2007年度FNCA放射線治療ワークショップ
議事録(仮訳)
2008年1月22日〜25日
フィリピン、ホリディ・イン・ギャラリア・マニラ
(1) 2007年2月に行われた第8回FNCA(アジア原子力協力フォーラム)コーディネーター会合および2007年11月に行われた第7回FNCA大臣級会合の合意に従って、2007年度FNCA放射線治療ワークショップが2008年1月22〜25日にフィリピンのマニラ市で開催された。この会合は、聖ロカ医療センターとフィリピン原子力研究所(PNRI)の主催および、日本の文部科学省(MEXT)の共催であり、(財)原子力安全研究協会(NSRA)の協力により開催された。FNCA 9ヶ国、すなわちバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイおよびベトナムの代表が参加した。
開会式
(2) フィリピンのホセ・アール・レイエス記念病院のDr. R. De los Reyesが議長を務めた。フィリピン国家斉唱に続いて、Ms. Victoria Fe O. Medina が会合の成功を祈念した。
開会の辞は、主催国を代表して、フィリピンの聖ロカ医療センターのDr. Miriam Joy. C. Calaguasが行った。同氏は、FNCA放射線治療プロジェクトの歴史を振り返り、紹介した。
日本の文部科学省研究開発局研究開発戦略官付調査員である宮澤堅一氏が、主催国への感謝を表明すると共に、科学技術の枠組みの中における本プロジェクトの重要性を強調した。
フィリピン原子力研究所副所長であるDr. Corazon Bernidoが祝辞を述べ、FNCAと本プロジェクトの重要性を強調した。最後に、日本のプロジェクトリーダーである放射線医学総合研究所の辻井博彦氏が祝辞を述べ、最近の国際的な学術誌での発表を含めた幾つかのプロジェクトの成果を発表した。彼は、また、IAEA/RCAとの連携の重要性を語った。
(3) フィリピン放射線治療学会(PROS)前会長であるDr. Teresa Sy-Ortinが「フィリピンにおける放射線治療の現状」の特別講演を行った。同氏は、フィリピンにおける放射線治療の歴史と現状を説明した。日本の辻井博彦氏が、本会合の目的とプログラムの概略を説明した。
(4) 議題が採択され、各セクションの議長と報告者が選出された。(添付書類1参照)新規参加者であるバングラデシュのDr. Faridul Alam、中国のDr. Xu Xiaoting、インドネシアのDr. Dyah Erawati、ベトナムのDr. Ngo Thanh Tungを含んだ全参加者が紹介された。バングラデシュのDr. Syed Md Akram Hussainは、後程紹介された。バングラデシュは、臨床試験に参加する立場としては、初めての放射線治療ワークショップ参加となった。
セッション1: 子宮頸がんに対する化学放射線療法の第II相研究(CERVIX-III)
(5) 2003年4月から2006年3月までの間に、120名の局所進行頸がん患者(患者数:中国18、インドネシア5、日本32、韓国10、マレーシア14、フィリピン12、タイ19、ベトナム10)が臨床登録され、毎週40mg/m2のシスプラチン投与を伴う化学放射線併用療法(CCRT)を用いて治療された。2年間の患者追跡データが各国から発表された。(添付書類3参照)
セッション2: 子宮頸がんに対する化学放射線療法の第II相研究(CERVIX-III)、治療結果に対する評価
(6) データ集計を行っている日本の加藤真吾氏が、CERVIX-IIIによる治療結果に対する詳細な分析を発表した。合計120名が治療された。
(7) 2年の局所制御率は87%、全生存率は80%である。単変量解析では、国際産科婦人科連合(FGO)による臨床病期とA点の生物学的等価線量(BED)が、腫瘍の局所制御にとって、重要な予後因子であった。一方、腫瘍の大きさ、組織亜型、小線源治療の際の線量率は、重要な予後因子ではなかった。2年のグレードIII−IVの遅発性毒性発生率は2%であった。この治療成果は、アメリカ合衆国とカナダで実施された化学放射線併用療法の幾つかの大規模研究の成果に匹敵していた。この結果は、CERVIX-IIIによる化学放射線併用療法が、アジアの局所進行頸がん患者に対し安全かつ有効であることを示唆している。一方、長期間でみた毒性と有効性を評価するために、更なる追跡調査が必要であることが合意された。
(8) 各国は、加藤氏によるCERVIX-III仮報告書の国際的放射線治療学術誌への投稿と、本治療手順の5年生存率算出のため、登録患者追跡調査を少なくとも更に3年間行うことに合意した。
セッション3: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野での化学放射線療法の第II相研究(CERVIX-IV)
(9) 各国は、臨床データを発表した。(添付書類4参照)
(10) 日本の加藤氏が、GOG125とRTOG0116という二つの臨床試験の概説を報告した。GOF125では、傍大動脈リンパ節(PALN)転移が陽性の86名の患者に対し、フルオロウラシル(5-FU)とシスプラチンによる化学療法と拡大照射野での放射線治療を組み合わせて行っている。傍大動脈リンパ節への治療線量は45Gy(1.5Gy/FX、上縁L1-L2)であった。最も頻出したグレードIIIからIVの毒性は、消化管で18.6%、血液で15.1%と報告された。3年の局所制御率は69%、生存率は39%であった。RTOG0116では、ステージがI-IVA、傍大動脈リンパ節ないし総腸骨リンパ節に転移(病理学的に陽性と証明されたものが56%、CT/MRI検査において陽性であったもの42%)があった26名の患者に対して、45Gy、1.8Gy/FXの傍大動脈リンパ節放射線治療を行った試験である。腫瘍浸潤がある子宮傍結合組織と転移リンパ節には、54-60Gyが照射された。急性毒性は高く、血液毒性はグレードIIIが54%、グレードIVが8%あった。遅発性毒性はグレードIIIからIVが40%あった。
(11) タイのDr. Kulllathorn Thephamongkholが、利点および危険性評価のために、傍大動脈リンパ節転移予防放射線療法の役割についての概説報告をした。RTOG79-20では、30名の患者の内1名にグレードVという、非常に高い毒性が報告された。一方、10年経過時の結果では、拡大照射野での放射線療法を受けた患者の5年生存率が55%であり、通常の放射線治療を受けた患者のそれが44%であることを比較すると、この治療法の利益は大きいと見做すことができた。このデータをもとにして、傍大動脈リンパ節検出のためにPETを使う利点と共に、傍大動脈リンパ節への予防放射線療法の役割が議論された。
セッション4: 上咽頭がん(NPC)に対する化学放射線療法の第II相研究(TxN2-3)(NPC-I)
(12) 各国は、臨床データを発表した。(添付書類5参照)
(13) 日本の大野達也氏が、収集されたNPC-I第II相研究のデータを発表した。NPC-Iには、61名の患者が登録されていた。1名は患者の年齢により、不適格とされた。急性副作用の発生率は、他の臨床研究で発表された数値より低い状況である。クリアランス率(腫瘍消失率)は84%と報告された。本臨床試験は、更に1年間、患者の登録を延長することになった。ベトナムが、追加されるべき51名の患者がいることを発表し、これらは公式登録様式による受理の後に登録される予定となった。
セッション5: NPC に対する化学放射線療法の第II相研究(T3-4N0-1)(NPC-II)
(14) 本セッションは、各国のデータ報告と概要報告で始まった。インドネシア、マレーシア、タイの3カ国による報告があった。(添付書類6参照)中国、日本、韓国は、まだ登録患者がいない。ベトナムのホーチミン市のデータは、データセンターに登録されていたが、今回、発表されなかった。
(15) 日本の大野達也氏が、全体状況を概説した。これまでに、40名の登録があったが、分析により1名が除外された。ほとんどの患者は未分化細胞型であった。13%に当たる5名の患者に治療の中断があり、これは非血液毒性、血液毒性、出血、機械の故障および合併症によるものであった。合計すると、82%の患者が少なくとも6サイクルの化学療法を受けていた。シスプラチンの合計投与量は、Chanが行った研究より少なく、これがChanが行った研究より遵守率が良い理由になっている。他の主要な研究と比較した時、我々の研究における毒性は、INT0099、シンガポール、香港およびChanの研究より低かった。NPC-IとNPC-IIでは、同時に行う化学療法の部分はまったく同じであるにも係らず、なぜNPC-IIの毒性がより低いのか参加者の議論があった。毒性グレードIIとIIIに対する解釈の違い、または、国ごとの毒性に対する解釈が相違している可能性が推測された。初期の分析では、評価対象となる36名の患者の86%に当たる31名のがんが完全に消失していた。これまでの所、33名の患者が追跡調査後16カ月の時点で生存している。タイのDr. Kullathornから、他の調査では遠隔転移が3年経過時に20%強である点と比べ、本調査では1年目で16%と高い割合を示している結果に関して質問があった。
セッション6: 聖ロカ医療センター施設訪問と公開講座
(16) 参加者は聖ロカ医療センターを施設訪問し、その放射線治療部門を視察した。
(17) ワークショップの一部として、聖ロカ医療センターで公開講座が開催された。約150名の医者、医学物理士、研究者、技師および医学生らが参加した。五つの講義の内の一つは、日本の中野氏による「3次元原体照射療法におけるターゲットの描写-IAEA/RCA報告」であった。本講義は、聴衆から、講義の複製資料要求がある程に好評であった。その他、FNCA報告として頚がんと上咽頭がんのための放射線療法、化学放射線療法について日本の大野氏が講義を行った。公開講座の詳細プログラムはプログラムの中にうたわれている。(添付書類1参照)
セッション7: フィリピン総合病院施設訪問
(18) 参加者はフィリピン総合病院を施設訪問し、その放射線治療部門とがん研究所を視察した。
セッション8: 線量測定の品質保証/品質管理( QA/QC )
(19) 線量測定におけるQA/QCの発表が、フィリピンのMs. Lilian V. Rodriguezと、マレーシアのDr. Tang Tieng Sweeによって行われた。日本の水野秀之氏は、実施した外照射におけるQA/QCの現地調査の報告と今後の予定を報告した。腔内小線源治療におけるQA/QCのガイドラインに関して、日本の中村讓氏が発表した。
(20) 発表の後、以下の質問とコメントがあった。
- 治療施設ごとに所有している機器に限界があり、これが、放射線治療における包括的なQA/QC手順の提案にとって阻害要因になっている。
- ガラス線量計を使った郵送調査において、日本が各国に試験機材を送る際の関税に関する問題が、十分に討議された。この問題を解決するためとして、幾つかの提案があった。
- バングラデシュにおける、医学物理士不足に関する問題、職位の不足、教育プログラム等が議論された。それらの問題を解決するにはどうすれば良いかについて、幾つかの提案があった。
セッション9: 将来計画とその他の活動
(21) 辻井氏が、本プロジェクトの成果を述べた。IAEA/RCAとの連携が議論された。RCA放射線治療プロジェクトのコーディネーターでもある中野隆史氏が、FNCA加盟国をRCAトレーニングコースに講師として招待する、またIAEA/RCAが教材をFNCA加盟国に提供するとの提案を行った。IAEA加盟国のコメントはFNCAの臨床研究活動にとって価値があるものであり、FNCA会議体へのIAEA加盟国のオブザーバー参加が推奨された。現在のFNCA加盟国以外のRCA加盟国の臨床研究への参加について、議論された。
(22) それぞれの国においては、臨床研究に責任を持っている同じ治験医がプロジェクトの実施の間、継続的にFNCA会合に参加することが推奨されるべきである。臨床研究を支援するため電子メール利用の相談システムが提案されたが、これは、すでにプロジェクトの中で行われている。
(23) 外照射のQA/QCに関し、未実施国において現在の手順のまま継続して実施することが、今後の計画として提案された。
(24) 会合では、インドネシア政府の合意を条件として、次回ワークショップをインドネシアで開催したいとする案が提案された。仮の日程として2009年1月19-23日、また仮の開催地として、バンドンかスラバヤが提案された。
(25) 日本の立崎英夫氏が、がん治療の現状に関して行っているアンケート調査を報告し、また、今後の計画では質問項目を減らして実施することが決定した。
セッション10: FNCAプロジェクトの評価
(26) 各国が、このプロジェクトの科学的および社会経済的効果について、発表した。プロドェクト全体の評価が議論され、合意された。(別添参照)
セッション11: ワークショップ議事録の起草
(27) 各報告者から発表された議事録の草稿が議論され、修正され、採択された。
閉会式
(28) 参加者は、現地主催者であるフィリピン原子力研究所(PNRI)と聖ロカ医療センター、現地組織委員会、特にDr. Miriam Joy Calaguas とDr. Rey de los Reyes、力強い指導力を発揮した辻井博彦氏、(財)原子力安全研究協会(NSRA)に感謝を表明した。また参加者は、日本の文部科学省(MEXT)がこのプロジェクトに継続的支援を与えていることに対し、特別な感謝を表明した。閉会の辞は日本の辻井博彦氏が行い、氏はこのプロジェクトの未来に対する期待と共に、会合の主催者および参加者に感謝を表明した。
添付書類の一覧
添付書類1 議題
添付書類2 参加者リスト
添付書類3 各国発表CERVIX-III
添付書類4 各国発表CERVIX-IV
添付書類5 各国発表NPC-I
添付書類6 各国発表NPC-II
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