2011年度 FNCA 放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2012年1月10日〜1月13日
中国 蘇州・上海
(1) アジア原子力協力フォーラム(FNCA)/第3回原子力利用の基盤整備に向けた取組に関する検討パネルの合意に従って、2011年度FNCA 放射線治療ワークショップが2012年1月10日から13日にかけて中国の蘇州および上海において開催された。会合は中国国家原子能機構(CAEA)、中国蘇州大学(SUDA)、日本文部科学省(MEXT)によって共催された。FNCA の10加盟国、すなわち、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムから、また国際原子力機関(IAEA)からのオブザーバーとして原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定(RCA)の3加盟国、すなわち、インド、パキスタン、スリランカが同ワークショップに参加した。
開会式
(2) 蘇州大学医学部放射線医学防護学院院長であるCAO Jianping氏が司会を行った。冒頭、蘇州大学副学長・蘇州大学附属第一医院院長のGe Jianyi氏が蘇州大学を代表して開会の挨拶を行い、ワークショップは公式に開会した。Ge Jianyi氏は、本ワークショップの目的はアジアにおける子宮頸がんおよび上咽頭がんの放射線療法および化学放射線療法の臨床標準化に焦点を当てることであると述べた。主催者である蘇州大学はこのワークショップの成功のために全力を尽くすことを伝えた。
続いて、中国国家原子能機構(CAEA)副事務局長のRen Meizhen氏が挨拶を行った。FNCAは加盟国が原子力分野で協力するために非常に重要な多国間の基盤であり、この観点から核協力を推進する上で重要な役割を果たしてきたと強調した。次いで、放射線医学総合研究所(NIRS)の前理事である辻井博彦氏が挨拶を行った。
(3) 復旦大学上海がんセンター元センター長、陽子線・重イオン線治療センター長のJiang Guo-liang氏が、「肝臓がんの放射線療法:復旦大学上海がんセンターの経験」と題して特別講演を行い、上海がんセンターにおける放射線治療技術の確立、臨床データ、放射線誘発肝疾患(RILD)の予測について紹介した。
(4) 4名の新メンバーである、モンゴルのGombodorj Navchaa氏、インドのShyam Kishore SHRIVASTAVA氏、パキスタンのNaseem Akhtar氏、スリランカのYasantha Ariyaratne氏が自己紹介を行った。
(5) アジェンダが採択され、セッション議長と書記係が選出された (プログラム参照) 。
セッション1: 局所進行子宮頸がんに対する化学放射線療法の第II相試験(CERVIX-III)
(6) 放射線医学総合研究所(NIRS)重粒子医科学センター病院医師の若月優氏がCERVIX-IIIのプロトコールを紹介し、さらに追跡調査データの概要についても紹介した。本プロトコールには120症例が登録されており、その半数はステージIIB期であり、残りの半数はIIIB期であった。2011年末時点でのフォローアップ率は98%(117/120例)であった。グレード3-4の遅発毒性は、直腸合併症がわずか8%に認められただけであった。5年後局所制御率は、全体、ステージIIB期、ステージIIIB期でそれぞれ76.8%、89.6%、64.6%であった。5年全生存率は、全体、ステージIIB期、ステージIIIB期でそれぞれ55.1%、63.3%、46.6%であった。
(7) セッション後の自由討議で、病期分類、経過観察における検査、化学療法、子宮腔内照射(ICBT)、予後因子、患者の追跡調査システムに関連する意見および質問があった。治療前後に患者の腹部のCT検査を行うことがメンバーに奨励された。
セッション2: 局所進行子宮頸がんに対する化学放射線療法の最近のトピックス及び将来の展望
(8) 最初に、若月優氏が子宮頸がんに対するNIRSの取り組みを紹介し、長期および追跡調査の結果について発表した。さらに、患者の一部が子宮頸がん治療後に新たな悪性腫瘍を発症したことを説明した。
群馬大学重粒子線医学研究センター教授の大野達也氏が、局所進行子宮頸がんの化学放射線療法の現状の見通しを紹介し、CT/MRIを用いた画像ベースの子宮腔内照射について説明した。また、腔内照射と組織内刺入を組み合わせた複合型小線源治療法についても言及した。
その後、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科教授の加藤真吾氏が、放射線治療に関する将来の展望について説明した。加藤氏は、同時化学放射線療法(CCRT)後のアジュバント化学療法および骨盤への強度変調放射線治療(IMRT)の前向き研究の2つを提案した。
(9) その後、これらの提案についての自由討議が行われた。
セッション3: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第II相試験(CERVIX-IV)
(10) 加藤真吾氏がCERVIX-IV のプロトコールを紹介した。局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第II相試験(CERVIX-IV)の臨床データが参加各国の代表者により発表され、患者数は以下の通りであった。バングラデシュ(19名)、中国(4名)、インドネシア(6名)、日本(16名)、韓国(7名)、マレーシア(1名)、フィリピン(4名)、タイ(4名)、ベトナム(3名)。
NIRS重粒子医科学センター病院治療課第三治療室長、唐澤久美子氏が臨床データの概要を紹介した。全参加国から登録された総患者数(67名)のうち(63名)は評価可能であるとされた。
(11) Cervix-IVの臨床データに関する自由討議が行われた。リンパ節転移陽性症例において、治療後2年間の無増悪生存の割合は、Cervix-IVがCervix-IIIと比較して勝っていることが示されている。しかし、この試験ではさらに長期の追跡調査を行い、患者登録を募ることが必要である。
セッション4: 外部照射治療の品質保証/品質管理(QA/QC)
(12) 10治療施設にて行われたガラス線量計を用いた相互比較測定の概要に関する報告が、NIRS重粒子医科学センター物理工学部重粒子設備室室長の福田茂一氏より発表された。今年度は、パキスタン原子力委員会(PAEC)の核医学腫瘍研究所(INMOL)の2ビーム(6 & 15MV)においてガラス線量計および電離箱を用いて測定を行った。結果は1%以内であった。
今後は標準的なQAに加えて、ウエッジフィルターのQAおよびチャートチェックを行うことが提案された。
次に、韓国原子力医学院(KIRAMS)の医学物理士・上級研究員であるKum Bae Kim氏が、韓国の放射線治療の現状を発表した。次いで、QA/QCの必要性、IMRTの手法および結果、画像誘導放射線療法(IGRT)、治療システム、呼吸同期照射法、小線源療法のQAを報告した。
セッション5: 上咽頭がん(any T、N2-3)に対する化学放射線療法の第II相試験(NPC‐I)
(13) 大野達也氏がプロトコールおよび追跡調査データの概要を紹介した。121名の登録患者中86名の生存患者の経過観察期間中央値は43ヵ月である。5年局所制御率および全生存率はそれぞれ79%および52%であった。N2 とN3の間、T1-2とT3-4の間、また、骨シンチの有無においては、全生存期間に有意な差異は認められなかった。過去のデータと比較して、現在のFNCAプロトコールでは生存率の改善が認められた。
(14) 次いで、NPC(Tを問わず、N2-3)(NPC‐I)のプロトコールの概要および追跡調査データに関する自由討論が行われた。
セッション6: 上咽頭がん(T3-4、N0-1)に対する化学放射線療法の第II相試験(NPC-II)
(15) 唐澤久美子氏がプロトコールNPC-IIを紹介した。NPC(T3-4、N0-1)に対する化学放射線療法の第II相試験(NPC-II)の臨床データが参加各国の代表者によって発表された。以下の患者数が報告された:バングラデシュ(0名)、中国(0名)、インドネシア(13名)、日本(0名)、韓国(0名)、マレーシア(6名)、フィリピン(0名)、タイ(1名)、ベトナム(50名)。大野達也氏が(70)症例の臨床データの概要を発表した。
(16) 次いで、NPC(T3-4、N0-1)(NPC-II)の臨床データに関する自由討論が行われた。 本プロトコールの患者登録が遅れていることから、3次元化学放射線療法(3DCRT)およびIMRTで治療されている患者を含めることについて、多くの国が意見を述べた。これらの患者を含めることで合意した。
セッション7: 上咽頭がんに対する同時化学放射線療法(CCRT)の第II相試験(NPC-III)
(17) 唐澤久美子氏がプロトコールNPC-IIIを紹介した。NPCに対するCCRTの第II相試験(NPC-III)の臨床データが参加各国の代表者によって発表された。以下の患者数が報告された:バングラデシュ(1名)、中国(2名)、インドネシア(4名)、日本(0名)、韓国(0名)、マレーシア(6名)、フィリピン(5名)、タイ(0名)、ベトナム(10名)。唐澤氏が臨床データの概要およびFNCA NPC-IIIの臨床試験結果の評価を発表した。この臨床試験には22名の患者が登録されていた。放射線療法の中断率は27%であり、導入同時化学放射線療法(2または3サイクル)の完遂率は100%であった。CCRT(4サイクル以上)の完遂率は60%であった。導入化学療法/CCRTの有害事象は参加国の大半で容認できるものであった。
(18) 次いで、 NPC-IIIに対するCCRTの第II相試験の臨床データに関する自由討議が行われた。プロトコールCCRTの有害事象について討議がおこなわれ、導入化学療法とCCRTの間に3〜4週間の間隔をあけることが強調された。多くの国がNPCの治療にIMRTを使用していることから、唐澤氏がプロトコールでIMRTの使用を容認したらどうかと提案した。これらの臨床試験には120名まで患者を登録する必要がある。
セッション8: 新規加盟国からのカントリーレポート、FNCAとIAEA / RCAの協力
(19) モンゴルの放射線治療の現状に関する報告が、モンゴル国立がんセンター臨床科次長Gombodorj Navchaa氏によって発表された。
パキスタン原子力委員会(PAEC)核医学腫瘍研究所(INMOL)の主任研究員Naseem Akhtar氏より、パキスタンの放射線治療の現状が発表された。
スリランカ国立がん研究所(マハラガマ)の顧問臨床腫瘍医であるYasantha ARIYARATNE博士によって、スリランカの放射線治療の現状が発表された。
最後に、「ステージIII子宮頸がんのための同時化学放射線療法に関する報告;第III相ランダム化比較試験」(進行中の試験の予備データ発表)が、インドのタタ記念病院放射線科長Shyam Kishore SHRIVASTAVA氏によって報告された。
セッション9: 将来計画、その他の活動
(20) 次回ワークショップ、同スケジュール、その他の活動に関して、以下の事項について協議の上、合意された。
1: |
次回ワークショップは2013年1月14〜18日(仮)にタイで開催することに同意した。 |
2: |
辻井氏は、メンバー国に対して、プロトコール研究を国内の会合で発表することが可能であり、当該雑誌への発表に関しては日本のFNCA事務所に連絡を入れるよう、重ねて確認した。 |
3: |
論文執筆の際の著者に関して討論が行われ、第一著者および責任著者の役割を明確化した。第一著者を指名することが望まれる。今後、新しい情報を含むデータを発表できるような研究を施行することが望ましい。 |
4: |
将来計画の一環として、ランダム化比較試験が提案された。 |
5: |
新メンバーからの意見が求められ協議された。他の組織ではほとんど見られない多施設国際共同臨床試験のこのような非常に良好な結果は辻井氏のリーダーシップ下のもとで成し遂げられたことが強調された。 |
6: |
本ワークショップのすべての参加者が日本およびメンバー国により提供される財政的援助に感謝した。しかし、この重要なプロジェクトを引き続き成功させるためには、日本を含むすべての加盟国がこれらの国々の財政的援助を強化することが望まれる。 |
(21) プロジェクトのその他の活動に関して、以下の項目が提案された;
1. |
発症率が最も高いがんとして、乳がんの臨床研究が討論された。 |
2. |
辻井氏は、次回FNCAワークショップで乳がんに関するデータを発表するように、各国に提案した。 |
3. |
肝臓がんと骨転移に関する討論が行われた。 |
(22) IAEA /RCAオブザーバー:この会合への参加者として、インド、パキスタン、スリランカから、本会合へ出席するオブザーバーを指名し、資金援助を行い、さらに、FNCA の活動を強化するための有意義な意見および提案を行ったことに対して、FNCAはIAEAに感謝を表明した。これらの国々は、FNCAプロトコール研究に積極的に参加する意志を表明した。IAEAはこれらの研究活動に引き続き協力すると思われる。
セッション10: ワークショップの議事録草稿
(23) 書記によって示された議事録の草稿について、協議の上、修正が行われた。議事録はワークショップ参加者によって満場一致で採択された。
閉会
(24) 辻井博彦氏が閉会の辞を述べ、その中で本プロジェクトの将来に対する期待ならびに中国およびすべての参加国に感謝を表明し、公式にワークショップを閉会した。
セッション11: 一般公開講座
(25) ワークショップの一環として、蘇州大学で一般公開講座が開催された。開会式では、蘇州大学医学部学部長教授のJiang Xinghong氏の代理として、CAO Jianping氏が歓迎挨拶を述べた。
(26) 最初の講演として、加藤真吾氏がFNCA放射線治療プロジェクトを紹介する講演を行った。
(27) 中国の放射線治療の現状というテーマで、蘇州大学附属第一医院のZhou Ju-ying氏が講演を行った。
(28) 食道がんに対する化学放射線療法のテーマで、(財)杜の都産業保健会 一番町健診クリニック所長の山田章吾氏が講演を行った。
(29) フィリピンの聖ルーク医療センター放射線科長のMiriam Joy C. Calaguas氏がフィリピンの頭頸部がんに対する放射線療法について講演を行った。
(30) サラワク総合病院放射線・放射線がん治療・緩和ケア部上級顧問腫瘍臨床医のC.R. Beena DEVI氏は、老年腫瘍学の評価ツールとしてのGroningen Frailty Index (GFI)について講演した。
(31) 最終講演として、群馬大学大学院医学系研究科の中野隆史氏が、日本の炭素イオン放射線療法について講演した。
(32) 辻井博彦氏の閉会の挨拶をもって公開講座は閉会した。
セッション12: 蘇州大学附属第一医院のテクニカルビジット
(33) 参加者は蘇州大学付属第一医院のテクニカルビジットを行った。病院の概要および放射線腫瘍科が紹介され、放射線腫瘍科の見学を行った。
セッション13: 復旦大学上海がんセンター
(34) 参加者は上海復旦大学附属がん臨床研究センターのテクニカルビジットを行った。病院および放射線腫瘍科の紹介後、病院内の見学を行った。その後、放射線腫瘍科、乳がんセンター、病理・臨床検査科を訪問した。
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