平成21年度FNCA放射線治療ワークショップ 議事録(仮訳)
平成21年1月18日(月)-21日(木)
マレーシア、サラワク州、クチン市
(1) 平成21年3月に行われた第10回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)と同年12月に行われた第10回FNCA大臣級会合の合意に従って、平成21年度FNCA放射線治療ワークショップが平成22年1月18日から21日にかけてマレーシアサラワク州のクチン市内で開催された。会合は、マレーシア厚生省と日本の文部科学省(MEXT)の共催であり、日本の原子力安全研究協会(NSRA)との協力により実施された。FNCAの9加盟国、すなわちバングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、そしてベトナムからの代表者がワークショップに参加した。
開会式(2) 開催国を代表してサラワク州厚生局長ザルキフリ・ジャンタン氏が開会挨拶を行い、ワークショップは公式に開会した。彼は、科学技術の枠組における本プロジェクトの重要性を強調した。日本のプロジェクト・リーダーである辻井博彦氏が挨拶し、会合の目的とプログラムの概要を説明した。
(3) タン・ティンスィー氏が、「マレーシアにおける放射線治療の現状」を演題とする特別講義を行った。彼は、マレーシアにおける放射線治療の歴史と現状を説明した。
(4) 議題が採択され、議長と書記が選ばれた。 (別添1参照) すべての参加者が紹介された。
セッション1: 局所進行子宮頸がんに対する化学放射線治療の第2相試験 (CERVIX-III)(5) 局所進行子宮頸がんに対する化学放射線併用療法(CCRT)の第2相試験の臨床データが参加各国の代表者から発表された。(患者数は、中国18名、インドネシア 5名、日本 32名、韓国10名、マレーシア14名、フィリピン12名、タイ19名、ベトナム10名). 追跡調査データの総括が日本の加藤真吾氏により発表された。第IIB期の患者60名と第IIIBの患者60名からなる合計120名の患者が登録され分析された。4年のフォローアップ率94%のデータでは、治療による急性副作用の発生および程度は許容範囲内であり、最後期の合併症は軽度あるいは中等度であった。グレード3-4の遅発性の直腸と膀胱の合併症は、それぞれ6.7%と0%だった。治療後4年の全生存率と局所制御率は、それぞれ60.4%と78.4%だった。障害の発生パターンについて、興味深い議論があった。障害の部位は18%が局所であり、34%が遠隔転移である。遠隔転移の障害が起こる主たる部位としては、傍大動脈リンパ節への転移が17名、鎖骨上リンパ節への転移が見られた患者は10名だった。CERVIX-IIIの結果は国際的に認知された臨床試験報告の成績と比肩できるか、或いはそれより優れたものになっている。これは、化学放射線併用療法がFNCA加盟国の局所進行子宮頸がん患者にとって、実現可能で効果的な治療法であることを示すものである。直腸および膀胱への線量と遅発毒性の関連が評価された。少なくとも治療後5年間、追跡調査を継続することが推奨された。
セッション2: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第2相試験(CERVIX-IV)(6) 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第2相試験(CERVIX-IV)の臨床データが参加各国の代表者から発表された。 (患者数は、バングラデシュ2名、中国3名、インドネシア8名、日本8名、韓国7名、マレーシア1名、フィリピン4名、タイ1名、ベトナム0名である。).加藤真吾氏が臨床試験データの総括を発表した。治療後1年の局所制御率は100%、1年無憎悪率は83%だった。しかし、登録患者数が、尚もって少ない。更なる患者登録が要請され、治療の安全性と効果を検証するために、より長い追跡調査が必要とされた。
(7) CERVIX-IV の臨床試験データに関する自由討議が行われた。患者登録上での難しさは、腹部および骨盤へのCTスキャンの実施がプロトコールに定められている点、骨盤と膨大動脈の部位が同時に治療される場合の毒性、そして治療費にある。毒性の減少が観察されたこと考慮して、昨年発表された修正プロトコールを今後継続することが決まった。毎週の化学療法の回数は、5-6回が良い。全体の治療時間は60日を超えるべきではない。データ集計センターは、平成22年4月までに修正した治療プロトコールを各国に送る予定である。
(8) 子宮頸がんの次回臨床試験に関する自由討議が行われた。実施中の様々な臨床試験が加藤氏から発表され、FNCA加盟国内で実施できる実現可能性が議論された。韓国のチョー氏は、韓国で実施している3週間置きにCDDP 75 mg/m2を投与する療法の臨床データを次回FNCA会合において発表するよう、求められた。
セッション3: 外照射治療のQA/QC(9) 4カ国4治療センターの14ビームについて行われたガラス線量計を用いた相互比較測定報告が、水野秀之氏によって発表された。全14ビームはすべて最適水準内であった。
(10) 次回の調査スケジュールに関し更なる調査を必要とする国として、バングラデシュとベトナム(ハノイ)が残っている。
(11) 水野秀之氏がFNCA加盟国における医療物理士の状況調査の進捗を発表し、発表中に欠落していた情報も更新した。
セッション4: 上咽頭がん(TxN2-3)に対する化学放射線療法の第2相試験(NPC-I)(12) 上咽頭がん(TxN2-3)に対する化学放射線療法の第2相試験( NPC-I)の最近の臨床データが参加各国の代表者から発表された。(患者数は、バングラデシュ1名、中国5名、インドネシア5名、日本0名、韓国5名、マレーシア25名、フィリピン5名、タイ5名、ベトナム82名である。) 大野達也委員が、他の臨床試験との比較を示しながら、FNCA NPC-I臨床試験結果に関する総括と評価を発表した。 彼は、このFNCA臨床試験では他の試験に比べ全生存率が下がってきている点を強調した。このため、現在のNPC-Iプロトコールを改善するための議論を実施した。N2とN3別、そして骨シンチの有無に着目したサブグループ分析が必要である。更に、臨床試験の比較対照のため、放射線治療のみ行われた患者からなる治療群が必要である。
(13) 新規患者登録は2009年に閉じている。総患者数は128名である。長期間における有効性と遅発毒性を確認するために更なる追跡調査が必要である。
セッション5: 上咽頭がん(T3-4 N0-1) に対する化学放射線療法の第2相試験 (NPC-II)(14) 上咽頭がん(T3-4 N0-1)に対する化学放射線療法の第2相試験( NPC-II)における59名の患者からなる最近の臨床データが参加各国の代表者から発表された。患者数は、バングラデシュ0名、中国0名、インドネシア12名、日本0名、韓国0名、マレーシア6名、フィリピン0名、タイ1名、ベトナム40名である。大野達也委員が、FNCA NPC-II臨床試験結果に関する総括と評価を発表した。患者の76%が6サイクルの化学療法を完了している。シスプラチンの平均投与量である165mg/m2という数値は、チャン氏が実施した臨床試験における値174-187 mg/m2より、若干少ない。吐き気、嘔吐、白血球減少の発生もまた、チャン氏の試験より少ない。毒性は制御可能なものばかりであったが、数名がグレードIVの毒性を示した。腫瘍消失率(CR)は96%であり、これはT-3からT-4という対象病期を考えれば満足できる結果である。36ヶ月の平均追跡期間における3年全生存率は80%である。
(15) 登録患者数は59名である。新規患者の登録が提案された。その一方で、長期間における有効性と遅発毒性を確認するために更なる追跡調査が必要とされた。
(16) 自由討議において、大野委員がNPC-IのT-3とT-4のサブグループを分析し、局所制御の観点でNPC-IIのデータと比較することを提案した。
セッション6: サラワク総合病院放射線治療部門の視察(17) ワークショップ参加者はサラワク総合病院の視察を実施し、治療部門を見学した。すべての参加者は、治療部門による歓迎に大変感謝した。本部門で成功をおさめている疼痛管理プログラムが参加者間で共有された。
セッション 7: 将来計画と他の活動(18) 放射線治療が治療の一役を担える他のがんについて、議論があった。合意には達しなかった。更なる調査が推奨された。
(19) 臨床試験NPC-Iの初期の結果が、国際誌での公開のため投稿されるだろう。5年での臨床試験結果を得るため、追跡調査が継続されるだろう。
(20) 臨床試験NPC-III は、標準的な技術あるいはIMRTで実施されるだろう。シスプラチンと5-FUを2-3サイクル投与する化学療法が、ネオ・アジュバント療法として使われるだろう。
(21) 参加国内でのFNCAプロトコールの受入られ方につき、別添2参照。
(22) 参加者は、次回ワークショップについて、政府の合意を条件として日本開催を提案した。仮の開催日程は2010年11月である。
(23) 国内および国際会議においてFNCAの結果を発表することの重要性が、強調された。
セッション8: ワークショップ議事録草稿(24) 会合議事録の草稿が示され、議論と改訂作業が行われ、その後採択された。
閉会式(25) 参加者は開催委員会、特にタン・スウィンシー氏とC・R・ビーナ・デビ氏のすぐれたワークショップ運営と手厚いもてなしに感謝を表明し、辻井博彦主査のリーダーシップと原子力安全研究協会に感謝を表明した。また特に、日本文部科学省に本プロジェクトへの支援継続に対する感謝を強調した。閉会の辞は辻井博彦主査代理として井上武宏委員が行い、本プロジェクトの将来に対する期待並びに主催者と参加者に感謝を表明した。マレーシア原子力庁(Nuclear Malaysia)副長官(実務担当)のモハメド・ノール・モハメド・ユヌス氏が公式にワークショップを閉会した。
セッション9: 公開講座(26) ワークショップの一環として、サラワク総合病院において公開講座が開催された。辻井博彦主査代理として井上武宏委員が開会の辞を述べ、サラワク総合病院院長であるジュナイディ・ディキ氏が歓迎挨拶を述べた。5人の講師による5講演があった。(プログラムは別添1参照). 放射線腫瘍医、医療物理士、放射線治療技師、看護士、他部門の医師および医学生からなる64名の聴講があった。
別添 2 : 参加国内でのFNCAプロトコールの受入られ方
国名 |
NPC I |
NPC II |
CX I |
CX II |
CX III |
CX IV |
バングラデシュ |
|
|
|
- |
|
|
中国 |
|
|
|
- |
|
|
インドネシア |
|
|
|
|
|
|
日本 |
|
|
|
- |
|
|
韓国 |
|
|
|
|
|
|
マレーシア |
|
|
|
- |
|
|
フィリピン |
|
|
|
|
|
|
タイ |
|
|
|
|
|
|
中国 |
|
|
|
- |
|
|
= 受入られている、 = 完全には受け入れられていない
参加国に対してFNCAプロトコールがもたらしたインパクト
バングラデシュ
バングラデシュでは、世界保健機関(WHO)調査によると、毎年20万人以上のがんの新規患者が診察されている。がん治療センターは充分なものではない。そのため国立病院における患者の待機時間が非常に長いものになっている。ネオ・アジュバント化学療法は治療の遅延のため色々なケースで使用されている。現在のバングラデシュでは、進行上咽頭がんと子宮頸がん治療に対しては化学放射線併用療法が好まれ、実施されている。FNCAは共に活動し、研究結果を相互比較し、子宮頸がんと上咽頭がん患者のより良い治療のために治療法を国内普及させるための良好な討論の場になっている。
中国
CERVIX-IIIは私の病院での標準的治療法になっている。今後、新規のCERVIX-IV適用患者も増えるだろう。 医療保険の適用により、80-90%の患者は充分な治療を受けることが出来ている。昨年からは、IMRTによる治療も開始した。そのため、プロトコールに従い、NPC-IIとNPC-IIIにより多くの患者登録を行うだろう。
インドネシア
一般的には、子宮頸がんと上咽頭がんのFNCAプロトコールは受け入れられており、我々の治療手順のひとつとして導入されている。障害としては、婦人科医師との治療方針の違いに起因し、スラバヤにおける子宮頸がんプロトコールの登録が困難になっている点がある。経済的に困難な部分が特に化学療法ではあり、多くの患者(全体の60%)が低所得で社会経済的な問題を抱えている。沢山の臨床結果が存在しているので、他の専門家全員がFNCAのプロトコールを理解し、そして受け入れているという訳ではない。
韓国
現在、5つの大病院が局所進行子宮頸がん治療プロトコールとしてCERVIX-IIを導入している。彼らは、過去5年間における治療結果に非常に満足している。プロトコールCERVIX-IIIは、既にKyung-Hee 大学病院および Eul-Ji 大学病院を含めた幾つかの病院で導入されている。優れた治療結果を期待して今後2年に沢山の使用例が登録されるだろう。
マレーシア
プロトコールCERVIX-IIIは、我々の部門の子宮頸がん治療に導入されている。この研究成果は2009年4月に開催されたICARO(放射線治療の進歩に関する国際会議)で発表された。プロトコールNPC-Iは、我々の部門の標準的治療として受け入れられている。プロトコールNPC-IIは上咽頭がん症例で観察されている遠隔転移のため、若干の難しさが出ている。修正後のプロトコールCERVIX-IVは実施し易いものなので、適用が増えるだろう。FNCAの会合は、そこで発表される治療結果と参加者との議論とが我々の治療行為に直接的な効果を与えており、我々にとって非常に重要なものになっている。FNCAはアジア地域の患者に焦点を絞っており、その治療成果が直接我々の患者にとっての実益になっている。このため、これまでのFNCA会合が我々の国にとって非常に有益であったと感じている。我々にとって、西洋における臨床試験のデータを持つことより、アジア地域で実施した臨床試験結果を保有することが、より実用的であり有益である。
フィリピン
FNCAの諸活動は、子宮頸がんと上咽頭がん治療に対する放射線治療法の利用において、非常に大きな影響力を持っている。FNCAの他の臨床試験で使われたプロトコールが今では子宮頸がんと上咽頭がん治療における現在の臨床業務の一部になっている。FNCAの諸活動への参加は、アジア地域での放射線治療業務における相違点と共通点を正しく認識させる機会を我々に与えている。こうした機会は、これらのがんについての我々の理解を本当に深めてきた。プロジェクトが参加国に与えた非常に大きな利益に鑑み、これらの活動が活発に継続することが望まれる。
タイ
私の病院では、プロトコールCERVIX-Iが化学療法で対処する前には標準的治療法であった。プロトコールCERVIX-IIは、私が担当したある研修医の小研究に取り上げられてきた。研修後、彼女は医薬分子構造設計(SBDD:Structure-Based Drug Design)を彼女自身で考案し、彼女の病院で標準的に投与した。彼女はタイの国家的研究フォーラムに膨大なデータを提出し、2009年の最高位を受賞した。 プロトコールCERVIX-IIIは標準的な治療法、臨床の手引きであり、医学生と研修医には放射線治療の訓練において馴染み深いものになっている。プロトコールNPC-IとNPC-IIはこれまで議論され続けてきたが、最終的に腫瘍医を説得しきれずにいる。彼らは相変わらず私が服薬遵守より遠隔転移を恐れているものと考えており、そのため、彼らはINT0099療法に固執している。
ベトナム
子宮頸がんと上咽頭がんに対するプロトコールは、私達の病院の標準プロトコールになった。私は、FNCA会合参加者とだけではなく病院の若いスタッフと最新の知見を共有することが出来る。FNCAに参加する前は、私は子宮頸がんと上咽頭がんの放射線化学併用療法には、さほど興味がなかった。しかし、毎年のFNCA会合を通して、私は今やこのプロトコールを採用するよう同僚を説得出来るまでになっている。
|