FNCA2011 電子加速器利用プロジェクトワークショップ
-天然高分子の放射線加工-
議事録
2012年1月30日 - 2月2日、フィリピン、マニラ
1) ワークショップ概要
(i) |
日 程: |
2012年1月30日〜2月2日 |
(ii) |
会 場: |
フィリピン、マニラ |
(iii) |
主 催: |
文部科学省(日本MEXT)
フィリピン原子力研究所(PNRI)
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(iv) |
参加者: |
10ヶ国15人 (バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム) |
(v) |
プログラム: |
添付1 |
2) ワークショッププログラム
産業利用のための放射線加工に関するオープンセミナー
産業利用のための放射線加工に関するオープンセミナーが、フィリピンマニラのBay View
Parkホテルで開催され、研究機関、農業分野、産業分野から約40名が参加した。フィリピン産業エネルギー新技術研究開発協議会(PCIEERD-DOST) 会長代理である Raul Sabularse氏および、町末男FNCA日本コーディネーターが開会挨拶を行った。産業界におけるニーズとフィリピンの人々のニーズの合致へ向け、本セミナーが、放射線加工の利点と利用について学ぶよい機会になることへの期待が示された。FNCA日本コーディネーターの町末男氏は、世界の、放射線加工の産業利用における近年の動向について紹介した。フィリピン原子力研究所所長(PNRI-DOST)のAlumanda Dela Rosa氏は、PNRIの電子加速器利用における新プログラムについて発表を行った。マレーシア原子力庁のKamaruddin Bin Hashim氏は、マレーシアにおける放射線加工によるフェースマスク実用化の成功例について発表を行った。ベトナム原子力研究所(VINATOM)の Nguyen Quoc Hien氏は、ベトナムにおける天然高分子の放射線加工の商業利用について報告を行った。日本原子力研究開発機構(JAEA)の玉田正男氏は、ボタン型電池等における電導性隔膜や、2010年9月に民間会社との協力の下で開発された半導体洗浄液から金属を除去するフィルタなど多くの実用化製品をもたらす放射線グラフト重合の利用について発表を行った。
発表の後、ラウンドテーブルディスカッションが行われた。参加者は、パネルメンバーと、積極的に意見交換を行った。討議の結果、生物医学分野において利用されているハイドロゲルのような近年の調査研究の継続、研究機関や照射施設との放射線加工における協力の構築、放射線加工に関する市場調査や情報の流布、さらに技術移転といった社会経済的関心に関する調査の実施等が提案された。
オープニングセッション
町氏は、開会挨拶を行い、ワークショップにいて有意義な討議が行われることを期待した。Alumanda Dela Rosa氏は、歓迎挨拶を行い、参加者全員を温かく歓迎した。参加者は簡単に自己紹介をおこなった。参加者リストは、添付2を参照。
セッション 1: FNCAの概要
町氏は、第12回FCNA大臣級会合の概要と、2010年から2011年におけるFNCAの成果について報告した。始めに、第12回FCNA大臣級会合の要点が提示された。次に、現行のFNCAの10プロジェクトの概要と成果が列挙され、FNCAプロジェクトの効率的な遂行のため、原子力研究機関とエンドユーザーの連携強化の重要性が指摘された。
日本のプロジェクトリーダーである玉田正男氏は、FNCA電子加速器利用プロジェクトの近年の活動と今後の計画について発表を行った。本プロジェクトの第3フェーズは、放射線加工の利点を活用した、植物生長促進剤(PGP)と、超吸水材(SWA)の研究開発に焦点を置いている。
2010年も、参加国はPGPのフィールド試験と、SWAの研究開発における活動を継続して行った。マレーシアにおいて、24へクタールの農地における、オリゴキトサンPGPのイネへのフィールド試験が行われ、収量は、5%増加した。また、発芽率とイモチ病への効果に関する試験では、PGPは、商業化されている発芽化合物や合成殺菌剤の代用となりうるという可能性が示された。SWAハイドロゲルは、特に乾燥地域における土壌改良材として利用できると期待されている。ベトナムにおいて、SWAは、茶やコーヒー、胡椒等の作物へ実験的に使用されている。SWAを使用したフィールド試験は、ゴムやキャッサバ、ドラゴンフルーツに対して行われている。エンドユーザーが農業利用におけるSWAの効果について理解できるよう、特に乾燥地におけるSWAの土壌改良材としてのフィールド試験の最新データの系統的な研究が必要である。PGPとSWAの参加各国における研究結果をまとめたデータシート (1つの植物に対して1枚のデータシートに記入)を基に、本ワークショップにおいて、PGPとSWAの効果的な技術移転の方法について討議することが確認された。
セッション 2: キトサンの放射線加工による植物成長促進剤の生産とフィールド試験に関するカントリーレポート
FNCA参加10か国は、2011年における放射線加工によるオリゴキトサンPGPの研究活動について詳細に説明した。本プロジェクト新規参加国であるカザフスタンとモンゴルは、自国の研究機関について紹介し、2012年の研究計画について発表を行った。レポートのサマリーは、添付3のPart Aを参照。
セッション 3: 2009年〜2011年の成果に関するまとめと結論
インドネシア原子力庁のDarmawan Darwis氏は、 照射キトサンPGPの研究活動のまとめに関するリードスピーチを行った。唐辛子と大豆へのオリゴキトサンの利用により、収量は、25〜50%向上した。
ベトナム原子力研究所のNguyen Quoc Hien氏は、リードスピーチとして、PGPプロジェクトのまとめと結果について発表を行った。生産コストの低減化のため、新たな原材料であるカブトガニや添加剤として過酸化物の使用が推奨された。
カザフスタンとモンゴルを除く、多くのFNCA参加国より、キトサンの放射線分解により製造されたオリゴキトサンのPGPとしての効果が示され、一定の成果があったことが報告された。フィールド試験において、オリゴキトサンの使用により、米、唐辛子、そして大豆の収穫量が向上したことが実証された。オリゴキトサンには、エリシター効果により、菌類やフサリウムのような病害から植物を保護する効果がある。いくつかの参加国において、農業機関と共同でフィールドテストが実施された。ベトナム、マレーシア、中国、インドネシア、タイ、日本、フィリピンは自国の原子力研究機関において既存のコバルト60照射装置を用いてオリゴキトサンを製造しているが、いくつかの国では民間会社が、原子力研究機関の照射施設を利用し、オリゴキトサンの商業生産を開始している。多くの場合、FNCAプロジェクトによって作成されたガイドラインに従って、オリゴキトサンの生産が行われている。
セッション 4: オリゴキトサンPGPの拡大と商業化へ向けた課題
Hien氏は、オリゴキトサン製造の商業化における課題についてリードスピーチを行った。 オリゴキトサンPGPの大量生産はベトナムにおいて関心事である。オリゴキトサンの製造を維持するため、各国にけるキトサンの提供可能者を調査あるいは特定することが提案された。また、新たな原材料の使用や、オリゴキトサン大量生産のための原子力施設のさらなる建設も提案された。参加国は、オリゴキトサンPGPの生産コストについて、集約的な市場調査を行い、大量生産の対象となる会社へ提示するよう推奨された。参加国間で合意されたような標準的なオリゴキトサンPGPの作製手順が商業化の際にも必要とされる。商業化のための原子力施設の増設のため、IAEAの援助も必要であろう。
セッション 5: 2012-2013年における放射線加工によるPGPの研究開発に関する活動計画
マレーシア原子力庁のKamaruddin Bin Hashim氏は、2012-2013年における天然高分子の放射線加工によるPGPの研究開発に関する活動計画について発表した。研究に使用されている植物は、参加国によって異なるが、イネは全ての参加国にとって重要な作物であることから、米の収量向上へ向けたオリゴキトサンの利用のため、FNCA参加国共通の植物として奨励することで合意された。マレーシアやベトナムにおいて、オリゴキトサンの使用による収量の向上が実証された。研究結果を共有することは、参加国にとって大変有益である。ベトナムとマレーシアは、イネへのオリゴキトサンの利用のためのガイドラインを策定することに合意し、インドネシアとタイは、唐辛子のガイドラインを策定することに合意した。商業化へ向けて、各国は、植物の選定や、選定した植物へのオリゴキトサンを使用したフィールド試験の実施において、農業部門との連携を強化すべきである。その他の提案事項は以下の通りである。
1. |
民間会社、農家、農業機関と協同で、オリゴキトサンの生産と利用を最大限に高める。 |
2. |
農業、水産業、そして家畜生産のため、細胞培養を生産する(オリゴキトサンとのメディアにおいて拡大)。 |
3. |
FNCAバイオ肥料プロジェクトリーダーと連携し、オリゴキトサンとバイオ肥料の相互作用について研究する。 |
セッション 6: 天然高分子の放射線架橋と重合によるSWAの生産と利用に関するカントリーレポート
参加9ヶ国が、SWAの研究活動に関するレポートを発表した。モンゴルは天然高分子の放射線架橋とグラフト重合によるSWAの研究の現状について発表を行った。レポートのサマリーは添付3のPart Bを参照。
セッション 7: 2009年から2011年における結果のまとめと結論
日本原子力研究開発機構の長澤尚胤氏は、SWAに用いる放射線改質による多糖ハイドロゲルとその利用に関するサマリーを発表した。参加国のカントリーレポートから、原材料、改質手法、製品の性能、製造工程、農業機関や民間会社との連携についてまとめた。製造工程と最近の植物生長のための土壌におけるSWAの開発および活動についてのサマリーは、添付4のPart Bを参照。
結論として、放射線により製造されたSWAは、脱イオン水(純粋)において、150g/gと優れた吸水率を示し、土壌改良材としての使用が可能である。SWAを使用することで、トマトやコーヒー、紅茶などの植物の生産量を向上できる。しかし、原材料と放射線改質手法が各国において異なるため、製造工程の最適化へ向けたさらなる研究開発が必要である。
セッション 8: 干ばつ地域における土壌改良材としてのSWAの利用における課題
インドネシア原子力庁のDarmawan Darwis氏と、タイ原子力技術研究所のPhiriyatorn Suwanmala氏は農業におけるSWAの利用へむけた課題について発表を行った。各国が強調するように、SWAの利用において、比較的低価格なSWAの大量生産へ向け、低価格で大量に存在する原材料が特定されるべきである。土壌改良材としてのSWAの利用は、ゲル膨張率、膨潤率、保水力、土質、そして圃場容水量といった最適化への指標によって最大限に高められるべきである。農業部門との連携は、乾燥地帯における最適な植物へのSWAのフィールド試験を優先されるべきである。SWAの商業化へ向け、対象となる民間会社の参加が求められる。
セッション 9: 2012年〜2013年における天然高分子の放射線加工によるSWAの研究開発におけるワークプラン
ベトナム原子力研究所のLe Hai氏は、2012年〜2013年における天然高分子の放射線加工によるSWAの研究開発へのワークプランについてリードスピーチを行った。SWAの生産コストと商業化は、各国において主要な関心事である。特記されるべき他の関心事は以下の通りである。
1. |
農業部門との連携強化 |
2. |
原材料は、わらや籾殻、ココナツコイヤ粉のような農業廃棄物からの安価な原材料を考慮しながら、入手可能なものを選択する。 |
3. |
デンプンアクリル酸や、水酸化物を用いたSWAの生産に関するガイドラインが、タイとベトナムにより策定される予定である。 |
4. |
SWA生産における特性化(吸水率、離水性、生分解性) |
5. |
土壌改良材としてのSWAのポット試験とフィールド試験 |
6. |
技術移転と商業化 |
セッション 10: 放射線加工に関するFNCAプロジェクトとIAEA/RCAプロジェクトの協力
町氏は、FNCAとIAEA/RCAの双方に利益をもたらす相互作用を引き出すだめの両者の協力に関する発表を行った。FNCAとIAEA/RCAは、電子加速器利用、放射線治療、そして放射線育種の3つのプロジェクトにおいて協力している。共同形式でのワークショップ開催が可能であると考えられ、また、IAEA/RCAのトレーニングコースや分子生物技術のためのRCAトレーニングにおいてFNCAのプロトコールを利用することも可能であり、これは、FNCAにとっても新種の開発において役立つと考えられる。町氏は、また、研究プログラムとトレーニングというFNCAとRCA/IAEAの機能の違いについて強調した。
Kammaruddin氏は、会合やトレーニングコース、セミナー等の活動や、天然高分子の放射線加工に関する活動の成果、可能な協力、そして協力の手法について発表を行った。RCAとFNCAの協力関係の継続が確認された。
セッション 11: 結論とサマリーレポート
PGPおよびSWAの研究に関する結論について言及された。PGPの効果は参加各国で確認されており、フィールドテスト、技術移転、そして商業化が強く推奨された。SWAの乾燥地域における土壌改良材としての利用へ向け、SWAの最適化や特性化といった研究も継続されるべきある。人材育成と研究強化のため、特に新規参加国であるモンゴルとカザフスタンへのワークショップとトレーニングコースの開催が求められている。議事録は各国の参加者によって検証され、討議の後に承認された。
閉会セッション
フィリピン原子力研究所(PNRI)のLucille Abad氏と町氏は閉会の挨拶を行った。次年度のワークショップは、バングラデシュで開催される予定である。
テクニカルビジット
参加者は、ケソン市にあるフィリピン原子力研究所を訪問した。化学研究実験室や、生物医学研究実験室、そしてコバルト60の多目的照射施設を視察した。Lucille Abad氏が室長を務める化学研究実験室は、放射線加工の研究の先導的な施設である。参加者はまた、ハイドロゲル生産のためのパイロットプラントを視察した。生物医学研究所は製品のバイオバーデンや貯蔵寿命のような微生物学における研究のための認可を受けた実験室を有している。コバルト60の多目的照射施設では、商業および研究目的の照射サービスを提供している。
3) 結論と提案
本ワークショップの結論と提案は以下の通りである。
A. 植物生長促進剤 (PGP)
1. 結論:
各国において、PGPの植物生長促進結果が確認された。オリゴキトサンPGPの研究における次の段階は、参加国共通の作物であるイネと唐辛子を用いたフィールド試験である。
2. 提案:
参加各国は、以下の目的の下、天然高分子の放射線加工プロジェクトを継続することで合意した。
- 農業部門との協力による、フィールド試験の実施
- 技術移転
- 商業化
B. 超吸水材 (SWA)
1. 結論:
参加国から発表されたSWAの予備試験結果により、乾燥地域においてSWAは土壌改良材として農業利用に有効であることが示された。
2. 提案:
SWAの製造過程における最適化へ向け、参加国はプロジェクトを継続することで合意した。ポット試験やフィールド試験を行う上で、商業化へ向けてのフィージビリティスタディがなされるべきである。
次回のワークショップ候補地としてバングラデシュが提案された。
4) 添付
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