2019年度FNCA放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2019年10月28日〜31日
中国、蘇州
(1)第20回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター会合の合意に従って、2019年度FNCA放射線治療ワークショップが2019年10月28日〜31日にかけて中国の蘇州で開催された。会合は、蘇州大学、蘇州大学付属第一病院、中国国家原子能機構(CAEA)及び文部科学省(MEXT)の共催で開催された。FNCA参加国であるバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムの10か国からの代表者が本ワークショップに参加した。
開会セレモニー
(2)蘇州大学放射線医学防護学院院長、教授であるJianping Cao 氏が本セッションの司会を務めた。
蘇州大学副学長のWeichang CHEN教授より、参加者に向けて歓迎の挨拶を述べられた。
FNCA日本コーディネーターの和田智明氏が開会の挨拶を行った。
文部科学省の田中史代氏より、挨拶と文部科学省によるアジア諸国向けのプログラムが紹介された。
本プロジェクトリーダーの加藤真吾氏より挨拶とプロジェクトの紹介が行われた。
(3)各参加者より自己紹介が行われた。
(4)アジェンダが採択され、各セッションの議長と書記が選出された。
(5)復旦大学付属上海がんセンターのZhen ZHANG氏が、「上海がんセンターにおける経験-局所進行直腸がんに対するネオアジュバント化学放射線療法」と題した特別講演を行った。
(6)続けて、上海陽子線・重粒子線センターのJiade LU氏が「上海陽子線・重粒子センターにおける経験-がん治療における陽子線・重粒子線用いた治療」と題した特別講演を行った。
セッション1:局所進行子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の前向き観察研究(CERVIX-V)
(7)国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)量子医学・医療部門放射線医学総合研究所(NIRS)重粒子線治療研究部骨盤部腫瘍臨床研究グループ医長である小此木範之氏がCervix-Vのプロトコールを紹介した。
(8)CERVIX-Vに新たに登録された臨床データが各参加国の代表により発表された。各国の患者数は、バングラデシュ0名、中国6名(新規3名)、インドネシア7名(新規1名)、日本5名(新規3名)、カザフスタン4名(新規2名)、韓国0名、マレーシア6名(新規5名)、モンゴル2名(新規2名)、フィリピン8名(新規4名)、タイ0名、ベトナム0名であり、患者総数は38名(新規20名)であった。
(9)その後CERVIX-Vについてディスカッションが行われた。6ヵ月の時点で治療効果判定のための追跡調査が行われる予定である。追跡調査の手法とタイミングについての詳細な議論が行われ、その後のセッションで小此木氏より提示された。変更点についてはプロトコールに組み入れられる予定であり、後日、参加国に伝達される。
セッション2:3D-IGBTにおける品質保証/品質管理(QA/QC)
(10)蘇州大学付属第一病院の医学物理士であるJie NI氏が中国における3D-IGBTの現状について発表した。3D-IGBTの3つの側面について簡単に紹介した。その側面とは、中国におけるインフラの概要、QA/QCの内容及び関連の研究開発である。
(11)QST量子医学・医療部門QST病院放射線品質管理室技術スタッフである中路拓氏が3D-IGBTの訪問監査の手法を紹介した。開発済みのファントム治具と3D-IGBTの監査プログラムについて紹介した。
(12)QST量子医学・医療部門QST病院放射線品質管理室主幹研究員である水野秀之氏が、埼玉医科大学国際医療センター(日本)と韓国原子力医学院(韓国)の2施設における本年の3D-IGBT訪問監査の結果について報告した。
セッション3:上咽頭がんに対する導入化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験(NPC-III)
(13)QST量子医学・医療部門NIRS重粒子線治療研究部骨盤部腫瘍臨床研究グループの医師である牧島弘和氏が、上咽頭がん(NPC)に対する導入化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験であるNPC-IIIのプロトコールを紹介した。最近の臨床データが各参加国の代表より発表された。
NPC-IIIの最新臨床データは以下のとおりである。バングラデシュ1名、中国9名、インドネシア12名、日本0、カザフスタン0名、韓国0名、マレーシア31名、モンゴル0名、フィリピン7名、タイ0名、ベトナム60名で、総数は120名であった。また、新規の症例は10例であった。
(14)次に牧島氏は追跡調査データのまとめを発表した。この試験に登録された患者の総数は120名であった。NPC-IIIの登録はすでに完了している。年齢の中央値は46歳であった。放射線療法の全治療期間の中央値は53日(範囲:44〜232日)であった。患者の22%が14日を超える放射線治療を中断した。その主な原因は、機械の故障、計画の変更及び毒性であった。
患者全員が2〜3サイクルの導入化学療法を受け、その遵守率は100%であったが、4サイクル以上の同時併用化学療法の遵守率は74%であった。
(15)導入化学療法段階では、患者の3%に白血球減少症、10%に好中球減少症 、2%に貧血といったグレード*3/4の血液毒性が生じ、患者の5%に悪心/嘔吐、1%に疲労感といった非血液毒性が生じた。同時併用段階で、患者の14%に白血球減少症、9%に好中球減少症、4%に貧血、2%に血小板減少症といったグレード3/4の血液毒性が生じた。また、患者の11%に皮膚炎、20%に粘膜炎、9%にドライマウス、7%に悪心/嘔吐、14%に体重の減少、11%に疲労感といった非血液毒性が生じた。グレード3の晩期毒性が患者の10%に生じ、それは主に唾液腺と皮下組織の毒性であった。
有効性の結果は、3年全生存(OS)率が76%(NPC-Iでは57%)、局所領域再発率が25%(NPC-Iでは14%)、無遠隔転移生存率(DMFS)が83%(NPC-Iでは69%)、無増悪生存(PFS)率が72%(NPC-Iでは63%)であった。本結果はNPC-I(CCRTと補助化学療法)の結果に匹敵し、NPC-III(導入化学療法とCCRT)では局所領域制御率がより低く、遠隔転移率がより低く、全生存率がより高いという点で有意差が認められた。
(16)続いて臨床データについてオープンディスカッションが行われた。
*グレード:有害事象の重症度を意味する。有害事象共通用語規準(CTCAE)では、グレード(Grade)は1〜5まである。
セッション4:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(術後放射線療法(PMRT)/BREAST-I)
(17)東京女子医科大学放射線腫瘍学講座助教である河野佐和氏がPMRT/BREAST-Iのプロトコールの紹介とレビューを行った。
(18)術後放射線療法(PMRT)の第II相試験の臨床データが各参加国の代表により提示された。報告された患者数はバングラデシュ84名、中国13名、インドネシア0名、日本14名、カザフスタン20名、韓国0名、マレーシア0名、モンゴル26名、フィリピン18名、タイ0名、ベトナム46名であった。2013年から2019年の間に221名の患者が登録され、プロトコール治療を完了した。すでに患者登録は完了している。
(19)東京女子医科大学医学部長、放射線腫瘍学講座教授・講座主任である唐澤久美子氏が、PMRT臨床データのまとめを発表した。78ヵ月の間に寡分割術後放射線療法(HF-PMRT)群に総数221名の患者が登録された。評価可能な患者数は221名であった。
(20)続いて臨床データに関するオープンディスカッションが行われた。
(21)ベトナムから登録された患者は他施設の患者に比べて皮膚の急性有害事象のグレードが高くなっている。追跡調査で検査による患者の写真を再度チェックすることが提案された。
セッション5:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(全乳房照射(WBI)/BREAST-I)
(22)河野佐和氏が、全乳房照射(WBI)/BREAST-Iのプロトコールの紹介とレビューを行った。
(23)WBIの第II相試験の臨床データが各参加国の代表により提示された。報告された患者数はバングラデシュ31名、中国6名、インドネシア16名、日本136名、カザフスタン14名、韓国10名、マレーシア0名、モンゴル3名、フィリピン0名、タイ14名、ベトナム0名であった。WBI患者の総数は229名あった。
(24)唐澤久美子氏が乳がん症例(患者229名/乳房病変230)のWBI臨床データの要約を発表した。患者の病期の内訳はステージ0が 37名、ステージ1Aが121名、ステージ1Bが3名、ステージ2Aが49名、ステージ2Bが20名であった。皮膚の急性有害事象は、グレード0が8%、グレード1が80%、グレード2が10%、グレード3が2%、皮下組織の急性有害事象は、グレード0が90%、グレード1が10%であった。晩期有害事象については、皮膚ではグレード0が80%、グレード1が20%、皮下組織ではグレード0が90%、グレード1が10%、乳房ではグレード0が92%、グレード1が8%、肺ではグレード0が98%、グレード1が2%であった。まとめると、本臨床試験ではグレード2を超える毒性は認めなかった。追跡調査期間が3年を超える患者の乳房の整容性は、excellentが107例、goodが1例、poorが3例であった。追跡期間中央値35ヵ月の段階で局所領域再発が1例、遠隔転移が3例、乳がんによる死亡が2例、他病死が2例あった。
(25)続いて臨床データに関するオープンディスカッションが行われた。1つの施設においてグレード3の皮膚の有害事象が認められた。治療プロセスと有害事象のグレード評価についての再検討が行われる予定である。
(26)患者登録は2018年に完了した。論文の原稿提出に先立ち、多少のデータ補正が必要になると見られている。論文は、3年の追跡調査期間における結果となる。最終結果の確認のためには、依然として長期の追跡調査が必要とされる。5年間は6ヵ月ごとに、またそれ以降は1年ごとに患者の追跡調査を行う予定である。
セッション6:プロジェクト活動のレビューと将来計画
(27)加藤真吾氏が過去3年のプロジェクト活動のレビューを提示した。その要約は、「Final Report of the Project」で説明されている。概要は以下のとおりである。
1)第II相試験「Cervix-IV」
局所進行子宮頸がんに対する同時併用シスプラチン化学療法及び予防的拡大照射野放射線治療による治療成績が報告された。2007年から2016年の間に106名の患者が本試験に登録され、2018年に結果が評価された。グレード3の急性血液毒性の発症率は21%、グレード3の晩期消化管毒性の発症率は3%であった。全患者の2年局所制御率、無増悪生存率及び全生存率はそれぞれ96%、78%、90%であった。この結果から、東アジア及び東南アジアの局所進行子宮頸がん患者に対する同時併用化学療法及び予防的拡大照射野放射線治療が実行可能かつ有効であることが明らかとなった。本臨床試験結果は2019年に国際的な医学専門誌で発表された。 |
2)子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)
2014年から2016年の間に子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の予備調査が実施された。局所進行子宮頸がんに対する3D-IGBTの前向き観察研究が2018年に開始された。その治療のフィージビリティ、安全性及び有効性が評価されている。FNCA参加国における3D-IGBTの実行にとって医療スタッフの訓練が非常に重要であることから、2018年のFNCAワークショップの際にはダッカにおいて実地訓練セッションが開催された。地元の医師、医学物理学士及びFNCAの各国代表がその訓練セッションに多数参加した。ワークショップにおける訓練セッションはこのプロジェクトの主要な活動の1つとして継続される予定である。 |
3)上咽頭がん
局所進行上咽頭がんに対する導入化学療法とその後の同時併用化学放射線治療の組み合わせの安全性と有効性を評価するために、第II相臨床試験「NPC-III」が実施された。2010年から2019年の間に、総数120名の患者がこの試験に登録された。暫定的結果によると、術後補助化学療法を用いたNPC-I試験と比較して全生存率は同等であった。このプロトコール治療の毒性は許容可能と見なされた。 |
4)乳がん |
4-1) |
乳房温存手術(BCT)後の早期乳がんに対する術後寡分割放射線療法の安全性と有効性について評価するために第II相臨床試験が 実施された。2013年から2018年の間に229名の患者がプロトコール治療を完了した。暫定的結果によると、治療成績は優良で、急性毒性及び晩期毒性は許容可能であった。治療成績の評価のためには最低5年間の患者の追跡調査が必要である。 |
4-2) |
全乳房切除術後の局所進行乳がんに対する術後寡分割放射線療法(PMRT)の安全性と有効性について評価するために第II相臨床試験が実施された。2013年から2019年の間に 221名の患者がプロトコール治療を完了した。暫定的結果によると、治療成績は優良で、急性毒性及び晩期毒性は許容可能の範囲であった。 |
5)放射線治療の物理的品質保証(QA)/品質管理(QC)
FNCA加盟国の施設において外部照射の品質保証(QA)及び品質管理(QC)についてガラス線量計を用いた調査が行われ、11ヵ国における16施設(46ビーム)の線量調査が行われた。その調査結果は2017年に国際的な医学専門誌で発表された。
3D-IGBTのQA/QCに関連して、3D-IGBTの調査用の新たな高性能ファントムが設計され、製造された。その後、2019年以降に参加施設において訪問監査が実施されている。 |
(28)加藤氏は今後3年間の活動についても以下のとおり提案した。
現行の治療プロトコールの長期有効性を決定する上でそれらのプロトコールで治療している患者の長期追跡調査を行うことが非常に重要であることから、同教授は現在進行中のすべてのプロジェクトを3年以上にわたり(2020年〜2023年)継続することを提案した。
また同氏は、骨転移に対する緩和的放射線治療についてのFNCA加盟国における新たなプログラムも提案し、参加者がそのプロジェクトの実行について話し合った。
マヒドール大学シリラート病院講師Kullathorn THEPHAMONGKHOL氏が、脳転移に関するプロジェクトを提案した。骨転移と脳転移に関する予備調査を実施することが合意された。FNCA加盟国に対してアンケートが送付される予定である。
自治医科大学放射線科/中央放射線部教授の若月優氏が緩和的放射線治療に関するIAEA/RCAプロジェクトとの協力を提案した。
(29)次回ワークショップを2020年9月22〜25日にモンゴルで開催することが暫定的に計画されている。
セッション7:ワークショップ議事録草稿
参加者はワークショップでの議論を振り返った。
(30)書記によって提出された議事録草稿について、協議の上、修正が行われた。議事録の草稿はワークショップ終了後に回覧され、完成する。
(31)加藤真吾氏が、1日目と2日目のセッションについて所感を述べ、残り2日間に向けての期待も述べた。
セッション8: テクニカルビジット 1
(32)ワークショップ参加者は蘇州大学付属第一病院を訪問した。
セッション9: オープンレクチャー
(33)オープンレクチャーが蘇州大学付属第一病院にて開催された。
(34)Xiaoting XU氏が本セッションの司会を務めた。副院長のGang CHEN 教授が聴衆に向け、歓迎の挨拶及び開会の挨拶を行った。
(35)和田智明氏がFNCAに関する講演を行った。同氏はFNCAの概要と現行の7プロジェクトの活動と成果について紹介した。
(36)韓国原子力医学院(KIRAMS)放射線腫瘍科長のWonil JANG氏が肺がんに対する体幹部定位放射線治療(SBRT)について発表した。
(37)蘇州大学付属第一病院放射線腫瘍科長のJuying ZHOU氏が中国におけるがん疫学と放射線療法の概要と現況について講演した。
(38)群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学教授の大野達也氏が、粒子線治療について講演を行った。
(39)最後に「子宮頸がんに対する3D-IGBTに関する特別講演」がRey H. DE LOS REYES氏の司会のもと、若月優氏、及び小此木範之氏により行われた。同氏らは、3D-IGBTの概要を紹介し、ケーススタディを提示し、治療法を解説した。
(40)加藤真吾氏がオープンレクチャー全体に対し、所感を述べた。
セッション 10:テクニカルビジット2
(41)ワークショップ参加者は上海へ移動し、上海陽子線・重粒子線センターを訪問した。
セッション 11:テクニカルビジット3
(42)参加者は復旦大学付属上海がんセンターも訪問した。
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