2020年度 FNCA放射線治療プロジェクトオンラインワークショップ
概要・報告
2020年11月27日
期間:2020年11月27日(金)
開催:Zoom
主催:文部科学省(MEXT)
参加人数:44名(バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム)
2020年度FNCA放射線治療ワークショップが2020年11月27日に開催されました。本ワークショップは文部科学省(MEXT)により主催されたものです。バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムから44名が参加しました。


開会セッション
本プロジェクトの日本リーダーの加藤真吾氏(埼玉医科大学)が挨拶を行い、ワークショップは開会しました。
続いて、FNCA日本コーディネーターの和田智明氏、FNCA日本アドバイザーの南波秀樹氏及び文部科学省の鈴木哲氏より挨拶がありました。
局所進行子宮頸がんに対する3次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT)の前向き観察研究 (CERVIX-V)
プロトコールCervix-Vは、腫瘍がある子宮腔内での照射をより正確かつ安全に行える新しい治療法です。アプリケータ(管)を腔内に入れた状態でCTやMRIで撮影することにより、アプリケータと腫瘍、周囲臓器との位置関係を把握することができ、そのCTやMRIを専用の治療計画装置に取り込むことで、周囲臓器への照射線量を抑えつつ腫瘍に高線量を集中投与するため、患者の副作用を減らすメリットがあります。
2018年よりCervix-Vへの患者登録が始まっています。
本ワークショップ時点で登録されていた各国の患者数は、バングラデシュ1名、中国7名、インドネシア9名、日本5名、カザフスタン6名、韓国0名、マレーシア10名、モンゴル2名、フィリピン8名、タイ12名、ベトナム0名であり、患者総数は60名でした。
日本より、登録患者の臨床データのまとめが報告されました。
60名中、54名が適格とされました。予備解析として、追跡機関が6ヵ月を超える42名の患者について解析が行われました。すべての登録患者が3D-IGBTの治療を受けました。
基準線量との比較では、ほぼすべての患者がその線量を満たしました。
-39名(93%)の患者がハイリスク臨床標的体積(HR-CTV) D90について目標線量を達成。
-41名(98%)の患者が膀胱D2ccの線量制約を達成。
-41名(98%)の患者が直腸D2ccの線量制約を達成。
-40名(95%)の患者がS状結腸D2ccの線量制約を達成。
グレード3*1の急性血液毒性が5名(12%)の患者に見られましたが、これらの毒性は管理可能なものでした。また、グレード3以上の急性非血液毒性がこれまでのところ1名(2%)の患者に見られましたが、晩期毒性については、グレード3以上はこれまで見られていません。
2年全生存(OS)率、局所制御(LC)率及び無病生存(DFS)率はそれぞれ91%、88%、72%でした。
Cervix-Vの患者登録は順調に進んでいます。メンバーは患者登録の継続を奨励されました。
※1 グレード:有害事象の重症度を意味する。有害事象共通用語規準(CTCAE)では、グレード(Grade)は1〜5まである。
上咽頭がんに対する導入化学療法と同時併用化学放射線療法(CCRT)の第U相試験(NPC-III)
プロトコールNPC-IIIは、頸部リンパ節に転移のある上咽頭がん症例に対し、導入化学療法を行った後、放射線療法と化学療法を同時併用するプロトコールです。放射線療法と化学療法を同時併用した後で、化学療法を追加するプロトコール(NPC-I)との違いは、化学療法の順番を同時併用の前に行う点にあります。
本プロトコールへ登録されている登録患者数は120名です(バングラデシュ1名、中国9名、インドネシア12名、日本0、カザフスタン0名、韓国0名、マレーシア31名、モンゴル0名、フィリピン7 名、タイ 0 名、ベトナム60名)。患者登録は2019年に完了しています。
日本より、登録患者の追跡調査データ解析結果のまとめが以下の通り報告されました。
登録患者の追跡期間中央値は38ヵ月です。
2019年に登録された急性毒性に関する一部の追跡データがまだ提出されいないため早急な提出が求められました。
治療結果はNPC-Iにほぼ匹敵する結果でしたが、NPC-IIIは局所領域制御(LC)率が有意にNPC-Iより低く、その一方で有意に全生存(OS)率が高く、最終結果のためにはさらなく経過観察が必要とされました。
本臨床試験の主要エンドポイントは3年全生存率です。今後さらに2年間の追跡の後、3年間の追跡結果を暫定報告書とする予定です。

乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験 (術後放射線療法(PMRT)/BREAST-I)
プロトコールBREAST-Iは、局所進行乳がんに対する乳房切除後の胸壁と鎖骨上窩への領域照射を行う治療法(HF-PMRT)と早期乳がんに対する乳房温存術後の全乳房照射(HF-WBI)において、1回の照射線量を通常よりやや増加させることにより、総線量を低下させて治療期間を約3分の2に短縮する治療法(HF-WBI)のふたつに別れます。この治療法は多くの先進諸国で乳房照射に使われ、治療効果が同等で有害事象が同等かやや少ないことがわかってきています。
PMRTへ登録されている登録患者は222名です(国別では、バングラデシュ84名、中国13名、インドネシア0名、日本15名、カザフスタン20名、韓国0名、マレーシア0名、モンゴル26名、フィリピン18名、タイ0名、ベトナム46名)。
プロトコール目標症例集積数が200名のところ、222名の患者が登録されています。登録時に解析されていなかった1名の患者データが2020年に新たに加えられています。
日本より、PMRTの臨床症例データ解析結果のまとめについて報告が行われました。
グレード2以上の急性皮膚炎が15%の患者に、グレード2の皮下急性毒性が1%の患者に見られました。グレード3以上の晩期毒性は見られませんでした。3年局所領域制御(LC)率及び無憎悪生存(PFS)率は、それぞれ96.9%、88.9%でした。
共同研究者にはグレード評価を適切に行うことが求められました。また、現時点での急性毒性に関する報告を行うことが同意されました。
PMRTの患者登録は2019年に完了しており、主要エンドポイントは5年局所無再発生存率です。患者登録のさらに4年間の患者の追跡が必要です。
乳がんに対する寡分割放射線療法の第U相試験(全乳房照射(WBI)/BREAST-I)
本プロトコールへ登録されている登録患者は227名(乳病巣は228)です。国別では、バングラデシュ31名、中国6名、インドネシア16名、日本134名、カザフスタン14名、韓国9名、マレーシア0名、モンゴル3名、フィリピン0名、タイ14名、ベトナム0名です。
2013年2月から2018年10月までの間に227名の患者がWBIプロトコールに登録され、その治療を完了した患者227名(腫瘍228)についての解析が行われました。
日本より、WBIの臨床症例データ解析結果のまとめについて報告されました。
グレード2〜3の急性皮膚炎が13%の患者に見られ、局所領域再発は1例、遠隔転移は4例、また乳がんによる死亡が3例見られました。
グレード3以上の晩期毒性は見られませんでした。3年局所領域制御率及び無増悪生存率はそれぞれ99.6%、98.6%でした。
PMRT同様、WBIの共同研究者にはグレード評価を適切に行うことが求められました。また、現時点での急性毒性に関する報告を行うことが同意されました。
WBIの患者登録は2018年に完了していますが、有効性評価のためにさらに3年間の患者の追跡が必要です。
Breast-I(PMRTとWBI)の臨床試験は、これまでのところ非常に適切に実施されています。
3D-IGBTにおける品質保証/品質管理(QA/QC)
本活動は、多国間の共同研究を効果的に行うため、各施設が信頼できる線量測定法を整備することを目指して、子宮頸がんに関わる線量測定や線源の放射線校正等の品質保証/品質管理(QA/QC)を対象としています。
Cervix-Vで3D-IGBTを扱うことに伴い、2019年より各国の治療施設における3D-IGBTにおける線量調査が実施されていましたが、2020年はCovid-19の影響で各国での調査を一時中断しています。
本ワークショップでは、日本より、中国とフィリピンの計4病院で実施された線量調査(2019年10月(中国:蘇州大学付属第一病院)、2020年1月(フィリピン:フィリピン総合病院、聖ルーク医療センター(ケソン市、グローバルシティ))の結果が報告されました。主な内容は以下の通りです。
-4病院での線量監査は首尾よく実施された。
-全ての施設において、測定したA点※2、膀胱と直腸の線量は治療計画システム(TPS)計算値と許容範囲内で一致した。
-アプリケーターオフセット値の病院側の申告値と実測値に2mmの誤差が認められた。後日病院スタッフが再測定した結果、実測値と一致した値を示し、修正がなされた報告があった。最終的に、オフセット値は全ケースで一致した。
−全ての病院において、線源強度の測定値と治療計画システムへの登録値は許容範囲内で一致した。
訪問調査はCOVID-19の状況が改善した後に再開される予定です。
※2 A点線量:従来の腔内照射における病巣の線量基準点(A点)は、原発巣の治療効果を表す線量のこと。

特別企画−FNCA参加国におけるCOVID-19の危機下での放射線治療の現況
2020年ワークショップの特別企画として設けられた本セッションでは、2020年のCOVID-19禍で通常の医療活動が難しかった中、メンバーがどのように放射線治療を行っていたが報告されました。
プロジェクトに参加している11ヵ国の15病院それぞれより、COVID-19に関する国別データや統計、また感染リスクを回避して放射線治療を実施するために行った取り組みや戦略が報告されました。
患者と医療従事者の感染リスクを抑えるために、より積極的に寡分割放射線療法が行われるべきであり、FNCA参加国間では緩和的放射線治療を含む安全で有効な寡分割放射線療法の治療レジメンが確立されることが望まれます。


将来計画
1) 新たな臨床試験(骨転移と脳転移に対する放射線治療)
2019年度ワークショップでは、骨転移と脳転移に対する放射線治療が新たな臨床試験として提案されました。プロトコール案の作成にあたり、ワークショップに先立ちFNCAメンバー間でのアンケート調査が実施されました。
日本の牧島弘和氏より脳転移に関するアンケート結果、また臨床試験の概要とプロトコール案についても紹介されました。
プロトコール案の議論ポイントである1)追加の副次的アウトカム、2)症例数、適格/除外基準3)有効性の評価方法について、メンバーは今後、それらの要点についてのコメント及び要望を今後、Eメールを通じて話し合います。
また、 タイのKullathorn Thephamongkhol氏より、脳転移に対する放射線治療についてのアンケート結果として、FNCAメンバーの病院における「緩和的治療の環境」と「症例管理」についての回答の要点が報告されました。
アンケート結果に基づき、いくつかの潜在的プロトコールが提案されました。
実践としての単群試験(QoL試験)、変動を解消するための無作為化対照試験(RCT)、技術転移のための前向き研究、生存利益/不必要な全脳放射線治療(WBRT)回避を予測するための後ろ向き研究等です。
メンバーは、骨転移、脳転移に対する緩和的放射線療法の臨床試験について、今後Eメールで話し合っていくこととしました。
2) 2021年度ワークショップ
2021年度のワークショップは、COVID-19の感染拡大が落ち着いていた場合、モンゴルで9月頭に開催される予定です。
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