FNCA2018研究炉利用プロジェクトワークショップ 会議報告
2018年10月22〜25日
日本、敦賀および大阪
(仮訳)
序文
研究炉利用(RRU)プロジェクトワークショップは、敦賀の若狭湾エネルギー研究センター(WERC)と大阪の関空ジョイテルホテルで4日間に渡り開催された。初日(10月22日)にオープンセミナーがWERCで開催された。2日目(10月23日)前半の大阪における全体セッションでは、個々のプロジェクトリーダーから現行の研究炉利用(RRU)と中性子放射化分析(NAA)の概要および本ワークショップに関するいくつかの主要課題が挙げられ、続いてホウ素中性子捕捉療法(BNCT)についての報告がなされた。2日目後半から3日目(10月24日)は、RRUの個別セッションでは、まず中性子ラジオグラフィ(NR)と材料研究について、さらにアイソトープ(RI)製造と利用の現状について各国から順次に発表がなされた。NAAの個別セッションでは、大気汚染、鉱物資源に関する活動について各国から発表がなされ、エンドユーザーとの連携等のトピックスについて議論された。4日目(10月25日)はRRU、NAAの各グループでそれぞれ詳細内容をまとめた。10月23日に京都大学複合原子力科学研究所(KURNS)へのテクニカルビジットが実施された。
[全体セッション]
KURNS BNCT紹介
京都大学複合原子力科学研究所(KURNS)では、500人以上の患者が京都大学研究用原子炉(KUR)を用いてホウ素中性子捕捉療法(BNCT)で治療を受けた。悪性黒色腫や脳腫瘍だけでなく、頭頸部がん、悪性中皮腫、肝臓がんの治療においてもBNCTの有効性が実証されている。私たちはKURを用いてBNCTの治療を続けているが、研究炉は病院の近くに設置することが困難であり、かつ定期的な検査のための停止期間が長いことから、治療ビームを安定して提供することは難しくなってきている。そのため加速器ベースの中性子源を用いたBNCTの実現が望まれてきている。加速器BNCTを実現するためには、ターゲットの熱負荷、ターゲットのブリスタ(ふくれ)、放射化や減速材を考慮する必要がある。私たちは住友重機械工業と加速器ベース中性子源を共同開発している。ターゲットのブリスタを克服し、治療に必要な熱外中性子強度を得られる方法として、30 MeV、1 mAの陽子とベリリウムターゲットを組み合わせた熱外中性子源を提案した。ここではKURとサイクロトロン中性子源用いたBNCTの現状について紹介がなされた。
[個別セッション(RRU)]
RRU-1: 中性子ラジオグラフィ(NR)
リードスピーチ:KURにおける中性子ラジオグラフィ(日本)
日本の様々な中性子源に、いくつかの中性子ラジオグラフィ(NR)/画像処理施設が設置されている。ここでは、そのような施設の現状とその活動について簡単に紹介した。特にエネルギー選択中性子画像処理のために、2014年にRADEN(BN22)が大強度陽子加速器施設(J-PARC)に建設された。熱中性子と冷中性子を使用する2つのNRポート(TNRF、CNRF)は2020年にJRR-3の再稼働のためにアップグレードされる予定である。京都大学研究用原子炉(KUR)の2つの画像処理ポート(B4、E2)は、熱水力学、コンクリート、考古学研究に利用されている。研究炉におけるNR/画像処理の様々な利用および現在の戦略が紹介され議論された。
オーストラリア
「Dingo」と呼ばれるNR/画像処理ステーションは2014年10月から操業を開始した。主な使用分野は、防衛、産業、文化遺産、考古学への利用であり、中性子画像処理またはトモグラフィは再構築できる物体の一連の3次元画像をすべて作成する。オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)はパートナーシップを奨励し、国内外で協力して推し進める。
バングラデシュ
バングラデシュにおけるNRの現在の実験施設を紹介した。現時点では考古学的試料が主要なターゲットであると報告された。NRの既存のコリメータシステムは、デジタルNRシステムを使ってよりよい品質の画像を得るため、今後2年間でアップグレードされるだろう。
中国
中国改良型研究炉(CARR)は中国原子能科学研究院(CIAE)の高性能な多目的原子炉である。CARRではNRを用い、核燃料棒、二相流、燃料電池、岩石、コンクリートなどの非破壊試験(NDT)のような研究が多く行われてきた。近い将来、先進的なNR施設が様々な分野における広範な活用のためにより強力なツールを提供し、中国におけるNDT技術の進歩を促すだろう。
インドネシア
多目的研究炉RSG-GASはラジオグラフィ施設を備えている。この施設はいくつかの実験に使用され、結果を出し発表されている。例えば、沸騰現象の可視化およびヒートパイプ振動の可視化に関する予備調査についての刊行物がる。静的、動的画像はインドネシア原子力庁(BATAN)のラジオグラフィ施設を用いて得ることができる。BATANは本施設を利用するために他の機関との協力を奨励している。
カザフスタン
核物理研究所は2017年からWWR-K炉に新しいNR/トモグラフィ施設の建設を開始した。本プロジェクトはドゥブナ合同原子核研究所(ロシア)と共同で実施している。本施設は2019年末に稼働予定である。
マレーシア
NRは材料の画像を得るために使える非破壊技術である。マレーシア原子力庁のNR施設(NuR-2)は1MWのTRIGA Mark II型プスパティ研究炉(RTP)のラジアルビームポートにある。NRは文化遺産の署名/認証や産業界の非破壊試験(NDT)に関する材料特性研究に用いられる。
タイ
タイの研究炉TRR-1/M1は1966年からNRを使用していた。タイ原子力技術研究所(TINT)は、プロジェクト性能評価の後に3次元画像機能のためにラジオグラフィ施設をアップグレードしている。この施設は、例えば考古学的試料や生物学的試料の取扱いに役立つ。本施設のアップグレードは今後2年以内に完了予定である。
RRU-2: 材料研究
リードスピーチ:原子炉ベース低速陽電子ビームを用いた欠陥の陽電子消滅研究(日本)
陽電子消滅分光法は、電子顕微鏡の検出限界以下の原子スケールの空孔型欠陥に敏感である。エネルギー可変陽電子ビーム(すなわち低速陽電子ビーム)を使用する場合、陽電子エネルギーを変えることによって欠陥の深さ情報を得ることができる。空孔型欠陥、表面近傍層や薄膜の空隙を調べる強力なツールとなりうる。京都大学では現在、研究炉を用いた低速陽電子ビームの開発が進められている。ここではビームラインの詳細と低速陽電子ビームの利用について紹介した。
オーストラリア
ANSTOは複数の材料研究施設を有しており、主な施設は、a)多目的研究炉OPAL、b)オーストラリア・中性子散乱センター、c)オーストラリア・シンクロトロン、d)加速器科学センター、e)国立重水素施設、f)国立サイクロトロン研究である。使用分野は、食品化学、エネルギー材料、文化遺産、防衛、惑星物質、環境維持、産業、その他多数である。ANSTOは国内外で広範囲なパートナーシップを志向している。
バングラデシュ
バングラデシュ原子力委員会(BAEC)研究炉TRIGA Mark II(BTRR)に設置された高分解能の粉末中性子回折(NPD)は、様々な材料の結晶および磁気構造特性の研究に用いられている。NPD施設は大学生や研究者に学位だけでなく研究の機会を与えることにより人材開発にも貢献している。
中国
新しい燃料タイプとして環状燃料は経済性と安全性能の両方が見込まれる。環状燃料の研究開発は中国核工業集団公司(CNNC)で行っている。CIAEのスイミングプール炉(SPRR)で炉内試験が実施されており、商業用原子炉で先行試験燃料集合体(LTA:Lead Test Assembly)の照射が2021年から開始予定である。
インドネシア
多目的研究炉RSG-GASは材料試験研究用の施設をいくつか備えている。構造解析には、中性子回折装置と小角中性子散乱(SANS)施設が使用される。中性子3軸型分光器用にデータ収集および測定ソフトウェアの開発を含む、いくつかの設備開発が行われている。
カザフスタン
カザフスタンでは中性子場での材料試験によいツールとなる3つの研究炉が稼働している。研究は原子力の持続可能な開発に関するものである。カザフスタンは将来、核融合炉と第4世代原子炉(GEN-IV)を用いて材料研究を行う予定である。
マレーシア
マレーシア原子力庁での材料研究は、様々な活動に分けられる。例えば、腐食研究と保護、鉱物およびトリウムの選鉱、機能的ナノ材料、中性子ビーム利用による放射線損傷の分析である。マレーシア原子力庁は、大学や他の機関が材料特性評価や加工(腐食、冶金、セラミック)の研究、トレーニング、協議を行うためのサービス提供も行っている。
RRU-3: 医療/産業用アイソトープ(RI)製造
オーストラリア
ANSTOはオーストラリアの公共および民間の核医学センターに放射性医薬品と放射性化学物質を製造および供給し、アジア太平洋地域の多くの国に輸出している。99Moは、現在の製造能力は2,300 Ci/6日でいくつかの国に輸出されているが、将来的には工程の妥当性確認の最終段階にある新施設を使用して3,500 Ci/6日に増産予定である。177Lu(無担体)、131I、153Sm、51Cr、90Yおよび192Ir等の、他の多くの放射性同位体も国内供給および輸出用にANSTOで製造している。
インドネシア
BATANの多目的研究炉RSG-GASはRI製造に使用されている。RI製造で使われる炉心には2つの照射位置があり、中央照射位置(CIP)と照射位置(IP)で、中性子束は1014 n.cm-2s-1である。現在この研究炉は、153Sm、177Lu、32P、99Mo、131I、198Au、192Irといった多くの種類のRI製造に使用されている。
日本
JRR-3で製造されていた192IrのようなRI製造は、現在海外からの輸入に依存している。RI製造技術や取扱いについても使用頻度が少ないため人材育成の部分でも影響がある。設置変更許可を取得の見込みである。近々、原子炉建家の耐震補強工事等を行い、2020年度中にはJRR-3の運転再開を予定している。
カザフスタン
核物理研究所は、99Mo、99mTcジェネレータ、192Ir、その他RIといった医療/産業用RIを製造している。2017年末まで、適正製造基準(GMP)の認定を実施しているため医療用RIは製造されなかった。GMP認証は2018年末に取得予定である。産業用RIの製造は継続している。
韓国
HANARO原子炉は安全性の問題から2014年以来まだ停止しているが、新しいRIとその利用についての研究は着実に進んでいる。現在の研究テーマは、新しいRI専用原子炉Kijang研究炉(KJRR)を用いた核分裂法による99Mo製造プロセスの開発と、14Cといった治療用エミッタのような新しいRIの製造技術の開発である。さらに宇宙ミッションのためのRI電池の研究が進行中である。
マレーシア
適正製造基準(GMP)コンプライアンスを満たすため、99mTcジェネレータの製造施設が一新されアップグレードされる。マレーシア原子力庁は131Iカプセルを製造しており、現在GMP認証のためにアクティブランと製品検証に関する文書を作成している。産業用192Irは、国内で使用するためマレーシア原子力庁で組み立てられた。現在マレーシアは、1MWのTRIGA Mark II型プスパティ研究炉(RTP)を用いて骨転移疼痛緩和のための新しいRIである153Sm-EDTMPを開発している。
モンゴル
モンゴルの研究炉プロジェクトは内部で数年に渡り議論されてきた。研究炉の利用、設計研究、燃料比較分析を行った。提案されている研究炉は、中性子放射化法による99Mo/99mTcのRI製造、中性子放射化分析、教育訓練、核物理学、その他の商業サービスに利用される予定である。
フィリピン
フィリピン原子力研究所(PNRI)の99mTcジェネレータ製造施設は、99Mo供給業者とその99mTcジェネレータ商業化のためのビジネスパートナーを確保している。2019年1月から99mTcジェネレータを市場向けに製造予定である。製造量は国内の需要15Ci/週の30%を満たす予定である。
タイ
規制当局から原子力事業者の許認可を受け、2018年7月からタイは153Smを製造している。その他の医療/産業用RIは100%輸入によりタイの需要を満たしている。新しい加速器プロジェクトではサイクロトロン建設を開始し、2021年に新しいRI製造ラインが稼動予定である。
ベトナム
ダラト原子力研究所(DNRI)では、医療用(131I、99mTc、51Cr、32P)および産業用(192Ir、60Co)RIの定常的な製造を行っており、国内でRIと放射性医薬品の供給を行っている。現在、DNRIは、国内市場の40〜50%にあたるRIの供給が可能であるが、153Sm、177Lu、90Yなどの医療用および研究目的のRIについても市場への供給を予定している。
RRU-4: 総合討論
1) ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)
BNCTは、粒子線腫瘍学におけるユニークな放射線治療法であり、この特性は悪性腫瘍を患っている患者の治療に貢献している。KURを用いたBNCTにより、500人以上の患者が悪性黒色腫や脳腫瘍だけでなく頭頸部がん等の治療を受けた。アジア諸国では研究炉を用いたBNCT治療が依然として望まれている。治療には中性子ビームが研究炉により安定的に提供されることが必要であるが、原子炉ベースのBNCTでは定期的な停止が障害となる可能性があるため、加速器ベースのBNCTが開発されつつある。BNCTの現状と将来について議論した。
2) 中性子ラジオグラフィ(NR)
12カ国のうち8カ国がNR活動向上のための現状と将来計画を発表した。NRでは、数カ国がその実験施設と研究活動について興味深い報告がなされた。例えば、古代の壺や仏像のような考古学的試料における様々な試料の非破壊画像処理研究、燃料電池の動態や核物質研究のための画像処理技術、モーターエンジンや沸騰現象などの流体動力学である。最後に各国の利益となる課題や将来共通の試料目標を設定しうる課題について議論した。
3) 材料研究
リードスピーチでは、研究炉を用いた低速陽電子ビームが現在開発中であり、ビームラインの詳細とその利用例が紹介され、議論がなされた。粉末中性子回折法を用いた現場実験研究、高分解能の粉末中性子回折(NPD)を用いた結晶および磁気構造特性研究、経済性と安全性能から新しい燃料タイプとしての環状燃料、中性子回折を用いた材料構造分析、燃料の世界的な連携、腐食・ナノ機能材料について数カ国から発表がなされた。最後に、材料科学における将来の研究開発プログラムについて参加国で議論された。
4) 医療/産業用アイソトープ(RI)製造
10カ国から自国における医療/産業用RI製造の現状について報告がなされた。オーストラリアおよび一部の国ではRIの国内需要に対応している一方、日本のJRR-3と韓国のHANAROはまもなく運転再開が見込まれている。この間、日本と韓国は他の国からRIを輸入している。診断と治療のための153Sm、177Lu、225Acといった新しいRIについて議論がなされ、RI製造のためのサイクロトロンのような加速器の更なる可能性についてもワークショップで議論された。
RRU-5: RRUグループの将来計画、結論として
RRUプロジェクトでは以下8つのトピックがあり、幅広く様々なトピックについて議論している。この3年間でRRU会合の開催を検討し、より望ましい人材を参加者として招待することとする。本ワークショップを毎年開催する利点は、RRUの新しいテーマについてネットワークを持ち議論できることである。
- 中性子放射化分析(NAA)
- 新しい放射性同位元素を含む放射性同位元素製造
- 中性子散乱
- 原子核科学
- ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、中性子ラジオグラフィ(NR)
- 材料研究
- 新しい研究炉
- 人材育成
翌年のワークショップはカザフスタンで開催することとし、RRUグループのテーマとして原子核科学が選択された。
【個別セッション(NAA)】
NAA-1: 大気汚染および鉱物資源に係る活動の進捗
2015年に開始された新たなフェーズ(第5フェーズ)では、大気汚染および鉱物資源の2つのサブプロジェクトが設けられた。大気汚染サブプロジェクトでは、各参加国から浮遊粒子状物質(SPM)試料、特にいわゆるPM2.5が採取されることとなっており、NAAやその他の手法によりこれらのSPM試料について分析され、各サイトの大気汚染レベルがモニタリングされている。鉱物資源サブプロジェクトでは、各種希土類元素(REEs)およびU(ウラン)といった有用な元素を含む鉱物がNAAで分析されており、鉱物資源の質の評価におけるNAAの有効性と有用性が示されている。カントリーレポート作成に際し、日本のプロジェクトリーダーは参加者に対し、プレゼンテーションに以下の事項を含めるように求めた。
- 直近12カ月間の進捗を当初の計画と比較しての評価
- 懸案事項およびそれを克服するために講じた措置
- プロジェクトの取組みに関する成果
- エンドユーザーとの連携強化およびエンドユーザーと立ち上げたプロジェクト
1) 大気汚染に係る活動の進捗
オーストラリア
分析用試料が提供されなかったため、この期間における進捗はなかった。その代わり、もう一方の鉱物資源サブプロジェクト活動に重点を置いた。
バングラデシュ
バングラデシュのNAA研究室にはSPM試料採取の設備がなく、ダッカの原子力センターで収集した5つのSPM試料をNAAで分析した。試料中の10元素(V(バナジウム)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)、As(ヒ素)、Sb(アンチモン)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Sc(スカンジウム)、Fe(鉄)、Zn(亜鉛))の測定を行った。
中国
2018年は、中国改良型研究炉(CARR)のNAA施設がアップグレードし、CARRのNAAシステムは、機器中性子放射化分析(INAA)、即発ガンマ線分析(PGAA)、中性子深さ方向分析(NDP)、即発ガンマ線放射化イメージング(PGAI)、遅発中性子計数(DNC)を有する。いくつかの大気粉塵(APM)試料をPGAA法で分析した。PM2.5とPM10を含むAPM試料は北京で今年週に2回採取され、元素の特性を得るために分析された。NAAは中国の大気汚染管理に非常に重要な分析手法である。大気汚染防止重要課題のための国家研究プログラムである国家重要研究開発プログラム(NRDP)を含む、いくつかの国家プログラムでNAAが採用された。
インドネシア
APM試料の採取と分析を継続している。APM試料はGent stackエアサンプラーを使用して24時間採取した。元素分析は蛍光X線分析(XRF)とINAAを組み合わせて行った。PM2.5画分の元素組成分布が得られ、ワークショップで報告した。バンドンとレムバンの採取サイトのPM2.5とPM10の時系列を比較した。核的手法を用いた分析技術は14の環境保護庁事務所からの試料分析に使用されている。
韓国
この期間の活動はなかったため、もう一方の鉱物資源サブプロジェクト活動に重点を置いた。
マレーシア
マレーシアは従来同様、バンギに位置するマレーシア原子力庁の同じ採取サイトにおいて、47mmポリカーボネートフィルターで2つの画分(<2.5μmと10-2.5μm空気動力学径の粒子)を収集するため、週に2回24時間の採取を続けている。2015年までに採取された試料は、粒子線励起X線分析(PIXE)とNAAで元素含有量を分析した。2016-2017年に採取した試料については、NAA、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、イオンクロマトグラフィーの3種類の分析技術を組み合わせて分析した。
モンゴル
2017年6月から2018年8月までのPM2.5のAPMの平均値は116.1μg/m3、PM2.5-10の平均値は249.1 µg/m3で、モンゴルの大気濃度基準値の4〜5倍であった。別の環境プロジェクトでは、採取した苔試料からINAAを用いて40元素の濃度を測定した。2016年の水準は、U、W(タングステン)、Sm、Ce(セリウム)を除き、2005年よりもかなり高かった。特にCl(塩素)とHg(水銀)の濃度はそれぞれ32倍、63倍と高かった。
フィリピン
SPM採取はメトロマニラとボラカイ島で継続されている。これらのサイトから収集したほとんどのフィルターはエネルギー分散型蛍光X線分析(ED-XRF)で分析された。他の参加国との共同作業を通してNAAを用いることが望まれる。大気汚染源割合推定を含む活動も行われた。エンドユーザーとの強い連携および継続的な共同プロジェクトは、地方自治体や大学で実施されている。
ベトナム
次年度に向けて「ヴィンタン石炭火力発電所の大気清浄度および環境影響評価」に関する国家またはIAEA/RCAのプロジェクトが計画され、提案された。k0-INAAとPIXEを用いたハノイの大気汚染研究に関する共同プロジェクトが実施された。2015〜2017年にホーチミン市で採取されたPM2.5とPM10のk0-INAAによる分析結果については、来年評価される。
2) 鉱物資源に係る活動の進捗
オーストラリア
オーストラリアの鉱山・鉱物産業に関与することは、他の手法に対してNAAの際だった特性を活用して、今もNAA活動において重点的に取り組んでいる。2つの会社と継続的な契約があり、ひとつは鉱物標準物質中の金の均一性を確認するためにNAAを利用し、もうひとつは鉱物加工製品中の塩素および主要元素のレベルを測定するためにNAAを利用している。最近では、商業的な白金族分析に予備濃縮としてファイア・アッセイ(NiS)法を用いるNAAが用いられる機会が多くなってきている。
バングラデシュ
クアカタ海浜の砂が分析され、モナザイト重鉱物が確認された。過去12ヵ月では、相互比較演習に参加し、4つの国内河川から採取した堆積物試料をNAAで分析した。これらの堆積物試料では、主要元素、微量元素、REEsを測定した。学術研究、業務、国内外の共同研究、エンドユーザーとの連携の分野において研究室の関与を高めた。
インドネシア
FNCAを通じて試料が配布されなかったため、REEsの活動はなかった。U比較標準試料の調達に係る問題や、炉照射に関する政府の規制のために、U含有量の高い試料における核分裂生成物の補正を実行できないという問題がある。
カザフスタン
2018年に実施されたカザフスタン文部科学省による地質技術分野における助成金の大幅削減のため、研究所の共同研究者は継続プロジェクトの実施が困難になった。しかし彼らとの協力は、金や随伴元素分析を目的とする黒色頁岩のINAA分析やREEs精製に伴うリン含有廃棄物の再処理生成物の分析を含むいくつかの新規プロジェクトを通して継続している。核物理研究所でのコンパレーターINAA法の開発に対して、今年から特別目的助成金の範囲での国家支援が始まった。
韓国
XRFを用いた地質標準物質の開発研究について発表した。また、ヨルダン研究訓練炉のNAA施設についても簡単に紹介した。最後に現行のNAAプロジェクトとNAA分析待ちの試料についてまとめた。
マレーシア
(内外の)分析サービス活動は、特に規制機関(マレーシア原子力許認可委員会(AELB))、放射線安全コンサルタント、企業/鉱物処理産業に対して継続して行っている。これは特に放射性鉱物に関する啓蒙活動を行い、規制機関を支援するためである。
タイ
2016〜2018年に、タイ研究炉TRR-1/M1は制御および換気システムの改修を完了した。現在、TRIGA Mark III 1.2MW研究炉は通常運転に戻った。タイ国内におけるREEsの資源分布について、鉱物省と協力して評価を行っている。前回のFNCAワークショップ以降から、ほんの少しの追加データを得たのみというのが現状である。
ベトナム
13のモリブデン試料におけるREEsを定量した。NAAによるREE分析で妨害となる、U核分裂生成物関与に係る補正係数について得られた実験結果を査読付きジャーナルに投稿する予定である。その他、例えば自動車の遮蔽ガラス、食用の鳥の巣(アナツバメ)、赤泥ボーキサイト廃棄物、苔のバイオモニタリングなどの試料についてもk0-NAAで測定を行う予定である。
NAA-2: 総合討論
1)リードスピーチ(日本・三浦氏)
中性子放射化分析法は、物質量諮問委員会(CCQM)無機分析ワーキンググループ(IAWG)で一次標準比率法の能力を示す分析法として認識されている。しかしながら、分析値の信頼性は分析操作・手順ごとに評価する必要がある。ここでは、金属Zr(ジルコニウム)中のHf(ハフニウム)、ポリプロピレン樹脂中の臭素の定量を内標準併用中性子放射化分析法の応用例として紹介した。内標準法は中性子放射化分析法の信頼性の向上に非常に有効であった。
2)原子炉稼働率
中国、韓国、日本では過去12カ月間に渡って原子炉の利用が困難であったが、京都大学研究用原子炉(KUR)が最近再稼働し、韓国のHANAROは2019年前半に再稼働予定である。中国のCARRは試運転中であるが、中国のFNCA参加者はINAA用の別の原子炉を利用しているのが現状である。
3)大気汚染(SPM)サブプロジェクト
SPMサブプロジェクトでは、いくつかの発表からPIXE、INAA、ICP-MS、XRFなどの異なる手法でなされたSPMフィルターの測定値にお互いに矛盾があることが明らかとなった。当該地域のデータの質を向上させる目的から、その違いの理由を理解するための作業計画が検討された。この作業における適切な標準物質の必要性が確認された。NAAプロジェクトの初期フェーズで収集されたデータとの比較を含め、SPMの結果について論文を発表する計画は、来年に持ち越すことが合意された。10年以上隔たって同じ場所から収集された結果を経時的に比較すれば、その地域の大気汚染の傾向の証拠を示せるかもしれない。
4)鉱物資源−希土類元素(REE)サブプロジェクト
REE含有試料を用いた前回の研究室相互比較で収集したデータの概要を再度確認した。異なる研究室と異なる技術との間で見られた矛盾のいくつかは、その信頼性が十分に評価できていない比較標準試料に帰せられるものだった可能性が指摘された。前年までに、参加者へ配布予定であった新しいREE含有試料の配布が行われなかった。核分裂生成物の補正が必要な、REEやUを含むよく評価された試料を使って相互比較を行うことが計画された。日本国内で適切な試料が見つかれば、この相互比較を調整する可能性を探るとの申し出が日本からあった。また、新しい比較標準試料の元素組成値の認証の為にNAAを使う可能性について議論された。
5)将来計画
RRUプロジェクト内のNAAグループの今後の方向性について議論した。12の参加国のうち、9カ国がNAA活動に引き続き参加したいとの希望があった。参加国からNAAワークショップに参加することで得られる利益について表明があった。共通テーマは、地域ネットワークとアイデンティティ、情報共有、人材育成(トレーニング、学生、人事交流など)、科学的協力のための機会の特定などであった。
ワークショップ参加者は、NAAが分析コミュニティにおいて高い地位を占めていることを承知しているが、NAA従事者は一般的に政府や産業界、学会の主要な利害関係者にそのことを伝えるのが得意ではないことも知っている。他の分析技術に優るNAAの利点(精度、信頼性、特定の材料のタイプなど)をアピールしていく必要がある。この必要性については将来活動で取り組むべきことである。
次フェーズを含む将来の作業計画を検討する際には、社会にとって有益な具体的な成果を示せることに焦点をあわせることが重要である。これらの成果と業績指標には、共同出版物や産業界や研究者によってNAAの能力に対する需要の増大が含まれうる。改善目標を定量化し、利益を評価することができるように、一連の業績評価を定義し、全参加者にわたりデータのベースラインを確立することが重要である。参加者が、合意した作業計画に精力的に取り組み、FNCAプロジェクトに時間とリソースを使いたいとの思いがない限り、このようなアプローチは成功せず、FNCAにおけるNAAプロジェクトの継続は難しいであろう。
NAA-3: 結論
- NAAグループは計画された目的を達成するために努力を続けており、今年いくつかの進歩を遂げた。
- エンドユーザーとの生産的な連携を維持しさらに強めていくよう、継続的に改善している。
- 現行フェーズの2つのサブプロジェクト(大気汚染および鉱物資源)への各国の参加状況を以下に示す。
国 |
大気汚染 - SPM |
鉱物資源 - REE |
オーストラリア |
(x) |
x |
バングラデシュ |
x |
x |
中国 |
x |
(x) |
インドネシア |
x |
(x) |
日本 |
(x) |
(x) |
カザフスタン |
|
x |
韓国 |
x |
(x) |
マレーシア |
x |
|
モンゴル |
x |
|
フィリピン |
x |
(x) |
タイ |
(x) |
x |
ベトナム |
(x) |
x |
x – 参加の意向 (x)– 国内認可を経てから参加、または過去12カ月間に結果が得られなかった参加
- 来年度のSPMとREE両方のサブプロジェクトに目標が設定された。
- 2020年3月以降の次フェーズに向けて計画会議が始まった。
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