FNCA2007電子加速器利用ワークショップ
−天然高分子の放射線加工−
議事録(仮訳)
2007年10月22日〜26日、ホーチミン市、ベトナム
1. はじめに
本ワークショップは、文部科学省(MEXT)とベトナム科学技術庁(MOST) が共催し、国際原子力機関(IAEA)の協力のもとベトナム原子力委員会 (VAEC)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同実施した。本ワークショップの主な目的は以下の通りであった。
- 天然高分子の放射線加工の実用化を促進するための課題を分析する。
- 2007-2008年におけるFNCA活動の作業計画を作成する。
電子加速器の応用に関するFNCAプロジェクトには、9つのFNCA加盟国が参加している。本ワークショップは7回目であって、初めてIAEA/RCA Projectとの共同で開催された。ワークショップにはFNCA加盟国から電子加速器応用及び放射線加工の専門家が出席した(バングラデシュ(1)、中国(1)、インドネシア(1)、日本(9)、韓国(1)、マレーシア(2)、フィリピン(1)、タイ(1)及びベトナム(7))。さらに、RCAプロジェクトリード国フィリピンのコーディネーターとRCA加盟国で非FNCA加盟国であるインド、パキスタン及びスリランカからも3名の専門家が出席した。エジプトのEl-Sayed Hegazy教授は、超吸水材ハイドロゲルの特別講演のためIAEAから派遣された。付属書1に参加者リストを示す。
ワークショップ初日に、放射線加工の進展に関するオープンセミナーが開かれた。セミナーにはワークショップ参加者のほか、ベトナムの産業界、大学、研究所からも多数の出席があり、総数115人であった。展示会も開催され、中国、日本、インドネシア、韓国、マレーシア、ベトナムからポスターと製品が展示された。
オープンセミナーの冒頭、文部科学省の松尾研究開発戦略官が歓迎の辞を述べ、セミナー及びワークショップを主催したベトナム政府に謝意を表した。ベトナム科学技術庁(MOST)のBui Van Quyen南部事務所長が開会の辞を述べた。氏は、全ての関係者を暖かく歓迎し、セミナー及びワークショップの討議が成功裏に終わり成果をあげることを希望すると表明した。
2. 招待講演
町FNCAコーディネーターは「持続的発展のための原子力技術の役割」と題する招待講演を行った。原子力が、「安定で安全なエネルギーの供給」、「健康管理の改善」、「より良い食品の供給」及び「工業の効率化」のために有効であることを示した。また、温室効果ガスの非放出、揮発性精油/ガスへの非依存、燃料リサイクル及びエネルギー・ミックスの観点から原子力の重要性を指摘した。健康に関しては、癌診断のための加速器(サイクロトロン)、農業に関しては、「突然変異育種」、「不妊虫放飼法(SIT)」、「家畜繁殖」、「土壌科学-バイオ肥料」及び「食品照射」が重要であると指摘した。高分子の放射線加工及び排煙と廃水処理による環境保護への放射線利用を強調した。
3. オープンセミナーでの講演
日本の久米FNCAプロジェクトリーダーは放射線加工の概要を紹介した。氏は高分子の放射線加工、環境保全、医療用具の殺菌、放射線殺菌と発酵、SIT、突然変異育種、食品照射及び天然高分子への応用の重要性を紹介した。
ベトナム原子力委員会のQuoc Hien Nguyenは、天然高分子を中心とするベトナムにおける放射線加工の概要、ベトナム原子力委員会の照射施設、人材、研究開発プロジェクト及び国際協力について説明した。また、超吸水材及びハイドロゲル創傷被覆材への天然高分子の応用に関する最近の成果と今後の研究開発計画を紹介した。
中国科学院のGuozhong WUは「中国における放射線加工」を紹介した。中国の照射施設や商業化されている熱収縮材料などの製品について説明した。また、中国における新規応用への挑戦と将来計画が紹介された。
マレーシア原子力庁のKhairul Zamanは「マレーシアにおける放射線加工の研究開発」に関する講演で、マレーシア原子力庁によって開発された放射線加工に焦点を合わせ、照射施設と研究開発プログラムを紹介した。マレーシア原子力庁は高分子加工実験室と試験工場を設立した。サゴデンプン・ハイドロゲルの技術移転と商業化例を報告した。
さまざまな分野の7人の専門家が放射線加工の応用に関する以下の講演を行った。
- 電子加速器による印刷と塗装:鷲尾方一
- 放射線架橋による自動車部品:吉井文男
- ハイドロゲル創傷被覆材の生産:磯部一樹
- 放射線グラフト重合の工業利用:玉田正男
- サゴデンプンの放射線加工:Kamaruddin Hashim
- キチン、キトサンと放射線:戸倉清一
- ベトナムにおける放射線加工した多糖類の農業への応用:Hai LE
4. ワークショップ
FNCA2007ワークショップはベトナム原子力委員会 放射線科学技術研究開発センター所長Tran Khac Anが主宰した。テクニカルツアーを10月24日から26日に変更したワークショップのプログラムが採択された。付属書2にワークショップのプログラムを示した。
4.1. 町FNCAコーディネーターの特別講演
FNCAコーディネーターは特別講演「FNCA及び天然高分子放射線加工プロジェクトの展望」について講演した。最初に、FNCAは「活発な地域パートナーシップ」であり、原子力の平和で安全な利用による社会経済開発の機能向上に有効な手法であると紹介した。天然高分子の放射線加工プロジェクトにおいて、各国がその目標を達成するためには研究開発チームを単一化することが重要であること、情報交換、共同研究開発、研究交流による共同作業の重要性を指摘した。氏は、製品特性と価格競争力を認識する市場調査、産業との密接な協力によるプロセス開発及び工場最適化などが商業化戦略のうえで重要であることを力説した。
4.2. プロジェクト報告
久米FNCAプロジェクトリーダーは、「FNCA EBプロジェクトの現状」と題し、電子加速器の応用に関するFNCA EBプロジェクト第1期と第2期の概要を紹介した。第2期は3年間のプロジェクト(2006-2008年)で、天然高分子の放射線加工に焦点を合わせる。また、第2期は経済的評価も対象とする。さらに、天然高分子の放射線加工に関するFNCAプロジェクトとRCAプロジェクトとの協力による相乗効果への期待を表明した。
4.3. テーマ セッションの概要
4.3.1. セッション1の概要:ハイドロゲル創傷被覆材 (HWD)
Young-Chang NHOは「ポリビニルピロリドンとカラギーナンからの創傷被覆材」に関して報告した。ハイドロゲルの製作には2つの異なった配合処方がある。最初の処方は、出発原料としてポリビニルピロリドン (PVP)、ポリエチレングリコール (PEG)、カラギーナン及び水を使用する。もう一つの配合は、PVAと水を使用する。PVP、PEG、カラギーナン配合のハイドロゲルは、韓国の病院で広く適用されるウレタン系被覆材と比べると体液吸収能力がはるかに低く、吸収能力を改良するためにいくつかの努力が試みられた。PVP、PEG、カラギーナン配合のハイドロゲル創傷被覆材の臨床試験を民間会社と病院との協力で実施したところ、非常に良い結果を得た。会社は、韓国食品医薬品協会から生産免許を受け、Cligelという商品名で商品化した。Cligelは現在、市場で商業的に入手可能な状況にある。
PVAとハーブ抽出物の放射線架橋によるハイドロゲルは、アトピー治療に有効であることがわかった。また、PVAハイドロゲルの中の不純物(酢酸ナトリウム)を除去することにより高品質の製品が得られることに注目し、酢酸ナトリウムの95%を除去する水洗処理法を見いだした。
Khairul Zamanは「サゴ系ハイドロゲルによる美容マスクと創傷被覆材のプロセス開発」を報告した。マレーシア原子力庁は、サゴデンプンを主成分とするハイドロゲルの美容マスクと創傷被覆材への応用におよそ10年を費やした。民間企業との共同による美容マスクの試作は2003年に開始した。適正製造基準(GMP)のプラントが2004年11月に建設され、2005年5月に操業を開始した。会社は2008-2009年にフル生産を始める予定である。製造ラインを製作する際に遭遇した多くの困難を商業化の過程で克服した。美容マスクに比べて、創傷被覆材の商業化はより長期間を要する。
Lorna S. Relleveは「ポリビニルピロリドン-カラギーナン・ハイドロゲル創傷被覆材の工業化」を報告した。フィリピンは、火傷と床ずれの治療用PVP-カラギーナン・ハイドロゲルを放射線架橋により開発した。物性改良のためにPEGがPVP/カッパ・カラギーナン溶液に加えられた。火傷と床ずれ/潰瘍治療の臨床実験で、ハイドロゲルはガーゼよりはるかに良い結果を示した。経済性調査とビジネスプラン作成は終了した。創傷被覆材用ハイドロゲルのパイロットプラント規模の生産は2007-2008年に始まる予定であり、完全商業化は2009年と予想される。
Suwanmala Phiriyatornはタイの「キャッサバデンプン・ハイドロゲル創傷被覆材の放射線加工」を報告した。ビニルピロリドンモノマー(VP)とデンプン混合物の照射で、PVPがグラフト重合したデンプンハイドロゲルを実験室規模で作製した。グラフト反応はフーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FTIR)、熱重量分析(TGA)、ゲル分率及び膨張テストで確認された。また、ペースト状態で照射することにより架橋カルボキシメチルデンプン(CMS)を作製した。
バングラデシュのEmdadul Haqueは「ハイドロゲル創傷被覆材への現地原料の利用に関する研究開発」を報告した。PVPとポリビニルアルコール (PVA)を使用した2つ配合処方でハイドロゲルを作製した。原料の価格を考えてPVAを選び、さらにPVA配合に小麦粉を加え原材料費を低減した。高品質ハイドロゲルの最適組成は、カラギーナンと小麦粉をそれぞれ0.75%含むPVAであった。ハイドロゲル創傷被覆材を病院で試験した。また、キトサンを塗布した外科用ガーゼを開発した。
4.3.2. セッション2の概要: 超吸水材(SWA)
El-Sayed Ahmed Hegazy教授は「工業及び農業への応用のための天然高分子の放射線加工」に関する特別講演を行った。超吸水材は、長期間の研究が行われおり、既に介護、農業、医学、水質浄化に使用されている。超吸水材ハイドロゲルの生産には、ポリアクリルアミドとポリアクリル酸が一般的に使用されている。放射線架橋したポリアクリルアミドは保水性があるので、団粒形成促進剤として使用できる。このハイドロゲルは、3日間水を保有できる利点があり、砂地に団粒形成促進材として使用できる。放射線分解Na-アルギン酸塩またはNa-CMCを添加した架橋ポリアクリルアミド・ハイドロゲルは、団粒形成促進材に植物成長促進物質としての性能を付加することになる。天然高分子(アルギン酸塩とキトサン)のための放射線分解線量は、照射時の加硫酸アンモニウム添加でかなり減少する。ポリアクリル酸は現在、紙オムツとサニタリーナプキンで使用されている。炭酸アンモニウムなどの起泡剤とカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む放射線架橋ポリアクリルアミドは、高い水膨張比と保水性を示した。この材料は紙オムツとして役立つと思われる。
Binh Doanは「キャッサバデンプンへのアクリル酸の放射線グラフト重合による超吸水材」について講演した。線量率1.6 kGy/時間、4.5 kGy照射、アクリル酸との重量比1:1、1:2及び1:3の条件下でグラフト重合したデンプンは、その重量の200-500倍の多量の水を吸収する。この超吸水材ハイドロゲルは、生分解性があり、植物成長促進物質と団粒形成促進材として使用できる。このハイドロゲルはトウモロコシ、ピーナッツ、コーヒー、綿などの作物の収穫を10%から30%高めた。
吉井は「カルボキシメチルセルロース乾燥ゲルによる農産廃棄物の有効利用」に関する講演を行った。放射線架橋Na-CMCハイドロゲルは超吸水材として使用できる。5.0 kGyで放射線架橋したNa-CMCハイドロゲルを乾燥したゲル1 gは、150 gの水を吸収する。家畜排泄物の処理、焼酎残渣の処理、日本の和紙の強度及び収縮の改良に使用できる。
以上の3件の講演から、超吸水材としては、ポリアクリルアミドやポリアクリル酸などの合成高分子の他に、放射線架橋したNa-CMC及びアクリル酸をグラフト重合したデンプンなどの天然高分子も使用できることが実証された。これらは農業における団粒形成促進剤、介護製品及び環境保全において用途が開発される可能性がある。超吸水材ハイドロゲルに放射線分解天然高分子を加えることで、ハイドロゲルを植物成長促進剤や団粒形成促進材として役立てことができる。
4.3.3. セッション4の概要: 植物生長促進剤(PGP)
放射線による多糖類の分解は、植物に酵素活動の増進、抗菌力、フィトアレキシン誘導、成長促進、重金属などの環境ストレス障害の抑制などの生理活性をもたらすことが明らかになっている。
Quang Luan Leは「放射線分解アルギン酸塩の商業化」と題し、放射線分解したアルギン酸塩及びキトサンの植物成長促進に関する研究成果を発表した。キク、リモニウム及びトルコ桔梗で組織培養システムを使用した実験室試験が行われた。オリゴアルギン酸とオリゴキトサンが植物成長促進効果を発現する線量は、植物によるが、75〜00 kGyの範囲である。温室における苗の移植時の生存率は、オリゴキトサン処理で増加した。ベトナムにおける製品の商業化と登録には、a) 毒性試験、b) 試用許可、c) 圃場試験、d) 実用化許可の4つの関門がある。照射による「アルギン酸塩T&D」の販売が許可された。アルギン酸塩の放射線分解には大線量を要するが、過硫酸アンモニウムなどを添加して照射することにより、線量をかなり低減できた。
Gatot Trimulyadiは、インドネシアの「キトサン製造のプロセス開発と放射線分解キトサンの野外散布実験」を報告した。低分子量キトサン処理植物のホルモンの分析により、オーキシン、サイトカイニン及びジベレリンなどのホルモンが存在することを明らかにした。これらのホルモンは、根の発育を増加させて、落花を減少させることが知られている。唐辛子、馬鈴薯及び人参を用いて低分子量キトサンの実地試験を行い、作物の収穫を従来の化学肥料栽培による収穫と比較した。結果は馬鈴薯で31-34%、人参で53-55%の増収を示した。また、収穫までに要する栽培期間は、馬鈴薯で4カ月が3カ月に、人参で5カ月が3.5カ月に、唐辛子で6カ月が5カ月に減少した。唐辛子栽培に対する低分子量キトサン利用の経済性調査では、投資収益率(ROI)が従来肥料の146.32に対して249.11と高い値を示した。
Suwanmala Phiriyatornは、「分解キトサンの農業への応用」を報告した。照射キトサンの植物成長促進効果に関する実験室規模での研究であった。低分子量キトサンをレタス、ホウレン草及びケールに適用した。最適な生物学的効果を示すキトサンの分子量は、レタスで20 kDa、ホウレン草で8〜12 kDa、ケールで8 kDaであった。
上記3件の報告について、以下の問題点や関心事が議論された:
- 低分子量キトサンの生産のための詳細な手順書の作成。
- 低分子量キトサンを現場・圃場に適用するための詳細な手順書の作成。
- PGPと化学肥料の相乗効果の評価。
- 植物成長促進剤に必要な放射線分解線量を添加物の使用で減少できれば、従来の化学肥料と競争できるだろう。
- インドネシアとベトナムのPGPに関する経済性調査の比較。
- 低分子量キトサンをエリシターとして商品化すれば、PGPよりも高い経済価値が得られる。
- 加盟国間での低分子量キトサン・エリシターの実地試験(ベトナムが試料と手順書を用意する)は技術移転を容易にするだろう。
- 放射線加工によるオリゴ糖類(アルギン酸塩、キトサンなど)製造は、農業における持続可能な開発のための最も効果的な方法であると考えられる。
4.3.4. セッション5の概要: 放射線加工天然高分子のその他の応用
Guozhong Wuは、「放射線分解キトサンの水産養殖への応用」を発表した。中国では養殖漁業と動物の飼料に放射線分解キトサンが利用されている。キトサン水溶液とキトサン/I2錯体溶液が養殖漁業でうまく応用された。キトサン溶液の主な機能は、水を浄化し、魚/エビを病気の感染から防ぐことである。2007年に、およそ100トンのキトサン溶液が契約会社によって販売された。放射線分解キトサンは、動物の免疫を強めるために添加物として動物の飼料に利用されている。テストされた動物は魚、ブタ、牛及び鶏である。すべての動物で、キトサンの添加は非常によい結果を示した。放射線分解キトサンの添加量は、鶏及び魚の飼料への50 ppmで充分で、乳離れしたブタと牛には、200-300 ppmのキトサンの投与量が必要である。また、牛の乳房炎を治療するためキトサン水溶液の乳房への直接注入がテストされている。照射と製粉技術の組み合わせでキトサン微粉末が製造されている。微粉末は抗菌性ビスコース繊維の製造に利用されている。
Lorna S. Relleveは、「ポリビニルピロリドン/キトサンハイドロゲルの注入材としての利用」を報告した。膀胱尿管逆流症(VUR)は、尿が膀胱から尿管に逆流する病態で、腎感染症等の原因となる。VURの治療は、長期抗生物質の予防投与と根治切開手術があった。最近はその代替法として内視鏡による治療が普及し、全治療の90%に達している。内視鏡法では、尿管と膀胱の接合部に弁の働きをするDeflux(ヒアルロン酸とデキストラノマーのゲル)を注入する。DefluxはFDAによって認可された唯一のVUR治療用注入材である。フィリピン原子力研究所は、PVP/キトサンハイドロゲルの内視鏡的膀胱粘膜下注入治療を試験した。動物を用いた注入試験は、フィリピンのセントトマス大学病院(UST)で行われた。PVP/キトサンハイドロゲルは、G26のような細い注射針でも容易に注入できる程度の粘度を維持した。動物テストは、移植材が経時的に安定であり、生物学的に適合し、非転移性であることを示した。この移植材の臨床試験はUST病院の倫理委員会の厳しい政策に従わなければならない。
玉田は、「カルボキシメチルキトサンハイドロゲルによる金属吸着材」を報告した。金属イオン吸着材は、イオン交換や鉛カドミウム等の毒性イオンの除去に使用されている。実用化されている吸着性樹脂は、通常、塩素化メチルスチレン及び架橋剤であるジビニルベンゼンの共重合で合成されている。石油資源の不足のため、また環境負荷を減少させるためにも、金属イオン吸着剤の原料として天然高分子が使用されるべきである。カルボキシメチルキチン(CMCht)とカルボキシキトサン(CMChts)は天然資源材料である。これらの材料は、ペースト状の高エネルギー照射で架橋することが見いだされている。CMChtとCMChtsの酵素分解性は架橋後も保持される。土中埋設試験で、両ハイドロゲルの分解が確認された。微生物による酸化的分解反応は、放射線架橋CMChtとCMChtsハイドロゲルが未架橋のCMChtとCMChtsよりわずかに速く進行する。これはキチンとキトサンの分子量の減少によるためであるかもしれない。CMChtsハイドロゲルはAuとPtを吸着し、CMChtハイドロゲルはPd、Sc、Au、Cd、V、Ptを吸着した。CMChtとCMChtsのハイドロゲルの最大のAu吸着量は、それぞれ53.3と39 μ mol/gであった。ハイドロゲルに吸着された金イオンは、HCl溶液によって定量的に溶出した。したがって、CMChtとCMChtsのハイドロゲルは、工業廃水中の貴金属を回収可能であるといえる。
以上の発表に対して、以下の結論が導かれた。
- CMChtとCMChtsハイドロゲルは、工業廃水からの貴金属の回収に利用できる。
- 養殖漁業と動物の飼料に放射線分解キトサンを使用できる。
- PVP-キトサン・ハイドロゲルは、理想的な移植材料としての可能性がある。
4.3.5. セッション3の概要:RCAの活動と成果
Lucille Abadは、「RAS/8/098の成果とRAS/8/106の目標」について講演し、IAEA/RCAの2005−2006年のRAS/8/098の成果と2007-2008のRAS/8/106の活動を紹介した。FNCAのもとで行われている研究活動の大部分がIAEA/RCAにおいても実施されている。IAEA/RCAプログラムは、研究活動の他に地域及び国レベルでのトレーニング・コース、フェローシップ、サイエンティフィック・ビジット、専門家派遣を含んでいる。
RCA加盟国であるインド、パキスタン、スリランカからの参加者は、放射線加工天然高分子の応用として、創傷被覆材、果物保存剤、植物成長促進剤、金属吸着材、動物排泄処理材、超吸水材に関する研究開発の成果を報告した。
5. テクニカルツアー
ワークショップ参加者は、ベトナム原子力委員会の放射線科学技術研究開発センターを訪問した。Tran Khac AN所長の出迎え、同センターの概要、製品とそのプロセスの説明を受けた。次いで、コバルト60照射施設及び超吸水材試験製造工場を見学した。
6. 将来計画討論
6.1. ガイドライン作成
工藤が、放射線加工によるハイドロゲルとオリゴ糖類の開発に関するガイドライン文書の概要を説明した。各国は、技術的詳細、費用分析、その後の進展による改正を求められた。また、各国は、「ガイドライン作成様式」を、事務局または工藤に2007年12月の終わりまでに提出することが要請された。
6.2. 2008年のワークショップのための提案
Wuは次回のワークショップを2008年に中国・上海で開くことを提案した。すべてのFNCA加盟国が提案に同意した。ワークショップは2008年秋に開かれ、ワークショップの詳細は今後決められる。次のワークショップの主なテーマは技術移転にある。FNCAプロジェクトの将来計画と特別トピックスとして養殖漁業が議論される。次回ワークショップが現行FNCAプロジェクト(2006 -2008年)の最後の年になるので、プロジェクトの評価を議論する必要がある。
6.3. 将来計画
1) |
本会合は、FNCAとRCAの天然高分子の放射線加工に関する諸活動の重複を避けるため、協力する必要があることに同意した。また、全てのFNCAとRCA加盟国の本分野に関する研究チームは各国1つにすべきことが強調された。 |
2) |
FNCA加盟国は、プロジェクトを選択し、2008年の作業計画を準備することが示唆された。 |
3) |
創傷被覆材のためのハイドロゲルは多くのFNCA加盟国野で商業化ステージに達した。しかしながら、問題はパイロット規模のデザインとプロセス開発である。すべての加盟国が開発ステージを準商業化までアップグレードする際に技術的問題を克服するためには、原料や設備のメーカーと供給者に関する情報の交換を可能とすることが提案される。 |
4) |
既に植物成長促進物質として知られている放射線分解天然高分子(アルギン酸塩、キトサン、カラギーナン)を植物エリシターとして商品化するよう提案された。「エリシター」という単語はオリゴ糖の機能として成長促進だけではなく、菌類と昆虫から植物を防護する機能も包含する。植物エリシターとして商品化すれば、放射線分解天然高分子に付加価値と高価格を与える。 |
5) |
パキスタンとスリランカ及び多くのFNCA加盟国(バングラデシュ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)は、放射線分解天然高分子の植物エリシターとしての応用デモンストレーションに関して一層協力することに同意した。以前のRCA/UNDP工業プログラムで設置されたインドネシアのガンマ線照射施設は、液状天然高分子の照射に使用できることが示唆された。このガンマ線照射施設でつくられたオリゴ糖類は、実地試験のために他の加盟国に分配される。本件につき、町FNCAコーディネーターはインドネシア当局と協議する。上記目的のために、FNCAはインドネシアへ専門家を派遣し、天然高分子の照射を支援することが示唆された。 |
6) |
マレーシアもマレーシア原子力庁の利用可能なガンマ線照射施設と電子ビーム施設でキトサンを液状で照射する。照射天然高分子は植物エリシターとしての実地試験に使用される。現在、民間部門とベトナムとの協力の可能性が議論されている。 |
7) |
天然高分子を原料とする超吸水性ハイドロゲルは、農業分野において将来性がある。この開発を、FNCAとRCA加盟国の間で共同実施することが提案された。ベトナムは、要求があれば、実地試験用超吸水性ハイドロゲル試料を他の加盟国に提供すると申し出た。 |
8) |
特許などの知的所有権に関する問題については、FNCAのより高いレベルの委員会で議論するべきである。 |
9) |
2008年4月に天然高分子の放射線加工に関連したIAEA/RCAワークショップが開催されると予想される。 |
参加者は、主催者及び運営機関に対し深甚の謝意を表明した。
付属書1 FNCA2007ワークショップ参加者リスト
付属書2 FNCA2007ワークショッププログラム
付属書3 ガイドラインの作成日程表
付属書4 2006-2008の3年計画
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