2018年度FNCA放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2018年11月4日〜7日
バングラデシュ、ダッカ
(1)第19回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター会議の合意に従って、2018年度FNCA放射線治療ワークショップが2018年11月4日から7日にかけてバングラデシュのダッカで開催された。会合はバングラデシュ原子力委員会(BAEC)、Oncology Clubおよび文部科学省(MEXT)の共催で開催された。FNCAの10加盟国であるバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイおよびベトナムの代表者が本ワークショップに参加した。
開会セレモニー
(2)BAEC核医学関連科学研究所(NINMAS) 准教授/主任医学研究員のZeenat Jabin氏 が会本セッションの司会を務めた。
BAEC委員(バイオサイエンス)のSanowar Hossain氏より歓迎の挨拶が述べられた。
FNCA日本コーディネーターの和田智明氏より開会の挨拶が行われた。
FNCA日本アドバイザーの南波秀樹氏より挨拶が行われた。
放射線治療プロジェクトリーダーの加藤真吾氏が挨拶を述べ、プロジェクト紹介を行った。
バングラデシュ原子力規制庁(BAERA)長官のNayuum Chowdhury氏が挨拶を述べた。
BAEC委員長兼FNCAコーディネーターのMahbubul Hoq氏が挨拶を述べた。
バングラデシュ科学技術省(MOST)大臣のYeafesh OSMAN氏が、主賓として挨拶を述べ、ワークショップが公式に開始した。
(3)個々の参加者が自己紹介を行った。
(4)アジェンダが採択され、セッション議長と書記が選出された。
Session 1: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時併用化学療法の第II相試験 (CERVIX-IV)
(5)国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)放射線医学総合研究所(NIRS)病院婦人科腫瘍科長の小此木範之氏が、局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時併用化学療法の第II相試験であるCervix-IVのプロトコールを紹介した。
CERVIX-IVの最新臨床データが各参加国の代表により提示された。各国の患者数はバングラデシュ32名、中国8名、インドネシア9名、日本20名、カザフスタン1名、韓国7名、マレーシア5名、モンゴル8名、フィリピン4名、タイ4名、ベトナム8名であり、総計は106名であった。
小此木氏が追跡調査データを要約した。これまでに本臨床研究に提出された症例の総数は106例であり、そのうち評価不可能なものが11例あった。
評価可能な95例のうち51名の患者がステージIIBであり、44名がステージIIIBであった。すべての患者が、CTまたは超音波検査による評価で骨盤内リンパ節(PLN)転移陽性、傍大動脈リンパ節(PALN)転移陰性であった。全治療期間の中央値は57日であった。A点の平均線量は81.9 Gyであった。76名(80 %)の患者は4サイクル以上の化学療法を受けた。19名(20%)の患者にグレード3の白血球減少症が生じ、1名の患者にグレード4の好中球減少症が生じた。晩期毒性については、2名の患者にS状結腸/直腸のグレード3の毒性が観察され、2名の患者に小腸のグレード3の毒性が観察された。2年追跡率は97%であった。2年および5年の局所制御(LC)率はそれぞれ96%と91%であった。2年および5年の無増悪生存(PFS)率はそれぞれ77%と69%であった。2年および5年の全生存(OS)率はそれぞれ90%と77%であった。
(6)続いてCervix-IVの臨床データについての討論が行われた。Cervix-IVの結果はCervix-IIIに比べて良好で、遠隔転移率が低くなっている。その一方で追跡調査期間中に患者がCTを受ける必要がある。予備分析によると、ステージIIBとステージIIIBの間にOSの差がなかった。傍大動脈リンパ節転移陰性の患者が毒性の増大なしに傍大動脈リンパ節の予防的照射の恩恵を受けた。傍大動脈リンパ節での再発となっているが、ワークショップで再検討したところ、再発でないとの合意を得たものが1例ある。無増悪生存の再分析が行われ、2年および5年のPFS率がそれぞれ78%と70%となった。
(7)自治医科大学放射線科教授の若月優氏がCervix-IVに関する論文を国際的学術誌に提出することが発表された。
セッション2:局所進行子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の前向き観察研究(CERVIX-V)
(8)小此木範之氏がCervix-Vのプロトコールを紹介した。
(9)CERVIX-Vの新たに登録された臨床データが各参加国の代表により提示された。各国の患者数は、バングラデシュ0名、中国3名、インドネシア6名、日本2名、カザフスタン1名、韓国0名、マレーシア1名、モンゴル0名、フィリピン4名、タイ0名、ベトナム0名であり、患者総数は17名であった。
(10)その後、CERVIX-Vについての議論が行われた。治験審査委員会(IRB)の承認を得ている国は昨年から患者の登録を開始した。バングラデシュなどの一部の施設はまだ倫理審査の承認を待っている段階である。
(11)メンバー国の施設よりいくつかの問題が提起された。
- データセンターがMRI画像のレビューすることで正しい病期決定の支援ができるようになる。
- すべての分割でハイリスク臨床標的体積(HR-CTV)D90線量の一貫性を維持すべきである。または、リスク臓器(OAR)の拘束値が満たされる限りは、HR-CTV体積の縮小に応じてHR-CTV D90線量を引き上げることができる。
- 画像誘導小線源治療(IGBT)の輪郭抽出では、輪郭抽出のスキルと経験の相違により、HR-CTV体積の変化に反映されるような変動が生じている。1つの提案として、HR-CTVの適切な輪郭確定のために、内診の所見、超音波検査およびMRIを用いることができる。
- 患者が受ける同時併用化学療法のサイクル数が少ないこと。これは、プラチナ製剤化学療法を受ける患者に対する適切な水分補給と、婦人科腫瘍医とのよりよい協力によって対処することができる。
- 一部の施設が強度変調放射線治療(IMRT)を用いているが、プロトコールで線量の指示が扱われておらず、それについてのさらなる議論が必要である。
- 新たな国際産婦人科連合(FIGO)病期分類(2018年版)が発表された。しかしCervix-Vのプロトコールでは依然として2008年版のFIGO病期分類を用いるということが合意された。
- IGBTのすべての分割について、適切な最適化のために新たなCT画像を取得すべきであるとの助言があった。
- 婦人科腫瘍医とは別に、放射線腫瘍医(治療医)が追跡調査を行うべきである。
セッション3:3D-IGBTにおける品質保証/品質管理(QA/QC)
(12)QST、NIRS計測・線量評価部上級研究員の水野秀之氏が3D-IGBTのフィージビリティスタディと訪問調査について報告した。Cervix-Vのプロトコールで採用されている3D-IGBTテクニックについて調査するためのファントム冶具が開発された。調査の開始に向けたフィージビリティスタディとして、数回の測定がすでに行われている。訪問調査によりEnd to Endテストが行われる予定である。その調査はモンテカルロシミュレーションが首尾よく完了された後に開始される。
(13)デルタ病院の上級医学物理学士であるMushfika Ahmed氏が、バングラデシュにおける3D-IGBTの現状を説明した。同氏は2Dテクニックから3D-IGBTへの移行プロセスについて説明した。同氏の国では3D-IGBTを開始するための高線量率小線源治療(HDR)施設が利用可能になっているが、スキルとテクニックを改善するためにはさらなる訓練が必要である。
(14)シリラート病院医学部の医学物理学士であるPitchayut Nakkrasae氏が、タイにおける3D-IGBTの振興についてプレゼンテーションを行った。同氏はタイにおける放射線療法と3D-IGBTの施設を紹介した。また治療の有効性を改善するための3D-IGBT訓練講座と品質管理プログラムについても説明した。
セッション4:上咽頭がんに対する術前補助化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験(NPC-III)
(15)群馬大学重粒子線医学センター教授/医長である大野達也氏が、上咽頭がん(NPC)に対する術前補助化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験であるNPC-IIIのプロトコールを紹介した。最近の臨床データが各参加国の代表により提示された。
NPC-IIIの臨床データの最新版を各参加国の代表が提示した。各国の患者数はバングラデシュ1名、中国9名、インドネシア12名、日本0名、カザフスタン0名、韓国0名、マレーシア29名、モンゴル0名、フィリピン7名、タイ0名、ベトナム55名であり、総数は113名であった。新規の症例は43例であった。
(16)続いて大野氏が追跡調査データを要約した。
追跡調査期間の中央値は19.5ヵ月(範囲:3〜89ヵ月)であった。年齢の中央値は46歳であった。患者は全員2〜3サイクルの術前補助化学療法を受け、その遵守率は100%であったが、4サイクル以上の同時併用化学療法の遵守率は75%であった。放射線療法の全治療期間の中央値は52日(範囲:44〜232日)であった。患者の23%で14日を超える放射線治療の中断があった。その主な原因は、機械の故障、計画の変更および毒性であった。急性血液毒性については、グレード3/4の毒性が術前補助段階に14%、同時併用段階に28%の患者に発生していた。グレード4以上の急性非血液毒性が生じた患者はいなかった。最も頻度の高いグレード3急性非血液毒性は、術前補助化学療法中の悪心/嘔吐(5%)と同時併用段階での粘膜炎(20%)であった。グレード4の晩期毒性が13%の患者に生じた。それは主に唾液腺と皮下組織の毒性であった。
(17)有効性の結果として、3年全生存(OS)率は72%であった。局所領域再発率は20%であった。無遠隔転移生存率(DMFS)は77%であった。無増悪生存(PFS)率は70%であった。NPC-I試験の結果と比較すると、NPC-IIIの方がOSとDMFSの傾向が良好であった。ただし有意差はなかった。
登録患者の目標数は120名であり、これまでに113名が集められた。目標数がほぼ達成されているので、2018年12月末時点で患者の登録を終了することが決定された。ただし、3年臨床転帰を確認するためにさらなる追跡調査が必要とされる。
セッション5:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(術後放射線療法(PMRT)/BREAST-I)
(18)東京女子医科大学放射線腫瘍学講座助教である河野佐和氏がPMRT/BREAST-Iのプロトコールを紹介し、レビューを行った。
(19)術後放射線療法(PMRT)の第II相試験の臨床データが各参加国の代表により提示された。報告された患者数はバングラデシュ77名、中国13名、インドネシア0名、日本13名、カザフスタン20名、韓国0名、マレーシア0名、モンゴル26名、フィリピン10名、タイ0名、ベトナム0名であった。PMRTの患者総数は159名であった。
(20)東京女子医科大学理事、医学部長、放射線腫瘍学講座教授・講座主任である唐澤久美子教授が、乳がんの症例のPMRT臨床データを要約した。58ヵ月の間に寡分割術後放射線療法(HF-PMRT)群に総数178名の患者が登録された。評価可能な患者数は159名であった。今年新たに登録された患者は6名のみであった。すべての患者が治療のプロトコールを完了した。年齢の中央値は49歳であった(範囲:24〜80歳)。80名(50%)の患者が左側乳房にがんを有していた。患者の病期は、56名(35%)がIIA、62名(39%)がIIB、36名(23%)がIIIA、3名(2%)がIIIB、2名(1%)がIIICであった。治療期間の中央値は21日(範囲:21〜84日)であった。6名の患者が治療の中断をしていた。3名(1%)の患者にグレード2以上の急性皮膚炎が観察され、16名(10%)の患者でグレード1の急性皮下毒性が観察された。急性のグレード1心毒性が2名(2%)の患者に観察され、晩期のグレード1心毒性が3名(2%)の患者で観察された。晩期のグレード1肺毒性は10名(6%)の患者に観察された。照射野内再発が4例、遠隔転移が16例、乳がんによる死亡が8例観察されていた。
(21)続いて臨床データに関する討論が行われた。グレード2を超える急性皮膚炎が1%のみ、グレード2の皮下急性毒性が1%のみ観察された。すべての治験分担医師がデータのレビューと修正されたデータの送付を行うよう助言された。治験分担医師は治療の3年後および5年後の時点で美容面の転帰を評価しなければならない。また、来年まで患者の登録を継続するよう奨励されている。
セッション6:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(全乳房照射(WBI)/BREAST-I)
(22)河野佐和氏が、全乳房照射(WBI)/BREAST-Iのプロトコールを紹介し、レビューを行った。
(23)WBIの第II相試験の臨床データが各参加国の代表により提示された。報告された患者数はバングラデシュ31名、中国6名、インドネシア16名、日本137名、カザフスタン14名、韓国9名、マレーシア0名、モンゴル3名、フィリピン0名、タイ14名、ベトナム0名であった。WBI患者の総数は230名であった。
(24)唐澤久美子教授が乳がんの症例(患者230名/乳房病変231)のWBI臨床データを要約した。
(25)2013年2月から2017年10月までに、寡分割放射線療法-全乳房照射(HF-WBI)群の総数231の乳房病変が登録された。患者の年齢の中央値は49歳である。患者の大半は、T1(60%)N0(86%)、病期IA(53%)である。ほとんどの組織学的分類は浸潤性乳管がん(IDC)(3%)およびルミナルB型(60%)である。ほとんどの患者の治療方法が、6 MVのX線およびfield in field法の利用によってプロトコールに従っていた。皮膚反応(グレード2:10%、グレード3:2%)以外に急性副作用が出た患者はほとんどいなかった。晩期有害作用は非常に少なかった(皮下作用グレード1:10%)。照射野再発が1例、遠隔転移が3例、乳がんによる死亡が2例、他病死が2例あった。要約すると、すべての患者が、良好な腫瘍制御のもとで治療プロトコールを完了し、有害作用は非常に少なかった。
(26)続いて臨床データに関する討論が行われた。
(27)本臨床試験の論文原稿提出に先立ちデータ補正が多少必要になるだろう。論文には、2年の追跡調査期間における初期の結果が含まれることになる。最終結果の確認のためには、依然として長期の追跡調査が必要とされる。5年間は6ヵ月ごとに、またそれ以降は1年ごとに、患者の追跡調査を行うことが期待されている。
セッション7:ワークショップのレビューと将来計画
(28)加藤真吾氏が来年のプロジェクト活動を提案した。FNCAメンバー国すべてが以下の通り合意した。
(29)子宮頸がんに対する3D-IGBTの臨床試験(CERVIX-V):
- 患者の登録を継続する。
- 年次ワークショップでフィージビリティ、有効性および急性毒性を評価する。
(30)3D-IGBTの訓練:
- 年次ワークショップで実地研修を開催する
- FNCAメンバー国における放射線腫瘍医と医学物理士は、日本の研究機関で3D-IGBTについて研究するために文部科学省の原子力研究者交流制度への応募が奨励されている。
(31)上咽頭がんに対する術前補助化学療法(NAC)とその後のCCRTの臨床試験(NPC-III):
- 患者の登録を2018年末までに完了する。
- 患者の追跡調査は3年を超える期間にわたり継続する。
(32)乳がんに対する寡分割放射線療法の臨床試験(BREAST-I):
- 乳房温存治療(BCT)(全乳房照射(WBI))の患者登録を昨年に終了した。患者の追跡調査は4年を超える期間にわたり継続する。
- 術後放射線治療(PMRT)の患者登録を総数200名に達するまで続ける。患者の追跡調査は5年を超える期間にわたり継続する。
(33)3D-IGBのQA/QC:3D-IGBTの訪問調査を来年に開始する。
(34)次の臨床試験の提案。
- 緩和的放射線療法(第III相試験)(大野氏の提案)。コンセプトシートがデータセンターから各機関に配布される予定である。
- 術後子宮頸がんの全骨盤に対するIMRT(若月氏の提案)が次回のワークショップで議論される。
(35)その他の活動の提案。臨床標的体積(CTV)/リスク臓器(OAR)の輪郭確定の訓練。
(36)暫定案として、次回ワークショップを 2019年11月11〜17日に中国の蘇州において開催することする。
セッション8:テクニカルビジット1
(37)ワークショップ参加者はデルタ病院へのテクニカルビジットを行い、一部の参加者はユナイテッド病院で3D-IGBTの実地研修を開始した。
セッション9:テクニカルビジット2と3D-IGBTの実地訓練
(38)テクニカルビジット参加者はさらにユナイテッド病院へのテクニカルビジットを行った。また、同病院では3D-IGBTの実地研修が継続された。
Session 10: オープンレクチャー
(39)オープンレクチャーが国立がん研究病院 (NICRH)で開催された。
(40)Nazman Nahar氏が司会を務め、Mafizur Rahman氏が聴衆に向け挨拶を述べた。
(41)和田智明氏がFNCAについて講演を行い、本事業の概要と進行中の7プロジェクトの活動と実績について紹介した。
(42)NICRH放射線腫瘍科の助教であるLubna Mariam氏がバングラデシュにおける放射線治療の現状について発表した
(43)群馬大学重粒子線医学推進機構重粒子線医学センター教授の大野達也氏が、子宮頸がんのための3D-IGBTについて講演を行った。
(44)ホセ・R・レイエス記念医療センター(JRMMC)放射線治療科長のMiriam J Calagua氏が、「フィリピンにおける過去、現在、未来の放射線治療」と題した講演を行った。
(45)最終講演として、自治医科大学放射線科/中央放射線部教授の若月勝氏より行われ、「重粒子線治療」について発表した。
(46)加藤真吾氏がオープンレクチャーについて所感を述べた。
(47)NICRH の所長/病院長であるMoarraf Hossen氏,が閉会の挨拶を述べた。
Session 11: ワークショップ議事録草稿
(48)参加者はテクニカルビジット、実地研修およびオープンレクチャーを振り返った。
(49)書記によって提出された議事録の草稿について、協議の上、修正が行われた。議事録の草稿はワークショップ終了後に回覧され、仕上げられる。
(50)加藤真吾氏が、全てのセッションについて所感を述べた。同氏の挨拶を持ってワークショップは閉会した。
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