2022年度FNCA放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2022年9月29日-10月2日
モンゴル・ウランバートル
(1) 第22回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター会合の合意に従って、2022年度FNCA放射線治療ワークショップが2022年9月29日〜10月2日にかけてモンゴルのウランバートルで開催された。会合は、モンゴル国立がんセンター(NCCM)、モンゴル原子力委員会(NEC)、及び文部科学省(MEXT)の共催で開催された。FNCA参加国であるバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムの11ヵ国からの代表者が本ワークショップに参加した。
開会式
(2) モンゴル国立がんセンター(NCCM)執行役員、放射線腫瘍科/放射線腫瘍医であるUranchimeg Tsegmed氏が開会セッションの進行役を務めた。
NCCMのセンター長であるErdenekhuu Nansalmaa氏が挨拶し、参加者を歓迎した。
モンゴル原子力委員会(NEC)外務部長である Munkhtuya Baasanjav氏も参加者を歓迎する挨拶を行った。
保健省(MOH)医療調整局の紹介・一次医療課長であるNavchaa Gombodorj氏も歓迎の挨拶を行った。
FNCA日本アドバイザーの玉田正男氏が開会の辞を述べた。
放射線治療プロジェクトのプロジェクトリーダーである加藤眞吾氏が挨拶した。
(3) 続いて個々の参加者が紹介された。
(4) アジェンダが採択され、議長と報告者が選出された。
セッション1:局所進行子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の前向き観察研究(CERVIX-V)
(5) 量子科学技術研究開発機構(QST)量子生命・医学部門量子医科学研究所重粒子線治療研究部骨盤部腫瘍臨床研究グループ医長である小此木範之氏がCERVIX-Vの臨床データ解析の要約を発表した。
目標患者登録数は100名である。2017年5月から2022年9月までの間に89名の患者がCERVIX-Vに登録された。このうち81名が適格であった。FNCA参加国からの患者登録数は、バングラデシュ2名、中国10名、インドネシア9名、日本12名、カザフスタン6名、韓国0名、モンゴル4名、マレーシア11名、フィリピン8名、タイ27名、ベトナム0名である。患者登録の期限は2023年11月である。
CERVIX-Vの予備解析として、追跡期間が6ヵ月を超える73名の患者についての解析が行われた。他の8名は追跡期間が6ヵ月に満たなかった。すべての患者が3D-IGBTの治療を受けた。うち26名は組織内照射が併用された。目標線量との比較では、93%の患者がその線量を満たした。
毒性に関しては、グレード3の急性期血液毒性が18名(25%)、グレード3の急性期非血液毒性が2名(3%)の患者に見られた。グレード4又は重度の急性期毒性は見られなかった。これまでのところグレード3又は重度の晩期毒性は見られなかった。
追跡期間中央値27ヵ月における局所領域制御(LC)率、無増悪生存(PFS)率、全生存(OS)率は、それぞれ91%、75%、87%であった。局所領域再発が12名で生じ、うち5名は所属リンパ節での再発であり、7名は局所再発であった。
続いてCERVIX-Vについての討論が行われた。
-加藤眞吾氏がCERVIX-V研究の進捗状況についてコメントした。局所再発パターンに関するコメントも行った。
-AFM Kamal Uddin氏(国立耳鼻咽喉研究所(ENT)放射線腫瘍科)がコメントし、バングラデシュの新たながんセンター(Labaidがん病院・スーパー・スペシャリティ・センター)を本研究に加えることを提案した。CERVIX-Vのプロトコールはすでに病院の治験審査委員会(IRB)によって承認された。
- CERVIX-Vの患者の追跡期間について、臨床経過観察の頻度と追跡期間中の画像診断技法に関する議論が行われた。小此木氏が、臨床経過観察の頻度と画像診断技法は研究実施機関のプロトコールに従うべきであるが、より高い頻度の経過観察が理想的だろうと答えた。
セッション2:上咽頭がんに対する導入化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験(NPC-III)
(6) 筑波大学医学医療系放射線腫瘍学講座講師の牧島弘和氏がNPC-IIIの臨床データ解析の要約を発表した。
このプロトコールには120名の患者が登録された。国別の患者登録数は、バングラデシュ1名、中国9名、インドネシア12名、日本0名、カザフスタン0名、韓国0名、マレーシア31名、モンゴル0名、フィリピン7名、タイ0名、ベトナム60名である。
本臨床試験の主要エンドポイントは3年全生存(OS)率と設定されている。
患者登録は2019年に完了した。NPC-IIIの患者登録総数は120名である。登録されたすべての患者がすでに主要エンドポイント評価期間に達している。NPC-IIIをNPC-Iと比較すると、局所制御率は劣っていたが、全生存(OS)率は同等であった。最終解析にとって欠落しているデータがいくつかある。
続いてNPC-IIIの臨床データに関する公開討論が行われた。
-大野達也氏(群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学教授)が、NPC-I試験に比べて局所再発率が高くなっている理由を尋ねた。複数の理由が寄与している可能性があるが、すべてのデータが提出されて解析の準備ができた段階で、徹底的な調査を行う必要があるということで合意された。
-大野氏は、まだ提出されていないデータの収集方法や、まだ疑問の余地のあるデータの確認方法についても尋ねた。そのための有効で効率的な方法として、オンラインビデオ会議が提案された。
セッション3-4:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(術後放射線療法(PMRT)及び 全乳房照射(WBI)/ BREAST-I)
(7) 東京女子医科大学医学部放射線医学講座放射線腫瘍学分野教授で基幹分野長である唐澤久美子氏が、PMRT / BREAST-Iの臨床データ解析の要約を発表した。要約は以下のとおりである。
2013年2月から2019年10月までの間に222名の患者が登録された。各国の患者登録数は、バングラデシュ84名、中国13名、インドネシア0 名、日本15 名、カザフスタン20名、韓国0名、マレーシア0名、モンゴル26名、フィリピン18名、タイ0名、ベトナム 46名であった。1名を除く全員がプロトコールの治療を完了し、解析の対象となった。急性期有害事象は、皮膚のグレード1が62%、グレード2が10%、グレード3が5%、皮下組織のグレード1が16%、グレード2が2%、肺のグレード1が6%、心臓のグレード1が9%の患者に発生した。追跡期間は1〜114ヵ月で、その中央値は64ヵ月である。晩期有害事象は、皮膚のグレード1が42%、グレード2が1%、皮下組織のグレード1が16%、グレード2が2%、乳房のグレード1が5%、肺のグレード1が6%、心臓のグレード1が2%の患者に発生した。局所領域再発が6件、遠隔転移が30件、乳がんによる死亡が17件、併発性の死亡が9件あった。5年の局所領域制御(LC)率、無増悪生存(PFS)率、全生存(OS)率はそれぞれ96.3%、78.0%、90.1%である。
(8) 唐澤氏は次に、WBI / BREAST-Iの臨床データ解析の要約を発表した。要約は以下のとおりである。
2013年2月から2018年10月までの間に227名の患者が登録された。各国の登録数は、バングラデシュ31名、中国6 名、インドネシア16名、日本134名、カザフスタン14名、韓国9名、マレーシア0名、モンゴル3名、フィリピン0 名、タイ14名、ベトナム0名であった。すべての患者(腫瘍228箇所)がプロトコールの治療を完了し、解析の対象となった。急性期有害事象は、皮膚のグレード1が80%、グレード2が11%、 グレード3が2%、皮下組織のグレード1が11%、肺のグレード1が1%の患者に発生した。追跡期間は6〜113ヵ月で、その中央値は65ヵ月である。晩期有害事象は、皮膚のグレード1が21%、グレード2が1%、皮下組織のグレード1が10%、乳房のグレード1が9%、肺のグレード1が2%の患者に発生した。追跡期間が3年を超える患者の整容性は、優が147名、良が75名、可が3名、不可が3名であった。
局所領域再発が1件、遠隔転移が6件、乳がんによる死亡が3件、併発性の死亡が9件認められた。5年の局所領域制御(LC)率、無増悪生存(PFS)率、全生存(OS)率はそれぞれ99.6%、95.1%、96.0%である。
セッション5:新規臨床試験
-骨転移に対する緩和的放射線治療
(9) 牧島弘和氏が、骨転移に対する緩和的放射線治療についての2種類のアンケート調査の概要を提案した。
2種類のアンケート調査の目的は、有痛性骨転移に対する放射線治療における現在の治療法とその実施理由について理解することにある。第1の調査はFNCA参加施設を対象とするもので、よく知られている線量/分割照射の基準を尋ね、実際の治療記録から使用割合を確認することで、これらの施設における現在の治療法の実態を把握しようとするものである。第2の調査は、FNCA参加国における放射線治療施設を対象とするもので、モデル臨床症例をもとに望ましい線量/分割とその理由を尋ねることによって、FNCA加盟国における放射線腫瘍医の基本的な考え方を理解することを試みる。
続いてその概念についての討論が行われた。
-大野氏が、8Gy/1Fr レジメンが期待余命の短い症例で使用されない理由を確認する必要があることを示唆した。
すべてのメンバーがその提案に合意し、牧島氏より詳細なアンケートが全メンバーに送付されることになった。
-脳転移に対する緩和的放射線治療
(10) Mahidol大学医学部Siriraj病院放射線科放射線腫瘍学分野の講師であるKullathorn Thephamongkhol氏が、非小細胞肺癌の多発脳転移における全脳照射の付加価値予測モデルの臨床研究を提案した。
同氏は、この臨床試験の背景、試験デザイン、適格基準、各種予測因子、エンドポイント、サンプルサイズ及び統計解析について説明した。データの入手可能性、特にバイオマーカーのステータスの入手可能性、必要なサンプルサイズ、ならびにFNCA施設で使用されているその他の予測モデルについて、議論が行われた。最終的に、この臨床試験が次の FNCA研究(Brain-I)として受入れられた。この議論に基づき、Kullathorn Thephamongkhol氏が完全なプロトコールを作成することになった。この後ろ向き研究は、IRBの承認を得た上で、来年開始される。量子科学技術研究開発機構(QST)がこの試験のデータセンターの役割を果たす。
セッション6-1:小線源治療のためのQA/QC
(11) NCCMにおいて、Bambang Haris Suhartono氏、KIM, Kum Bae氏、Muzzamer Bin Mohammad Zahid氏、Pitchayut Nakkrasae氏、福田茂一氏、中路拓氏、水野秀之氏、Enkhtsetseg Vanchinbazar氏ならびに NCCMの医学物理士たちにより、3D-IGBTのための線量監査が実施された。線量監査は、線源強度、アプリケータ・オフセット及び線源の位置の確認で構成されており、3D-IGBTのEnd to End試験が予定されていたが、CTシミュレータに関する技術的問題のために不可能であったことから、実施は次の可能な機会に延期された。
セッション6-2:公開講座
(12) 線量監査と並行して、NCCMにおいて公開講座が開催された。
(13) Uranchimeg Tsegmed氏がこのセッションの進行役を務め、 NCCMの放射線腫瘍科長であるMinjmaa Minjgee氏が開会の挨拶を行い、聴衆を歓迎した。
(14) 玉田正男氏がFNCAに関する講義を行った。同氏は、FNCAの概略を紹介し、進行中の7つのプロジェクトの活動状況と達成事項について説明した。
(15) モンゴル保健省(MOH)のNavchaa Gombodorj氏が、腫瘍学・放射線腫瘍学の発展のために同省が実施してきた政策についてのスピーチを行った。
(16) 加藤眞吾氏が、子宮頸がんに対する化学放射線療法についての講演を行った。
(17) 唐澤久美子氏が、乳がんに対する放射線治療についての講義を行った。
(18) 韓国原子力医学院(KIRAMS)の放射線腫瘍学科長のJANG Wonil氏が、肝細胞がんに対する放射線治療についての講演を行った。
(19) Uranchimeg Tsegmed氏が、モンゴルにおけるリニアックに基づく新技術の開発について話した。
(20) NCCM放射線腫瘍科、放射線腫瘍医のErdenetuya Yadamsuren氏が、モンゴルにおける局所進行子宮頸がんに対する3D-IGBTを紹介した。
(21) Kullathorn Thephamongkhol氏が緩和的放射線治療について語った。
(22) QST量子生命・医学部門QST病院治療診断部長である若月優氏が、粒子線治療についての講演を行った。
(23) 最後に、加藤眞吾氏がそれらの講演についてコメントし、聴衆に対し閉会の挨拶を行った。
セッション7:NCCM放射線腫瘍科(DRO)へのテクニカルビジット
(24) Uranchimeg Tsegmed氏よりNCCMの概要がワークショプ参加者に対して紹介された。
Minjmaa Minjgee氏よりNCCMの放射線腫瘍科(DRO)の概要が紹介された。
ワークショップ参加者がNCCMの放射線腫瘍学の複数の現場を訪れた。
セッション8:線量監査(小線源治療のためのQA/QC)についての報告
(25) QST量子生命・医学部門QST病院放射線品質管理室技術員である中路拓氏が、前日にNCCMで実施された小線源治療のための線量監査について報告した。アプリケータ・オフセットと線量強度に関する品質管理(QC)テストで、結果が許容範囲内であることが確認された。しかしNCCMでは、技術的問題のために、今回、3D-IGBTのためのEnd to Endテストが不可能であった。
続いて小線源治療のためのQA/QCについてのディスカッションが行われた。
水野氏が2023年3月末までにオンサイトの監査を実施することを提案した。
セッション9-1:3D-IGBTに関するハンズオントレーニング
(26) 3D-IGBTに関するハンズオントレーニングがNCCMにおいて実施された。そのトレーニングは、村田和俊氏(QST量子生命・医学部門QST病院治療診断部治療課医長)が、日本、タイ、モンゴルの数名の放射線腫瘍医及び医学物理学士と共に主導した。
村田氏がNCCMのスタッフとFNCAメンバーに対し3D-IGBTに関する講義を行った。実証に役立つ2症例でのハンズオントレーニングが行われ、その後にファントムを用いたアプリケータ挿入のトレーニングが行われた。
セッション9-2:外部照射治療のためのQA/QC
(27) ハンズオントレーニングと並行して、NCCMにおいて外部放射線治療のための線量監査が実施された。それは、電離箱を用いた外部線量測定監査と蛍光ガラス線量計(RDG)を用いた基準線量の相互比較であった。
これらの監査は日本、モンゴル、韓国、インドネシアの医学物理士によって行われた。
セッション10:線量監査(外部照射治療)についての報告
(28) QST量子生命・医学部門QST病院放射線品質管理室室長である福田茂一氏が、前日に実施された線量監査について報告した。外部線量測定監査の結果、規定の線量と測定された線量の差が、6MVと10MVのビームでそれぞれ-1.2%と0.29%であった。それらは許容範囲内の線量であった。日本においてRGDの積算線量測定値の読み取りを行うため、1ヵ月以内にRGD線量測定監査の結果が報告されるということも言及された。
セッション11:今後の計画
(29) 参加者が4日間のワークショップセッションを振り返り、プロジェクトの今後の計画について話し合った。
-NPC-IIIについては、すべてのデータがデータセンターに提出され、確認された段階で最終報告が行われる。牧島弘和氏が、査読付き国際的学術誌に提出される報告書の作成を主導する。
-国際原子力機関(IAEA)/原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)のRAS 6/098におけるIAEAとの協力が奨励された。
-次回ワークショップが日本の埼玉医科大学及びQSTで開催されることが合意された。
セッション12:ワークショップ議事録のドラフト作成
(30) ワークショップ参加者がワークショップでの議論を振り返った。
議事録のドラフトが報告者より提出され、議論が行われ、修正が加えられた。議事録のドラフトはワークショップ終了後に回覧され、最終決定される。
(31) 加藤眞吾氏が今回のワークショップについて総括した。同氏は、モンゴル及びワークショップ参加者に対する感謝の意も表明した。
同氏の閉会の挨拶によりワークショップは閉幕した。
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