2006年度FNCA放射線育種ワークショップ議事録
2006年9月11日−15日
2006年3月1日〜3日に東京で開催された第7回アジア原子力協力フォーラム( FNCA )コーディネーター会合の合意に基づき、 2006 年度 FNCA 放射線育種ワークショップが次の通り開催された。
日 程 : |
2006年9月11日(月)−15日(金) |
場 所 : |
高崎市
日本原子力研究開発機構(JAEA)高崎量子応用研究所 |
主 催 : |
文部科学省(MEXT) |
協 力 : |
日本原子力産業協会 (JAIF) |
参加者 : |
中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの8カ国から合計17名が参加。さらにオブザーバーとしてバングラデシュより1名が参加 |
開会セッション:
まず、 文部科学省研究開発局原子力計画課調査員の宮澤堅一氏 が開会挨拶を行い、次いで 日本のプロジェクトリーダーである中川仁氏が歓迎の挨拶を述べ、その後引き続き FNCA 放射線育種プロジェクトの概観について発表を行った。
セッション 1 :サブプロジェクト「ソルガムとダイズの耐旱性」
中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムから、ソルガムとダイズの耐旱性について 2006 年度進捗状況報告および最終報告が行われた。最終報告は、添付文書IIIに纏められた通り参加国によって合意された。
研究進捗状況と成果、および 今後に残された問題と課題について議論が行われた。議論された主な点と合意事項は下記の通りである。
<ソルガム>
インドネシアと中国は、合計 12 (インドネシア 10 、中国 2 )の高収量で高品質という特性を備えた耐旱性ソルガムの突然変異系統を育成した。これらの系統は育種利用のみを目的として両国間で相互に交換された。
中国では、有望突然変異系統の「 Yuantian 1 」が公開され、およそ 1,000 ヘクタールの圃場で実証展示が行われた。ガンマ線、陽子線、電子線、シンクロトロンがソルガムに与える影響が研究され、予備試験として適正線量が決定された。インドネシアから導入された 5 つのソルガム系統のうちの 1 つである「 ET/20/477 」 が、中国における ス イートソルガム育種プログラムに利用され、高バイオマスと高い糖含量を備えたいくつかの有望個体が得られた。
インドネシアでは、中国から導入されたすべてのソルガム系統が良い生育状況と良好な特性を示した。「 Zhenzhu 」 は、その耐旱性と高収量から突然変異プログラムに用いられた。ガンマ線照射を用いた誘発突然変異によって、乾季に高収量を示す耐旱性突然変異系統が作出された。現在、これらの系統は公開のために必要な特性調査を行っているところである。一方 、「 Durra 」 と「 Zhenzhu 」 を母材として、 イオンビーム照射を用いた突然変異の誘発を 2005 年に開始した。
このプロジェクトは今年度で終了するため、参加国(中国とインドネシア)は FNCA のこれまでの支援と協力に感謝を表明した。このプロジェクトの大きな成果は、両国において品質特性の改良育種などの更なるソルガム育種プログラムにとって有益なものとなるであろう。従って、新しい品質改良育種プロジェクトにおいて検討が必要である。さらに、新規プロジェクトでは中国、インドネシアおよび日本の間での照射サービスや専門家の交換において、 FNCA の支援が必要である。
<ダイズ>
各参加国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)が進捗状況および最終報告を発表した。
インドネシアは、 M6 世代における純系選抜によって 8 つの耐旱性突然変異系統を育成した。また、 2004 年に突然変異系統「 GH-7 」を「 Rajabasa 」と命名して公開した。さらに、突然変異系統の「 M-220 」もまた国家種子評価委員会によって評価され、今後 2 回の複数場所での収量試験が必要とされ、その後 2007 年半ばに公開されると予想される。
一方フィリピンでは、耐旱性を持つベトナムからの導入品種と地方品種の両方の M3 〜 M6 世代の中から、耐旱性と高収量を備えた 3 つの有望突然変異系統が得られた。
ベトナムは、 耐旱性と高収量を備えた新しい突然変異品種である「 DT-96 」を育成し、 2004 年に公的品種として公開された。また、 M3 世代における純系選抜によって 3 系統が育成された。さらに、ハノイ農業支場での現地適応性検定試験の結果、「 01/245 」系統(ガンマ線 200 Gy 照射)は大きな種子と高収量、「 58/012 」(ガンマ線 250 Gy 照射)系統は早生性、「 96/26 」系統(ガンマ線 150 Gy 照射)は耐旱性と高収量を示した。
また、これまでの出版物が各国から挙げられた。フィリピン、マレーシア、ベトナムは各々 1 つの学術論文、インドネシアは 2 つの出版物を報告した。上記の成果に対する評価として、社会経済的影響(社会への貢献度またはプロジェクトの目的の達成度)には 5 点、科学的影響(基礎技術や活動)には 3 点をつけた。
議論の後、すべての参加国はこのプロジェクトを 2006 年に終了することに合意した。
全ての参加国は、他分野への波及効果または育成した品種のエンドユーザーへの利益について発表した。インドネシアでは、 2.2 トンの「 Rajabasa 」の種子が種子増殖のため認可された栽培者に配布され、ベトナムでは、約 100 トンの「 DT-96 」品種の証明種子が商業種子生産のために栽培者に配布された。これまで、「 DT-96 」の栽培面積は年間約 3,000 ヘクタールである。一方、フィリピンでは、 Bulacan 国立大学( BNSU )との共同研究が PNRI-GIA を通じて行われた。この制度は、育成された突然変異系統を大規模集団で選抜するための試験区域を提供するであろう。
ソルガムとダイズのサブプロジェクトは、添付書類IVの通り参加者によって評価された。
セッション 2 :サブプロジェクト「バナナの耐病性」
2006 年 7 月 2 5 日から 28 日にフィリピンで開催されたバナナ耐病性専門家会合について、マレーシアのプロジェクトリーダーから報告が行われた。発表の後、バナナプロジェクトの中間報告と今後の計画について議論が行われ、添付書類Vの通り承認された。
セッション 3 :サブプロジェクト「ランの耐虫性」
ランの耐虫性について、 2006 年度の進捗状況報告がインドネシア、マレーシア、タイから行われた。以下の通り、現在の状況と将来の活動計画が議論され合意された。
3 種のランからの全ての外植片タイプについて LD 50 (半数致死線量)が得られた。タイは、 D. sonia cv. ‘No 17 Red' と D. sonia cv. ‘Earsakul' にスリップスを自然条件下で蔓延させた in vivo 選抜を開始した。マレーシアは、照射苗においてハダニに対する in vitro 選抜法を開発し、抵抗性を備えた可能性のある苗を更なる選抜のため温室に移した。今後、対象とする害虫の人工的蔓延法(挑戦的接種法)による選抜を開花期に実施する予定である。詳細な現状は添付書類VIの通りである。
セッション 4 :特別講演
「 FNCA の展望と放射線育種プロジェクトについての見解」と題した基調講演が、日本 FNCA コーディネーターの町末男氏から行われ、続いて 4 件の特別講演が以下の通り日本とバングラデシュから行われた。
- 講演 1 「日本における突然変異育種の 45 年間と将来」中川仁 氏
- 講演 2 「未来を開くイオンビームを用いた新しいバイオ応用技術」田中淳 氏
- 講演 3 「 ユリとチューリップの染色体変異の誘導・同定と育種的利用 」岡崎桂一 氏
- 講演 4 「バングラデシュにおける放射線育種の現状について」 Mr. Golam Ahmed
セッション 5 :新規サブ プロジェクト「成分改変または品質改良育種」
日本と韓国における、主にイネを中心とした成分改変または品質改良育種の現状が、西村実氏および Dr. S.-Y. Kang からそれぞれ紹介された。続いて、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、ベトナムから 成分改変または品質改良育種についての 新規サブプロジェクトの提案が発表された。それらの中で、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ベトナムは、特にアミロースとその他の成分含有量を中心としたイネの研究を提案した。また、小麦、スイートソルガム、マングビーン、ダイズにおける成分改変育種の研究も、新規サブプロジェクトの項目として、中国、フィリピン、ベトナムから提案された。最初に、イネのアミロース含有量における 成分改変または品質改良育種が選ばれ、その後以下の点について議論され合意された。
参加国は、 中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ベトナムとし、その他の国(フィリピン、タイ、バングラデシュ)については各国のプロジェクトリーダーやイネ育種専門家と相談の後に決定することとなった。その他の対象とする成分や品質としては、蛋白質、食物繊維、ビタミン A 、アントシアニン、難消化性デンプン等を中心とすることとなった。この新規プロジェクトの活動期間は 5 年間( 2007 年度から 2011 年度)とする。新規プロジェクトの目的は、突然変異技術を用いて主要なイネ品種のアミロースライブラリー(異なるアミロース含量を持つ系統群)構築のための新しい材料を作出することである。効果的な進展を達成するために、育種材料や、情報、研究者の交換が全参加国の間で行われる予定である。さらに、特定の施設を利用した照射サービスが日本(イオンビームおよびガンマーフィールド)、韓国(ガンマーファイトトロン)およびマレーシア(ガンマーグリーンハウス)から各国に提案された。このプロジェクトの詳細な計画と状況は添付書類VIIの通りである。
バングラデシュは 2007 年からバナナプロジェクトに参加することを提案し、全ての参加者によって合意された。
セッション 6 :円卓討論
今後の計画(添付書類IX)とプロジェクトの見通しが議論され、以下の通り提案および合意された。
- 日本は放射線育種論文データベース( MBPD )の構築を提案し、フォーマット例が添付書類VIIIの通り示された。
- FNCA でソルガムとダイズの最終報告書を発行するために、各参加国は 2006 年末までに原稿を作成することとなった。
- 2007 年度の FNCA 放射線育種ワークショップは韓国で開催される予定である。ラン耐虫性専門家会合は 2007 年にマレーシアで開催される予定である。
テクニカルビジット
参加者は、 日本原子力研究開発機構( JAEA )高崎量子応用研究所の照射施設 を訪問し、 Co-60 照射施設、電子加速器、イオンビーム照射研究施設を見学した。
続いて、長野県塩尻市にある長野県中信農業試験場と長野県畜産試験場を訪問した。この地域は気候と交通条件に恵まれるため様々な作物が栽培されている。
長野県中信農業試験場では、活動の概要説明を受けるとともに、国と県の協同プロジェクト(添付資料X参照)の下、指定試験地で行われている飼料用トウモロコシ、ダイズ、ソバの育種圃場を視察した。参加者は、育種プロジェクトのリーダーから研究活動について説明を受け、各圃場で作物を観察しながら議論を行った。
長野県畜産試験場では、研究活動の概要や育成品種、日長感受性やブラウン・ミッド・リブ( bmr: brown mid-rib と呼ばれる高消化性遺伝子)、耐病性などの有用特質について説明を受けた。また、ほとんどの供試系統が収穫期にある圃場を視察し、その特性について議論を行った。
また参加者は、収穫期の黄色の水田、開花している白色のソバと緑のダイズといった美しい農家の圃場を見ることができた。
注記:国と県の協同プログラム(指定試験地)は 1926 年に開始され、約 60 のプロジェクトが行われている。これらのプロジェクトは県の試験場で実施され、国が研究費を負担し、多くの場合、プロジェクトのリーダーは国の機関から派遣される。一方、県の試験場はプロジェクトのための施設、研究者や技術者および圃場を提供する。このプロジェクトで育成された品種は公的品種となり、農林**号が付けられ、命名される。例えば「コシヒカリ」のような日本で栽培される主要品種のほとんどはこのプログラムにおいて育成されたものである。 60 プロジェクトの内、約 80% が作物育種であり、 15 % が病害や虫害の防除、 5% が土壌科学のためである。一方、指定試験地における最も有名な成功例の一つは、沖縄におけるガンマ線照射を用いた不妊化によるウリミバエの絶滅である。
この議事録はすべてのワークショップ参加者によって議論、合意された。これは 2007 年 2 月に東京で開催される第 8 回 FNCA コーディネーター会合で報告される予定である。
添付書類:
- 2006 年度 FNCA 放射線育種ワークショッププログラム
- 2006 年度 FNCA 放射線育種ワークショップ参加者リスト
- ソルガムとダイズの耐旱性 最終報告
- ソルガムとダイズの耐旱性 評価
- バナナの耐病性 中間報告
- ランの耐虫性 現状と今後の計画
- 新規サブプロジェクト提案 成分改変および品質改良育種
- 放射線育種論文データベース フォーマット例
- FNCA 放射線育種プロジェクト三ヵ年計画
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