2021年度 FNCA放射線治療プロジェクトオンラインワークショップ
概要・報告
2021年11月26日
期間:2021年11月26日(金)
開催:Zoom
主催:文部科学省(MEXT)
参加人数:45名(バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム)
2021年度FNCA放射線治療ワークショップが2021年11月26日にオンラインで開催されました。本ワークショップは文部科学省(MEXT)により主催されたものです。バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムから45名が参加しました。
開会セッション
本プロジェクトの日本リーダーの加藤真吾氏(埼玉医科大学)が挨拶を行い、ワークショップは開会しました。
続いて、FNCA日本コーディネーターの和田智明氏、FNCA日本アドバイザーの玉田正男氏及び文部科学省の船曳一央氏より挨拶がありました。
和田氏が第21回FNCA コーディネーター会合にてとりまとめられた「結論と提言」より、本プロジェクトに関連する内容を紹介しました。
本セッションの最後には、2021年8月に亡くなった、韓国の前プロジェクトリーダー、CHO Chul Koo氏への追悼を行いました。
局所進行子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の前向き観察研究 (CERVIX-V)
プロトコールCervix-Vは、腫瘍がある子宮腔内での照射をより正確かつ安全に行える新しい治療法です。アプリケータ(管)を腔内に入れた状態でCTやMRIで撮影することにより、アプリケータと腫瘍、周囲臓器との位置関係を把握することができ、そのCTやMRIを専用の治療計画装置に取り込むことで、周囲臓器への照射線量を抑えつつ腫瘍に高線量を集中投与するため、患者の副作用を減らすメリットがあります。
2018年よりCervix-Vへの患者登録が始まっています。
本ワークショップ時点で登録されていた各国の患者数は、バングラデシュ1名、中国10名、インドネシア9名、日本7名、カザフスタン6名、韓国0名、マレーシア11名、モンゴル3名、フィリピン8名、タイ21名、ベトナム0名であり、患者総数は76名でした。
日本より、登録患者の臨床データのまとめが報告されました。
76名中、68名が適格とされました。予備解析として、追跡期間が6ヵ月を超える60名の患者について解析が行われました。すべての登録患者が3D-IGBTの治療を受けました。また、21名の患者については、ハイブリッド技術(組織内照射と腔内照射の併用)による治療を行いました。
基準線量との比較では、95%の患者がその線量を満たしました。
グレード3*1の急性血液毒性が13名(22%)の患者に見られましたが、これらの毒性は管理可能なものでした。また、グレード3以上の急性非血液毒性がこれまでのところ2名(3%)の患者に見られましたが、晩期毒性については、グレード3以上は見られていません。
2年全生存(OS)率、局所制御(LC)率及び無病生存(DFS)率はそれぞれ91%、91%、76%でした。
Cervx-Vの目標患者登録数は100名です。2017年に書かれたプロトコールに書かれている登録期限は2022年5月ですが、臨床試験開始時期が遅れたこと、また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で患者登録を期限までに行える見通しが立ちにくいため、患者登録を2023年11月までに継続することとしました。
※1 グレード:有害事象の重症度を意味する。有害事象共通用語規準(CTCAE)では、グレード(Grade)は1〜5まである。
上咽頭がんに対する導入化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第U相試験(NPC-III)
プロトコールNPC-IIIは、頸部リンパ節に転移のある上咽頭がん症例に対し、導入化学療法を行った後、放射線療法と化学療法を同時併用するプロトコールです。放射線療法と化学療法を同時併用した後で、化学療法を追加するプロトコール(NPC-I)との違いは、化学療法の順番を同時併用の前に行う点にあります。
本プロトコールへ登録されている登録患者数は120名です(バングラデシュ1名、中国9名、インドネシア12名、日本0、カザフスタン0名、韓国0名、マレーシア31名、モンゴル0名、フィリピン7 名、タイ 0 名、ベトナム60名)。患者登録は2019年に完了しています。
日本より、登録患者の追跡調査データ解析結果のまとめが以下の通り報告されました。
登録患者の追跡期間中央値は41ヵ月です。
症例登録後の急性毒性に関する一部の追跡データがまだ提出されていないため早急な提出が求められました。
治療結果はNPC-I(CCRTと補助化学療法)との間でのT及びN分類※2によるステージをマッチングさせた比較とマッチングさせない比較から、局所制御(LC)は劣るが、全生存率(OS)は同等であることがわかりました。
また、NPC-IIIの患者のステージはほとんどが3または4であるのに対し、遠隔転移(骨転移)の割合が比較的高いこと、治療前に骨シンチグラフィー検査を受けた患者は62%にとどまっていることが指摘されました。この点について評価するためのサブセット解析を実施することが推奨されました。
NPC-IIIの主要エンドポイントは3年無憎悪生存(PFS)率です。さらに1年間の患者の追跡が必要です。すべての追跡データを揃えて最終報告書がまとめられる予定です。
※2 TNM分類:腫瘍の部位ごとに設定され、原発腫瘍の大きさ(T)、所属リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)の三要素で病期を決定するもの。
乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験 (術後放射線療法(PMRT)/BREAST-I)
プロトコールBREAST-Iは、局所進行乳がんに対する乳房切除後の胸壁と鎖骨上窩への領域照射を行う治療法(HF-PMRT)と早期乳がんに対する乳房温存術後の全乳房照射(HF-WBI)において、1回の照射線量を通常よりやや増加させることにより、総線量を低下させて治療期間を約3分の2に短縮する治療法(HF-WBI)のふたつに別れます。この治療法は多くの先進諸国で乳房照射に使われ、治療効果が同等で有害事象が同等かやや少ないことがわかってきています。
PMRTへ登録されている登録患者は222名です(国別では、バングラデシュ84名、中国13名、インドネシア0名、日本15名、カザフスタン20名、韓国0名、マレーシア0名、モンゴル26名、フィリピン18名、タイ0名、ベトナム46名)。
プロトコール目標症例集積数が200名のところ、222名の患者が登録されています。登録時に解析されていなかった1名の患者データが2020年に新たに加えられています。
日本より、PMRTの臨床症例データ解析結果のまとめについて報告が行われました。
グレード2以上の急性皮膚炎が15%の患者に、グレード2の皮下急性毒性が1%の患者に見られました。グレード3以上の晩期毒性は見られませんでした。5年局所領域制御(LC)率、無憎悪生存(PFS)率、全生存(OS)率は、それぞれ96.3%、81.0%、90.9%でした。
PMRTの患者登録は2019年に完了しており、主要エンドポイントは5年局所無再発生存率です。登録されている患者について、さらに3年間の追跡が必要です。また、総追跡期間は10年です。共同研究者には、その期間における晩期有害事象をチェックすることが求められています。
乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験(全乳房照射(WBI)/BREAST-I)
本プロトコールへ登録されている登録患者は227名(乳病巣は228)です。国別では、バングラデシュ31名、中国6名、インドネシア16名、日本134名、カザフスタン14名、韓国9名、マレーシア0名、モンゴル3名、フィリピン0名、タイ14名、ベトナム0名です。
2013年2月から2018年10月までの間に227名の患者がWBIプロトコールに登録され、その治療を完了した患者227名(腫瘍228)についての解析が行われました。
日本より、WBIの臨床症例データ解析結果のまとめについて報告されました。
グレード2〜3の急性皮膚炎が13%の患者に見られ、局所領域再発は1例、遠隔転移は4例、また乳がんによる死亡が3例見られました。
グレード3以上の晩期毒性は見られませんでした。5年局所領域制御(LC)率、無増悪生存(PFS)率、全生存(OS)率はそれぞれ98.9%、95.5%、95.9%でした。
WBIの患者登録は2018年に完了していますが、有効性評価のためにさらに2年間の患者の追跡が必要です。また、総追跡期間は10年です。共同研究者には、その期間における晩期有害事象をチェックすることが求められています。
新規臨床試験
2019年度ワークショップでがんの骨転移と脳転移に対する緩和的放射線治療が新たな臨床試験として提案されました。プロトコール案の作成にあたり、2020年にはメンバーの所属する病院の治療の現状についてアンケート調査が実施されました。
本セッションでは、骨転移、脳転移、それぞれに対するプロトコール案が紹介されました
また、IAEA/RCAで新たに開始する「緩和的放射線治療」のプロジェクトについても紹介されました。
1) 骨転移に対する緩和的放射線治療
日本より、有痛性骨転移に対する単回照射放射線治療について、前向き観察研究のコンセプトとプロトコールが紹介、提案されました。プロトコール内容については概ね同意を得ましたが、以下の点については、今後決めていくこととなりました。
- NRS 5〜7の中程度の痛みを有する患者を含めるべきか
- 病変数と総照射野の大きさ
- 椎体以外の病変も対象とすべきか
次回のワークショップまでに本研究を開始するため、必要な事務的手続きも始まります。
2) 脳転移に対する緩和的放射線治療
タイより、「定位手術的照射(SRS)に適さない脳転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)に対する緩和的全脳放射線治療(WBRT)の延命効果:予後モデルの外部検証」というタイトルの、脳転移に対する緩和的放射線治療のプトロコール(ドラフト)が紹介されました。
タイの病院からのモデルも含む多くのモデルの直接比較を伴う外部検証研究として、予後モデルが提案されました。目的は、個々の患者にとっての全脳放射線治療の治療効果を予測することです。
この研究の意義は、「十分なサンプルサイズを備えた迅速な研究(合理的な欠測データを許容する後ろ向き研究)となりうること」、また、「全脳放射線治療の治療効果を予測するにあたってウェブベースのモデルを使用できること」です。サンプルサイズが当該国にとって十分な場合には、各国のための個別的モデルを作成することもできます。
全脳放射線治療の治療効果予測因子の実現性について確認するために、各国5名ずつの患者に関するチェックリスト調査が提案されました。正式な提案と記録フォームについては、今後報告されます。
ワークショップ参加者から以下の質問があり、後に最終決定されるチェックリストにて対処されることが確認されました。
- どのような原発がんであってもすべての脳転移を含めることは可能か?
- KPSではなく、ECOGのパフォーマンスステータスを使用することができるか?
- 全能放射線治療を実施していなくても、FNCA参加国のすべての参加者がそのデータにアクセスできるか?
3) 新規RCAプロジェクト
IAEA/RCAの新規プロジェクト「緩和的治療における放射線治療の標準化」について、プロジェクトのリード国コーディネーター、若月優氏(日本、量子科学技術研究開発機構(QST))より紹介されました。プロジェクトは2022年から開始する予定です。RCA地域の政府系機関における緩和的放射線治療の臨床マネジメントを向上させることで、同地域のがん患者のQoL(生活の質)を向上させることが全体の目標です。FNCA放射線治療プロジェクトとも密接に関連して運営されること、またFNCAプロジェクトメンバーのRCAプロジェクトへの参加が期待されています。
FNCAブレイクスルー賞
プロジェクトメンバーの水野秀之氏(日本、QST)が内閣府主催のFNCAブレイクスルー賞において「優秀賞」を受賞しました。長年にわたって線量監査における品質保証(QA)/品質管理(QC)の活動の業績が高く評価をされました。
将来計画
1) 2022年度ワークショップ
2022年度のワークショップは、COVID-19の感染拡大が落ち着いていた場合、モンゴルで開催される予定です。
2) 将来的な臨床試験
第21回FNCAコーディネーター会合において、で本プロジェクト内の臨床試験で将来的に「前立腺がん」を扱うことを検討していくことが提案された旨が説明されました。
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