挨拶でナターシャ・スパーク氏は、本トレーニングコースは、原子力科学・技術の適用を通したこの地域の社会的・経済的発展のための、より大きな選択的努力の一部であると述べた。氏は、FNCAにおける一貫したリーダーシップと長年にわたるサポートに対して日本を称賛し、日本が将来にわたってサポートを継続してくれることを期待すると述べた。
ANSTO環境研究テーマ長であるカリーナ・メレディス氏がスピーチを行い、ANSTOはオーストラリア及び世界における環境問題に対処するため、科学的知識と原子力データセットを構築するためのツール及び技術として基礎原子力科学技術を使用していると述べた。氏は、我々の研究は原子力科学技術を使用してオーストラリア政府と世界の各政府に考え得る最良の助言を提供し、また一般の人々に利益をもたらし、産業にソリューションを提供すると言及した。
メレディス氏は、ANSTOはFNCAとの戦略的パートナーシップを重要視しており、だからこそANSTOの科学者であるデバシシュ・マズムデール氏が主導するこのCFFプロジェクトは重要なのだと述べた。食品はアジア太平洋地域における主要な貿易財の1つで、食品の安全、トレーサビリティ及び産地偽装の抑止は、規制者、産業界及び消費者にとって重要である。
シドニー・フィッシュマーケット(SFM)イノベーション・技術マネージャーであるエリック・プール氏は、SFMはこの種の市場では南半球で最大のもので、SFMはオーストラリアにおいて消費者のための公平な競争の場を生み出すために、水産品産地調査プロジェクトに関してANSTOと協力していると述べた。SFMは長いこと、原産国ラベリングを提唱しており、かつては生鮮水産品の小売業者だけが原産国と種に従って生産品にラベリングをしなければならなかったが、現在では原産国ラベリングは生鮮水産品だけでなく加熱加工水産品も含めなければならない。氏はさらに、SFMは水産品のフィンガープリント・データベース構築のためにANSTOと協力して非常に良い仕事をしてきたが、アジア太平洋地域全体のビジネスを支援するためには、より包括的なデータベースが必要であると述べた。したがって、このような協働はオーストラリア及びアジア太平洋諸国の役に立つ。オーストラリアは消費する水産品の約70%を輸入しているため、レストランや小売店、パブ、クラブに並ぶ水産品のほとんどは、潜在的には国内生産が約30%であるのに対し70%が輸入品となる。
日本のFNCAアドバイザーである和田智明氏が、FNCAは2000年に開始し、現在、8つのプロジェクトがあるとし、本プロジェクトはオーストラリアが主導する重要なプロジェクトの1つである。FNCAは、本プロジェクトは食品サプライチェーンにおける食品産地偽装を抑止することにより、すべてのFNCA参加国を通した農産業全体に多大な経済的、環境的、社会的利益をもたらす能力を有していると信じている。可搬型XRFスキャナーは、食品産地偽装を特定するための参照方法としてエンドユーザーに採用されれば、ステークホルダーに大きな影響を与える可能性がある。分析する問題や材料によっては、近赤外分光法といったさらなる技術を検討することもできる。現段階では、プロジェクト実施の成功のためには、最も多く輸出される食品生産物の限定的リストを決定することが合理的であると思われる。技術プラットフォームの下での連合データベースの開発共同研究プロジェクトは、バイオセキュリティに関するトレーサビリティの課題を軽減することが期待される。
セッション2
議長:パトリシア・ガッド氏(ANSTOリサーチプログラムマネージャー)
本セッションは、オーストラリアの大学及び産業パートナーと協力しての数年にわたる研究で開発されたANSTOの食品産地調査技術に関する明確なイメージを参加者に提供することを狙いとしたものである。本トレーニングセッションは、食品のトレーサビリティのための核分析技術の適用に関するANSTOの専門知識・技術を参加者と共有する一環で行われたものである。マズムデール氏は、サプライチェーンにおける食品産地偽装防止のための食品産地調査技術に関する講演を行い、続いて、ジェイソン・バートルディ氏が、水産品分析のためのハンドヘルドXRFの適用について、キャロル・タドロス氏がフィンガープリント・データベースの開発のトピックについて、ジャゴダ・クローフォード氏が、食品産地決定のためのマシンラーニング・アルゴリズムの適用について発表した。
セッション3
議長:ジェスモンド・サミュ教授(ニューサウスウェールズ大学)
本セッションでは、アジア太平洋諸国における産地ソリューションのためのフィンガープリント・データベースの開発を目的とした、食品品目の選定、試料収集戦略、2024年の分析計画を含む、実施計画について議論した。セッション3では、以下の各国プロジェクトリーダーが2024年の実施戦略を発表した。
- Dr. Debashish Mazumder(ANSTO、オーストラリア)
- Dr. Roksana Huque(BAEC、バングラデシュ)
- Ms. Henni Widyastuti,(BRIN、インドネシア)
- Mr. Mohd Noor Hidayat Adenan(Malaysian Nuclear Agency、マレーシア)
- Ms. Uranchimeg Lkhagva(National Reference Laboratory for Food Safety、モンゴル)
- Dr. Angel Baustista(PNRI、フィリピン)
- Dr. Chakrit Saengkorakot(TINT、タイ)
- Dr. Nguyen Thi Hong Thinh(VINATOM、ベトナム)
マズムデール氏は、研究戦略の概要、及びCFFプロジェクト実施の成功のために達成する必要のあるマイルストーンについて発表した。次に、参加各国がそれぞれの実施計画とタイムラインを発表し、次に2024年の活動に関するコンセンサス決定に達するための議論を行った。サミュ教授が議論の司会を行い、参加国による慎重な議論の後、以下の主要な決定がなされた。
- サプライチェーンにおける食品産地偽装事例抑止に向けた産地調査技術プラットフォーム開発のためのデータ接続を確立するための学習演習とベースラインとして、ウシエビ(Penaeus monodon)が、共通の食品品目としてほとんどの参加国によって選定された。
- 参加国は、食品産地偽装を軽減し、国内のサプライチェーンにおける透明性と貿易支援のためのFNCA参加国とのデータ接続を確実にするために、次の食品品目(表1)をプロジェクトに含めることとした。
表1. 各参加国によりCFFプロジェクトに含めることが提案された食品品目
*連合データベースと食品産地調査技術プラットフォームの構築のために共通品目として選定された水産品
国 |
関心を有する食品品目 |
オーストラリア |
ウシエビ*(まず始めに) |
バングラデシュ |
ウシエビ*、スパイスパウダー |
インドネシア |
ウシエビ*、バラマンディ、コメ |
マレーシア |
ウシエビ*、マンゴー |
モンゴル |
ハチミツ、ベジタブルオイル |
フィリピン |
ウシエビ*、マンゴー、コーヒー、カカオ、ハチミツ、ハラール有機食品 |
タイ |
ウシエビ*、ココナッツジュース、マンゴー |
ベトナム |
ウシエビ*、ST25コメ |
- 参加国は、水産品の産地調査技術プラットフォームについてオーストラリアが提案した研究デザインに従って、国内の様々な地理的場所の養殖場及び野生を含む、合計60のウシエビの試料(n = 60)を収集することに合意した。参加国は2024年2月から試料収集を開始し、集めた試料をANSTOに送り、ANSTOではハンドヘルドXRFスキャナーによって元素分析を実施する。
- ANSTOは分析結果を参加国に知らせ、トレーサビリティ・ソリューションのために連合データベースを構築する。
- ANSTOはこの水産物分析から出版用の原稿準備を主導し、参加各国の科学者はこの刊行物の共同著者として含められる。
- ANSTOは、試料の準備、保管、及び試料分析のためにオーストラリアに送るための輸入許可を参加国に提供する。
- データ分析、結果の解釈及びデータベース開発に関するさらなるトレーニングが、将来、本プロジェクトの範囲内で開催される予定である。
図 2. 参加国で議論され、決定した海産物の試料収集と研究デザイン
日本のFNCAアドバイザーである和田智明氏は、ウシエビとマンゴーを選定することに異議はないとした。しかし、日本はウシエビの分布北限にあるためウシエビは日本の市場には出ておらず、したがって日本は国としては寄与せず、オブザーバーとして参加すると述べた。和田氏は、本プロジェクトへの日本の寄与は、分析サポートを提供することにより、鈴木彌生子氏(NARO)を通してなされるとした。鈴木彌生子氏は、自分のコメデータベースを喜んで共有し、食品試料の同位体分析を支援することも可能であるとした。
ANSTOのナターシャ・スパーク氏は、FNCAプロジェクトの管理への変わらぬ支援に対して和田氏に謝意を述べ、CFFプロジェクトの明確な目標と2024年に参加国が達成すべきマイルストーンの設定を助ける議論への思慮に富んだ貢献に対し、各参加国の参加者に感謝の言葉を述べた。
オーストラリア
Dr. Debasish Mazumder
ANSTO
Ms. Natascha Spark
ANSTO
Ms. Patricia Gadd
ANSTO
Dr. Karina Meredith
ANSTO
Ms. Susan Bogle
ANSTO
Dr. Jagoda Crawford
ANSTO
Dr. Carol Tadros
ANSTO
Mr. Jason Bertoldi
ANSTO
Mr. Richard Bufill
ANSTO
Ms. Giorgia Kilpatrick
ANSTO
Mr. Erik Poole
Sydney Fish Market
Prof. Jasmond Sammut
University of New South Wales (UNSW)
バングラデシュ
Dr. Roksana Huque
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
Dr. Md. Shakhawat Hussain
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
Md. Ashikur Rahman
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
Md. ShahJalal
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
インドネシア
Ms. Henni Widyastuti
National Reseacrh and Innovation Agency (BRIN)
Ms. Ashri Mukti Benita
National Reseacrh and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Indra Mustika Pratama
National Reseacrh and Innovation Agency (BRIN)
マレーシア
Mr. Mohd Noor Hidayat Adenan
Malaysian Nuclear Agency
Prof. Dr. Fatimah Md Yusoff
University Putra Malaysia
Dr. Salmah Moosa
Malaysian Nuclear Agency
Shyful Azizi Abdul Rahman
Malaysian Nuclear Agency
Dr. Nazaratul Ashifa Abdullah Salim
Malaysian Nuclear Agency
Dr. Azilah Abdul Malek
Malaysian Nuclear Agency
Dr. Nurul Elma Sabri
Malaysian Nuclear Agency
Siti Aminah Omar
Malaysian Nuclear Agency
モンゴル
Ms. Uranchimeg Lkhagva
National Reference Laboratory for Food Safety
フィリピン
Dr. Angel T. Bautista VII
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
タイ
Mr. Chakrit Saengkorakot
Thailand Institute of Nuclear Technology (TINT)
Ms. Nichtima Uapoonphol
Thailand Institute of Nuclear Technology (TINT)
ベトナム
Dr. Thinh Nguyen Thi Hong
Institute for Nuclear Science and Technology
Vietnam Atomic Energy Institute (VINATOM)
Mr. Nguyen Duc Tam
Institute for Nuclear Science and Technology
Vietnam Atomic Energy Institute (VINATOM)
日本(オブザーバー)
Mr. 和田 智明
FNCA日本アドバイザー
Mr. 小畠亨司
文部科学省
Ms. 中原 里紗
文部科学省
Mr. 熊谷 耕一
文部科学省
Dr. 鈴木彌生子
農業・食品産業技術総合研究機構
Dr. 吉田 光明
原子力安全研究協会
Ms. 崔 貞娥
原子力安全研究協会