FNCA2008年放射線治療ワークショップ
議事録
2009年1月28−31日
インドネシア、スラバヤ
(1) 平成20年3月に開催された第9回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター会合と、平成20年11月に開催された第9回FNCA大臣級会合の合意を受け、平成20年度放射線治療ワークショップが平成21年1月28日から31日にかけインドネシアのスラバヤで開催された。この会合は、インドネシア原子力庁(BATAN)と日本の文部科学省の共同開催であり、日本の(財)原子力安全協会の協力により実施された。FNCA加盟8カ国、すなわちバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、タイ及びベトナムの代表者がワークショップに参加した。韓国から治療データの提出はあったが、代表者の会合への参加はなかった。
開会式
(2) インドネシア原子力庁(BATAN)長官フディ・ハストォー氏が開会挨拶を行い、国を代表し公式にワークショップを開会した。彼は、FNCA放射線治療プロジェクトの歴史を振り返ると共に、科学技術の枠組みにおける本プロジェクトの重要性を強調した。日本プロジェクト・リーダーである辻井博彦主査が挨拶を述べ、QA/QCハンドブックの出版を含め、本プロジェクトの成果について語った。彼は、また、本会合の目的と大まかなプログラムを説明した。
(3) ナナ・スプリアナ氏が、特別講義「インドネシアにおける放射線治療の現状」を行った。彼は、インドネシアにおける放射線治療の歴史と最近の状況を説明した。
(4) 議題が採択され、議長と記録者が選任された。(別紙1)新しくバングラデシュから参加したパルビン・アクター・バヌー氏を含め、すべての参加者が紹介された。
セッション 1: 局所進行子宮頸がんに対する化学放射線療法の第II相研究(CERVIX-III)
(5) 局所進行子宮頸がんに対する化学放射線療法(CERVIX-III)についての、最新の臨床データが各国代表者により発表された。(中国:18、インドネシア:5、日本:32、韓国:10、マレーシア:14、フィリピン:12、タイ:19、ベトナム:10).追跡調査のまとめは、加藤真吾委員によって発表された。ステージIIB60名、ステージIIIB60名からなる計120名の患者が登録され、解析された。急性毒性の発生率及びその程度は許容範囲内、また最晩期合併症は穏やかか或いは中程度であり、3年のフォローアップ(追跡調査)率93%を示した。3年でのグレード3-4の遅発性の直腸と膀胱における合併症発生率は、それぞれ4%及び0%であった。3年での患者の全生存率及び局所制御率は、それぞれ68.8 %及び80.9%であった。
(6) CERVIX-IIIの成績は、国際的に認められた他の臨床研究報告と比べて、同等もしくはやや優れたものとなっている。この事は、化学放射線併用療法がFNCA加盟国における局所進行子宮頸がん患者に対し実現可能でかつ効果的な治療法である事を示している。結果は、傍大動脈リンパ節と遠隔転移は、治療戦略の更なる向上のために分析されるべき事を明らかにした。直腸と膀胱の線量と晩発毒性の関係は、今後、評価される予定である。追跡調査が少なくとも5年の期間、継続して行われる事が推奨された。
セッション2: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野による化学放射線療法の第II相研究(CERVIX-IV)
(7) 大野達也委員が、他に公表されている拡大照射野による化学放射線療法のデータを発表した。彼は、1998年から2009年に発表され、いずれもこの治療手順が深刻な合併症と関連付けを示している8つの研究結果を報告した。彼は、これらの試験で用いたシスプラチン投与量が、この治療法を順守する事に対し影響を与えると結論した。彼は、可能な限り内臓への線量を減らす事を推奨した。続いて、参加国におけるCERVIX-IVプロトコールによる結果発表が行われた。患者数は、中国が3、インドネシアが4、日本が3、韓国が7、マレーシアが1、フィリピンが4及びタイが1であった。日本と韓国を除いた参加国は、非常に高価な腹部CT検査がプロトコールに盛り込まれている事が、本治療法の患者適用を難しくしているとした。これらの結果では、深刻な毒性の増加、特に白血球減少、好中球減少、吐き気及び倦怠感が示された。
(8) 加藤真吾委員が参加国全提出データの分析を発表した。25件の内、化学療法における異なる投与量使用、治療前時に傍大動脈リンパ節が陽性の事例、また治療されなかった等から、7件は評価対象外とされた。評価対象となる18件の内、治療からの逸脱が、放射線治療及び化学療法の実施においても共に観察された。今回の予備分析は、用量規定毒性(グレード3及び4)、血液毒性及び非血液毒性についてより高い発生率を示しており、これらの毒性のためにプロトコールの完遂が困難である事が判明した。
(9) CERVIX-IVを中止し新しいプロトコールを作るべきか、それとも修正した上で継続すべきかについて自由な討論が行われた。後者が合意され、修正案が作られた。(表1).
表1. CERVIX-IVプロトコールの修正点 |
1. 傍大動脈リンパ節への放射線治療技術の修正
AP-PA 領域
4門: 推奨
IMRT: 任意選択化 |
2. 傍大動脈リンパ節放射線治療領域の縮小
上限: 脊椎1番〜2番の間に縮小
照射領域: 幅8cmから7cmに縮小 |
3. 治療日程の修正
全骨盤放射線治療開始の2-4週間後に傍大動脈リンパ節放射線治療を開始 |
4. CDDPの投与量(修正なし)
40mg/m2を堅持 |
(10) 加藤真吾委員が、修正した原型プロトコールと新登録様式を各国にE-メールで送付する。次年度ワークショップに、各国は再度結果報告を行う。
セッション3: 放射線量測定における品質保証/品質管理(QA/QC)
(11) ガラス線量計を用いて実施した、加盟4ヶ国の7センターで治療で使用している20の光子ビームについての相互比較測定報告が、水野秀之委員により発表された。その中で、17ビームは最適レベルに属し、2ビームは許容レベル、1ビームは許容外レベルと判定された。このビーム報告は、その後修正され、許容外から許容範囲レベル内と判定された。
(11-b) QA/QCの向上を図り、「小線源治療の物理面におけるハンドブック」が各国参加者に配布された。
(12) 次回の現地調査計画に関して、タイ、マレーシア、バングラデシュとベトナムのハノイの調査が残っている。調査機材に対する関税の問題が述べられた。提案された解決法は、IAEAの調査団の実施方法を採用する事である。つまり、調査機材は商業的価値が無い事を申請し、小額の価格申請を行うものである。この手段はうまく機能しそうな見込みがあり、今後すべての現地調査で採用される。
セッション4: スラバヤのソエトモ総合病院放射線治療部門の施設訪問
(13) 参加者はソエトモ総合病院に施設訪問し、放射線治療部門を見学した。
セッション5: オープンレクチャー(公開講座)
(14) ワークショップの1行事として、ソエトモ総合病院診療センターにおいて、オープンレクチャーが開催された。辻井博彦主査が開会挨拶を、またソエトモ総合病院副院長であるウスマン・ハディ氏が歓迎挨拶を行った。5人の講演者によるオープンレクチャーが、これに続いて行われた。(プログラムは添付1参照)放射線治療医、医学物理士、放射線技師、看護士、他部門の医師及び医学生等、およそ60名による聴講があった。
セッション6: 上咽頭がんに対する化学放射線療法の第II相研究(TxN2-3)(NPC-I)
(15) このセッションは、上咽頭がん治療に関する他の研究との比較についての井上武宏委員の発表で始まった。全参加者に対し、RTOG研究報告における、グレードIIIの合併症発生が40%という際立った様相が強調された。その後、参加各国の報告が発表された。(中国 5、インドネシア 5、マレーシア 25、フィリピン 5、タイ 5、そしてベトナム 59)治療中断の原因、特に口腔乾燥症の発生を重視しながら急性及び遅発の病態、再発時の再照射、治療後に残った首の節に対する処理と化学療法治療に対する不服従に関連した問題等について、議論があった。
(16) 大野達也委員が、他の臨床研究と比較しながら、FNCA NPC-Iの研究結果の要旨を発表した。FNCAの研究が、たくさんの事例において他の臨床研究と同等か、若干それ以上に優れた結果を示している事を彼は明らかにした。大野委員が発表した結果に基づいて研究を延長する必要性について討議された。参加者は、研究を継続し、他の臨床研究に比較する為に120名以上の患者を登録する事が望ましいとした。
セッション7: 上咽頭がんに対する化学放射線療法の第II相研究(T3-4N0-3)(NPC-II)
(17) 本研究の臨床データが各国から発表された。中国(1)、インドネシア(8)、マレーシア(6)、タイ(1)、ベトナム(36)である。95%の患者が6サイクルの化学療法を完遂させた。実際のシスプラチンの投与量である165mg/m2は、チャンの臨床研究の投与量174-187 mg/m2より僅かに低い。吐き気、嘔吐及び白血球の減少の発生も、同様に低い。毒性は制御可能であり、グレードIVへの進行はごく僅かであった。遵守率(CR)は95%であり、T3-4の疾患にとしては好ましい反応である。24ヶ月の中間フォローアップでは、1年の全生存率が95%、2年の全生存率が84%であった。
(18) 患者登録があと1年延長される。総患者数は70名以上になる見込みである。更なるフォローアップ作業が、長期での効果と晩発毒性を確認する為に必要である。
セッション8: 将来計画と他の活動
(19) 現在のプロトコールについて、次の事項が確認された。
- CERVIX-IIIのフォローアップは2年以上継続すること。
- CERVIX-IVは修正された上で、継続すること。
- NPC-Iは、少なくとも合計患者数を120名にする為、更に1年登録を継続すること。
- NPC-IIは、患者登録数を70名以上にする為、あと1年登録を継続すること。
(20) 次のプロトコールの可能性が討議された。子宮頚がんに対する方策の一つとして、化学放射線併用療法+補助的な化学療法(CRT + adjuvant chemotherapy)が提案された。拡大照射野を含んだ新しい試みは現在実施しているCERVIX-IV の結果を待つ必要がある。上咽頭がんに関しては、補助的な化学療法を含んだものと含まないものが、それぞれ提案された。更なる議論は、次回ワークショップで行われる。
(21) 大野達也委員が、NPC-Iに関する論文の第一号著者に任命された。論文が高品質である事の重要性が、強調された。
(22) 立崎英夫委員が、FNCA加盟国の医学物理士の状況調査の進捗具合を発表した。学歴とトレーニングについて、更に記述が必要であるとの提案があった。
(23) 本会合は、政府の合意を条件として、次回のワークショップのホスト国をマレーシアとする事を提案した。仮の開催期間は、2010年1月18-22日であり、クチンが仮の開催地として提案された。
(24) 2008年度の予算は各国から1名のみ招聘する形に減少したが、本プロジェクトは重大な成果を達成してきており、継続する価値を有するものである。各国のFNCAコーディネーターを説得し、参加者を増やす為の資金を獲得する事が重要である。プロジェクト・リーダー及び(または)臨床登録実務を行っている人間が本会合に参加する事が一番に推奨される。高い品質のデータ収集を維持しながら試験に関連する結果及び記録を取る為には、同一者が会合に継続して参加する事が極めて重要である。それゆえ、子宮頸がんと上咽頭がんそれぞれに対応して、少なくとも各国から2人が本会合に参加する事が提案された。
(25) 国内及び海外で開催される会合において研究成果が発表される事の重要性が強調された。
セッション9: ワークショップ議事録の草稿
(26) セッションの最初に、ミリアム・J・C・カラガス氏が米国放射線腫瘍学会(ASTRO)の教育コースの経験について、特別講義を行った。FNCAオープンレクチャーによる教育的な貢献が言及された。ASTRO, IAEA, JICA等が開催するトレーニングに参加する手段が、議論された。
(27) 記録者により発表された議事録の草稿が議論され、修正され、採択された。
閉会式
(28) 参加者は地元の開催委員会に感謝の意を表明した。特にナナ・スプリアナ氏とダヤ・エラワチ氏のワークショップにおける優れた運営手腕と手厚いもてなしと、辻井博彦主査のダイナミックなリーダーシップ、そして原子力安全研究協会(NSRA)に対して、感謝の意を表明した。参加者は、本プロジェクトに対する日本の文部科学省による継続的な支援に、特別な感謝を表明した。閉会挨拶は、日本の辻井博彦主査が行い、主査は主催機関と参加者への感謝を述べると共に、本プロジェクトの未来に対する期待を表明した。インドネシア原子力庁(BATAN)の研究成果利用・原子力科学技術広報担当次官であるタスワンダ・タリョ氏が、公式にワークショップを閉会した。
添付資料リスト
添付1: プログラム
添付2: 参加者リスト
|