2012年度 FNCA 原子力安全マネジメントシステムプロジェクトワークショップ 概要
2012年10月29日 - 11月2日
韓国 大田(デジョン)

開会
ワークショップの開会に当たり、韓国原子力研究所(KAERI)副所長のDr. Kim Wonhoは開会挨拶において、参加者に対する歓迎の意と、プロジェクトを主導するオーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)に対する謝意を述べた。また2004年、FNCA原子力安全文化プロジェクトにおいて実施されたピアレビューにより、KAERIのHANARO研究炉の安全性が向上したことから、ピアレビューが安全マネジメントシステムの向上にもたらす寄与の大きさを指摘した。これに続き、オーストラリアプロジェクトリーダーのMr. Basil EllisがANSTOを代表し、Dr. Kim Wonhoと、ワークショップ及びピアレビューの準備と運営のために尽力した開催国韓国のスタッフに対し、謝意を示した。また各国参加者に対する歓迎の意と、モンゴルからの参加予定者、Mr. Zuzaan Damdinsurenが急遽出席出来なくなった旨を述べた。またMr. Ellisは、リーダーを引き継ぐ予定のMr. Hefin Griffiths と、カザフスタンから初の参加となったDr. Kaldybek Donbayevを紹介し、ピアレビューは今回で通算3回目となり、前回のピアレビュー開催国であるマレーシアが改善の結果を報告する予定である旨、説明した。
FNCA及び原子力安全マネジメントシステムプロジェクトの概要
各国参加者が自己紹介を行い、続いてMr. EllisがFNCA活動の概要を紹介した。FNCAは日本の主導による、アジアにおける原子力技術平和利用のための協力の枠組である。この中で原子力安全マネジメントシステム(SMS)プロジェクトは、自己評価・ピアレビューの取組を開始した前身の原子力安全文化プロジェクトの後継として、オーストラリアの主導により2009年に発足し、2013年まで活動を行う予定である。
SMSプロジェクトの主旨は以下の通りである。
・原子力施設における安全マネジメントシステムの要点を把握する
・安全マネジメントシステムに対する自己評価及びピアレビューの手法を開発する
・参加国内の原子力施設において、互いの合意に基づいたピアレビューを実施する
第1回ワークショップは2010年シドニーにおいて、それに続くワークショップ及びピアレビューは2010年10月インドネシアのセルポン、また2011年11月マレーシアのクアラルンプールにおいて開催された。Mr. Ellisは、過去3回のピアレビューにおいて参加者が得た経験は、今回のレビューに有益である旨述べた。またMr. Ellisはワークショップのスケジュールについて説明を行った。
韓国における原子力研究開発及び規制
ピアレビューに先立ち、韓国における原子力研究開発と規制の取組について、それぞれ発表が行われた。
Mr. Hoan Sung Jungが行った韓国における原子力研究開発の概要発表によると、KAERIは原子力研究開発、HANARO研究炉等の施設運営及びその他の支援活動を実施する役割を担っている。韓国は広範囲な原子力プログラムを有し、他国への技術供与・支援を行っている。HANARO研究炉を用いて、医療用及び工業用アイソトープ製造、中性子ラジオグラフィ、中性子放射化分析、照射研究を実施している。
続いて韓国原子力安全技術院(KINS)のDr. Dae Soo Shinが、韓国における原子力規制の枠組及び取組について発表を行った。大統領直属機関である原子力安全委員会(NSSC)が、国際的には原子力安全・核セキュリティ・核不拡散体制に貢献する役割、また国内においては原子力施設・核物質・原子力関連活動の許認可及び検査、緊急時準備・対応、核不拡散・保障措置・核物質防護等の役割を担っている。KINSは独立した規制専門機関であり、NSSCから委託を受け、放射線から公衆と環境を防護するための活動を行っている。
カントリーレポート
前回ワークショップにおける提案に基づき、カントリーレポートの主題は、緊急時準備・対応と、これが安全マネジメントシステムにどのように統合されているかということに絞られた。各国参加者は、安全マネジメントシステムにおける更新情報と共に、緊急時準備・対応に関しても概要を発表した。カザフスタンのDr. Donbayevはそれらに加え、カザフスタンにおける広範囲な原子力関連活動についても発表を行った。カントリーレポート発表に続き討議が行われた。
特別発表
倉田聡氏が、安全文化劣化の兆候把握に関する発表を行った。このテーマは、重大な危機に当たり適切な判断を下すことを妨げる構造があった、東京電力の安全文化の諸問題の一部に関連する。倉田氏はこれらの問題の考えられる要因について解説し、安全文化は安全マネジメントに比べ見えにくいということが重要な要因であると指摘した。安全文化の劣化の兆候を把握することは、困難であるが重要なことである。倉田氏は、中部電力株式会社において実施されている、安全文化向上のための「計画・実施・評価・改善(Plan-Do-Check-Action: PDCA)の取組を紹介した。この取組において考慮されるのは、コンプライアンス、コミュニケーション、技術力、士気・やる気の4つの要素である。
ANSTOのMr. Griffithsが、安全マネジメントシステムの統合に関する発表において、ANSTO、安全システム、規制の取組及び安全方針に影響を及ぼす法制度について考察を述べた。オーストラリアにおいて、職場の衛生と安全に関する新しい規則が導入されたことにより、ANSTOを含む国内の組織に対する安全要件と、各州に対する安全要件が統合されることとなった。このためANSTOは安全マネジメントシステムを更新し、安全・核セキュリティ/保障措置・運転に関して、緊密な統合を実施した。ANSTOは、ISOの品質管理及び環境マネジメントに関する既存の認証との連携を構築すべく、ISOの安全管理に関する規格の取得を目指している。
この他に、3S(原子力安全・核セキュリティ・保障措置)の統合に関する議論が行われた。核セキュリティ及び保障措置に関しては、SMSプロジェクト参加者の知識は限られているため、3Sに関して掘り下げて考察することは不可能である。立ち入り制限や緊急時訓練における協力等、原子力安全と核セキュリティの双方に有益な取組の良好事例が提示され、将来的に協力の方向性を探っていくことで概ね合意された。
前回ピアレビューの改善結果報告
前回ピアレビュー開催組織が、指摘を受けた改善点及びコメントに対する取組の状況を報告することは、ピアレビューにおける重要な段階である。このため、SMSプロジェクトは前回ピアレビュー開催国が報告を行う機会を設けている。マレーシアプロジェクトリーダーのMrs. Zarina Masoodが、2011年11月にピアレビューが行われたマレーシア原子力庁のプスパティ研究炉(RTP)における改善状況の報告を行った。組織内の文書共有、マネジメントシステムの統合、緊急制御センターとの通信手段等の面において改善の措置が取られた。その他の改善点として、放射線防護のスタッフが高線量作業の計画策定に関与するようになったこと、安全文化啓発プログラムが開発中であることが報告された。
自己評価とピアレビューの過程
自己評価ツールはピアレビューの要であり、利用者により正しく理解されることが重要である。HANARO研究炉訪問に備え、Mr. Ellisは、ピアレビュー初参加者を含む全員がツールについて正しく理解するための訓練を行った。
ワークショップのまとめ、結論
韓国参加者の発表は、HANARO研究炉におけるピアレビューに先立ち、韓国の原子力研究開発・規制の状況に対する適切な理解を促した。各国カントリーレポートは興味深く、参加者により歓迎された。倉田氏による安全文化劣化の兆候把握に関する発表は、標準の維持という重要な点に関して洞察を与えた。Mr. Griffithsによる、ANSTOの新しい安全マネジメントの取組に関する発表は、広範囲なシステムの良い例を提示した。
Mrs. Masoodの報告によると、2011年にピアレビューが実施されたRTPにおける改善状況は良好である。
ワークショップ中の討議において、SMSプロジェクトの成果を広めるため、自己評価ツール及び、過去3回のピアレビューで特定された良好事例を、開催国の合意に基づきFNCAウェブサイトに掲載することが提案された。この提案についてはさらに検討を行う。
SMSプロジェクトは2013年まで実施される予定である。2013年以降の継続の有無についても話し合いが持たれたが、本ワークショップにおいて結論には至らなかった。この件については、FNCAコーディネーターを含め、さらに検討することが必要であろう。
バングラデシュが、2013年度のワークショップ開催国となるべく申し出た。FNCAコーディネーターによる承認及び予算の承認を受け、2013年初頭から準備が開始される。ピアレビューに関して、対象を限定することが提案されたため、2013年度に検討を行う。
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