2025年度の核セキュリティ・保障措置プロジェクトのワークショップが、フィリピン原子力研究所(PNRI)と日本の文部科学省(MEXT)の主催の下、2025年9月23日より25日までフィリピンのケソンで、ハイブリッド形式で開催されました。

【ワークショップ】
フィリピン原子力研究所(PNRI)副所長のVallerie Ann Samson氏及びFNCA日本アドバイザーの森本浩一氏から開会の挨拶があり、ワークショップが開始されました。

続いて参加者の自己紹介が行われ、今回のワークショップには中国、インドネシア、日本、カザフスタン、マレーシア、モンゴル、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10ヵ国が参加し、参加人数は計28名でした。

次に日本プロジェクトリーダーである堀雅人氏によりアジェンダの確認が行われ、8つのセッションが実施されました。
【テクニカルビジット】
テクニカルビジットとして、原子力計測実験室、フィリピン研究用原子炉(PRR-1)訓練・教育・研究用未臨界集合体(SATER)、放射性廃棄物管理施設、電子ビーム照射施設を視察しました。

【オープンセミナー】
9月25日には、フィリピンの関係者を主な対象に、小型モジュール炉(SMR)における設計段階からの保障措置(SBD)に関するオープンセミナーを開催しました。

セッション1&2:カントリーレポート
進行:Phan Van Thanh氏(ベトナム放射線・原子力安全庁(VARANS)、ベトナム)
堀雅人氏(日本プロジェクトリーダー)
10カ国(中国、インドネシア、日本、カザフスタン、マレーシア、モンゴル、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)が、保障措置及び核セキュリティの実施、核セキュリティ文化及び人材育成の推進に関する2024年のワークショップ以降の進展及び改善に関する最新情報を伝えるそれぞれのカントリーレポートを発表した。
すべての国が、保障措置と核セキュリティの人材育成を強化するための、国際機関や地域組織及び他国との緊密な協力を行っている旨の報告をした。ほぼすべての国が、IAEAや他国、各種機関との二国間・多国間協力を通して、自国の核セキュリティ・保障措置体制を継続的に改善するための活動を実施していた。
カントリーレポートのまとめは、セッション7のカントリーレポートサマリーで扱っている。
セッション3:保障措置の実施に関する議論
進行:Maria Teresa A. Salabit 氏(フィリピン原子力研究所(PNRI)、フィリピン)
発表:IAEA、インドネシア
Peter Rance氏(IAEA)
Arief Sasongko Adhi氏(インドネシア国立研究革新庁(BRIN)、インドネシア)
Peter Rance氏は「設計段階からの保障措置(SBD)」について発表した。現在の保障措置技術と小型モジュール炉(SMR)におけるSBDの比較を説明し、SBDが保障措置の実施における有効性と効率性を向上させることを示した。SBDプロセスの4つの段階として、ガイダンスの確認、IAEAとベンダー間の協力、文書化、実施を挙げた。Rance氏は、SBDにより、適用範囲、スケジュール、予算、許認可のタイムラインに関するリスクを低減し、事業者の負担や改修の必要性を減らし、共同または重複する機器の利用の円滑化にもつながると強調した。また、IAEAはガイダンスを提供するものの、施設設計者がプロセスを主導する必要があると指摘した。さらに、設計者への効果的なアウトリーチの必要性や先進炉設計に対するより具体的なガイダンスの策定といった課題についても議論した。
Arief Sasongko Adhi氏は、インドネシアにおけるSBDの経験を共有し、拡散抵抗性評価に関する研究や、インドネシアに提案された原子炉システムの評価について紹介した。議論は、インドネシアにおける原子力発電所の規制要件やロードマップ策定に関する話題で締めくくられた。
セッション4:保障措置の実施に関する議論
進行:Basankhuu Otgonsuren氏(モンゴル原子力委員会(NEA)、モンゴル)
発表:日本、モンゴル
Victor Siregar氏(日本原子力研究開発機構 原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)、日本)
Basankhuu Otgonsuren氏(NEA、モンゴル)
セッション4では、国際的な保障措置協定に基づく「補完的なアクセス(CA)」の実施に焦点が当てられた。セッションでは、ISCN/JAEAが作成したビデオを使用した実践的な演習、国別報告、そして参加者の自由討論が行われた。
Victor Siregar氏は、ISCN/JAEAが開発したビデオ教材を用いて、補完的なアクセス査察に関する手順や課題を示すインタラクティブな演習を行った。この演習は、査察プロトコル、検証技術、IAEA査察官と各国当局・事業者間のやり取りに関する理解を深めることを目的としている。
Basankhuu Otgonsuren氏による発表では、IAEAの保障措置要件に沿ったCA活動の実施に関する各国の経験、課題、実践例が紹介された。
討論では、Maria Teresa A. Salabit氏とPhan Van Thanh氏が述べたように、CA訪問時における各国当局、事業者、査察官の間の準備と透明性の重要性が強調された。また、ISCN/JAEAのビデオのような実践的な演習やシミュレーションツールが、参加者の能力向上や査察プロセスへの理解促進に有効であるとされた。
さらに、堀雅人氏とVictor Siregar氏からは、保障措置の実施を強化するため、FNCA参加国間で地域協力を強化し、経験を共有することが提案された。
セッション4は、FNCA参加国がCAの実践的側面に取り組む貴重な機会となった。視覚的なトレーニング教材と実例を組み合わせることで、保障措置の実施における課題とその解決策への理解が深まった。
セッション5:放射線・核セキュリティ(内部脅威の緩和)に関する議論
進行:Phan Van Thanh氏(VARANS、ベトナム)
発表:日本、タイ、マレーシア、ベトナム
野呂尚子氏(ISCN/JAEA、日本)
Issariya Chairam氏(Harinate Mungpayaban氏代理)(タイ原子力庁(OAP)、タイ)
Lydia Ilaiza Binti Saleh氏(マレーシア原子力局(アトム・マレーシア)、マレーシア)
Phan Van Thanh氏(VARANS、ベトナム)
このセッションでは、核セキュリティにおいて重要性が高まっている内部脅威の緩和に焦点が当てられた。参加国は規制措置と実務経験の両方に焦点を当て、それぞれの国におけるアプローチを共有した。ISCN/JAEA、タイ、マレーシア、ベトナムが発表を行った。
1. 日本
野呂尚子氏は、IAEAのガイドラインに基づき、内部脅威の削減に係る取組みについて、アクセス権限付与前の厳格な身元確認や特定エリアでの単独行動を禁止する対策等を紹介した。内部脅威対策には核セキュリティ文化の醸成が効果的だが、アジアの文化に沿った課題や良好事例の共有が重要であると指摘した。
2. タイ
Issariya Chairam氏は、国家原子力平和利用法(National Nuclear Energy for Peace Act)に基づく内部脅威への段階的アプローチについて説明した。これには、規制要件、施設レベルでの実施、そして迅速な検知、対応、レジリエンスを確保するための調整メカニズムが含まれている。
3. マレーシア
Lydia Ilaiza Binti Saleh氏は、内部脅威の防止対策が査察手順やセキュリティ計画にどのように組み込まれているかを説明した。また、備えと対応を強化するために、事業者の関与や、法執行機関との緊密な協力の重要性も強調された。
4. ベトナム
Phan Van Thanh氏は、新たに制定された「原子力法2025」について紹介した。この法律では、物理的防護および核セキュリティ文化の義務化に加え、内部脅威の緩和が設計基準脅威(DBT)枠組みの一部として規定されている。ベトナムはまた、受動的インサイダーに関連する新たなグローバルリスク、特にモバイルメッセージアプリや人工知能プラットフォームの普及によって生じる脆弱性を強調した。
議論において、内部脅威の緩和は、悪意あるインサイダーだけでなく、受動的インサイダーにも対応すべきであるという点で合意された。これはIAEAの方法論と一致している。デジタル通信やAIツールに関連するリスクは、意図的でない場合でも内部脅威になり得るとして喫緊の課題として認識された。意識向上のための研修、個人の信頼性確認制度、デジタルツールの責任ある使用に関するガイダンスの重要性が強調された。核セキュリティ文化の強化が分野横断的な対策として取り上げられ、FNCAの枠組みにおける国際協力の継続が、経験を共有し、集団的なレジリエンスを構築するために不可欠であることが再確認された。
セッション6:2025年コーディネーター会合の結論
議長:堀雅人氏(日本プロジェクトリーダー)
日本のプロジェクトリーダーから、核セキュリティ・保障措置プロジェクト(NSSP)の概要、2024年の活動、そして2024〜2026年の行動計画について報告があった。主なNSSPのトピックは、能力構築、核鑑識、内部脅威の緩和であった。韓国での保障措置追加議定書及び大量破壊兵器機材識別に係るオンライン地域トレーニング(AP-CIT)の可能性や、2026年のワークショップなど、今後の活動について議論された。
シンガポールのTan Yoke Ping氏は、包括的保障措置協定(CSA)に基づく保障措置事務所の設置について議論することを提案した。
来年のワークショップのテーマを提案するよう奨励され、ドローンのセキュリティや核鑑識などの提案が挙げられた。
セッション7:カントリーレポートサマリー
Maria Teresa A. Salabit氏(PNRI)が(セッション1及び2からの)カントリーレポートのまとめを行った。編集事項及びコメントが受理され、カントリーレポートサマリーに組み入れられた。カントリーレポートサマリーは本ワークショップの会議報告に添付され、FNCAウェブサイトに掲載される。
セッション8:総括セッション
日本プロジェクトリーダーの堀雅人氏が、議論された内容及び行われた提案の要約を述べて、ワークショップを締めくくった。同氏は結びのことばの中で、2025年度のワークショップのホスト国を務めたフィリピンに感謝の意を表した。また同氏は、2026年度のワークショップのホスト国は日本であると発表し、対面で参加することの重要性を強調した。対面参加を促すため、各国がプロジェクトリーダー代理を任命することを提案した。
PNRI副所長のVallerie Ann Samson氏は、FNCAの核セキュリティ・保障措置プロジェクトへのフィリピンのコミットメントを表明し、このプロジェクトの目標達成に向けてFNCA参加国間の協力を促した。
結びのことばが述べられた後、ワークショップは閉会した。
テクニカルビジット
テクニカルビジットとして、原子力計測実験室、フィリピン研究用原子炉(PRR-1)訓練・教育・研究用未臨界集合体(SATER)、放射性廃棄物管理施設、電子ビーム照射施設を視察した。この視察を通じて、FNCA参加国はフィリピンにおける原子力活動に関する貴重な情報を共有した。
オープンセミナー
進行:野呂尚子氏(ISCN/JAEA、日本)
発表:日本、IAEA
中嶋翔梧氏(文部科学省、日本)
Alexis Trahan氏(IAEA)
9月25日に、小型モジュール炉(SMR)における設計段階からの保障措置(SBD)に関するオープンセミナーを開催した。主にフィリピンの関係者を対象としたこのセミナーには、40名が参加した。
ISCN/JAEAの野呂尚子氏がモデレーターを務め、セミナーの目的を紹介し、参加者に積極的な発言を呼び掛けた。日本のNSSプロジェクトリーダーである堀雅人氏は、第15回ワークショップの概要を説明し、核セキュリティ・保障措置における知見共有と優良事例の重要性を強調した。セミナーでは、日本の文部科学省とIAEAからの発表に続き、自由討論セッションが行われた。
1. アジア諸国への原子力国際協力及び貢献
中嶋翔梧氏は、アジアにおける原子力人材育成の主要な取り組みとして、講師育成事業(ITP)や研究者育成事業(NREP)を紹介するとともに、FNCAの25年にわたる歴史と、原子力技術応用に関する現在進行中のプロジェクトについて言及した。
2. 小型モジュール炉(SMR)における設計段階からの保障措置(SBD)
Alexis Trahan氏は、SMRにおける保障措置について発表し、従来型炉技術と先進型炉技術の違いについて言及した。設計段階から保障措置を考慮することの重要性を強調し、これにより潜在的な課題に対応し、効果的な検証を確保することができる。さまざまな原子炉技術に特有の課題への対応についても議論し、IAEAは原子炉ベンダーとの協力や新たなモデル保障措置アプローチの開発の重要性を強調した。
添付資料
- 会合プログラム
- 参加者リスト
- カントリーレポートサマリー
中国
Mr. Tan Junlong
Senior Engineer,
State Nuclear Security Technology Center
インドネシア
Mr. Arief Sasongko Adhi
Research Scientist in Nuclear Security & Safeguards
Nuclear Energy Research Organization (ORTN)
National Research and Innovation Agency (BRIN)
日本
森本浩一
FNCA日本アドバイザー
中嶋翔梧
文部科学省
堀 雅人
日本原子力研究開発機構原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
上級技術専門官
野呂 尚子
日本原子力研究開発機構原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
能力構築国際支援室長
Victor Hasoloan SIREGAR
日本原子力研究開発機構原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN/JAEA)
浅沼 徳子
東海大学 工学部 応用化学科 准教授
宇根 博信
京都大学 複合原子力科学研究所
原子力基礎工学研究部門 教授
猪越 千明
公益財団法人 原子力安全研究協会
河本 美菜子
公益財団法人 原子力安全研究協会
西村 由布
公益財団法人 原子力安全研究協会
カザフスタン
Mr. Pavel Krivitskiy
Head of the Special Projects Department
National Nuclear Center of the Republic of Kazakhstan
マレーシア
Ms. Lydia Ilaiza Binti Saleh
Head of Safety Section, Nuclear Installation Division
Department of Atomic Energy Malaysia (Atom Malaysia)
モンゴル
Mr. Basankhuu Otgonsuren
Member of the radiation safety counsel
The Executive Office of the Nuclear Energy Commission
Government of Mongolia
フィリピン
Ms. Maria Teresa A. Salabit
Supervising Science Research Specialist
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
Mr. John Richard A. Fernandez
Senior Science Research Specialist
Nuclear Safeguards and Security Section
Nuclear Regulatory Division
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
Mr. Joseph Christian O. Isidro
Science Research Specialist II
Nuclear Safeguards and Security Section
Nuclear Regulatory Division
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
Mr. William Patrick D. Asistin
Project Technical Aide VI
Nuclear Safeguards and Security Section
Nuclear Regulatory Division
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
Ms. Eileen Beth A. Hernandez
Science Research Specialist II
Nuclear Safeguards and Security Section
Nuclear Regulatory Division
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
Mr. Gilbert M. Poralan Jr.
Supervising Science Research Specialist
Section Head, International Cooperation Section
Technology Diffusion Division,
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
シンガポール
Mr. Tan Yoke Ping
Assistant Director
National Environment Agency
タイ
Ms. Harinate Mungpayaban
Head, Security and Safeguards Technical Support Section
Office of Atoms for Peace (OAP)
Ms. Chadtaparuda Ussawaphuchai
Senior Radiation Physicist
Office of Atoms for Peace (OAP)
Dr. Issariya Chairam
Senior Radiation Physicist
Office of Atoms for Peace (OAP)
ベトナム
Mr. Phan Van Thanh
Official
Vietnam Agency for Radiation and Nuclear Safety (VARANS)
IAEA
Dr. Peter Rance
CCA Section Head
Department of Safeguards
International Atomic Energy Agency (IAEA)
Dr. Alexis Trahan
Safeguards Technical Specialist
Department of Safeguards
International Atomic Energy Agency (IAEA)