2025年度のワークショップは、2025年9月4日にオーストラリアのANSTOの主催により、オンラインで開催されました。10カ国(オーストラリア、バングラデシュ、インドネシア、日本(オブザーバー)、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム、パプアニューギニア(オブザーバー))が参加し、参加人数は事務局を含め計35名でした。
食品産地偽装防止(CFF)プロジェクトは、サプライチェーンにおける食品産地偽装事例を抑止するために、食品産地調査技術プラットフォームと主要な重点食品品目の連合データベースの構築に向けた研究を行うことを目的としています。
今年度は、各国で行われている研究の進捗状況を確認し、知識共有を促進するためのオンライン会合が開催されました。2025年の試料分析の進捗状況がANSTOにより報告され、ウシエビの元素分析にハンドヘルドXRFスキャナーが有効であることが示されました。
2025年度の食品産地偽装防止プロジェクトのワークショップが、2025年9月4日にオンラインにて開催された。
2022年6月開催のFNCAコーディネーター会合において承認された、FNCA食品産地偽装防止プロジェクト(CFF)は、サプライチェーンにおける食品産地偽装事例を抑止するために食品産地調査技術プラットフォームと重点食品品目を用いた連合データベースを開発することを目的としている。これらの成果は、食品システムにおけるバイオセキュリティのリスクや不純物混入の問題に対処するために、原子力技術を応用する科学的能力の強化につながると考えられている。
本年度のワークショップには、FNCA加盟国からの参加者31名と、パプアニューギニアからのオブザーバー4名が参加した。パプアニューギニアは本プロジェクトへの強い関心を表明し、かれらの参加はネットワーキングや連携のための貴重な機会となった。
セッション1
開会セッションは、Susan Bogle氏(ANSTO)によるオーストラリア先住民の土地に対する敬意の表明(Acknowledgement of Country)に始まり、続いてFNCAオーストラリアコーディネーターであるNatascha Spark氏(ANSTO)による歓迎の挨拶およびFNCA日本コーディネーターである玉田正男氏によるFNCAにおける放射線利用とその展望と題した発表があった後、参加者の自己紹介が行われた。
セッション2
オーストラリアプロジェクトリーダーであるDebasish Mazumder氏(ANSTO)が、プロジェクトの現状を説明し、多くの参加国がデータ接続を構築するために選択した食品品目の試料収集を完了したことを報告した。進捗状況の概要を以下の表に示す。
表1. 2025年における試料分析の進捗
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国
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食品品目
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進捗
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バングラデシュ
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ウコン
ウシエビ |
ANSTOで試料分析しデータを提供済み
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マレーシア
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ウシエビ
マンゴー |
ANSTOで試料分析しデータを提供済み
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インドネシア
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バナメイエビ、コメ
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自国の研究所で試料の収集と分析が進行中
ヘンニ・ウィディャステゥッティ氏(BRIN):養殖方法に基づいたエビの産地調査における修士課程(MPhil)の研究について、ニューサウスウェールズ大学(UNSW)とANSTOと連携中 |
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モンゴル
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後日発表
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手法を準備中
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フィリピン
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ハチミツ、マンゴー、
ウシエビ、コーヒー |
自国の研究所で試料の収集と分析が進行中
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タイ
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ウシエビ
プラム |
自国の研究所で試料の収集と分析が進行中
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ベトナム
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ウシエビ
コメ |
ANSTOで試料分析しデータを提供済み
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また、Mazumder氏は、ウシエビの元素分析にハンドヘルド蛍光X線分析(XRF)分析装置が有効だったとの分析結果を報告した。この結果は、養殖試料と天然試料の間に元素プロファイルに基づいた明確な違いがあることを示しており、オーストラリア、バングラデシュ、マレーシア、ベトナムからの試料において、一貫してパターンが確認された。この産地調査モデルは、その試料が養殖由来か天然由来かを判定する精度において、88%の成果を達成した。
Mazumder氏は、ハンドヘルドXRF分析のためにバングラデシュ、マレーシア、ベトナムからANSTOに提供されたウシエビ試料の分析結果も説明した。元素プロファイルでは、オーストラリア産とベトナム産のウシエビの間に明確な違いが確認されたが、マレーシア産とバングラデシュ産の試料の間には一部重複が見られた。機械学習モデルを用いると、85%の精度で原産国が特定された。これらの調査結果は、海産物の真正性を検証するための産地調査技術がもつ大きな可能性を示すとともに、同技術が他の食品にも拡張可能であることを裏付けており、サプライチェーンにおける不正行為の削減に寄与することが期待される。
参加国は、CFFプロジェクトにおける自国の取り組みや進捗状況についても情報を共有した。
- Roksana Huque氏(バングラデシュ)
ウシエビとウコンの地理的起源および養殖方法を検証するためのフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)分析の結果を発表した。試料は天然と養殖の両方から収集され、メタデータも記録した。多変量解析(主成分分析(PCA)、正準判別分析(CDA))と組み合わせた元素プロファイリングにより、地域と季節による大きな差異が明らかとなり、認証、トレーサビリティ、食品偽装の検出が可能となった。
- Henni Widyastuti氏(インドネシア)
真正性とトレーサビリティを確認するための、エビとコメの同位体や核分析に基づく方法の応用について概説した。本研究は、地理的な表示、ハラールの遵守、偽装防止に対応している。UNSWとANSTOとの協力により、エビの産地調査に関する研究が進められている。
- Norman D.S. Mendoza氏(フィリピン)
食品認証プログラムは、有機製品、ハチミツ、マンゴー、コーヒー、カカオを対象としている。ハチミツの研究は、国家基準に影響を与え、XRFおよび同位体技術を用いた全国規模の試料収集へと拡大した。マンゴーの研究では原産地の検証に同位体フィンガープリンティングと機械学習を適用し、コーヒーとカカオのプロジェクトでは安定同位体プロファイリングに重点を置いている。
- Mohd Noor Hidayat Adenan氏(マレーシア)
ハルマニスマンゴー(高級GI(地理的表示)製品)とウシエビに重点を置いている。目的は、これらの高価値商品の真正性とトレーサビリティのモデルを開発するために、安定同位体と多元素分析(同位体比質量分析(IRMS)、XRF、誘導結合高周波プラズマ質量分析(ICP-MS)、中性子放射化分析(NAA))を用いた科学的データベースを構築することである。
- Lkhagva Uranchimeg氏(モンゴル)
食品偽装のモニタリングは新しい分野であり、法的な枠組みや確立されたシステムがまだ存在しない。現在の取り組みは、原産地の確認と、輸入品と国産品の誤表示を防止するために、分析方法を開発し、国際標準をベンチマークすることを目指している。これらの活動は、5つの主要な研究所を運営する標準気象庁の下で調整されている。
- Chakrit Saengkorakot氏(タイ)
本プロジェクトはウシエビの産地調査に重点を置いている。試料は複数の州から収集され、ほとんどのサイトで準備が完了した。ハンドヘルドXRF分析装置(オリンパス製対ニコン製)を用いた比較分析の結果、重量および測定時間における差異はほとんどみられず、元素プロファイリングが産地認証に役に立っていることが示された。
- Nguyen Thi Hong Thinh氏(ベトナム)
食品認証とトレーサビリティを支援するために、ST25イネとウシエビの安定同位体および多元素のフィンガープリント・データベースの構築を目的としている。この活動内容には、地域別サンプリング、IRMSおよびICP-MS分析、高価値輸出商品の産地調査検証に向けたキャパシティ・ビルディングなどが含まれている。
セッション3
Mazumder氏が、2026年に向けた活動計画を発表した。本計画の下、試料は引き続きANSTOで分析され、その結果は参加国と共有するとともに、中央リポジトリに保管される予定である。最終ワークショップは2026年に開催される予定で、その後、海産物データをまとめた多国間報告書と学術論文の原稿作成を行う計画である。さらに、本プロジェクトは、科学会議での成果発表や、アジア地域のパートナーとの研究・トレーサビリティの協力を強化するために、追加の資金調達の獲得も目指している。
Patricia Gadd氏(ANSTO)は、玉田氏に対してFNCAプロジェクト運営における継続的な支援に感謝の意を表した。また、参加国の代表者にもワークショップでの貴重な貢献について感謝の意を表し、こうした協力がCFFプロジェクトの目標を達成するために大きく寄与していると強調した。
オーストラリア
Dr. Debasish Mazumder
ANSTO
Ms. Patricia Gadd
ANSTO
Ms. Susan Bogle
ANSTO
Mr. Dan Nicholls
ANSTO
Ms. Narelle Hegarty
ANSTO
Ms. Elizabeth Bell
ANSTO
Mr. Mitchell Lo
ANSTO
Dr. Jagoda Crawford
ANSTO
Dr. Carol Tadros
ANSTO
Mr. Jason Bertoldi
ANSTO
Ms. Natascha Spark
ANSTO
Ms. Kellie McCourt
ANSTO
Prof. Jasmond Sammut
University of New South Wales (UNSW)
バングラデシュ
Dr. Roksana Huque
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
Dr. Md. Shakhawat Hussain
Bangladesh Atomic Energy Commission (BAEC)
インドネシア
Ms. Henni Widyastuti
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Indra Mustika Pratama
National Research and Innovation Agency (BRIN)
Mr. Ashri Mukti Benita
National Research and Innovation Agency (BRIN)
マレーシア
Mr. Mohd Noor Hidayat Adenan
Malaysian Nuclear Agency
Prof. Dr. Fatimah Md Yusoff
University Putra Malaysia
モンゴル
Ms. Lkhagva Uranchimeg
National Reference Laboratory for Food Safety
Sainjargal. D
National Reference Laboratory for Food Safety
フィリピン
Mr. Norman D. S. Mendoza
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
タイ
Mr. Chakrit Saengkorakot
Thailand Institute of Nuclear Technology (TINT)
Ms. Sasiphan Khaweerat
Thailand Institute of Nuclear Technology (TINT)
ベトナム
Dr. Thinh Nguyen Thi Hong
Institute for Nuclear Science and Technology
Vietnam Atomic Energy Institute (VINATOM)
Mr. Nguyen Duc Tam
Institute for Nuclear Science and Technology
Vietnam Atomic Energy Institute (VINATOM)
オブザーバー
パプアニューギニア
Solomon Haeremai
PNG National Fisheries Authority
Matilda Kepang
PNG National Fisheries Authority
Tindora Matainaho
PNG National Fisheries Authority
Kenneth Yhuanje
PNG National Fisheries Authority
日本
玉田正男
FNCA日本コーディネーター
中嶋翔梧
文部科学省
鈴木彌生子
農業・食品産業技術総合研究機構
崔貞娥
原子力安全研究協会