2016年度 FNCA 原子力安全マネジメントシステムプロジェクトワークショップ 概要
2016年10月24日 - 28日
タイ・バンコク
開会
タイ原子力技術研究所研究炉管理グループ長のMr. SuthipongBoonmakにより、ワークショップが開会された。続いてTINT副所長のMs. NivapanPorematikulが歓迎挨拶の中で、所長のDrPornthepNisamaneephongが不在であることを謝罪しつつ、参加者を歓迎し、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)によるFNCA原子力安全マネジメントシステム(SMS)プロジェクトへの支援に対し感謝の意を表した。Ms.Porematikulはまた、TINTは安全を最優先しており、顧客サービス、投資利益、統合された安全マネジメントシステムの達成等、原子炉の安全かつ持続可能な運用を実現するその他の優先事項も重視していることを紹介した。
ANSTOを代表し、オーストラリアプロジェクトリーダーのMrHefin Griffithsが返礼の挨拶を行い、Ms.Porematikul及び原子炉管理者のMr. NarinKlaysubun、また研究炉の職員に向け、ピアレビューへの協力に対する感謝の意を述べた。また、ワークショップ及びピアレビュー開催国の職員に対し、プミポン・アドゥンデヤート・タイ国王の逝去直後という悲しみの時期に、ワークショップ及びピアレビューの準備を行った開催国の職員に対し謝意を示し、またプロジェクトを代表して哀悼の意を表した。
Mr.Griffithsは参加者、取り分け初参加者を歓迎し、初日は他人であってもワークショップを終える頃には友人になると述べ、ピアレビューの目的は安全性の向上という共通の目標に向け、互いに助け合うことであるとした。
Mr.Griffithsは、第17回FNCAコーディネーター会合を踏まえ、本会合がSMSプロジェクトの最後のワークショップとなり、この場においてプロジェクトの歴史を通じた教訓と成果を見出すべきであると述べた。
ワークショップ及びSMSプロジェクトの背景
各国からの参加者は自己紹介を行った。参加者リストは下記の通りである。
Mr. GriffithsはFNCAについて、日本が主導する、アジアにおける原子力技術の平和利用のための協力枠組であると紹介した。SMSプロジェクトはこの枠組における活動の1つであり、2009年に開始され、2013年まで実施される予定であったが、結果的に2016年まで延長された。プロジェクトはオーストラリアによって主導されており、自己評価・ピアレビューの取組を行っていた、前身の原子力安全文化プロジェクトを引き継いでいる。
SMSプロジェクトの目的は、自己評価及びピアレビューを通じ、原子力施設の安全マネジメントシステムの重要側面(Key Aspect)を特定すること、また合意に基づき、参加各国内の組織においてピアレビューを実施することである。初回のワークショップは2010年にシドニーで開催された。続いて、ワークショップ及びピアレビューが、2010年10月にセルポン(インドネシア)、2011年11月にクアラルンプール(マレーシア)、2012年10月にデジョン(韓国)、2014年5月にダッカ(バングラデシュ)、2015年6月にダラト(ベトナム)で開催された。Mr. Griffithsは、過去に培われた経験は、今回のピアレビューにおいても有用であると述べた。
またMr. Griffithsは、本ワークショップの活動についても述べた。アジェンダの最終版は下記の通りである。
タイにおける原子力関連活動
ピアレビューに先立ち、参加者に背景となる情報を提供するため、タイにおける原子力関連活動と規制機関に関する2つの発表が行われた。
Mr. Boonmakが、タイにおける原子力インフラと原子力エネルギーに関する紹介を行った。タイ電力開発計画(2015年)には、1,000MWの原子力発電所2基を建設する計画が記されており、1号機は2035年、2号機は2036年の運転開始が期待されている。この計画は福島第一原子力発電所事故後、大幅に縮小されたものである。
Mr.Boonmakは、タイ原子力技術研究所(TINT)と、通常出力1,200kWのTRIGA Mark III研究炉である、 TRR-1/M1の概要を説明した。TRR-1/M1はタイの首都であるバンコクにおいて、カセサート大学の隣、約13,000msの敷地に建設されている。
TRR-1/M1の炉心には、ウラン密度が異なる二種類(8.5wt%及び20wt%)のUZrH燃料(濃縮度約20%)が用いられている。燃料の被覆材はSUS304のステンレス鋼である。燃料中に可燃性毒物として0.5wt%のエルビウムを混入することで、TRIGA燃料の運転寿命を延伸するとともに、反応度フィードバックのための極短時間における負の温度係数の割合を有意なものにしている。
TRR-1/M1の運転はTINTの職務である。TINTはかつてタイ原子力庁(OAP)の一部であったが、2016年12月の行政改革の際分離した。この分離は、TINTによる原子炉運転の役割と、OAPによる規制組織としての役割を明確にした。TINTの職務は以下の通りである。
・国家の発展に沿った原子力科学技術の研究開発
・経済・社会・環境の発展に寄与する原子力技術の技術移転と助言の提供
・原子力技術・原子力/放射線安全に関わる業務等、原子炉の運営及び核物質の取り扱い
・国内外の組織との関係構築
・平和的利用に向けた原子力科学技術の推進
TINTの業務は以下の通りである。
・放射線安全サービス
・放射性同位体(I-131、Sm-153、Tc-99m)の製産
・Co-60線源及び電子加速器を用いた食品・医療機器・宝石の照射
TINTはバンコク、パトゥムターニー県、ナコーンナーヨック県において、3つのサイトを運営している。
OAP原子力安全規制局のMrChaiyodSoontrapaが、原子力平和法(1961年)に代わる、新しい原子力平和法(2016年)に関する発表を行った。新しい法律は、下記の国際条約への適合を目指し、IAEAの原子力法ハンドブック、またタイ及び諸外国の規制に関する法律に基づいている。
・原子力安全条約(CNS)
・放射性廃棄物等安全条約(Joint Convention)
・改訂版核物質防護条約(CPPNM)
・包括的核実験禁止条約(CTBT)
・追加議定書(AP)
新しい法律では、放射性物質の生産、所持、使用、輸入、輸出、輸送に関する許認可、放射線発生装置に関する特別許可、また立地、建設、試運転、運転、廃炉に関する個別の許認可についても記載されている。
カントリーレポート
各国参加者は、安全マネジメントの更新について発表を行った。発表の後は議論が行われた。発表により、ピアレビューを実施したか否かに関わらず、すべての国がSMSプロジェクトにより利益を得ているということが明らかになった。インドネシアは自己評価ツールを組織のレビューに用いている例を示し、中国はプロジェクトの取組が自国の安全文化醸成に役立った例を示した。倉田聡氏は、2004年以来の関与に基づき、SMSプロジェクトとその前身である原子力安全文化プロジェクトの成果に関する特別報告を行った。
カントリーレポートの多くは、原子力関連活動に関する既存の法律の更新または新しい法律の導入について言及していた。
特別セッション
ワークショップに先立ち、日本側事務局は、過去6回のピアレビューで見出された良好事例を抜粋した文書を作成していた。日本プロジェクトリーダーの呼び掛けにより、7年間のプロジェクト活動から導き出された良好事例集を作成することについて、すべての参加者が合意した。この取組により、2017年に開催されるFNCAコーディネーター会合に対し、プロジェクトの成果を示すことが出来る。
良好事例集はピアレビュー開催国による改訂を経て、コーディネーター会合への提出に向け、日本側事務局が取りまとめを行う。
前回ピアレビューのフォローアップ
コメント・改善提案に対するフォローアップの状況報告を、前回ピアレビュー開催国が行うことは、重要なステップである。ベトナムのDr. NGYEN NhiDienにより、前回のピアレビューを踏まえ、ベトナム原子力研究所(VINATOM)ダラト原子力研究所(DNRI)が行った改善の取組が報告された。改善推奨事項の多くについて改善措置が取られているが、いくつかは完全な実施までに時間を要することが認められた。
自己評価とピアレビュー
自己評価ツールはピアレビューの要であり、適切に使用することが重要である。ワークショップへの初参加者のため、Mr.Griffithsは、ピアレビューの目的に関する以前の発表を要約するよう倉田氏に依頼した。これにより、ピアレビューの範囲と役割、ピアレビューと査察の違いが明確になった。
ワークショップの結論と提言
TINTからの発表により、TRR-1/M1及び付属施設のピアレビューに向け、施設の概要を理解することが出来た。カントリーレポートは興味深く、歓迎された。
将来的な活動として、核セキュリティ文化と安全文化の対立について検討すること、リスクマネジメントを取り扱うことが薦められている。本プロジェクトがピアレビューの開発を成功裏に行ったことから、FNCAには、ピアレビューを他のプロジェクトにおいて適切な機会に利用することが求められる。
Mr. Griffithsにより、開催機関であるTINTと参加者の本プロジェクト及び原子力安全文化プロジェクトへのこれまでの貢献に対し、再度謝意が示され、ワークショップは閉会された。2つのプロジェクトは参加国間での良好事例の共有に貢献し、また将来さらなる共有が行われるための関係を構築した。Mr. Griffithsは過去のワークショップを支援し、指針を提示した倉田氏に対し謝意を示した。またFNCA日本事務局に対する感謝の意を表した。
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