FNCA 2015 人材養成プロジェクトワークショップ
議事録
2015年8月19日〜21日
日本・福井県福井市
開会セッション
文部科学省 研究開発局 核不拡散科学技術推進室長の山村司氏が開会挨拶を述べ、東京電力福島第一原子力発電所事故後、平易な言葉でステークホルダーとコミュニケーションすることが出来る、原子力コミュニケーターの重要性が増していることを強調した。
またワークショップ参加者は、前FNCA日本コーディネーターの町末男氏を追悼し、黙祷を行った。続いて、若狭湾エネルギー研究センターの旭信昭理事長が歓迎挨拶を行い、日本国内において最大数の原子力発電所と、原子力に関する先進的な知識を持つ県として、継続的に原子力人材育成に貢献していくという福井県の意向を表明した。
ワークショップのアジェンダが修正なしで採択された。参加者は自己紹介を行った。
セッション1
日本プロジェクトリーダーの山下清信氏が、人材養成プロジェクトのこれまでの活動について説明し、2014年〜2016年までのフェーズにおける課題は、以下の2点であると述べた。
・原子力コミュニケーションに関する人材育成戦略の策定
・上級行政官による原子力人材育成の重要政策等に関する議論
セッション2-1
5ヵ国の参加者が、「原子力計画推進に向けたステークホルダー・インボルブメントのための国家政策」について、報告を行った。
東京大学環境安全本部 准教授の飯本武志氏が、日本の状況とエネルギー及び放射線に関する教育活動について紹介した。飯本氏は、福島事故後教育の方針が変更したことを説明し、また教科書やウェブプラットホーム等の補助教材の例を示した。
国別報告として、オーストラリアは原子力教育と協力活動について紹介した。インドネシアは、原子力発電計画の進捗と課題、またステークホルダー・インボルブメントに関する課題や問題点について報告を行った。中国は、原子力発電推進の過程におけるステークホルダー・インボルブメントの歴史、またステークホルダー・インボルブメントに関わる法律・規制等について紹介した。
特別セッション1
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)科学コミュニケーションセンター センター長の渡辺美代子氏が、「ステークホルダー・インボルブメントのための科学コミュニケーション」と題した特別講演を行った。渡辺氏は、一般市民からのニーズと科学者・技術者に対する信頼性、コミュニケーションに対する科学者の意識を引き合いに、科学コミュニケーションに求められている事項について説明した。またサイエンスアゴラ、地域ネットワークへの財政的支援、ウェブメディアや出版物による情報普及等、JSTによる活動についても紹介した。
特別セッション2
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)敦賀事業本部 業務管理部 福井共生室 室長代理の片岡史成氏が、「日本原子力研究開発機構敦賀事業本部における地域共生活動」と題した特別講演を行った。片岡氏は、サイトツアーや地方議会における説明会、各種会合、地域活動への参加、ボランティア等、JAEAによる研究開発に対する理解を深めるための活動について紹介した。
セッション2-2
6ヵ国からの参加者が、「原子力計画推進に向けたステークホルダー・インボルブメントのための国家政策」について、報告を行った。各国は国別報告として、主要なステークホルダーの特徴、ステークホルダー・インボルブメントのための取組や現在の活動について述べた。ステークホルダー・インボルブメントは、特に原子力発電計画推進の段階で重要であることが、参加者により認識された。
セッション2-3
セッション2-1及び2-2における国別報告の結論として、参加者により以下の点が認識された。
・新興国においては、原子力発電導入を決断する前に、政府は原子力発電に対する国民の認識と需要という2つの課題を乗り越えなければならない。
・原子力に関する情報の普及やステークホルダー・インボルブメントについて学ぶことが出来るため、新興国にとり、日本や他の原子力発電所稼働国におけるベストプラクティス及び教訓は、重要である。日本や他の原子力発電所稼働国は、幅広い経験を持ち、地域社会や政策決定者等のステークホルダーと交流を図るための手段や技術の改良を重ねてきた。
セッション3-1
7ヵ国からの参加者が、「原子力コミュニケーター育成に関する国家戦略」について、報告を行った。議論において、原子力コミュニケーターの人材育成を進めるため、国内の人材育成ネットワークを有効に機能させることが要請された。その場合、原子力発電導入を計画している国々にとり、日本の経験が役立つであろう。また福島事故以降、原子力コミュニケーターの役割が、いっそう重要性を増していることが認識された。
セッション3-2
4ヵ国からの参加者が、「原子力コミュニケーター育成に関する国家戦略」について、報告を行った。フィリピン、タイ、ベトナムによると、原子力発電計画の中で最も重要な課題は、原子力及び放射線安全に関する国民の認識と理解を喚起することである。一部の国々は、原子力教育や原子力コミュニケーターの人材育成が、国の原子力政策に含まれるべきであると述べた。原子力コミュニケーターの訓練が原子力新興国において重要な役割を果たすであろうこと、またその中で、国際協力が極めて重要となることが認識された。
セッション3-3
今後の協力の方向性と、参加国のニーズに関する円卓討議が行われた。(すべてが英語版ではないものの)学校向けの教材・教育内容を共有することについて、合意がなされた。参加各国は、各国の教育の状況に応じて、それらを採用することが可能である。国民に対するコミュニケーションとともに、教育の改善は可能であることが認識された。また、コンピューターゲームの開発についても、関心が示された。一方、原子力コミュニケーターの教育カリキュラムの一覧も有益であるが、聴衆や、原子力発電計画を策定する国ごとの違いを考慮しなくてはならない。
なお、原子力に対する否定的な姿勢に対応する観点から、”Debunk Handbook”が紹介された。
セッション4
山下氏は、2016年の人材養成WSの議題として、以下のトピックスを提示した。
a) 各国が教材を準備し、これらの教材を用いて学校で講義を行った実地経験を報告し、情報交換を行う。
b) 原子力人材育成ネットワークにより解決可能な既存の問題を明らかにし、ネットワークの効果的な運用方法を検討する。
c) 従来の発電用大型原子炉に対する優位性の観点から、原子力発電のための中小型炉の開発について議論する。
トピックc) は、軽水炉の人材育成と中小型炉のそれの間で、特に違いがないため、議題として適切ではないとされた。そのため、最初の2つの議題を検討することとなった。参加各国は、9月の第1週までに、これらの他に考えられるトピックスがあれば、提出するよう求められた。
なお、2016年の人材養成WSの議題は、2016年3月のコーディネーター会合において、最終的に決定される。
閉会セッション
山下氏が、WSの「結論と提言」案を提示し、修正を経て、最終決定された。「結論と提言」は別添の通りである。
山村氏により、閉会の挨拶が述べられた。
オープンセミナー「アジアにおける原子力発電・原子力利用の展望に関する公開セミナー」
8月21日、「アジアにおける原子力発電・原子力利用の展望に関する公開セミナー」と題したオープンセミナーが、福井県国際交流会館において開催された。以下の通り、挨拶及び講演が行われた。
1. |
開会挨拶:山村司(文部科学省) |
2-1. |
アジア原子力協力フォーラム(FNCA)のサクセスストーリー:山村司(文部科学省) |
2-2. |
急速に発展する中国の原子力発電の展望 : Mr. LIU Run(中国) |
2-3. |
オーストラリアにおける多目的研究炉利用の成功例 : Dr. Herma BUTTNER(オーストラリア) |
2-4. |
マレーシアの産業・農業における放射線利用の成功例 : Dr. Dahlan Bin HJ.MOHD(マレーシア) |
2-5. |
福井県における原子力発電の発展:吉川幸文(福井県) |
2-6. |
原子力発電の安全に関するANSN講師育成研修 : 北端琢也(若狭湾エネルギー研究センター) |
3. |
閉会挨拶 : 梅田武彦(福井県) |
福井原子力センター「あっとほうむ」における施設訪問
オープンセミナーの後、福井原子力センター「あっとほうむ」における施設訪問が実施された。
別添: 結論と提言
FNCA人材養成ワークショップ 結論と提言
(2015年8月、福井)
1. |
参加者は、FNCAの創設者である町末男氏に対し、深い哀悼の意を表し、彼のFNCA活動に対する多大な貢献について振り返った。 |
2. |
参加国の政府は、政策と財政の両面で原子力人材育成に高い優先順位を与えるべきであるとされた。 |
3. |
カントリーレポートの発表により、参加国は放射線利用と原子力発電の両分野で人材育成の強化に尽力していることが分かった。 |
4. |
カントリーレポートの発表により、原子力発電新規導入国は、原子力安全及びエネルギーに関する国民理解の促進を原子力発電導入に向けた最重要課題の一つと認識していることが分かった。 |
5. |
様々なステークホルダーとの信頼関係を築くために、原子力コミュニケーター育成の重要性が増していることが指摘された。 |
6. |
2つの有意義な発表、すなわち渡辺美代子氏による「ステークホルダー・インボルブメントのための科学コミュニケーション」及び片岡史成氏による「JAEA敦賀事業本部における地域共生活動」に関する発表に対し、謝意が示された。 |
7. |
講師育成事業の枠組みにおいて開催されている、原子力技術セミナー放射線基礎教育コースについて、文部科学省に対する謝意が示されるとともに、本セミナーの継続が要望された。 |
8. |
ANTEPは、人材育成の需要と提供されるプログラムをマッチングするための優れた仕組みであることが認識されるとともに、参加国に対しANTEPをさらに有効活用するよう奨励された。 |
9. |
研究者育成事業(NREP)及び講師育成事業(ITP)等、新興国を支援するための国際的人材育成プログラムにつき、文部科学省に対して謝意が示された。文部科学省の国際的人材育成プログラムによる多大な貢献は、参加国における原子力分野の研究者・技術者が、原子力科学技術や原子力コミュニケーションの様々な分野において、基礎的・先進的な経験を獲得することを可能にしている。 |
10. |
福井県及び若狭湾エネルギー研究センターが、日本の原子力人材育成ネットワークとともに、「IAEA/ANSN住民理解に関する講師育成研修」を開催したことに対し、謝意が示された。 |
11. |
日本の原子力人材育成ネットワークが、IAEAとともにアジア各国に学校教育向けの原子力科学の教材を提供していること、また試験的プロジェクトとして学校における原子力科学教育を支援していることに対し、謝意が示された。 |
12. |
下記のトピックスを次回2016年度のワークショップにおいて取り上げることが検討された。 |
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(a) |
参加各国が教材を準備し、これらの教材を用いて学校で講義を行った実地経験を報告し、情報交換を行うこと |
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(b) |
原子力人材育成ネットワークにより解決可能な既存の問題を明らかにし、ネットワークの効果的な運用方法を検討すること |
参加者は、2015年9月第1週までに、FNCA事務局に宛て、次回ワークショップの望ましいトピックスを提出することが求められた。
次回人材養成ワークショップのトピックスの選定は、次回コーディネーター会合で決定されるべきであることが提案された。
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