FNCA 2016 人材養成プロジェクトワークショップ
議事録
2016年8月1日〜3日
マレーシア・カジャン
開会セッション
FNCA日本アドバイザーの南波秀樹氏が開会挨拶を述べ、すべての参加者に対する歓迎の意をと、WS開催国マレーシアによる後援と歓待に対する感謝の意を表明した。またFNCAの経緯と、ANTEPや人材育成(HRD)ネットワーク等、人材養成プロジェクトの成果についても言及した。
続いてマレーシア原子力庁長官のDr. Muhamad bin LebaiJuriが、海外及びマレーシアからの参加者に対し歓迎の言葉を述べ、WSにおいて、有意義かつ生産的な議論と教師との相互交流が行われることを期待した。
国際原子力機関(IAEA)アジア太平洋課長のDr. Jane Gerardo-Abayaが、WSへの招待について謝意を示し、放射線教育の推進に携わってきた自身の経歴を紹介した上で、次世代に正しい知識を伝えるために、教師との協力が重要であると強調した。
セッション1:FNCA及び人材養成プロジェクトの概要
日本プロジェクトリーダーの山下清信氏が、FNCAの体制と、人材養成プロジェクトのこれまでの経緯と活動について、発表を行った。
セッション2:原子力プログラム推進のためのステークホルダー・インボルブメントの国家政策
マレーシア原子力発電公社(MNPC)のMr. Jamal Khaer Ibrahimが、「原子力プログラム推進のためのステークホルダー・インボルブメントの国家政策」と題した発表の中で、原子力発電計画、ステークホルダーの特徴等、マレーシアのエネルギー政策、また近年のステークホルダー・インボルブメントに関する活動について紹介した。参加者はステークホルダー・インボルブメントの重要性を認識し、特に教育に関わる活動に興味を示した。
セッション3:カントリーレポート
参加12ヵ国の代表者は、「中高等学校における放射線科学に関する講義の経験」について、カントリーレポートを発表した。カントリーレポートの概要は別添の通りである。
セッション4:FNCA人材養成プロジェクト/IAEA技術協力プロジェクト特別共同セッション「中高等学校における放射線教育活動の推進−IAEA技術協力プロジェクトからの教訓と今後について」
IAEA TCプロジェクトRA0065「アジア太平洋地域における原子力関連組織ネットワーク化と持続的支援」の主な成果は、教育資源及び中高等学校教師のための活動を要約し、一覧表(Compendium)を作成したことである。FNCA側からの参加者にも、一覧表について知っている、または利用したことのある参加者があった。IAEAのDr. Gerardo Jane Abayaによると、一覧表を読んだことはないが興味がある参加者に対して、コピーを回覧することが可能である。TCプロジェクトに所属していないグループからも多大な関心が寄せられているため、プロジェクトを他のフォーラムや地域に拡大させる可能性がある。FNCA参加国は、IAEAからの招待を待つことなく、自身で参加を決断することが出来る。
Dr. Gerardo Jane Abayaは、教材、霧箱実験及びはかるくんの記述、中高生向け放射線副読本”Let’s Start Learning Radiation”等、一覧表作成における日本の貢献に対し、謝意を表明した。プロジェクトの中でも最も評判の良い活動は、霧箱実験とはかるくんによる放射線測定である。
東京大学の飯本武志氏が、線量計を持たない学校のための実験動画等、代替的な手法について紹介した。はかるくんと同じような教育目的の線量計は、300ドル〜400ドルで購入可能とのことである。
セッション5:教師との情報交換
セッション5及び6においてWS参加者は、教師との情報交換と放射線科学に関する授業の視察のため、カジャン・イスラム中高等学校(SMAP)を訪れた。
はじめに、SMAP校長であるMr. Tuan Haji MohdAbd Aziz bin Muhmudが歓迎挨拶を述べ、SMAPで行われている原子力科学技術に関する教育が、WSの良い参考となることを期待するとした。続いて教育省カリキュラム開発課課長補佐のDr. Rusilawati Othmanがスピーチを行った。またマレーシアのカリキュラム開発に関する発表と、原子力科学に関するSMAPの経験についても発表が行われた。
セッション6:放射線科学・原子力に関する授業の視察
WS参加者は、物理の授業で得た知識を基に生徒が制作した、以下に関する展示物を視察した。
−はかるくんによる環境放射線測定
−原子構造
−放射線検出器
−放射性崩壊
−様々な分野における放射性同位体利用
−原子力エネルギー(核分裂、連鎖反応)
−原子炉/原子力発電所
−生徒による新素材の開発
WS参加者は生徒の学習の成果について説明を受けた。
続いて、WS参加者は放射線に関する授業が行われる様子を視察した。まず教師が放射線に関する基礎的な情報と、霧箱によって放射線の飛跡を観察する方法を説明した。生徒は各自で霧箱を制作し、観察を試みた。
その後のグループ討論において、生徒より実験は興味深く有益であったとの感想が述べられた。また生徒とWS参加者との間で、放射線・原子力分野におけるキャリアの見通しについて、質疑応答が行われた。
セッション7:原子力人材育成ネットワークに関する情報交換
山下氏がFNCA参加国の原子力人材育成ネットワークについて、各国に確認を行った。各国のネットワークは、政策や国の状況に基づき、独自の特徴を持っている。山下氏は各国の代表者に、ネットワークに変更が生じた場合は日本のFNCA事務局である原子力安全研究協会に通知するよう依頼した。
セッション8:参加国におけるステークホルダー・インボルブメントの良好事例に関する円卓討論
討論の結果、以下の結論に至った。
1. |
参加国は中高等学校における原子力科学技術普及を支援している。 |
2. |
参加国は「講師育成システム」を導入し、教師に原子力科学技術について学ぶ機会を提供しており、この手法は原子力科学技術の普及にあたり有効かつ効率的であるとみなされている。 |
3. |
原子力人材育成ネットワークのように、原子力科学技術の推進においては、関連するステークホルダーとの強固かつ効率的な協力関係が有益な仕組みとなる。 |
4. |
原子力科学技術の普及と教育にあたっては、実践的なオンライン研修、ソーシャルネットワーク、携帯アプリ等、現代的で効果的、魅力的かつ適切な取組・ツールを導入することが望まれる。 |
5. |
政府の方針は原子力科学技術に関する教育の導入と維持を決定的に後押しする要因であり、さらには国の教育カリキュラムと教科書への統合を可能にするものである。この統合は、科学技術・工学・数学に対する関心を広げることに貢献する。 |
6. |
前期中等教育/中学校等、早い段階において原子力科学に関する基本的な知識を普及するべきである。 |
7. |
IAEAとの協力は、アジアの中高等学校において原子力科学技術教育の活動を強化するにあたり、非常に有益であった。 |
セッション9:人材養成プロジェクトの評価
南波氏が現行のFNCAプロジェクトと、2015年から2016年にかけて開催されるFNCA大臣級会合、コーディネーター会合、上級行政官会合の予定について報告した。またスタディ・パネルの関連情報とともに、FNCA活動の評価手法が見直されていること、人材養成プロジェクトの刷新が提案されていることも述べた。ANTEPは文部科学省の技術者交流事業(NREP)に引き継がれることとなっている。
この後、山下氏が3年評価について、プロジェクト最終報告、プロジェクト提案、プロジェクト評価といった手順が提案されていることを説明した。人材養成プロジェクトは3年の活動期間を終えるため、2017年3月のFNCAコーディネーター会合において、継続か否かの判断をFNCAコーディネーターに仰ぐことになる。FNCAコーディネーターは、現在検討されている評価のフォーマットを用いて、評価を行う予定である。こういった手順は日本の内閣府により検討されており、2016年の8月に最終化される。
閉会セッション
山下氏がWSの「結論と提言」の文案を提出し、WS終了後、修正のため参加者に回覧されることとなった。「結論と提言」は下記の通りである。
文部科学省の春日章治氏により、閉会挨拶が述べられた。
<結論と提言>
1. |
中高等学校の科目は、大学レベルでどういったコース/プログラムを追求すべきか、決断するための基本的な理解と知識を提供する。そのため生徒が原子力科学技術に関心を抱くよう引きつけることが重要である。 |
2. |
政府の方針は原子力科学技術に関する教育の導入と維持を決定的に後押しする要因であり、さらには国の教育カリキュラムと教科書への統合を可能にするものである。この統合は、科学技術・工学・数学に対する関心を広げることに貢献する。 |
3. |
人材育成ネットワークの最大の成果として、日本の人材育成ネットワークが、IAEA技術協力プロジェクトRAS0065の参加国を支援していることが挙げられる。日本のネットワークは、日本における中高等学校を対象とした原子力科学技術教育の経験やノウハウを収集し、アジア各国に紹介している。この活動は参加各国から高く評価された。 |
4. |
WSにおいて、原子力の国民理解に向けた、原子力科学教育の重要性が認識された。 |
5. |
原子力技術者交流事業(NREP)は、アジア各国の研究機関の研究開発能力向上に大きく貢献してきた。またこの継続と、原子力発電新興国のために、日本によるNREPのような交流プログラムの実施が強く望まれている。 |
6. |
講師育成研修(ITC)とフォローアップ研修(FTC)から成る講師育成事業(ITP)は、アジア各国における自立した研修コースの確立に大きく寄与してきた。この継続と、日本や他の原子力発電稼働国による、ITPのような講師育成プログラムのさらなる実施が強く期待される。 |
7. |
ANTEPはNREPに非常に有益である。積極的な利用が望まれる。 |
オープンセミナー
8月3日、マレーシア原子力庁においてオープンセミナーが開催され、下記の講演が行われた。
1. |
オンライン研修による原子力教育の推進:Dr. Muhammad Rawi Mohamed Zin、マレーシア原子力庁(MNA)
マレーシア原子力庁は、履修科目に原子炉実験を導入したマレーシア工科大学(UTM)やテナガ・ナショナル大学の学生を対象に、研究炉施設の利用を認めている。このため、承認を受けた学生に対し、インターネットで炉心の状況を配信する取組を行っている。また、学生が携帯アプリからアクセスすることが出来る教科書や動画等を含む電子書籍も制作した。 |
2. |
福島第一原子力発電所事故後のリスクコミュニケーション:山下清信、FNCA人材養成プロジェクトリーダー
福島第一原子力発電所事故発生後、ホールボディカウンター(WBC)による線量測定、JAEAによる電話相談等のリスクコミュニケーションが行われた。これらの活動に基づき、JAEAはよくある質問や懸念事項を導き出し、より優れたコミュニケーションの方法を探っている。リスクコミュニケーションの成否は、放射線に対する正しい理解にかかっているため、教師からの協力を得ることが重要である。 |
3. |
ベトナムにおける原子力協力の計画:Dr. PHAM Ngoc Dong、ベトナム原子力研究所(VINATOM)
VINATOMは、国レベルの人材育成ネットワークにおいて重要な役割を果たしている。原子力発電計画実施のため、人材育成と能力構築には高い品質が求められている。放射線科学/原子力に関する教育訓練は、大学や高等教育のみならず、小学校から高等学校のレベルでも求められている。放射線科学/原子力に関する項目を、中高等学校の時間割に取り入れることがベトナムの課題である。 |
4. |
中高等学校における放射線教育の進め方:Mr. Dimas IRAWAN、インドネシア原子力庁(BATAN)
教師にとって、生徒を科学に引き寄せることは力量を試される課題である。インドネシアの学校では、放射線に関する授業を楽しく実用的に行い、また放射線が実生活に役立つものであることを実感出来るよう、霧箱実験、原子力施設訪問、天然放射性鉱物を利用した実験等が実施されている。 |
マレーシア原子力庁へのテクニカルビジット
オープンセミナー修了後、マレーシア放射線化学実験所におけるテクニカルビジットが実施された。WS参加者は、ガンマ線分光分析器、アルファ線/ベータ線計測システム、アルファ線分光器を視察した。
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