2024年度FNCA放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2024年11月26日〜28日
タイ バンコク
(1) 第24回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)コーディネーター会合の合意に従って、2024年度FNCA放射線治療ワークショップが2024年11月26日〜28日にタイのバンコクにおいて開催された。本ワークショップは、マヒドン大学シリラー病院、タイ国家原子力技術研究所(TINT)及び日本の文部科学省(MEXT)により共催されたものである。FNCA参加国である11ヵ国、すなわちバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムの代表者が本ワークショップに参加した。
開会式
(2) マヒドン大学医学部シリラー病院放射線腫瘍学分野放射線医学講座の医学博士であるTanun Jitwatcharakomol氏が開会セッションの進行役を務めた。
マヒドン大学医学部シリラー病院の副学部長で准教授であるTara Vongviriyangkoon氏が参加者に対し歓迎の挨拶を行った。
FNCA日本アドバイザーの和田智明氏が開会の挨拶を行った。
日本の文部科学省(MEXT)の河原卓氏が開会の挨拶を行った。
放射線治療プロジェクトのプロジェクトリーダーである加藤眞吾氏が挨拶を行った。
マヒドン大学医学部シリラー病院放射線腫瘍学分野放射線医学講座の准教授でタイのプロジェクトリーダーを務めるYaowalak Chansilpa氏が歓迎の挨拶を行った。
(3) 続いて個々の参加者が紹介された。
(4) アジェンダが採択され、議長と書記が選出された。
(5) マヒドン大学医学部シリラー病院免疫学講座の教授であるChanitra Thuwajit氏ががん免疫療法に関する特別講演を行った。
(6) マヒドン大学医学部シリラー病院内科学講座の教授であるManop Pithukpakorn氏ががん個別科医療に関する特別講演を行った。
セッション1:局所進行子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の前向き観察研究(CERVIX-V)
(7) 順天堂大学医学部放射線医学教室・放射線治療学講座の先任准教授である小此木範之氏がCERVIX-Vのプロトコールと臨床転帰について説明した。
目標患者登録数は100名である。2017年5月から2023年10月までの間に108名の患者がCERVIX-Vに登録された。このうち99名が適格であった。FNCA参加国からの患者登録数は、バングラデシュ2名、中国16名、インドネシア9名、日本13名、カザフスタン8名、韓国0名、モンゴル4名、マレーシア11名、フィリピン8名、タイ32名、ベトナム5名である。
Cervix-Vの暫定的解析として、追跡期間中央値37.0か月となる患者99名についての解析が行われた。すべての患者が3D-IGBTの治療を受けた。うち34名では組織内照射を用いた治療が行われた。基準線量との比較では、90%の患者がすべての項目で線量制約を満たした。
毒性に関しては、グレード3の急性期血液毒性が27名(27%)の患者に、グレード3の急性期非血液毒性が3名(3%)の患者に認められた。グレード4又は重度の急性期毒性は見られなかった。グレード3以上の治療関連の晩期毒性が生じた患者はいなかった。
現時点の2年局所制御(LC)率、無増悪生存(PFS)率、全生存(OS)率は、それぞれ93.6%、76.7%、89.6%であった。最終観察日までに11名で局所再発が生じた。
(8) 続いてCERVIX-Vについての討論が行われた。
- 群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学講座の教授である大野達也氏が、CERVIX-Vの目標患者登録数が達成されたこと、プロトコールにより、残り1年の追跡が推奨されていることを確認した。CERVIX-Vの結果についての論文を適切な時期に発表するという提案も承認された。
- 全治療期間、局所領域再発の詳細、DFSの定義、死亡原因の分析、長期解析の必要性に関する議論が行われた。
セッション2:3D-IGBTのための品質保証/品質管理(QA/QC)
(9) 量子科学技術研究開発機構QST病院医療技術部放射線品質管理室の室長である水野秀之氏と、同室の研究員である中路拓氏が、シリラー病院におけるオンサイト三次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)線量調査についての予備報告を行った。End to Endテスト、アプリケータ・オフセット値、及び線源強度についての監査結果が許容範囲内であることが示された。
(10) 続いて討論が行われた。
上咽頭がんに対する導入化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第II相試験(NPC-III)
(11) 量子科学技術研究開発機構QST病院治療診断部頭頚部胸部腫瘍課の医長である牧島弘和氏が、国際的専門誌への提出が予定されている最終報告書のドラフトについて概説した。すべての出席者がその発表と著者の資格について合意した。合意された優先順位は以下のとおりである。優先順位1は各施設から1名ずつ、プロジェクトリーダー(加藤氏)、研究責任者(大野氏)、牧島氏、優先順位2は各施設の第2の著者、優先順位3はその他の代表者とする。各階層内での優先順位は、本試験に寄与した症例数によって決定される。
(12) 討論の後に、NPC-I試験との転帰の比較が行われた。予備的な傾向スコアマッチング解析では全生存率の改善が見られたが、局所領域再発率や遠隔転移発生率には有意差が見られなかった。この問題についてコメントが出され、再発症例の徹底的な検討が提案された。
昼食セッション
(13) 日本の国立がん研究センター中央病院の関野雄太氏がATLASプロジェクトについての講演を行った。
セッション3:乳がんに対する寡分割放射線療法の第II相試験(術後放射線療法(PMRT)及び全乳房照射(WBI)/BREAST-I)
(14) 東都大学教授の唐澤久美子氏がClinical Oncology誌で発表されたPMRT / BREAST-Iの解析済み臨床データの要約を発表した。要約は以下のとおりである。
2013年2月から2019年10月の間に222名の患者が登録された。各国の患者登録数は、バングラデシュ84名、中国13名、インドネシア0名、日本15名、カザフスタン20名、韓国0名、マレーシア0名、モンゴル26名、フィリピン18名、タイ0名、ベトナム46名であった。追跡期間は1〜114ヵ月で、中央値は64ヵ月である。晩期有害事象は、皮膚のグレード1が42%、グレード2が1%、皮下組織のグレード1が16%、グレード2が2%、乳房のグレード1が5%、肺のグレード1が6%、心臓のグレード1が2%であった。予後は、局所領域再発が7件、遠隔転移が33件、乳がん死が23件、併存症死が11件あった。5年局所領域制御率、無増悪生存率、全生存率はそれぞれ97%、84.6%、90.5%であった。上肢の浮腫についての測定及び評価が出来た者は77名(35%)で、上肢で2cm以上の差がある者や浮腫の自覚症状がある者は89.6%であった。
(15) 次に、唐澤氏がWBI / BREAST-Iの解析済み臨床データの要約を発表した。要約は以下のとおりである。
2013年2月から2018年10月の間に227名の患者が登録された。各国の患者登録数は、バングラデシュ31名、中国6名、インドネシア16名、日本134名、カザフスタン14名、韓国9名、マレーシア0名、モンゴル3名、フィリピン0名、タイ14名、ベトナム0名であった。すべての患者(228部位)がプロトコールの治療を完了し、解析の対象となった。急性有害事象は、皮膚のグレード1が80%、グレード2が11%、グレード3が2%、皮下組織のグレード1が11%、肺のグレード1が1%であった。追跡期間は6〜113ヵ月で、中央値は76ヵ月であった。晩期有害事象は、皮膚のグレード1が21%、グレード2が1%、皮下組織のグレード1が10%、乳房のグレード1が9%、肺のグレード1が2%であった。追跡期間が3年を超える患者の整容性は、優良が148名、良好が74名、可が3名、不良が3名であった。局所領域再発が2件、隔転移が7件、乳がん死が3件、併存症死が9件あった。5年局所制御(LC)率、無増悪生存(PFS)率、全生存(OS)率はそれぞれ99.6%、95.1%、96.1%であった。
続いてBREAST-Iの臨床データに関する公開討論が行われた。PMRTとWBIの両方の追跡期間が5年から10年へと延長されることとなった。
セッション4:骨転移に対する緩和的放射線治療(BONE-I)
(16) 牧島弘和氏が、新規に開始された骨転移に対する緩和的放射線治療に関する調査研究(BONE-I)について概説した。
同氏は、本ワークショップに先立ち実施された1回目のアンケート調査の結果も紹介した。結果の要約は以下の通りである。
- 6つの施設が参加し、3ヵ月以内に142名の患者が登録された。
- 回答の50%以上が30Gyの10回分割照射をより好んでおり、次に支持されたのが20Gyの5回分割照射で、8Gyの単回照射を好む回答は4%にとどまった。
- 2023年の調査では、全身状態(PS)の悪化、短い余命、患者の通院距離の長さが単回照射を好む理由となっていたが、これらの要因のいずれかを抱える患者が8Gyの単回照射をより好んでいたわけではなく、そのことは私たちの意思決定に矛盾があることを示していた。
- このような食い違いの理由は依然不明確であるが、傾向の変化を確認するために2年後(前回の調査からは3年後)に再度のアンケート調査を実施することで合意した。
(17) 続いて討論が行われた。
(18) 量子科学技術研究開発機構QST病院の副病院長である若月優氏が、緩和的放射線治療に関するIAEA/RCAプロジェクトの調査について発表した。
(19) 続いて討論が行われた。
セッション5:脳転移に対する緩和的放射線治療(BRAIN-I)
(20) マヒドン大学医学部シリラー病院放射線腫瘍学分野放射線医学講座の准教授であるKullathorn Thephamongkhol氏が、BRAIN-I(非小細胞肺がんにおける緩和的全脳照射による延命効果:予測モデルの外的検証とモデル更新)のプロトコールを発表した。
(21) Kullathorn Thephamongkhol氏とシリラー病院のチームは、背景と方法論、データの送付と点検の方法、症例報告書を使用する理由と研究ハイライトを紹介し、行動を喚起した。その予後予測多変量モデリング研究の研究デザイン及び概略的計画が提示された。
(22) 目標患者登録数は800名である。2024年11月16日までに、496名の患者がBRAIN-Iに登録された。うち233名が適格で、26名が審査中であった。参加国からの患者登録数は、中国20名、インドネシア1名、日本7名、フィリピン5名、タイ200名である。
(23) Kullathorn Thephamongkhol氏は、その研究のための行動計画案を発表した。治験審査委員会(IRB)への申請手続きの期間が2025年3月まで、完全なデータ収集期間が2025年10月までである。全脳照射の有無を問わず、2020年1月から現在までの間に非小細胞肺がん(NSCLC)の脳転移が認められた連続する患者のデータを後ろ向きに収集するコホートであり、2025年10月から2026年10月までがデータ解析期間となる。長期の追跡調査は必要とされないため、発表時期は2026年になる。すべての国が、国ごとに少なくとも25〜30名の患者のデータをこの研究に提供するよう要請された。
(24) 続いてBRAIN-Iの臨床データに関する公開討論が行われた。
- 加藤眞吾氏が頭蓋内活性を有する薬剤についての説明を行うことを希望した。
- 大野達也氏が、目標患者登録数を尋ね、患者を異なるタイムラインで登録することが可能であることを強調した。
セッション6:新規臨床試験と新規調査研究
(25)局所進行子宮頸がんに対して全骨盤の強度変調放射線治療(IMRT)及び3D-IGBTを用いる同時併用化学放射線療法についての臨床試験(CERVIX-VI)が大野達也氏より提案された。この新たな臨床試験のコンセプトと予備アンケートの結果が紹介された。
CERVIX-VIが観察研究として実施されることをすべてのメンバーが承認した。放射線治療の基本方針(目標線量、線量制約の値)についてコンセンサスが成立した。患者の選択、予防的照射の範囲、及び他の臨床試験との重複登録を許容するかどうかが論じられた。来年のワークショップでプロトコールの最終決定を行う予定となった。
マレーシア国立がん研究所の臨床腫瘍医であるRosdiana binti Abd Rahim氏より、局所進行直腸がんに対する術前短期放射線治療のためのアンケート調査を実施することが提案された。直腸がんの術前治療に関連するさまざまな要因についての議論が行われた。特に、対象患者、手術までの期間の差、化学療法レジメン、放射線治療実施のタイミングが議論された。アンケート調査票の作成はRosdiana氏が行う。
乳がんに対する術後超寡分割放射線治療のためのアンケート調査を実施するという別の案も唐澤久美子氏より提案された。個別の対象患者とブースト照射線量、並びに品質保証/品質管理(QA/QC)についての議論が行われた。アンケート調査票の作成は唐澤氏が行う。
セッション7:今後の計画
(26) 加藤眞吾氏が今後の計画と次に取り組む活動について説明した。
- 次回ワークショップは2025年10月13〜17日にカザフスタンのアスタナで開催される。
- 臨床試験
- Cervix-V:2年転帰(主要エンドポイント)を評価する。第1回報告書を発表する。追跡調査を継続し、長期転帰を評価する。
- Breast-I:プロトコールを改定する(エンドポイント:5年転帰から10年転帰へ)。追跡調査を継続し、10年転帰を評価する。
- Bone-I:2年後に再度の調査を実施する。
- Brain-I:追加データの入力を継続し、転帰を次回ワークショップで評価する。
- Cervix-VI:試験のプロトコールを次回ワークショップで最終決定する。
- Breast-II術後乳がんに対する超寡分割放射線治療:参加国に配布する予備調査のアンケートが提案された。
- 3D-IGBTに関するハンズオントレーニング
- 次回ワークショップでトレーニングセッションを開催する。
- 3D-IGBTのQA/QC
- 3D-IGBTのオンサイト調査を継続する。
- 次回ワークショップで結果を報告する。
- その他の活動
- IAEA/RCAとの協力:コラボレーションRCA/RAS 6098を継続する。
セッション8:ワークショップ議事録のドラフト作成
(27) ワークショップ参加者がワークショップの討論を振り返った。
議事録のドラフトが書記より提出され、議論が行われ、修正が加えられた。議事録のドラフトはワークショップ終了後に回覧され、最終決定される。
(28) 加藤眞吾氏が閉会の挨拶を行い、参加者全員に対して謝意を述べた。
セッション9:シリラー病院放射線腫瘍学分野へのテクニカルビジット
(29) マヒドン大学医学部シリラー病院放射線腫瘍学分野においてテクニカルビジットが開催された。
セッション10:公開講座
(30) ワークショップ最終日にシリラー病院で公開講座が開催された。
(31) Kullathorn Thephamongkhol氏がマヒドン大学医学部シリラー病院放射線腫瘍学分野放射線医学講座のJiraporn Setakornnukul氏とともに、セッションの進行役を務めた。
(32) 和田智明氏が、FNCAにおける最近の状況についてのプレゼンテーションを行った。
(33) 加藤眞吾氏が、「放射線腫瘍学とアジア諸国間の国際協力:FNCA放射線治療プロジェクト」という講演を行った。
(34) 大野達也氏が、「子宮頸がんに対する3D-IGBT:CTに基づくコンツーリングのガイドライン」という講演を行った。
(35) 牧島弘和氏が、「肝細胞がんに対する放射線治療」というタイトルの講演を行った。
(36) 韓国原子力医学院(KIRAMS)放射線腫瘍学部門の主任医学物理学者で主席研究員であるKIM Kum Bae氏が、肺がん及び/又は肝臓がんを対象とした4D CT画像解析を用いる治療計画での呼吸運動管理に関する講演を行った。
(37) 若月優氏が、がん放射線治療における粒子線治療に関する講演を行った。
(38) マレーシア国立がん研究所の臨床腫瘍医であるWinnie Ng Nyek Ping氏が、「臨床推論:トレーナーとトレーニーに向けて」という講演で自らの経験を語った。
(39) Yaowalak Chansilpa氏が閉会の挨拶を行い、公開講座は終了した。
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