2023年度の核セキュリティ・保障措置プロジェクトのワークショップが、インドネシア国立研究革新庁(BRIN)と日本の文部科学省(MEXT)の主催の下、2023年8月1日より3日までインドネシアのスルポンで、ハイブリッド形式で開催されました。
【ワークショップ】
インドネシア国立研究革新庁(BRIN)原子力研究機関IAEA 技術協力(TC)プログラム連絡調整官のTotti Tjiptosumirat氏及びFNCA日本コーディネーターの玉田正男氏から開会の挨拶がありました。続いて参加者の自己紹介が行われ、今回ワークショップはオーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムの12ヵ国が参加し、参加人数は計36名でした。次に日本プロジェクトリーダーである直井洋介氏によりアジェンダの確認が行われ、9つのセッションが実施されました。
【テクニカルビジット】
8月2日にテクニカルビジットとして、BRINの核セキュリティトレーニング支援センターおよび多目的研究炉RSG-GASを視察しました。
【核鑑識に関する机上演習(Table Top Exercise: TTX)】
今回ワークショップにおける特別プログラムとして、日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)の協力で、核鑑識に係る机上演習が実施されました。この机上演習には、対面のワークショップ参加者はじめ、インドネシア国家警察、インドネシア税関総局、国家情報庁、インドネシア国軍のメンバーが参加しました。
【オープンセミナー】
8月3日午後は、FNCA、ISCN/JAEA、BRIN共催で、核セキュリティステークホルダーマトリックス表に関するオープンセミナーが開催されました。
セッション1&2:カントリーレポート
議長:マレーシア、バングラデシュ
10カ国(バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、タイ、ベトナム)が、保障措置及び核セキュリティの実施、核セキュリティ文化及びキャパシティ・ビルディング活動の推進に関する2022年のワークショップ以降の進展及び改善に関する最新情報を含む、それぞれのカントリーレポートを発表した。
すべての国が、保障措置と核セキュリティのキャパシティ・ビルディングを強化するための、国際組織又は地域組織及び他国との緊密な協力を行っている旨の報告をした。ほぼすべての国が、IAEA、他の国々及び他の機関との二国間・多国間協力を通して、自国の核セキュリティ・保障措置体制を継続的に改善するための活動を実施していた。
カントリーレポートのまとめは、セッション6のカントリーレポートサマリーで扱っている。
セッション3:核鑑識
議長:モンゴル
発表:日本、タイ、オーストラリア
1) タイで行われた核鑑識に関する地域実地トレーニング演習の結果
野呂氏が、2023年7月にタイで行われた核鑑識に関する地域トレーニングコースの結果について報告した。FNCA核鑑識関連アンケートが2017年に実施され、キャパシティ・ビルディングの必要性が明らかにされていた。核鑑識に関する第1回地域トレーニングコース(RTC:Regional Training Course)は2019年に実施された。野呂氏は、2023年RTCの結果及び参加者からのフィードバックをいくつか紹介した。この演習はFNCAメンバー間のキャパシティ・ビルディング支援の必要性を明らかにし、協力活動を実施する優れた取り組みであったと同氏は述べた。タイのOAPはタイの核鑑識能力を見事に実証し、最新式の核鑑識ラボを使用した良好事例を紹介した。同氏は参加者からのコメントをいくつか紹介し、このトレーニングがすべてのFNCA参加国にとって非常に有益であり、核鑑識分析の良好事例は実務的重要性があったと強調した。
2) オーストラリアで行われた核鑑識への実践的入門RTCの結果
Toole氏は、2022年11月にオーストラリアで行われた核鑑識への実践的入門RTCについて発表した。同氏はオーストラリアがこのトレーニングを主催した理由を簡略に説明した。地域の主要なパートナーとのネットワークを構築すること、最良事例と教訓の共有によりオーストラリアの能力構築への投資利益率を最大化すること、トレーニング参加者から学ぶこと、国内能力を育成すること、地域の核セキュリティ強化を支援することがその理由である。同氏は、参加者及び専門家チーム(IAEA、DOE/NNSA及びオーストラリア連邦警察)とトレーニングプログラムを紹介した。このトレーニングプログラムではより実践的な演習を行い、これにより参加者は実務的な知識を得ることができた。同氏は参加者からのコメントをいくつか紹介し、このトレーニングは非常に有益であったと締めくくった。
3) セシウム137カプセル紛失事例
Karantonis氏は、Cs-137カプセル紛失のケーススタディ(実際の事象から学んだ教訓)について発表した。同氏は検出・画像化装置CORIS360に言及した。同氏は、リオ・ティント(Rio Tinto)から紛失したCs-137の捜索にオーストラリアの対応チームがどのように取り組んだかを述べた。また、こういった非常事態のために一連の装置を特別に用意していること、利用できるANSTO/オーストラリア内の能力を認識していること、より合理化された緊急時対応通信システム、そして物理学者等他分野のトレーニングについても言及した。同様の強みを利用して、ANSTOは、キャンパス内での予備試験、状況に合わせた技術の修正、状況に合わせて技術を適応させる分野横断的連携、ステークホルダー間の連携といった多面的な活動を行った。同氏は、車載センサーペイロード、UAV/ドローンセンサーペイロード、及びセンサーペイロード付きエアタグという3つのタイプのイノベーションについて説明した。
4) タイにおけるセシウム137紛失事例
Mungpayaban氏は、タイで発生したCs-137紛失事例について発表した。同氏は、2023年3月に石炭火力発電所において職員による定常点検中にシリンダーの紛失が報告されたと手短かに述べた。OAPはこの放射線源の捜索を主導し、3チームに分かれて車載センサーを使用した放射線測定、分析のための会社周辺の土壌と水の収集、及び廃棄物リサイクル会社の捜索を行った。OAPは、紛失したシリンダーを探して廃棄物リサイクル会社を捜索中に溶鋼工場を調べ、Cs-137を発見した。空気中、土壌中及び水中で環境放射線の測定が行われ、外部線量及び内部線量が測定された。OAPは、環境放射線の測定と汚染金属スクラップ管理のためのワーキンググループを立ち上げた。この活動に参加した組織は、自らの役割と責任を非常に良く認識していた。
5) 本ワークショップでのTTXの概要
野呂氏は、本ワークショップでの核鑑識に関する机上演習(TTX)の概要について発表した。TTXの方法は、シミュレーションのシナリオを使用し、地図、見取り図、マニュアル、ガイダンス等を机上で使用し、シンプルで費用効率が高く、最小限の資源しか必要とせず、戦術、技術、手順、方針を評価するために使用でき、現行の核セキュリティ対策を使用することができるという利点がある。同氏は核鑑識TTXの概要を紹介した。ある仮想国でのシナリオを設定し、プレイヤーはインジェクトとディスカッション質問を与えられる。質問に応じて、プレイヤーはロールプレイングを行うか、又は自分の国を代表する。プレイヤーは将来改善するための核鑑識能力におけるギャップを特定し、各機関間の調整が奨励された。
セッション4:輸出管理とAP申告の良好事例に関する議論
議長:タイ
発表:カザフスタン、モンゴル、ベトナム
このセッションでは、カザフスタン、モンゴル及びベトナムの3つの参加国が、輸出管理と追加議定書(AP)申告に関するそれぞれの良好事例を紹介した。
続いて行われた円卓会議では、輸出管理に関する調査の要旨、及び次年に計画されるAP/商品識別トレーニングの概要がISCN/JAEAのVictor Siregar氏によって報告された。最後に、将来の計画についてもディスカッションを行った。
1) カザフスタン
Ossintsev氏が、カザフスタン共和国の法制、及び国境での輸出管理策強化を可能にしている輸出管理構造について発表した。これは2022年に発効した特定品目の管理に関する法律である。関連当局の役割と責任の定義を含め、輸出管理とライセンス発行における承認書類手続きが紹介された。カザフスタンのコミットメントを守ることによるNPT合意の下でのカザフスタンにおける輸出管理業務についても説明された。
2) モンゴル
Gombosuren氏は、モンゴルの法律制度、及びモンゴルのNPT保障措置合意、少量議定書(SQP)、追加議定書、及び国際輸出移転に関する包括的保障措置合意という拘束力のある法律文書を挙げて、輸出管理とAP申告についての優良な手順の概要を述べた。核物質計量管理(NMAC:Nuclear Material Accounting and Control)に関する規制、モンゴルにおける保障措置の実施、AP年次更新及び四半期ごとの申告、及び関連組織との保障措置活動の調整を含む追加議定書の実施についても述べられた。
3) ベトナム
Can氏は、原子力法(2008年)、IAEA文書からのガイドライン、及び輸出入時のデュアルユース品目の管理に関するEU CBRNファンクショナル・プロジェクトに焦点を当てて、輸出及び輸入管理のための法的枠組みについて強調して述べた。輸出入AP申告の慣行についても、IAEAへの保障措置報告を含め、追加議定書第2条及び第3条に従って紹介された。課題は、補完的なアクセス(CA)での放射線安全からくる実施レベルの制限、及び不順守に対する制裁の構築である旨述べられた。
セッション5:特別講演
進行:フィリピン
日本における試験研究炉のHEU最小化に関する特別講演
京都大学複合原子力科学研究所の宇根赴ウ授が、核不拡散と核セキュリティ改善に関する定量的・具体的行動及び成果について発表した。試験研究炉のHEU最小化は、民生用HEU最小化のための明快かつ実務的な対策である。同教授は、相当量の兵器転用可能物質を安全に除去することによる「実際の」脅威低減における重要な成果である日本の最近の取り組みについて説明した。米国とEUの高性能研究炉のLEU転換は、民生用HEUサプライチェーンを排除するための最終かつ最大のステップである。
セッション6:カントリーレポートサマリー
Khairul氏(BRIN)が、(セッション1及び2からの)カントリーレポートサマリーのまとめを行った。編集事項及びコメントが受け取られ、カントリーレポートサマリーに組み入れられた。カントリーレポートサマリーは本ワークショップの会議報告に添付され、FNCAウェブサイトに掲載される。
テクニカルビジット
テクニカルビジットとして、BRINの核セキュリティトレーニング・支援センターの核物質防護ラボとGA Siwabessy多目的炉へ行き、非常に貴重な視察となった。
セッション7:今後の核セキュリティ・保障措置プロジェクト3カ年計画
今後3年間(2024〜2026年)のNSSプロジェクトの計画が議論され、実施の詳細が大まかに決定した。
- 核セキュリティ:核セキュリティ文化の醸成、RIセキュリティ、新たな脅威(AI、コンピューター(サイバー)セキュリティ、Beyond DBT(設計基礎脅威を超えた脅威))、放射性物質の輸送セキュリティ、内部脅威緩和に関する良好事例を集める。
- 保障措置:人材育成計画及び資格認定(人材ローテーション)、APSN及び/又は、ASEANTOM等のその他のイニシアティブとの合同活動(例:設計段階からの保障措置に対する考慮)。
- 机上演習及びトレーニングを通したキャパシティ・ビルディング:机上演習(例えば、補完的なアクセス(CA)、核鑑識、緊急時対応、輸出管理)、2024年第2四半期又は第3四半期にISCN/JAEAによって計画されるオンラインAP-CIT(商品識別)。
セッション8:核鑑識に係る机上演習(対面のみ)
進行:日本
本ワークショップでの特別イベントとして、核鑑識に関する机上演習(TTX)が、対面でワークショップに参加したFNCA参加国とともに、インドネシアのステークホルダー(国家警察、税関総局(Directorate General of Customs and Excise)、国家情報庁(National Intelligence Agency)及びインドネシア国軍)が参加して、BRINにおいて実施された。TTXに関する背景情報が、進行役のISCN/JAEAの野呂氏によって紹介された。TTXでは、核鑑識に必要な能力について論じ、ギャップを特定するために、架空の核セキュリティ事象のシナリオを使用した。TTXの進行はISCNの野呂氏と山口氏が務めた。TTX実施中、BRINは、核物質・放射性物質の検知と同定に使用する機器が、放射線犯罪現場の管理に使用できることを実演してみせた。活発な討論により、FNCA参加国内の指定関連組織又は責任を有する関連組織が対処又は強化するべき重要な問題が明らかにされた。
セッション9:総括セッション
日本プロジェクトリーダーの直井洋介氏が、議論された内容及び行われた提案の要約を述べて、ワークショップを締めくくった。同氏は結びのことばの中で、2023年度のワークショップのホスト国を務めたインドネシアに感謝の意を表した。また同氏は、2024年度のワークショップの主催国は後日発表すると述べた。
インドネシアのプロジェクトリーダーであるKhairul氏は、FNCAの核セキュリティ・保障措置プロジェクトへのインドネシアのコミットメントを確言した。同氏は、このプロジェクトの目標を達成するためのFNCAメンバー間の協力を奨励した。
結びのことばが述べられた後、ワークショップは閉会した。
添付資料
- 会合プログラム
- 参加者リスト
- カントリーレポートサマリー
オーストラリア
Ms. Kaitlyn Toole
Nuclear Forensic Scientist
Australian Nuclear Science & Technology Organisation (ANSTO)
Mr. Nicholas Karantonis
Physicist
Australian Nuclear Science & Technology Organisation (ANSTO)
Ms. Tina Paneras
Nuclear Forensic Scientist
Australian Nuclear Science & Technology Organisation (ANSTO)
バングラデシュ
Dr. Abid Imtiaz
Chief Scientific Officer
Nuclear Safety, Security and Safeguards Division
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
中国
Ms. Hong Jiahui
Staff member, Division of Nuclear Import and Export Control
State Nuclear Security Technology Center (SNSTC)
インドネシア
Mr. Totti Tjiptosumirat
National Liaison Officer for IAEA TC Programme
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Khairul
Senior Nuclear Security Officer
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Jumadiono
Nuclear Security and Safeguards Researcher
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Alim Mardhi
Nuclear Security and Safeguards Researcher
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Arief S. Adhi
Nuclear Security and Safeguards Researcher
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Iwan Heru Purnomo
Nuclear Security and Safeguards Researcher
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Yaziz Hasan
Nuclear Security and Safeguards Researcher
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Ms. Dwi Rahayu
Nuclear Security and Safeguards Researcher
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
日本
玉田 正男
FNCA日本コーディネーター
和田 智明
FNCA日本アドバイザー
小畠亨司
文部科学省
中原 里紗
文部科学省
熊谷 耕一
文部科学省
直井 洋介
日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
上級技術専門官
宇根 博信
京都大学 複合原子力科学研究所 教授
野呂 尚子
日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
能力構築国際支援室長
浅沼 徳子
東海大学 工学部 応用化学科 准教授
山口知輝
日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
技術開発推進室長
Victor Hasoloan SIREGAR
日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
猪越 千明
公益財団法人 原子力安全研究協会
山田 愛
公益財団法人 原子力安全研究協会
大津 奈都子
公益財団法人 原子力安全研究協会
カザフスタン
Mr. Alexandr Ossintsev
Head of Department for Security Control and Non-proliferation
National Nuclear Center of the Republic of Kazakhstan
Mr. Roman Nefedov
Head of the laboratory of geoinformation support of projects
National Nuclear Center of the Republic of Kazakhstan
Ms. Nurgul Kurmangaliyeva
Head of International Projects Support Group
National Nuclear Center of the Republic of Kazakhstan
韓国
Ms. Sung Yoon PARK
Director, Department for International Cooperation
Korea Institute of Nuclear Nonproliferation and Control (KINAC)
マレーシア
Ms. Lydia Ilaiza Binti Saleh
Head of Safety Section, Nuclear Installation Division
Department of Atomic Energy Malaysia (Atom Malaysia)
モンゴル
Ms. Gerelmaa Gombosuren
Senior Officer, Department of Nuclear Safety and Security
The Executive Office of the Nuclear Energy Commission
Government of Mongolia
フィリピン
Ms. Maria Teresa A. Salabit
Supervising Science Research Specialist
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
タイ
Ms. Harinate Mungpayaban
Head
Security and Safeguards Technical Support Section
Office of Atoms for Peace (OAP)
ベトナム
Mr. Can Viet Tuan
Official
International Cooperation Division
Vietnam Agency for Radiation and Nuclear Safety (VARANS)