2014年度 FNCA 放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2014年11月4日〜11月7日
日本、青森県弘前市
(1)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)第15回FNCAコーディネーター会議の合意に従って、2014年度 FNCA放射線治療ワークショップが2014年11月4日から7日にかけて青森県弘前市で開催された。会合は文部科学省(MEXT)および弘前大学によって共催された。FNCAの11加盟国、すなわち、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイおよびベトナムから、また国際原子力機関(IAEA)からのオブザーバーとして、地域協力協定(RCA)の加盟国であるインドが参加した。
開会式
(2)弘前大学大学院医学研究科放射線科学講座教授の煦范ヌ尋氏が本セッションの司会を行った。
文部科学省研究開発局核不拡散科学技術推進室長の山村司氏が本ワークショップを公式に開催した。同氏は、過去22年にわたるアジア人患者の治療成績および生活の質の改善に対する寄与の見地から放射線治療に関するFNCAの活動の着実な進歩を強調した。同氏はまた、この会合で活動を促進するための手段を討議するべきであると述べた。
弘前大学理事(研究担当)および副学長の柏倉幾郎教授が歓迎の辞を述べた。同氏は、がん治療における原子力エネルギーの利用の重要性を強調した。
放射線医学総合研究所(NIRS)フェローおよび前理事の辻井博彦氏が祝辞を述べた。FNCA参加国を代表して、当初ベトナムで開催される予定であった今年度のワークショップを開催する弘前大学医学部に感謝の辞を述べた。福島の原子力発電所での事故後の核政策を紹介するために、青森県上北郡六ヶ所村の日本原燃(株)の見学をテクニカルビジットに含めた。
(3)FNCA日本コーディネーターの町末男氏が、第14回大臣級会合および第15回コーディネーター会合の結果を発表し、FNCAの10プロジェクトの活動について概要を述べた。同氏は、放射線治療プロジェクトは、FNCAの最も成果の上がっているプロジェクトの1つであることを報告した。
(4)弘前大学大学院医学研究科長および社会医学講座教授の中路重之氏は、「青森県における短命返上の試み」試みと題して特別講演を行った。同氏は、日本で最も寿命が短い青森県住民の寿命を延ばすためのCOI STREAM(革新的イノベーションプログラム)における複数の試みについて講演し、青森県民の寿命を延ばす複数の戦略を発表した。
(5)個々の参加者が自己紹介を行った。
(6)アジェンダが採択され、セッション議長および書記係が選出された(プログラム参照)。
セッション1:局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第U相試験(CERVIX-IV)
(7)NIRS重粒子医科学センター病院重粒子設備室の若月優氏が局所進行子宮頸がん(CERVIX-IV)に対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第U相試験CERVIX-IVのプロトコールを発表した。
CERVIX-IVの最新の臨床データが各参加国の代表者により報告され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(28名)、中国(7名)、インドネシア(6名)、日本(20名)、韓国(7名)、マレーシア(5名)、モンゴル(3名)、フィリピン(4名)、タイ(4名)およびベトナム(8名)。
次いで、若月優氏が追跡調査データの概要を発表した。患者95名が登録され、91名が評価可能であり、51名はステージIIB、40名はステージIIIBであった。患者68名(75%)が4サイクルを超えるシスプラチンを投与され、28名(32%)にグレード3の白血球減少症が発現した。2年間および5年間の局所制御率(LC)は、それぞれ96%および91%であり、2年間および5年間の無増悪生存率はそれぞれ75%および55%であった。ステージIIBとステージIIIBの局所制御率に差はなかった。しかし、ステージIIBの2年全生存率は94.9%であるのに対し、ステージIIIBでは82.3%であり、5年全生存率はステージIIBで73.8%であるのに対し、ステージIIIBでは55.0%である。
(8)CERVIX-IVの臨床データに関する自由討議が行われた。急性毒性および遅発性毒性の評価は慎重に検討するべきである(韓国の患者1名がCCRT 8ヵ月後にS状結腸に穿孔が生じた)。2年間および5年間の全生存率の結論にはさらにフォローアップ期間が必要である。
セッション2:子宮頸がんに対する新プロトコール(CERVIX-V)
(9)子宮頸がんに対する新プロトコールの実行可能性を評価するために、2つの新プロトコールが発表され、討議された。
(10)最初に、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科教授の加藤真吾氏が「3D画像誘導小線源治療(3D-IGBT)」のレビューを行った。次に、各国がそれぞれの施設で実施した3D-IGBTの実行可能性調査について報告した。
若月優氏は、IAEA/RCA子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療に関する地域訓練コースに基づいて3D-IGBTについて講演した。本講演では、標的体積の概念、各標的(HRCTV、OAR)の詳細および事例について詳しく述べている。
次いで討議を行った。群馬大学重粒子線医学推進機構重粒子線医学センター教授の大野達也氏は、各国に固有の問題、たとえば、最初の小線源療法時のCT、小線源療法の全セッション時のCT、診断時および最初の小線源療法時のMRI、ならびに小線源療法の全セッション時の超音波について質問した。各国は、自施設でIGBTを行う能力について質問を受けた。バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピンおよびタイは、自施設で3D-IGBTが実行可能であると報告した。
3D-IGBTのプロトコールは、実行可能性の程度に基づいて作成され、翌年に発表される予定である。
次に、若月優氏はもう一つの新プロトコールである、局所進行腺がんおよび腺扁平上皮がんのCCRTに関する第U相試験について発表した。同氏は、少数の加盟国で収集した局所進行腺がんまたは腺扁平上皮がんの臨床データを要約した。GOGの大規模なレトロスペクティブデータ、中国の大規模な無作為化試験のデータおよび日本のシスプラチンとパクリタキセル週1回の同時放射線化学療法による第U相試験について最新情報が発表され、討議された。局所進行腺がんおよび腺扁平上皮がんのプロトコールは次回の会合でさらに討議される予定である。
(11)2つの新プロトコールに関する自由討議が行われた。
セッション3:外部照射療法の品質保証/品質管理
(12)11ヵ国16設備の46ビーム(4〜18 MV)で行なわれた、検証済みのガラス線量計を用いた相互比較測定の概要に関する報告が、NIRS重粒子医科学センター物理工学部重粒子設備室長の福田茂一氏より発表された。今年度は、タイのバンコクにあるシリラート病院で測定が行われた。今後は、参加国の主催施設からさらに調査を行うことになる。
(13)NIRS重粒子医科学センター主任研究員の水野秀之氏は、蛍光ガラス線量計のコミッショニング技術支援について報告した。IAEAの線量校正センターの世界的な活動について、二次線量標準機関(SSDL)のネットワークおよび放射線治療実施病院への郵送による監査を含めて紹介された。IAEA(TLD)とNIRS(RGD)の最近の相互比較結果では、きわめて良好な一致が示された。
(14)韓国原子力医学院(KIRAMS)医学物理士および上級研究員のKum Bae KIM氏とKIRAMS放射線治療科主任のWonil JANG氏 は、KIRAMSにおける乳がん患者に対する放射線療法のプロトコール、放射線治療計画、固定方式およびQAについて発表を行った。
セッション4:FNCAとIAEA/RCAの協力
(15)「インドにおける放射線治療の状況」に関するカントリーレポートが、インドの代表者であるBidhu Kalyan MOHANTI教授により発表された。同氏は、インドのような低中所得国(LMIC)では、がんの発現率が高いことを報告し、インドと日本などとのがんの放射線治療の比較を行った。同氏は、フォーティス・メモリアル・リサーチ・インスティテュートで進行中の臨床試験に関する報告も行った。
セッション5:上咽頭がんに対する同時化学放射線療法(CCRT)の第U相試験(NPC-III)
(16)大野達也氏が上咽頭がんに対するCCRTの第U相試験(NPC-III)のプロトコールを紹介した。最近の臨床データが各参加国の代表者により発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(1名)、中国(5名)、インドネシア(10名)、日本(0名)、カザフスタン(0)、韓国(0名)、マレーシア(9名)、モンゴル(0名)、フィリピン(7名)、タイ(0名)およびベトナム(20名)。大野達也氏は、NPC-III試験の臨床データおよび評価の概要を発表した。NPC-III試験の患者54名が解析された。NPC-III(導入化学療法)の局所制御率は、NPC-I(アジュバント化学療法)のそれより悪かった。しかしながら、NPC-I とNPC-IIIで無増悪生存率(PFS)および全生存率(OS)に差は認められなかった。患者数が少なく、データの蓄積が待たれる。
(17)上咽頭がんに対する同時化学放射線療法(CCRT)の第U相試験の臨床データに関する自由討議が行われた。治療による毒性の問題が討議された。導入化学療法は、患者の100%が完了したが、同時化学療法の遵守率はきわめて低かった。76%が4サイクル以上を完了したに過ぎなかった。患者の28%は、主として毒性のため放射線療法が中断された。装置の故障率は、以前のNPC-I試験より低かった。少数の施設から報告された若干の毒性に関して、他の施設と比べるとかなり高いと思われるものがある。毒性の重症度評価に用いられた基準が治療施設間で一様ではない可能性が懸念された。次回のワークショップで、毒性の重症度評価に関する講演を行い、臨床像を提示することが提案された。最後に、この試験に予測される総患者数は120名である。さらに70名の患者を募集するためにいっそうの努力が必要である。
セッション6:乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験(BREAST-I)
(18)NIRS重粒子医学センター病院治療課第三治療室室長の唐澤久美子氏が、前回のワークショップで作成されたBREAST-Iのプロトコールのレビューを行った。プロトコールの紹介は唐澤久美子氏が行った。乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験(BREAST-I)の臨床データが各参加国の代表者によって発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(WBI:13名、PMRT:37名)、中国(WBI:5名、PMRT:2名)、インドネシア(WBI:1名、PMRT:0名)、日本(WBI:42名、PMRT:0名)、カザフスタン( 0名)、韓国(WBI:2名、PMRT:0名)、マレーシア(0名)、モンゴル(WBI:0名、PMRT:4名)、フィリピン(WBI:0名、PMRT:1名)、タイ(WBI:1名、PMRT:0名)およびベトナム(0名)。総患者数は、WBI(64名)およびPMRT(44名)であった。
ステージ別にHF-WBIを受けた患者は、ステージ0〜IIBで0 : 6 名、IA:35名、IB:1名、IIA:15名およびIIB:8名であり、ステージ別のHF-PMRT患者は、ステージIIA:23名、IIB:16名、IIIA:4名および不明:1名であった。
(19)唐澤久美子氏が、乳がん患者108名の臨床データの概要を発表した。
104名の患者がリニアックの6MV X線、4名がコバルト60ガンマ線による放射線療法を受けた。線量均等化手法として、99名にフィールド イン フィールド法、5名にIMRT、4名にウェッジフィルターが適用された。全患者は治療に対する忍容性が良好で、グレード3または4の皮膚毒性、皮下毒性および肺毒性は認められなかった。グレード2の急性皮膚炎が15%のみに認められた。フォローアップではグレード2または3の遅発性毒性は認められなかった。HF-WBI群200名中64名およびHF-PMRT群200名中44名が過去21ヵ月に登録された。
(20)乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験(BREAST-I)の臨床データに関する自由討議が行われた。参加者は、短期間の成績に関して、寡分割放射線療法は、従来法と同等の安全性および有効性が認められたことに合意した。最終的な結論を得るためには、さらに長期のフォローアップと多くの患者が必要である。
セッション7:オープンセミナー
(21)ワークショップの一環として、弘前大学医学部のコミュニケーションセンターでオープンセミナーが開催された。開会式では、中路重之氏と町末男氏が歓迎の挨拶を述べた。著明な演者が、非常に興味深い革新的な7つのトピックスを発表した。煦范ヌ尋氏とDyah Erawati氏が本セッションの司会を行った。
(22)山村司氏が、文部科学省におけるアジア諸国を中心とした原子力人材育成の取組みについて講演した。
(23)町末男氏が、放射線の工業・農業・環境保全分野での利用について講演した。
(24)唐澤久美子氏が、FNCAの放射線治療プロジェクトを紹介する講演をした。
(25)加藤真吾氏が、子宮頸がんに対する3次元誘導小線源療法について講演した。
(26)Rey. H. De Los Reyes氏は、フィリピンにおける子宮頸がんの現況について講演した。
(27)東北大学教授の本間経康氏は、dMLCによる追尾照射のための位置予測アルゴリズムの開発について講演した。
(28)弘前大学の有吉健太郎氏が最終講演を行った。同氏は放射線医学における細胞遺伝学的線量評価の現況について講演した。
(29)辻井博彦氏の挨拶をもってオープンセミナーは閉会した。
セッション8:弘前大学医学部付属病院のテクニカルビジット
(30)参加者は、弘前大学医学部付属病院のテクニカルビジットを行った。放射線科学講座を訪問し、次いで高度救命救急センターを訪問した。
セッション9:日本原燃のテクニカルビジット
(31)六ヶ所村の日本原燃(株)のテクニカルビジットも行った。広報センター、ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、再処理工場の中央制御室および高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターを訪問した。大変有益なテクニカルビジットであった。
セッション10:将来計画
(32)次回ワークショップおよびその他の活動に関して、以下の事項について協議の上、合意された。
1. |
次回のワークショップを、2015年11月30日〜12月5日(仮)にベトナムで開催することに合意した。 |
2. |
子宮頸部の局所進行腺がんおよび腺扁平上皮がんに関する討議を、まず確実な次の子宮頸がんのプロトコールとして引き続き討議することにも合意した。 |
3. |
参加者は、地域および国際的な会議でFNCAの活動、業績および成果に関する情報を普及させることを強く奨励された。 |
セッション11:ワークショップの議事録起草
(33)書記によって示された議事録の草稿について、協議の上、修正が行われた。議事録はワークショップ参加者によって満場一致で採択された。
閉会
(34)MEXT研究開発局研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付調査員の青木萌氏が閉会の辞を述べた。この後、辻井博彦氏が閉会の辞を述べた。ワークショップは公式に閉会した。 |