2012年度 FNCA 放射線治療プロジェクトワークショップ 議事録
2013年1月15日〜1月18日
タイ バンコク
(1) アジア原子力協力フォーラム(FNCA)第13回FNCAコーディネーター会議の合意に従って、2012年度 FNCA放射線治療ワークショップが2013年1月15から18日にかけてタイのバンコクで開催された。会合はタイ原子力技術研究所(TINT)、マヒドール大学シリラート病院および日本文部科学省(MEXT)によって共催された。FNCAの11加盟国、すなわち、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムから、また国際原子力機関(IAEA)からのオブザーバーとして原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定(RCA)の3加盟国であるミャンマー、パキスタン、スリランカが同ワークショップに参加した。
開会式
(2) マヒドール大学シリラート病院医学部放射線治療科准教授であるYaowalak Chansilpa氏が本セッションの司会を行った。
マヒドール大学シリラート病院医学部放射線治療科科長・准教授のVutisiri Veerasarn氏が本ワークショップを公式に開催した。同氏は、FNCAプロジェクトに対するタイの協力を強調した。同氏は開会の挨拶も行い、本ワークショップに対する全面的な支援を行うとした。その後、放射線医学総合研究所(NIRS)の前理事である辻井博彦氏が挨拶を行った。
(3) マヒドール大学シリラート病院医学部助教授のNantakan Apivarodom氏およびKullathorn Thephamongkhol氏が乳がんに関して特別講演を行った。同氏らは、2D、3DおよびIMRTを含めて、全乳房照射の原理および手法について述べた。乳がんに対する術中乳房部分照射(IORT)も紹介され、その一般概念と問題点が議論された。
(4) 5名の新メンバーである、日本の高井良尋氏、カザフスタンのTasbolat Adylkhanov氏、ミャンマーのKhin Cho Win氏、パキスタンのMasooma Riaz氏、スリランカのYasantha Ariyaratne氏が自己紹介を行った。
(5) アジェンダが採択され、セッション議長と書記係が選出された (プログラム参照) 。
セッション1: 局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第II相試験(CERVIX-IV)
(6) 埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科教授の加藤真吾氏がCERVIX-IVのプロトコールを紹介し、追跡調査データの概要についても報告した。本プロトコールには83名が登録されており、その半数はステージIIB期であり、残りの半数はIIIB期であった。2012年末時点でのフォローアップ率は99%(78/79例)であった。局所進行子宮頸がんに対する拡大照射野を用いた放射線治療と同時化学療法の第II相試験(CERVIX-IV)の臨床データが各参加国の代表者により発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(21名)、中国(6名)、インドネシア(6名)、日本(19名)、韓国(7名)、マレーシア(5名)、フィリピン(4名)、タイ(4名)、ベトナム(5名)。
放射線医学総合研究所(NIRS)重粒子医科学センター病院医師の若月優氏が臨床データの概要を報告した。全参加国から登録された総患者数(83名)のうち79名は評価可能であるとされた。
(7) その後、CERVIX-IVの臨床データに関する自由討議が行われた。本プロトコールの試験に関して、目標患者数100名に到達するまで患者の募集を継続することが決定された。
セッション2: 上咽頭がん(any T、N2-3)に対する化学放射線療法の第II相試験(NPC-I)
(8) 最初に、群馬大学重粒子線医学研究センター教授の大野達也氏がプロトコールおよび追跡調査データの概要を報告した。121名の登録患者中77名の生存患者の経過観察期間中央値は46カ月である。3年局所制御率および生存率はそれぞれ89%および66%であった。
NPC-I臨床試験の結果は、Journal of Radiation Research(2012年)に掲載された。加えて、査読者のコメントが紹介され、その内容について討議された。今後発表する論文では、様々な文化背景と制約事項を抱えたアジア諸国での多施設間共同臨床試験の実施の重要性を強調するべきである、との意見がだされた。
(9) その後、本セッションの自由討議が行われた。
セッション3: 上咽頭がん(T3-4、N0-1)に対する放射線化学療法に対する第II相試験(NPC-II)
(10) 若月優氏がNPC-IIのプロトコールを紹介した。NPC(T3-4、N0-1)に対する放射線化学療法に対する第II相試験(NPC-II)の臨床データが参加各国の代表者により発表され、以下の患者数が報告された。バングラデシュ(0名)、中国(0名)、インドネシア(13名)、日本(0名)、韓国(0名)、マレーシア(6名)、フィリピン(0名)、タイ(1名)、ベトナム(54名)。大野達也氏が70症例の臨床データの概要を発表した。
(11) その後、上咽頭がん(T3-4、N0-1)(NPC-II)の臨床データに関する自由討議が行われた。NPC IプロトコールのT3-4、N0-1サブグループと比較した場合、局所制御率が予想より低い理由に議論が集中した。放射線治療の技術上の差(2D対3D)、サブグループの維持化学療法(アジュバント化学療法)の有無または自然経過といった複数の仮説が提示された。
セッション4: 新加盟国からのカントリーレポート、FNCAとIAEA/RCAの協力
(12) カザフスタン代表のTasbolat Adylkhanov教授およびミャンマーのKhin Cho Win氏によりカントリーレポートが発表された。パキスタンのMasooma Riaz氏は乳がんおよび子宮頸がんの発生率および治療について発表した。スリランカのM. A. Yasantha Ariyaratne氏は、スリランカにおける上咽頭がんに対する治療の現状について発表した。
セッション5: 上咽頭がんに対する同時化学放射線療法(CCRT)の第I/II相試験(NPC-III)
(13) 若月優氏がプロトコールNPC-IIIを紹介した。上咽頭がんに対するCCRTの第II相試験(NPC-III)の臨床データが参加各国の代表によって発表され、以下の患者数が報告された。 バングラデシュ(1名)、中国(4名)、インドネシア(6名)、日本(0名)、韓国(0名)、マレーシア(9名)、フィリピン(7名)、タイ(0名)、ベトナム(10名)。NIRS重粒子医学センター病院治療課第三治療室室長の唐澤久美子氏が臨床データの概要およびFNCA NPC-IIIの臨床試験結果の評価を発表した。患者は、男性29名および女性12名であった。患者の100%は導入化学療法を受け、73%はCCRT(化学療法4サイクル以上)を受けた。17名(41%)がCCRTを中断し、毒性はNPC-Iに比べ軽度であった。
(14) 次いで、NPC-IIIに対するCCRTの第I/II相試験の臨床データに関する自由討議が行われた。これまでのところ、ほとんどの国では、プロトコールは忍容性があり、より多くの症例登録が期待できることが明らかになった。
セッション6: 新プロトコール
(15) 辻井博彦氏が本セッションの概要および目的を説明した。
(16) 加藤真吾氏がCERVIX-Vの試験計画に関する発表を行った。3つの臨床研究案が発表され、討議された。
A) |
| 3D画像誘導小線源治療(IGBT)
目的、主評価項目、副評価項目および試験の概要が発表され、討議された。
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B) |
| 局所進行子宮頸部腺がんに対するCCRTの第II相試験
症例数が少ないため、現時点では行わず今後の会合で引き続き検討することが合意された。
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C) |
| 骨盤リンパ節転移を有する局所進行子宮頸部扁平上皮がん患者に対する予防的傍大動脈放射線療法の有無でCCRTを比較するランダム化臨床試験
ランダム化臨床試験の実現性が討議された。CERVIX-IV完了後に本プロトコールによる試験の開始を検討することで合意された。
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(17) 唐澤久美子氏は、乳房温存術および乳房切除術後の患者に対して寡分割放射線療法を用いた乳がんのプロトコールを発表した。同氏は、従来の分割法と比較した本療法の安全性および有効性を確認し、利便性および費用対効果に優ることを確認することが目標である、と述べた。参加者は本臨床試験プロトコールに同意し、試験プロトコールに関する最終的な細目の検討を行った。本ワークショップ終了後に、症例登録を開始することに合意した。
(18) その後、乳がんのプロトコールに関する提案について自由討議が行われた。参加者からの提案を取り入れ、今回のワークショップ終了までにプロトコール改訂版を配布することとなった。
セッション7: 外部照射治療の品質保証/品質管理(QA/QC)
(19) 10治療施設15設備の42ビーム(4-18 MV)で行われたガラス線量計を用いた相互比較測定の概要に関する報告が、NIRS重粒子医科学センター物理工学部重粒子設備室長の福田茂一氏より発表された。今年度は、ベトナムの国立がん病院で測定が行われた。今後は、カザフスタンおよびオブザーバー参加のミャンマーなどの新参加国を含めてさらにQAを行うことになる。
(20) Chumpot Kakanaporn助教授が、放射線療法の先進技術に関するQAについて講演を行い、その中でQA/QCの必要性、技術、方法および外照射治療で頻発する放射線療法の過誤の類型について述べた。
セッション8: マヒドール大学シリラート病院のテクニカルビジット
(21) 参加者はマヒドール大学シリラート病院のテクニカルビジットを行った。Chokechai Maetheetrirat教授が参加者を迎え、病院の沿革および業績を紹介した。参加者は大きな感銘を受けた。その後、院内の放射線療法設備の見学を行った。Suvanit Theerasakvichaya准教授が病院でのがん登録について紹介した。
セッション9: シリラートピヤマハラートガルン病院のテクニカルビジット
(22) 参加者はシリラートピヤマハラートガルン病院(SIPH)のテクニカルビジットを行った。午後には、タイ伝統医学科を訪問し、Tawee Laohapond准教授からタイ伝統医学について説明を受けた。
セッション10: 将来計画、その他の活動
(23) 次回のワークショップのスケジュール、その他の活動に関して、以下の事項について協議の上、合意された。
1. |
| 次回ワークショップを、2013年11月25〜30日(第一候補)または2013年11月18〜23日(第二候補)に韓国で開催することに同意した。 |
2. |
| 辻井博彦氏は、メンバー国に対して、今後の学会での発表にFNCAプロトコールの試験結果を使用するように確認した。 |
3. |
| 同氏は、IAEAメンバー国の参加継続の重要性も強調した。 |
4. |
| 本プロジェクトの継続性および成功を保証するために、今後の会合では、FNCAおよびIAEAの代表は当該国から任命された同一人物であるべきことが合意された。 |
セッション11: ワークショップの議事録草稿
(24) 書記によって示された議事録の草稿について、協議の上、修正が行われた。議事録はワークショップ参加者によって満場一致で採択された。
閉会
(25) 辻井博彦氏が閉会の辞を述べ、その中でタイおよび参加者の貢献に対する感謝と本プロジェクトに対する将来の期待を表明し、公式にワークショップを閉会した。
セッション12: 一般公開講座
(26) ワークショップの一環として、Jasmine Executive Suiteで一般公開講座が開催された。開会式では、タイ放射線腫瘍学会会長のPrasert Lertsanguansinchai准教授が歓迎挨拶を述べた。聖ルークス医療センター/ホセ・レイエス記念医療センター 科長のMiriam Joy. C. Calaguas氏およびサラワク総合病院放射線・放射線がん治療・緩和ケア部上級顧問臨床腫瘍医のBeena Devi氏が本セッションの司会を行った。
(27) 最初の講演として、NIRSの唐澤久美子氏がFNCA放射線治療プロジェクトを紹介する講演を行った。
(28) 画像誘導適応小線源治療(IGAB)のテーマで、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科教授の加藤真吾氏が講演を行った。
(29) 体幹部定位放射線治療(SBRT)のテーマで、弘前大学医学部放射線科学講座教授の高井良尋氏が講演を行った。
(30) 群馬大学重粒子線医学研究センター教授の大野達也氏が粒子線治療について講演を行った。
(31) 最後の講演として、韓国原子力医学院(KIRAMS)、韓国がんセンター病院(KCCH)の院長であるChul Koo Cho氏がサイバーナイフ治療のテーマで講演を行った。
(32) FNCAプロジェクトリーダーであるNIRSの辻井博彦氏の挨拶をもって公開講座は閉会した。
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