2017年度FNCA放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2017年10月25日-28日
フィリピン、マニラ
(1)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)第18回FNCAコーディネーター会議の合意に従って、2017年度FNCA放射線治療ワークショップが2017年11月8日から11日にかけてフィリピンのマニラで開催された。会合はフィリピン原子力研究所(PNRI)、ホセ・J・レイエス記念医療センター(JRRMMC)および文部科学省(MEXT)の共催で開催された。FNCAの11加盟国、すなわち、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイおよびベトナムの代表者が本ワークショップに参加した。
開会セッション
(2)Miriam Joy Calaguas氏(JRRMMC放射線治療科会長)がセッションの司会進行を務め、ワークショップが正式に開会した。プロジェクトの経緯について紹介があった。
FNCAフィリピンコーディネーターのSoledad S. Castañeda氏から歓迎の挨拶が述べられた。
FNCA日本コーディネーターの和田智明氏から開会の挨拶があった。
放射線治療プロジェクトリーダーの加藤真吾氏が挨拶をし、基調演説を行った。
Carlo A. Arcilla氏(フィリピン原子力研究所(PNRI)所長)が挨拶を述べた。
文部科学省の道川祐市氏が挨拶を述べ、FNCAおよび日本政府が実施する人材育成プログラムについて紹介した。
(3)Dennis V. Doromal氏(フィリピン放射線治療学会(PROS)会長)が、「フィリピンの放射線治療の概要」と題した特別講演を行い、フィリピンにおける癌治療に関する様々な統計学的データを紹介した。
(4)個々の参加者が自己紹介を行った。
(5)アジェンダが採択され、議長と書記が選出された(Annex 1参照)。
セッション1: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時併用化学療法の第II相試験(CERVIX-IV)
(6)小此木範之氏(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)放射線医学総合研究所(NIRS)病院婦人科腫瘍科長)が、局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた同時併用化学放射線療法の第II相試験(CERVIX-IV)のプロトコールを発表した。
各参加国の代表者よりCERVIX-IVの最新臨床データが発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(32名)、中国(8名)、インドネシア(9名)、日本(20名)、カザフスタン(1名)、韓国(7名)、マレーシア(5名)、モンゴル(8名)、フィリピン(4名)、タイ(4名)およびベトナム(8名)。総患者数は(106名)であった。
続いて小此木氏は追跡調査データの概要を発表した。本日時点で計106名の症例が本試験に登録されており、うち12症例は評価不適当であった。
評価可能な94症例のうち50名の病期はステージIIBであり、44名はIIIBであった。いずれの患者もCTまたは超音波で評価したところ骨盤内リンパ節転移(PLN)陽性、傍大動脈リンパ節(PALN)陰性であった。全治療期間の中央値は57日であった。A点平均線量は81.9 Gyであった。化学療法を4サイクル以上実施したのは76名(81 %)であった。グレード3の白血球減少は19名(20%)、グレード4の好中球減少は1名に発生した。晩期有害事象については、グレード3のS状結腸/直腸障害が2名、グレード3小腸障害2名で観察された。治療後2年以上経過観察されていた症例は97%であった。2年および5年局所制御率(LC)はそれぞれ96%および91%であった。2年および5年無増悪生存率(PFS)はそれぞれ77%および65%であった。2年および5年全生存率(OS)はそれぞれ91%および77%であった。
(7)続いて、Cervix-IVの臨床データに関する討議が行われた。Cervix-IVの結果はCervix-IIIよりも良好であり、遠隔転移の患者は減少していた。一方、治療後の患者追跡調査の際にはCTを必要とすることが確認された。今年度時点の中途解析では、ステージIIBとステージIIIBの間で全生存期間(OS)には差がみられなかった。傍大動脈リンパ節の予防照射の結果は良好であり、毒性を強めることなく良好な結果をもたらしていた。
セッション2: 局所進行子宮頸がんに対する3D画像誘導小線源治療の前向き観察研究(CERVIX-V)
(8)Cervix-Vに対するプロトコールが小此木氏により紹介され、レビューされた。プロトコールは2017年5月にNIRSの治験倫理委員会(IRB)によって承認された。
(9)各国から、現在の準備状況、当面の課題やCERVIX-Vを実施するにあたって困難な点について発表された。
バングラデシュ:2施設が参加予定であり、うち1施設ではすでにIRBにより承認済み、もう1施設ではまだ準備中である。実践訓練および追跡調査のQCが必要であると提案した。
中国:IRB書類を作成中である。
インドネシア:1施設でIRB承認済み、1施設で承認を待っている。
カザフスタン:1施設でIRB承認済み、患者1名が登録済みである。
韓国:IRB書類を翻訳中であり、提出予定である。プロトコールは現在実施中の臨床試験と競合するおそれがある。
マレーシア:1施設でIRB承認済みである。
モンゴル:3D-IGBTがまだ利用可能でなく、導入準備を進めている。
フィリピン:IRB申請を提出、修正し、承認を待っている。
タイ:IRB書類を翻訳中である。
ベトナム:IRB書類はまだ提出されていない。
(10)続いてCERVIX-Vに関する討議が行われた。臨床試験で全骨盤照射にIMRTを使用することが承認された。アジュバント(治療後)またはネオアジュバント(治療前)化学療法や、シスプラチン以外の同時併用化学療法は認められないことが確認された。また、全ての腔内照射の際には必ず3D-IGBTで行われることが重要であると強調された。
(11)すべての参加国が実地研修の必要性について賛同したが、その枠組み作りが課題であった。加藤真吾氏が、FNCA放射線治療ワークショップ中に3D-IGBTの現場研修を実施することを提案した。
セッション3: 3D-IGBTの品質保証/品質管理(QA/QC)
(12)水野秀之氏(QST、NIRS計測・線量評価部主任研究員)より、3D-IGBTの監査計画が紹介された。監査すべき点として、アプリケータのコミッショニング、線源位置の確認、および線源の較正が挙げられた。これらの手順を実施するにあたり、新たに設計された水ファントムを現在準備中である。
(13)Julius Cezar ROJALES氏(聖ルークス医療センター、シニア医学物理士・アンシラリーサービス副院長)により、フィリピンにおける3D-IGBTの現状について発表された。
(14)福田茂一氏(QST、NIRS、臨床研究クラスタ、放射線品質管理室研究統括)が、電子データキャプチャシステムの準備状況について報告した。まだいくつか課題は残っているが、ウェブサイトはすでに稼働しているので、参加国はサイトにアクセスして問題点があれば報告するよう促した。
セッション4:上咽頭がんに対する同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験(NPC-III)
(15)牧島弘和氏(QST、NIRS臨床研究クラスタ重粒子線治療研究部骨盤部腫瘍臨床研究チーム医師)が、上咽頭がん(NPC)に対するCCRT第II相試験(NPC-III)のプロトコールを紹介した。各参加国の代表者より最近の臨床データが発表された。
各参加国の代表者より、NPC-IIIの最新臨床データが発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(1名)、中国(8名)、インドネシア(12名)、日本(0名)、カザフスタン(0名)、韓国(0名)、マレーシア(25名)、モンゴル(0名)、フィリピン(7名)、タイ(0名)およびベトナム(55名)。総患者数は108名であった。今年新たに43例が追加された。
(16)続いて牧島氏が追跡調査データの概要を発表した。
追跡調査期間の中央値は38ヵ月であった(2〜73)。年齢の中央値は47歳であった。100%の患者が2〜3サイクルのネオアジュバント化学療法を受けたのに対し、4サイクル以上の同時併用化学療法を受けた患者は75%であった。放射線治療の全治療期間の中央値は55日(範囲44〜232日)であった。29%の患者において放射線治療が15日以上中断したが、その原因は主に機械の故障、治療計画の立て直しおよび有害事象によるものであった。ネオアジュバント化学療法施行期間において、グレード3/4の血液毒性が16%の患者に生じ、非血液学的毒性が22%の患者に生じた。同時併用の期間では、グレード3/4の血液毒性が25%の患者に生じ、非血液学的毒性が34%の患者に生じた。グレード3の晩期有害事象が10%の患者に見られ、主に唾液分泌障害と皮下組織障害であった。
有効性結果:3年生存率の結果:OSは73%であった。局所領域再発率は22%であった。無遠隔転移率(DMF)は78%であった。PFSは70%であった。これらの結果をNPC-I試験の結果と比較すると、DMF率とOS率は向上し、局所制御率は低下していたが、いずれも統計学的な有意差は認められなかった。再発は主に遠隔転移(17%)であったが、NPC-I試験(28%)に比べると低い値であった。
目標登録症例数は120名であり、現在までのところ108名が登録されている。
目標数にほぼ到達したため、さらに1年登録を継続することが決定された。データセンターが各参加センターと緊密に連絡を取ることで症例集積状況を把握し、目標数に到達したらその旨を通知することとなった。
セッション5:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(術後放射線療法(PMRT)/BREAST-I)
(17)河野佐和氏(東京女子医科大学助教)がPMRT/BREAST-Iのプロトコールの紹介およびレビューを行った。
(18)各参加国の代表者より術後放射線治療(PMRT)の第II相試験臨床データが発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(77名)、中国(13名)、インドネシア(2名)、日本(8名)、カザフスタン(36名)、韓国(0名)、マレーシア(0名)、モンゴル(25名)、フィリピン(10名)、タイ(0名)およびベトナム(0名)。PMRTの総患者数は171名であった。
(19)唐澤久美子氏(東京女子医科大学医学部放射線腫瘍学教授・講座主任)が、乳がん症例(171名)のPMRT臨床データの概要を発表した。
56か月の間にHF-PMRT群の患者全171名が登録され、このうち164名が評価可能であった。すべての患者に対してプロトコールに基づく治療が完了した。年齢の中央値は49歳(範囲、24〜80歳)であった。患者92名(56%)が右側乳がんであった。臨床病期はそれぞれIIAが65名(40%)、IIBが60名(37%)、IIIAが35名(21%)、IIIBが3名(2%)、およびIIICが1名(1%)であった。治療期間の中央値は21日(範囲、16〜256日)であった。治療中断は7名であった。グレード2以上の急性期皮膚炎が3名(1%)で認められ、グレード1の急性皮下毒性は16名(10%)で認められた。グレード1の急性心毒性は3名(2%)で認められ、グレード1の晩期心毒性は4名(2%)で認められた。グレード1の晩期肺毒性が11名(7%)で認められた。5名で局所再発が、13名で遠隔転移が、8名で乳がんによる死亡が確認された。
(20)続いて、臨床データに関する討論が行われた。一部のデータに関して内容が不足しているか、登録シートに間違って記入されていた。共同研究者全員にデータを再確認し訂正した上でデータを送信するよう求めるとともに、来年まで患者登録を続けるよう呼び掛けた。
セッション6:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験/温存術後乳房全照射(WBI/BREAST-I)
(21)河野佐和氏が温存術後乳房全照射(WBI)/BREAST-Iのプロトコール紹介とレビューを行った。
(22)各参加国の代表よりWBIの第II相試験の臨床データが発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(31名)、中国(6名)、インドネシア(16名)、日本(138名)、カザフスタン(14名)、韓国(10名)、マレーシア(0名)、モンゴル(3名)、フィリピン(0名)、タイ(16名)、およびベトナム(0名)。WBI総患者数は234名であった。
(23)唐澤久美子氏が乳がん症例(234名の患者と235の乳病巣)のWBI臨床データの概要を発表した。
56か月の間にHF-WBI群の235の乳病巣が登録された。本ワークショップで分析できた乳病巣データは226であった。1名を除いてすべての患者がプロトコールに基づく治療を完了した。年齢の中央値は49歳(範囲、24〜79歳)であった。患者114名(50%)は右乳がんであった。臨床ステージ0が38名(17%)、IAが116名(51%)、IBが3名(1%)、IIAが49名(22%)、およびIIBが20名(9%)であった。患者163名が腫瘍床に対する追加放射線療法を受けた。治療期間の中央値は26日(範囲、18〜54日)であった。治療中断は8名だけであった。グレード2以上の急性期皮膚炎が26名(11%)で認められた。晩期有害事象に関しては、グレード2の肺毒性が1名、グレード2の皮膚障害が1名、グレード2の皮下毒性が1名に見られた。1名に局所再発、3名に遠隔転移、2名に乳がんによる死亡が確認された。
(24)続いて臨床データに関する討論が行われた。
一部のデータに関して内容が不足しているか、登録シートに間違って記入されている可能性がある。
共同研究者全員にデータを再確認し訂正した上でデータを送信するよう求めた。登録を締め切ることにすべての共同研究者が同意した。
セッション7:今後の計画およびワークショップ議事録の原案作成
(25)加藤真吾氏によりFNCAのワークショップでの3D-IGBT現場研修の実施が提唱され、すべてのFNCA参加国がこれに同意した。現場研修コースは、放射線腫瘍科医1名/2名のおよび医学物理士1名/2名および現地のホストが担当する。
(26)次回のワークショップは、2018年11月11日からバングラデシュで開催予定である。
(27)書記によって提出された議事録の草稿について、協議の上、修正が行われた。議事録の草稿はワークショップ終了後に回覧され、仕上げられる。
(28)加藤真吾氏がすべてのセッションについてまとめ、コメントを述べた。
セッション8:聖フランシス・カブリーニ・医療センターへのテクニカルビジット
(29)参加者は、聖フランシス・カブリーニ・医療センター(バタンガス州)へのテクニカルビジットを実施した。
セッション9:聖ルークス医療センターへのテクニカルビジット
(30)参加者はさらに、聖ルークス医療センター(グローバルシティ)へのテクニカルビジットを実施した。
セッション10:オープンレクチャー
(31)JRRMMCの放射線治療科の大学院課程と連携し、放射線治療の国際的な課題と題したオープンレクチャーがフィリピン肺センターで開催された。
(32)Elisa B. Valdez氏(JRRMMC医療専門家チーフ)が歓迎の挨拶を述べ、Miriam Joy Calaguas氏が開会の挨拶をした。
(33)和田智明氏がFNCAについての講演を行った。FNCAの概要を紹介し、現在進行中の8プロジェクトの活動と実績について紹介した。
(34)Dang Huy Quoc Thinh氏(ホーチミン市がん病院副院長/放射線治療科長)が、同院におけるNPCプロトコールの推移と結果を紹介した。
(35)唐澤久美子氏が「乳がん:寡分割放射線療法実施の準備は出来ているか?」と題して講演を行った。
(36)大野達也氏(群馬大学重粒子線医学推進機構重粒子線医学センター教授)が子宮頸がんにおけるIGBTの役割について発表した。
(37)続いてパネルディスカッションが行われた。Rey H. de los Reyes氏および加藤真吾氏が本セッションの司会進行を行った。若月優氏(日本)およびKullathorn Thephamongkhol氏(タイ)がパネリストを務め、子宮頸がんの1症例について議論した。
(38)最終講演として、中野隆史氏(群馬大学大学院医学研究科教授)が「概要:今日のアジアにおける放射線治療の先端技術」と題して発表した。
(39)加藤真吾氏の挨拶をもってオープンレクチャーの午前セッションが閉会した。
(40)ワークショップは公式に閉会した。
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