FNCA 2011 バイオ肥料プロジェクトワークショップ
議事録
2011年9月27日 - 9月30日 モンゴル、ウランバートル市
1) ワークショップの開催概要
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期日 : 平成23年9月27日(火)〜30日(金) |
ii) |
場所 : モンゴル、ウランバートル市 |
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主催 : 文部科学省(MEXT)、モンゴル原子力庁(NEA)、モンゴル食糧・農牧業・軽工業省(MOFALI) |
iv) |
参加者 : 中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムより各1名、日本6名、モンゴル10名、合計22名 (添付資料2参照) |
v) |
日程 : 添付資料1参照 |
2) ワークショッププログラム
開会セッション
初日の開会セッションでは、モンゴル原子力庁(NEA)副長官のTseren Damdinsuren氏より挨拶があり、全ての参加者に対し厚く歓迎の意が表された。続いて、日本文部科学省(MEXT)の伊藤淳氏、およびFNCA日本コーディネーターの町末男氏より挨拶があり、モンゴル政府の温かい歓迎とワークショップ開催への協力に対し感謝の意が表された。
また、マレーシアプロジェクトリーダー(PL)のKhairuddin Bin Abdul Rahim氏およびフィリピンPLのJulieta A. Anarna氏が本ワークショップのラポーターとして指名された。
基調講演として、町氏より2010年〜2011年におけるFNCA活動について、10プロジェクトについて総括と2011年の活動計画が発表された。引き続き、日本PLである東京農工大学(TUAT)の横山正氏より、FNCAバイオ肥料プロジェクトの総括が行われた。
オープンセミナー - 持続可能な農業のための原子力技術の役割 -
ワークショップの初日にはオープンセミナーが開催され、モンゴルの大学および研究所の講演者より講演があった。初めに植物科学・農業研究所副所長のNoov Bayarsukh氏より、モンゴルにおける作物生産のための原子力技術の利用状況が報告された。続いてモンゴル国立農業大学(MSUA)農業生物学院長のNasandulam氏より、モンゴル国立農業大学(MSUA)における農業生物学研究の現状が紹介された。また、町氏より、持続可能な農業のための原子力技術の応用について発表があった。さらに、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)の安藤象太郎氏より、持続可能な農業とバイオ肥料の動向について発表があった。最後に、タイ農業局(DOA)のSompong Meunchang氏より、タイにおける作物収量増加のためのバイオ肥料利用に関するサクセスストーリーが紹介された。
セッション1: カントリーレポート
各国より、2007年〜2011年の研究サマリーが報告された。報告概要は添付資料3の通りである。
セッション2: 作物収量増加のためのバイオ肥料および農家への拡大戦略
バイオ肥料は有機肥料および化学肥料を補完するものとして利用されるべきである。耕作限界地におけるバイオ肥料研究はまだ多くないが、農耕地の様々な作物に対するバイオ肥料の必要な研究がまだ多く残っている。微生物育種プログラムを通し、バイオ肥料向けに多機能特性が向上した新たな菌株が得られる可能性がある。バイオ肥料およびその有益性に関する情報は、農家のみにとどまらず、政治家、行政、農業普及指導員、プランテーション産業界に広く伝達されるべきである。
セッション3: バイオ肥料接種材の商業用生産のための放射線処理利用の拡大
キャリアの照射滅菌は蒸気滅菌(オートクレーブ)と比べ、より良い結果をもたらすことが確認された。照射滅菌ではキャリア内の菌の生存期間が長くなり、また蒸気滅菌(オートクレーブ)より低価格である。さらに、照射滅菌は商業目的での大規模なバイオ肥料製造に効果的である。FNCA参加国においては政府および民間の照射施設が利用可能である。
参加国間においては、マレーシア(インドネシアでは小規模で)のみ民間企業が商業目的で接種キャリアの照射滅菌を行っており、他の国では照射滅菌は研究目的のみである。
プロジェクトリーダーは、自国の原子力研究機関とともにキャリアにおける照射滅菌利用を促進する努力を行うべきである。また、照射滅菌とオートクレーブ滅菌についてより正確なコスト比較を行うべきである。
セッション4: 多機能バイオ肥料開発の展望
Meunchang氏より、多機能バイオ肥料の機能的定義が示され、窒素固定、栄養供給、栄養吸収の強化、拮抗作用、および栄養素の無機化等の定義について議論された。栄養素の無機化については、議論を続けていくことで賛成された。横山氏より、植物の成長を促進する多機能バイオ肥料の有益な効果について報告され、植物病害を抑制する多機能バイオ肥料の開発については今後も研究していくべきであるとされた。今後、各国が開発を目指す新たな多機能菌株は以下の表の通りである。
国名 |
植物生長促進微生物 |
植物病原菌 |
その他 |
中国 |
リン溶解微生物 |
フザリウム病への拮抗作用 |
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インドネシア |
窒素固定菌、 カリウム溶解菌 |
フザリウム、R. solani |
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マレーシア |
窒素固定細菌、 リン・カリウム溶解菌 |
フザリウム、R. solani |
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モンゴル |
窒素固定細菌、 リン溶解菌 |
コムギサビ病、ジャガイモ病害 |
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タイ |
窒素固定細菌、 リン溶解菌 |
フザリウム、R. solaniによるショウガおよびトウガラシの病害 |
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フィリピン |
Bio-N + アゾトバクター |
イネおよびトマトの病害 |
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ベトナム |
窒素固定細菌、 リン溶解菌 |
フザリウム、R. solaniによるトウガラシ・トマトの病害 |
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日本 |
バチルス |
フザリウム、トマト青枯病 |
イオンビームを利用した微生物育種による非生物ストレス耐性の改良 |
セッション5: バイオ肥料と植物生長促進剤の相乗効果
近年、植物生長促進物質を併用したバイオ肥料の効果は、二窒素固定、リン溶解能、およびインドール酢酸(IAA)生産等の多機能特性を持つ微生物とのみ関係があることが分かった。マレーシアで行われた、イネに関する照射オリゴキトサンの研究について、植物生長促進特性によるものであるのか、あるいは植物病害防御効果によるものであるのか、オリゴキトサンが収量へ及ぼす効果について結論に達しなかった。今後、バイオ肥料と照射オリゴキトサンの相乗効果に関する試験を行う予定である。(添付資料4参照)
セッション6: FNCAバイオ肥料品質基準マニュアルの作成について
「タイバイオ肥料品質基準マニュアル」を基として、編集グループが原稿を作成しているところである。安藤氏より原稿に関する主なコメント、編集方法、質問の要点が発表され、全ての参加者により議論が行われ、以下の通り賛成された。
1. |
本マニュアルのタイトルは、「バイオ肥料品質分析に関するFNCAガイドライン」とすべきである。 |
2. |
本マニュアルの目的は、バイオ肥料に含まれる有用な微生物の同定および計算、および有効性試験を含むバイオ肥料の品質分析についての科学的出版物の発行である。 |
3. |
本マニュアルは、FNCA参加各国においてバイオ肥料の品質管理に関する参考本となるものであり、また参加国間のバイオ肥料品質基準を調和する一助となる。 |
4. |
貢献者については、マニュアルの編集に活発に参加する全ての人間を含む。 |
5. |
編集グループは、マニュアルの原稿を完成させ、コメントや編集のために全ての参加国メンバーおよび関係する専門家に送付する。 |
6. |
マニュアルのVolume Iは2012年に発行される。 |
セッション7: 2007年〜2011年のプロジェクトレビューおよびまとめ
5年間のプロジェクト活動の成果がまとめられた。バイオ肥料普及のための主な課題が議論され、各国より次のステップが提案された。新規フェーズでは、バイオ肥料の大量生産および利用拡大のための技術開発を主な目標とし、さらに、バイオ肥料と照射オリゴキトサンの相互効果に関する研究も行っていくことで賛成された。
セッション8: 次期ステージへの提言
2012年度から始まる次期ステージで実施すべき活動について議論が行われ、以下の通りまとめられた。
1. |
バイオ肥料と有機肥料および化学肥料との統合に関する展示圃の実施。 |
2. |
農家やプランテーション企業等のエンドユーザーのバイオ肥料受容を高めるための努力を行う。 |
3. |
バイオ肥料用微生物の同定と定量化に着目したFNCAバイオ肥料品質分析マニュアルvol.1を2012年に発行する。 |
4. |
各国はバイオ肥料プロジェクトにおけるサクセスストーリーを明確なものとする。マレーシアにおいてバイオ肥料会社が放射線照射技術を利用したバイオ肥料を製造していることは1つの成功例である。 |
5. |
商業利用に向けたキャリアの放射線滅菌の利用強化のためにさらなる努力を行う。 |
6. |
バイオ肥料と照射オリゴキトサンの相乗効果に関する研究を進める。 |
7. |
多機能バイオ肥料の改良のために放射線を利用した変異種を開発する。 |
8. |
全てを化学肥料に依存したものと比較したときの、バイオ肥料の有益性に関する展示圃の写真を含めた短い論文を準備する。そのため、有機肥料、バイオ肥料、植物残渣、および化学肥料で最も良い組み合わせが持続可能な農業に重要なものである。この論文は、政府職員や政治家にバイオ有機肥料拡大の重要性を納得してもらうために利用される。 |
セッション9: 総合討論および議事録
議事録およびまとめが議論され、全ての参加者により賛成された。これは2012年に日本で開催される第11回コーディネーター会合で報告される。2012年度のワークショップは、中国、ベトナム、韓国、バングラデシュが開催国候補とされる。
閉会セッション
モンゴル原子力庁原子力技術部長のGun-Aajav Manlaijav氏より閉会の挨拶があった。また、町氏よりモンゴルの温かいもてなしに感謝の意が表された。
3) テクニカルビジット
参加者達は、Buyanbaatar氏およびDashbaljir氏の協力のもと、モンゴル国立農業大学(MSUA)を訪問した。本学には10,000人の学生が在籍しており、そのうち農業生物学部には1,200人が在籍している。視察では、作物の種類、播種や収穫の時期、利用されている肥料や実施されている研究等が確認された。Buyanbaatar氏よりFNCAの活動目的等について質問があり、Iswandi Anas氏が簡単に説明を行った。議論の後、参加者達は学内にあるGIS研究室、土壌化学分析研究室、および微生物学研究室を視察した。
4) 添付資料
添付資料 1: FNCA2011バイオ肥料プロジェクトワークショップ プログラム
添付資料 2: FNCA2011バイオ肥料プロジェクトワークショップ 参加者リスト
添付資料 3: セッション1 カントリーレポートサマリー
添付資料 4: バイオ肥料と照射オリゴキトサンの相乗効果に関する試験
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