議事録
サマリーレポート(仮訳)
1.ベトナムでのワークショップ
1-1) 中性子放射科分析ワークショップ
a) k0法討議セッションのまとめ
日本から持ち込まれた良好な標準値を持つ3つの地質学的比較試料を使ってk0実験が行なわれた。その後、参加各国におけるk0法の現状について発表があり、日本と韓国の参加者からは研究成果に対する特別報告があった。また、主に短寿命核種について、ダラトの原子力研究所(NRI)が開発したk0法(以下「k0ダラト」と略称)を使った計算結果が生で示され試料値と比較され、ほとんどの元素(Al、Ca、k、Mn、Na、Ti、V)において試料値との一致が見られた。
b) 招待講演
○「INAA(*)−ppm以下の多元素分析における地位保持の努力」
Pham Duy Hien(ベトナム原子力委員会)
INAAとPIXE(**)、イオンクロマトグラフィー、誘導結合プラズマ(ICPMS)分析法等の他の多元素分析法が、複数のパフォーマンス基準において比較された。INAAが、多数の試料に適用するのに有利な分析法であり続けるための提案が発表された。
(*)INAA: |
Instrumental Neutron Activation Analysisの略。NAAにはビーカーと試験管を使うマニュアル法もあるので、スペクトロメーターや計算機を使う方法を機器放射化分析(INAA)といって区別する。 |
(**)PIXE: |
粒子(陽子)誘起X線放出(Paericle[Proton] Induced X-Ray Emission)法の略称 |
○「日本における中性子放射化分析の最近の傾向」 海老原充(東京都立大学)
NAA の利用が可能な日本の研究炉は減少傾向にあるが、マルチGeディテクターカウントシステム、加速器で生成する中性子ビームなど、そのような困難な状況を乗り越えるためのプロジェクトがいくつか着手されている。それらのプロジェクトの現状が報告された。
c) カントリーレポート
@ 中国
北京で採取したPM試料がk0-NAA 法で分析され、40以上の元素が測定された。濃縮係数、統計的因子分析、時系列を用いて、データが評価された。
A インドネシア
2002年に2カ所のサイトで採取したPM試料のデータが発表された。さらに、NIST 1632cを含むSRMのデータが、QC/QA評価のために報告された。
(*) NIST SRM 1632c: |
米国国立標準・技術研究所(NIST)で調製している比較標準試料(SRM)のコード番号 |
B 日本
5カ国から報告のあった2002年のPMデータを、季節・地域の差異などの観点から評価した。また、日本国内2カ所(八王子および酒田)で採取したPM試料のデータが発表された。さらに、比較法とk0法でのNAAデータの再現性の違いを議論するために、SRM試料のデータも発表された。
C 韓国
2002年に採取したPM試料のデータが発表され、局所性、季節性、PMサイズなどさまざまな見地から評価された。PM試料の元素組成を示すために、元素の関連性と濃縮係数も検討された。
D マレーシア
2003年に採取した大気浮遊塵が継続して分析され、そのうち1部のデータが発表された。分析法としては、ベトナム、ダラトのNRIとの連携の下に、k0標準化法が導入された。基準材料(CRM Soil-7)中の複数の元素において、k0で得られた値と基準値との間でデータの妥当な一致を確認した。
E フィリピン
シンプルな図解法により、2カ所のサイトにおけるPM10への粗粒子と微粒子の効果の違いが示された。その2カ所におけるCl/Na比も比較され、蛍光X線分析法(XRF)に加えてINAAを用いる試料分析により、PM試料を分析する上で複数技法使用法の利点を実証した。
F タイ
2003年の1月から12月の期間に2つのサイトで採取したPM試料のデータが発表された。粗粒子・微粒子それぞれの割合におけるPM質量および黒色炭素含量の測定に加え、比較法のINAAによって23の元素を確定した。取得されたデータはサイズ別の構成の違い、濃縮係数、時間の変動などの複数の観点から詳しく分析され、因子分析を用いて考えられる粗粒子・微粒子PMの発生源が推定され、SRMの実験データも発表された。
G ベトナム
はじめにダラト原子力研究所で開発された分析法の概要が紹介され、その後NAAに関する詳細な説明があった。NAAがベトナムの社会経済に多大な恩恵をもたらしていることが強調された。また、NAAの発達に関する発表があり、電子化された核データライブラリーの作成、照射施設およびGeディテクターの正確な校正、(ガンマスペクトル分析およびk0を利用した濃度計算のための)k0ダラトソフトの運用、複数のSRMを分析することによる手法の検証、などの側面においてk0標準化法に焦点があてられた。
さらに、2001年および2002年にホーチミン市内2カ所のサイトで採取したPM試料のデータが発表された。そのうち大部分のデータはINAAによって得たものであるが、PbおよびNiはポラログラフィーによって測定した。因子分析を行ない、考えられる粗粒子・微粒子PMの発生源が推定された。
ホーチミンと他の2つの工業都市で集めた大量の食品中の、As、Se、Hg、Crなどの有毒元素を分析した。それぞれの濃度は収集した場所に関係しているとみられた。それでも、工業地域の有毒元素の濃度レベルはそれぞれの元素の最大許容濃度よりも低かった。
d) 円卓会議のまとめ
@2002年の報告
BATANで開かれた前回のワークショップで、2002年に採取されたPM試料の化学組成のマニュスクリプトを作成し、スケジュールや実行可能な方法について討議することが合意された。その合意に添い、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイの5カ国から、2003年9月1日までに、データおよび付随するインフォメーションを日本に送った。それらのデータに基づいて、日本の代表の多大な努力によりマニュスクリプトが作成され、ワークショップの前にEメールで各国に配布された。そしてダラトのワークショップで、そのドラフトを次の段階でどのように扱うかの議論を積み重ねた結果、次のような合意が成立した。
・報告書の作成にあたってさらなる遅延を避けるために他国からのデータの追加はせず、マニュスクリプトを適当な学会誌に提出する。
・内容に修正が必要な場合は2004年1月30日までにその修正を行なう。
・インドネシアからのデータはさらなる延期を招かない場合は盛り込む。
・最終ドラフトは2004年2月に提出する。
A 2003年における活動の進展
2003年における活動の進展は、次の3つの点において満足のいくものであった。
・各国でのPM試料の採取および分析が問題なく実行に移された。
・マレーシアでk0標準化法が導入された。
・上記の2002年の報告に加え、2つの科学報告が作成される予定である。2つの追加マニュスクリプトについては、予想される題名および関連する話題を下にまとめた。
B 2つのSRM試料(NIST 1632c、NIES no. 8) 1 mgのINAAデータの再現性
約1 mg のNIST 1632cおよびNIES No. 8のINAAデータを使い、サイズに依存する再現性が論じられた。k0法または比較法、どちらでも使用可能である。日本は2つのSRMに対し10の試料を用意し、早急にベトナムに送付することになった。
C 大気浮遊塵のXRFとINAAデータの比較
2002年にフィリピンで採取したPM試料をXRFおよびINAAで分析し、両方の手法でいくつかの元素を測定した。これはそれらのデータを比較するよい機会を与えるものであり、比較は、地質学的試料・環境試料などのさまざまな物質に対してXRFやINAAを分析ツールとして使う人々にとって、非常に有益なものである。
D 2004年の計画
2004年は現行のプロジェクトの最終年であり、大気浮遊塵の採取およびNAAによる分析を継続して遂行する。次のワークショップでは、参加者全員に2002年〜2004年の間に採取されたPM試料のデータをまとめることが要求される。PMプロジェクトの現状(2004年1月16日現在)を以下にまとめた。
|
2002 |
|
2003 |
|
採取 |
採取 |
定量 |
状況 |
採取 |
採取 |
定量 |
状況 |
|
箇所 |
頻度 |
法 |
|
箇所 |
頻度 |
法 |
|
中国 |
1 |
1/m |
k 0 |
完了 |
1 |
1/m |
k 0 |
1 部完了 |
インドネシア |
2 |
1/m |
比較 |
完了 |
2 |
1/m |
比較 |
1 部完了 |
日本 |
2 |
1-2/m |
k 0 |
完了 |
2 |
1-2/m |
k 0 |
1 部完了 |
韓国 |
2 |
1/w |
比較 |
完了 |
2 |
1/w |
比較 |
1 部完了 |
マレーシア |
1 |
1/m |
比較 |
完了 |
1 |
1/m |
比較 |
1 部完了 |
フィリピン |
2 |
2/w |
k 0 |
完了 |
2 |
1m |
k 0 |
1 部完了 |
タイ |
1 |
1/m |
比較 |
完了 |
2 |
1/m |
比較 |
完了 |
ベトナム |
2 |
1/m |
k 0 |
完了 |
(3) |
1/m |
k 0 |
1 部完了 |
ここで明らかなように、PMプロジェクトは順調に進んでいるといえる。2002年に採取した試料の分析はすべて完了している。次のワークショップまでに、各国は2003年に採取した試料のすべて、また2004年の試料の1部の分析を済ませることになった。
このプロジェクトの主要活動の他に、NAAデータの質をなるべく高く、信頼できるものとして保持する目的で、QC/QAに関するサブプロジェクトについても討議し、「FNCA各国におけるINAAデータのQC/QA」の活動計画を同意した。
E k0法
k0法に関しては、参加各国でのk0法の導入と3つの異なるk0ソフトで得られたデータの不一致という2つの懸案事項があり、前者はFNCAのNAAグループで現在取り組んでいる問題である。2002年度ワークショップでの討議の後、ダラトの原子力研究所で開発されたk0-INAA法(k0-Dalat)を利用し、マレーシアで2003年にk0法を導入することが目標であったが、今回のワークショップで良好な結果が報告された。一方、IAEAが新しくk0法のソフトを開発中であり、無償でどの国にでも提供するという情報があった。現在タイがk0法を使用していない。タイが2004年度ワークショップ開催地として有力候補であると同時に2004年にはIAEAのk0ソフトが利用可能になることを考慮して、タイがIAEAのk0ソフトの最初の採用国となる可能性が議論された。ソフトおよびワークショップに関する諸事情によって、タイでk0法を導入する上で最も効果的な方法を模索しなければならない。状況が許せば、IAEAの支援の下、2004年のワークショップ開催時に研修コースを設けることも検討する。
複数のSRMに対してk0法で得られた値を比較し、k0-CIAE(中国原子能科学研究院) 、k0-KAERI(韓国原子力研究所) 、k0-Dalat で得られた3セットのデータの間に、k0-Dalatの値とk0-CIAEの値がk0-KAERIの値より系統的に高く、Dalatの値がCIAEの値よりも高いという分析値のずれを発見した。そのようなずれの原因に関する幅広い議論の後、そのような系統的な違いは、効率校正およびピーク探索・ピークインテグレーションのためのガンマ線データの取り扱い方の違いに要因があるのではないかという発言があった。今後、2005年以降に詳細な実験ガイドラインの下、4種類ないし5種類のk0ソフトの間で同様な比較を行なうことが合意された。
F 次期の新規プロジェクト
現行のプロジェクトには後1年振り当てられているが、すでに新規プロジェクトに関する議論も進んでいる。ワークショップでは、この点に関する議論を始める前に、「このFNCA/NAAワークショップはすべての参加国にとって有益であり、よって2004年度に今期が終了した後も続けていくことが望ましい」ことが確認された。
2005年から始まる次のタームの新規プロジェクトについて議論した。2002年度コーディネータ会合でのベトナムからの提案を受けて、次のターゲットとして「海洋試料」をさまざまな観点から議論した。海洋環境を監視する重要性を認め、海洋試料が次期の主要ターゲットになりうるという意見の一致があった。自由で活発な議論の後、海洋生物が妥当な材料であると満場一致で合意した。試料とするbiota(生物質)の分析の詳細なガイドラインは次回のワークショップで討議する。各国はガイドラインに盛り込むべき項目を検討することが必要である。海洋生物学的試料の分析を経験するために、日本は適当な海洋生物相の標準試料を探し、十分な量が確保できる場合はその試料を全参加国に送付する。
1-2) 研究炉ワークショップ
a) 各国報告
@ 中国
中国における研究炉の現状が報告された。老朽化した研究炉の改造・改良により、安全な運転が確保されたこと、および中国先進研究炉(CARR)プロジェクトの進展について発表が行なわれた。また、中国におけるボロン中性子捕獲療法(BNCT)プログラムの状況についても説明があり、「効果的利用のための研究炉技術」に対する提案が示された。
A インドネシア
RSG-GASは多目的原子炉として、材料試験、ラジオアイソトープ製造、中性子照射による研究開発、または研修に使われている。この原子炉は1987年に運転を開始した。インドネシア原子力発電計画の延期に伴い、原子力発電所に関連する材料試験の研究開発は実施されなかった。この原子炉は主にラジオアイソトープ製造、中性子放射化分析、中性子ビーム実験および研究開発活動のための全般的な照射利用に役立っている。原子炉の詳細、実績、運転および利用に関する改善プランを討議した。
B 日本
日本原子力研究所には、臨界実験施設を含む複数の研究炉が存在する。そのうちJRR-3、JRR-4、およびJMTRは現在多数の研究者によって広く利用されている。JRR-3、JRR-4、JMTRの利用に関する最近の話題と、JRR-3とJMTRでの問題を報告した。
C 韓国
2基の研究炉が運転中であり、別の2基が除染・廃炉に向けて待機中、さらに医療用アイソトープ製造炉の予備調査が進行中である。安全かつ効果的な管理や研究炉の活発な利用が、研究炉プログラムの大部分に資金提供をする韓国政府にとって重要な懸案事項である。政府は、原子力プログラムの例に見られるように研究炉が重要な役割を担う、核技術利用の研究の推進をしている。4基の研究炉のうち、HANAROは国内のさまざまな需要に対して高中性子束を供給する唯一の施設である。 そこでの利用および管理の記録は出力運転以来目覚しい改善を示しており、さらなる利用の普及に向けた、意欲的な計画も作成している。
D マレーシア
バンギ地区のマレーシア原子力庁(MINT)によって運転されているPUSPATI TRIGA原子炉は、現在までに21年間に渡り順調な運転を行なっている。1982年6月の試運転から2003年末まで、この1MW プール型原子炉は、約13,714 MWhの累積熱エネルギー放出に相当する 20,585時間以上の運転を重ねた。この原子炉は、中央シンブル、回転試料ラック、2つの空気圧トランスファーシステム、4つのビームポート、および熱平衡化カラムから構成される5つの主要タイプの実験施設を備えている。現在、大部分の運転時間は、中性子放射化分析の目的で試料の照射に費やされている。MINTは原子炉技術をいっそう充実させるために、原子炉の利用とメインテナンスの最適化努力を行っている。
E タイ
タイ研究炉-1/改造1(TRR-1/M1)は通常出力が2 MWの多目的研究炉である。原子炉はプール型で、軽水で冷却・調整され、低濃縮度ウラン(LEU)燃料を使用している。TRR-1/M1は、中性子放射化分析、ラジオアイソトープ製造、宝石照射、中性子ラジオグラフィーや研究活動など、さまざまな目的で利用されている。研究炉利用の拡大・推進のために、Ongkharak原子力研究センタープロジェクトとして新たに10MWの研究炉が設立される予定で、そのプロジェクトも近いうちに完了する見込みである。
F ベトナム
NRIとIVV-9の概要、原子炉管理および原子炉利用の状況が報告された。また、ダラト研究炉の安全の方針および基準が紹介され、Relap5/Mod3.2 コードを用いた熱水力安全解析の結果が発表された。さらにNRIで炉物理分析に使用される計算コードが紹介され、それらのコードを使った炉物理分析の結果が報告された。
b) 各国からの新規プロジェクトに対する提案
@ 日本からの提案
参加国からの提案の前に、日本の代表から新規プロジェクトの狙いについて説明があった。研究炉の基盤技術として以下が検討された。
・実験目的に適した照射場の開発
・中性子場を正確に評価する技術
・安定した中性子を供給する技術
・照射データを確保する技術
A 中国からの提案
中国の代表からは研究炉利用分野を拡大する上で経験交換を促進するために、以下の提案があった。
・原子力発電所開発の点検・修理の研究
・ラジオアイソトープ製造向上の技術
・シリコンの中性子変換ドーピング
・海水淡水化技術の研究
・新しいタイプの原子炉コンセプトの企画または見解
・安全運転の経験
・改造・改良対策
・その他、ケーブル露出、宝石照射、飛跡エッチング薄膜、偽造防止マークなど
B インドネシアからの提案
・照射施設の開発
・照射施設・ターゲットの安全評価
・老朽化評価の技術
C 韓国からの提案
・炉物理
・計測および制御
・熱水力解析
D マレーシアからの提案
・原子炉の安全運転のための燃料管理
E タイからの提案
・力学的中性子ラジオグラフィー
F ベトナムからの提案
・原子炉制御・計測システムの改良および近代化の研究
・炉心分析・測定技術を含む炉心管理
c) 討議およびまとめ
上記の提案を討議し、新規プロジェクトに適しない部分を割愛した結果、下記の3つのカテゴリーに絞られた。
@ 照射場の評価(炉物理、熱水力解析、炉心管理を含む)
A 老朽化管理(改造・改良対策を含む)
B 安全運転の経験
討議の結果、参加各国は上記の@とAを情報交換として各国報告に盛り込むことに同意した。Bに関しては、以下のように合意があった。
・新規プロジェクトのタイトルは「効果的利用のための研究炉技術(RRT)」 とする。
・プロジェクトのトピックは 「中性子源としての研究炉の革新」とする。
基本的な研究炉技術の向上のために、「中性子源としての研究炉の革新」の活動として以下のように決定した。
・炉物理
・熱水力解析
・計測制御系の更新
d) 次年度の計画
2004年度ワークショップでは、各国は上記の“@”と、“A”・“B”を別々に報告し、1年ごとの活動項目、スケジュール、活動の詳細を含む具体的な計画を各国報告に基づいて検討し、決定する。
e) 円卓会議
@ワークショップのまとめ
ワークショップ「中性子放射化分析および研究炉」セッションのまとめが報告された。ワークショップの全参加者がその概要報告に合意した。
A円卓会議での付言
第5回FNCAコーディネータ会合に、2004年度ワークショップの開催国としてタイを提案することで合意した。
2) インドネシアでのサブワークショップ・専門家会合
2-1) Tc-99mジェネレーターサブワークショップ
a) 各国で行なわれた実験の評価
2003年1月にインドネシアで開催されたワークショップにおける合意に基づき、2003年4月、8月、10月にPZC材料が(株)化研から参加各国に配布された。PZC材料は、(株)化研よりそれぞれの研究所へ毎回15g送られた。中国のCIAEからの要望に応えて特別な配布も行なわれた。これらの実験では、FNCAが制定した溶出プロセスの標準プロトコルにしたがって、アルミナ吸着剤による第2カラムの使用と酸化剤NaOClを添加した生理食塩水の使用を条件とした。
今回のサブワークショップでは、PZC型Tc-99mジェネレーターの性能を評価するために、Mo-99吸着率、Tc-99m溶出率、およびMo-99脱離率に関する実験の結果を報告し、討議した。その結果は表1にまとめられ、実験結果に対する各国からのコメントは次のとおりである。
@ 中国
○中国核動力設計院(NPIC)
異なる手法・異なるバッチのPZCを使用した2通りの実験では、質の異なる99Mo-PZC ジェネレーターが得られた。吸着プロセス(温度、攪拌の強さと頻度、溶液中のPZCの体積など)は、溶液中の99Moの吸着効率に大きく影響することがある。90℃、3時間の条件下における99Mo吸着効率は前年度の実験値より高くなく、2回目の実験の溶出日の経験とともに溶出収率が増加した原因は今後討議する必要がある。99Mo-PZCジェネレーターシステムは、PZCのさらなる性能改善の後、商業化できる。
○中国原子能科学研究院(CIAE)
PZCはもろいので、Mo吸着プロセスの後にはさらに微細なPZC粉末が残る。微細なPZC粉末を取り除くためPZC粉末を洗浄した後、残った99Mo(PZC粉末上に吸着)の割合はおよそ70.0%であった。微細なPZC粉末上に吸着した99Mo の喪失を減らし、99mTc溶出プロセスを速める対策を講じる必要がある。さらなる実験が望まれる。
A インドネシア
コーディングされたPZCは、上質の99Mo-PZCスラリーと同等の高い吸着力および99mTc収率 を示した。99mTc 溶液中のMo、Zr、Al の全含有量は、Mo が<0.2 ppm、Al およびZr が<5.0 ppm であった。それらの値は臨床用99Mo/99mTc ジェネレーターの規格と合致するものであった。
B 日本
PZCは、[天然Mo(n, gamma)99Mo]反応に基づく実用的な 99mTc ジェネレーターに適用可能との結論に至った。ジェネレーターの構造は従来のフィッションタイプジェネレーターとほとんど同じである。実用的なジェネレーターの実現のため、37 GBq(1 Ci)レベルまでの高放射能99Moを使った実験を行なうべき段階に来ている。
C 韓国
2003年に配布されたPZCの性能は、モリブデン酸塩の吸着力は10〜20%減少したものであったが、他のバッチのPZCに比べより少ない99Moの脱離、より高い材質の安定性、より優れた溶出率などの点で改善されていたようであった。とくに、微分化を防止するためのコーティングを実施されたPZCは、99Mo/99mTc ジェネレーターの商業利用のための吸着剤として適しているとみられる。
D マレーシア
マレーシア原子力庁(MINT)のホットラボの改造のため、(株)化研から配布されたすべてのPZC試料は新施設が利用可能になるまで保管される。現在のアルミナベースのカラム技術からPZCカラムに変えるためには、製造設備や施設の大幅な変更が必要になるため、PZC技術は、製造工程が確立されて始めて取り入れることができる。薬事関係の行政機関による評価、登録もまた必要である。マレーシアの需要を満たすためには、照射したMoの輸入確保が必要となる。
E フィリピン
PZCの実験では、コーティングされたPZCでこれまでのコーティングなしのPZCのバッチより優れた溶出収率が得られた。高い溶出収率と低いMo脱離率を得るためには、99Mo - 99mTcジェネレーターのPZCカラム作成標準プロトコルを順守すべきことを強調したい。PZCがカラム材料として輸出されるとすると、材料の保存性の研究も必要になる。
F タイ
コーティングされたPZCは、高いモリブデン吸着性、高い99mTc溶出収率、微細粉末のきわめて低い喪失率などの理由から、ジェネレーター作成に適した材料である。近い将来この技術がFNCAの枠組の下に確立され利用されるようになり、研究炉を使用する国々が99Mo/99mTcジェネレーターを製造する難しさを克服するために役立つと考えられる。
G ベトナム
PZC型99mTcジェネレーターの準備のための工程や適切な99mTcジェネレーターのデザインが、首尾よく打ち立てられた。重さ1.0 gから4.0 gのPZCと200 mCiから1,000 mCi の99Moのカラムを、臨床研究において良好な性能を持つ携帯・クロマトグラフィー型99mTcジェネレーターの製造に使うことができる。
確立されたいくつかの工程の中で、簡単で安全な運転、施設や設備の安さ、従来の技術(核分裂99Moに基づく99mTcジェネレーター製造)に匹敵する能力が証明され、カラムを予め装填する方法が高く評価された。
表1. 各国で行なわれた実験の結果
|
99 Mo 装填 |
99 Mo 吸着率 |
99m Tc 溶出率 |
99 Mo 脱離率 |
中国 (NPIC) (CIAE)* |
30.3 mCi
8.22 mCi
|
64〜67 %
93.2 % |
43〜73 %
86.7 % |
1.2〜16 %
0.042 % |
インドネシア |
319 mCi |
80〜85 % |
78〜98 % |
<0.2 ppm |
韓国 |
0.01〜0.04 mCi |
70〜87% |
55〜82 % |
0.04〜0.35% |
フィリピン ** |
0.5 mCi |
75〜97 % |
12〜95 % |
0.05〜3.11 % |
タイ |
9.0〜17.5 mCi |
72.2〜89.9 % |
45〜93 % |
0.005〜0.009% |
ベトナム *** |
330 mCi |
94.0 % |
92.5 % |
0.011 % |
*研究所間共同実験特別参加 **プロトコルに準拠せず ***PZC 4.0g
b) 装填装置によるPZC型Tc-99mジェネレーターの公開実験
99Mo-99装填/PZC カラムパッキングの遠隔操作装置の公開実験が、ジャカルタ市スルポン地区で開催された2002年度ワークショップでの合意に基づき今回のサブワークショップで行なわれた。同装置は(株)化研とBATANの協力の下、2003年12月にBATANのホットセルに設置された。
装置自体は当初の予定通り機能したが、吸着率は非常に低いものであった。実験の結果は表2に要約される。2つのカラムが実験のために装填対象になった。最初のカラムは、PZC材料との不十分な反応またはPZCスラリーの移送の失敗が原因と考えられ、きわめて低いMo吸着率を示した。2つ目のカラムの吸着率は最初のカラムよりも高いものであったが、まだ十分なものではなく、その後の99mTcの溶出もできなかった。このケースでは、多くのPZC微細粒子を伴うゲル状のPZCが、溶液の移送経路を詰まらせた可能性が考えられるが、99mTcの溶出率は80%以上という良好な結果で、99mTc溶出液中の99Moの脱離率も医療利用の基準にかなう十分に低いものであった。
表2. 装填装置公開実験の結果
カラム |
99 Mo 装填 |
99 Mo 吸着率 |
99m Tc 溶出率 * |
99 Mo 脱離率 ** |
1 |
337.5 mCi |
15.2% |
82.3% |
0.0065% |
2 |
337.5 mCi |
26.5% |
- % |
- % |
* 溶出段階で酸化剤 (NaOCl) を使用
** 第2カラム (アルミナ)を適用
c) 2004年度の活動計画
@ 99Mo-99装填/PZC カラムパッキングの遠隔操作装置の公開実験原因究明および装填装置の改善
BATANは、99Mo 溶液とPZCとの不十分な反応の原因と移送過程おける問題点を調査する。調査結果および改善結果の報告は、全参加者への配布のため日本のプロジェクトリーダーまで送ることとする。
A 良質なPZCを合成する方法の確立
(株)化研は、PZC合成の厳格な質管理システムを確立する。
B 標識化試験
さまざまな放射性医薬品キットを使った標識化試験によるPZCジェネレーターで得られた99mTc 溶液の品質確認
C PZC材料の配布
(株)化研は、標識化試験またはPZC型99mTcジェネレーター開発に関する他の実験のために、参加研究所に対し、2004年度中に3回PZC材料を配布する。
D 装填装置開発のための専門家交流
BATANに設置された装填装置の運転経験を共有し、さらなる改善に向けて協力するため専門家の訪問や滞在などの交流を行なう。旅費および滞在費は原則として専門家の所属する機関が負担する。
E 医療施設での臨床試験
BATANは、ジャカルタおよびバンドンの複数の病院の協力の下、PZCに基づく99mTc標識キットの臨床試験を行なう。
F プレ・ローディングシステムの試験
BATANおよびその他の関心ある研究所は、ベトナムにより開発されたプレ・ローディングシステムについて高放射能99Moを用いた性能試験を行なう。
G 総括的な報告書の刊行
開発の詳しい経緯、異なるタイプのジェネレーターの比較、PZC材料の合成、ジェネレーターのアセンブリー、カラム装填装置、参考資料などを含む、PZC型99mTcジェネレーター技術の総括的な報告書を刊行する。
H 2004年度の活動計画
2004年度の活動計画を表3にまとめた。
表3. 2004年度の活動計画
活動計画 |
備考 |
1) 原因究明および装填装置の改善
2) 高品位 PZC 合成法の確立
3) 放射性薬剤キットの標識化試験
4) PZC 材料の配布
5) 装填装置開発のための専門家交流
6) 医療施設での臨床試験
7) 高放射能 99 Mo による予め装填するシステムの試験
8) 総括的な報告書の発行 |
インドネシア
日本
全参加者
年 3 回、日本
BATAN ・化研への滞在・訪問
インドネシア
インドネシア・他
全参加者 |
d) コメント・提案
@ BATANは天然Moを中性子照射した高放射能99Moを、輸送費および容器代を除いて、無償で提供可能である。
A ダラトのNRIは、次回のワークショップで、PZC型99mTcクロマトグラフィージェネレーター用プレ・ローディングシステムを公開する。
B FNCAが、良質なPZC型99mTcジェネレーターの普及のために自動装填装置を設置する重要性を説く文書を、各国政府に送ることが望まれる。
e) その他
@ 開会式後の特別セッションとして、Hatta Radjasaインドネシア研究技術大臣からスピーチがあり、また(株)化研社長の99mTcジェネレータープロジェクトへの貢献に対して感謝状の授与があった。
A 招待講演として、インドネシアにおける核分裂99Mo/99mTcジェネレーター製造の現状について(BATANの子会社である)BATAN Teknologi社から、核分裂型ジェネレーターとPZC型ジェネレーターを使った99mTcキットの標識化の比較研究について発表があった。また、188W/188Reジェネレーターへの PZCの適用について日本原研から発表があった。
B 日本のFNCAコーディネータから、「日常生活改善のための照射およびアイソトープの利用」について基調演説があり、(株)化研社長から「(n, γ)PZC-99mTcジェネレーターの普及に関する今後のプログラムの提案」について発表があった。
2-2) 中性子散乱専門家会合
a) プロジェクト表題
中性子小角散乱法(SANS)を用いた天然および合成高分子材料(主に天然ゴム熱可塑性弾性体[NR-TPE])の評価手法の開発
b) 概要
中性子散乱プロジェクトは、1995年に(FNCAの前身の枠組下の)研究炉利用ワークショップで提案され採択された。プロジェクトの第一段階としてSANS装置の校正、第二段階として標準高分子試料を用いたデータ分析手法の確立を行なった。現在は第三段階として、2002年3月の第2回コーディネータ会合で認められた、SANSを用いた天然ポリマーの研究開発を行なっている。
主にFNCA参加国で産出するNR-TPEや天然カラギーナン(NC)等のポリマーの属性はそれらの巨視的微視的構造に依存しており、中性子小角散乱というユニークな手法でポリマー科学者や中性子科学者が協力して属性と構造との関係を調べている。この関係についての情報は天然ポリマーの産業利用への強力な指針となる。
中性子散乱プロジェクトの目標は、新材料の開発やそれによる地場産業の創生を通して、FNCA参加国の社会経済の発展に寄与することにある。
c) 現在の活動
@ 天然ゴム熱可塑性弾性体
天然ゴム・ポリエチレン混合物(NR/PE)の中性子小角散乱実験を行なうためのOAP、MTEC、Mahidol大学間の連携の強化についてタイより報告があった。混合物の機械的性質が測定された。JRR-3Mでの SANS-J実験のために、21の試料が京都大学の長谷川教授に提供された。実験結果は、それらの混合物の界面構造解明につながるNR/PE とカーボンブラックとの差異を明らかにした。
SANS-Jを用いてポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とポリエチレンナフタレン(PEN)混合物の構造的性質を調べるために、Jipawat Chamchang氏が日本原研の小泉氏を訪問し協議した。
ベトナムからは、天然ゴムラテックスの照射加硫および天然ゴムラテックスならびに(または)他の合成ポリマーへのモノマー移植によるコポリマーの生成の研究が1990年より開始されているとの報告があった。FNCAプロジェクトでは、天然ゴム熱可塑性弾性体とコポリマーが主に照射架橋および移植法によって生成されている。その生成物は、SANS、SAXS、TEM、および熱機械・生理機械測定によって特性評価がされた。コポリマーの生成の結果、NR-PTEの生理機械的性質は向上しており、ポリビニールアルコール(PVA)-graft-AAMの熱的安定性および塩度は劇的に向上していた。
インドネシアのUtama氏が、低タンパク照射ゴムラテックスの、ガンマ・電子ビーム照射法による工場規模での試験的製造について報告した。Suratno氏からは、自動車用ゴムのブッシングにおける紫外線、温度、湿度の影響について報告があった。Syamsu氏からは、改造天然ゴム製品の開発および可能性について報告があった。これらの報告では、架橋ポリマー粒子間の結鎖や、結鎖の観察におけるSANS法の利用の可能性に関して、参加者から大きな注目を集めた。Ikram氏から、BATANのSANS装置を使って、タイからの5つのNR/PE 試料のSANSプロファイルが得られたとの報告があった。試料と測定器の距離は1.5mと10mで、中性子波長は0.4 nmであった。結果は、日本原研のSANS-Jで得られたSANSデータと同等のものであった。測定中に、SANS制御コンピュータに不具合が発生した。RSG-GAS のSANSが、コンピュータシステムが修理された後2004年の2月ないし3月に稼動する。
マレーシアからは、NR/LLDPE(リニア低密度ポリエチレン)混合物における、親和材としてのLNRの分子量の影響について報告があった。混合物の流動学的研究および機械的性質は、LNRの分子量が混合物の親和性に影響を与えることを示した。機械的性質の改善は、混合物のゲル含有量増加と一致するものであった。DSC(示差走査熱量計)研究から、LNR含有量の増加が、混合物の結晶質の部分のインジケータである融点Tmおよび核融合の熱DHfを下げることが分かった。これらの低下現象は、LLDPEフェーズへのLNR溶解のかたちでの干渉が原因の、結晶性の度合いの減少を反映するものである。SEM検査は、LNR添加によるNR/LLDPE混合物の親和性がよくなったことをさらに確証するものであった。
長谷川教授より、タイ、ベトナム、インドネシアから提供された試料のSANSおよびSAXS実験について報告があった。加硫せずに再利用可能な材料であり、加硫ゴムより小さなエネルギー消費量で処理可能な、天然ゴム熱可塑性弾性体のフェーズ別の構造が調べられた。したがって、NR-TPEは環境にもやさしく、今後製造量も増えることが予想される。しかし、構造と属性の関係が完全に解明されたわけではない。最大の問題は、構造の量的評価の手法が確立されていないことである。これは、本研究のNR-TPEの機械的性質に大きく関係するが、共存する2つのフェーズ間の界面の厚さの評価において、SANSが非常に便利な手法であることが明らかになった。
A カラギーナン
フィリピンより、カラギーナンの研究提案が、経済的重要性およびフィリピン政府からの支援に基づいて、東京大学物性研究所の柴山教授の協力の下実施されることが承認されたと報告があった。フィリピンより、γ線照射κカラギーナン(KC)の構造分析と、γ照射で架橋されたκカラギーナン・PVP混合物の構造分析の2種類の研究が提案された。
柴山教授からはγ線照射κカラギーナン(KC)水溶液の構造と動態について光散乱法 (DLS)と中性子小角散乱法によって研究した内容について報告があった。DLSのデータは、強度相関関数(ICF)が、放射線分解の結果増加する線量とともに、より短い緩和時間へとシフトしていったことを示した。特性崩壊時間分布関数(CDF)、G(γ)、は、高速および低速モードのピークがそれぞれ0.1〜10 ms、100〜1000 ms周辺 に存在することを示すものである。温度の低下とともに、渦巻きから螺旋への空間的構造の遷移が起こったことを示す「G(γ)における高速モードのピークの広がり」が発生した。空間的構造遷移温度(CTT)は線量の増加とともに下がった。300 kGyで照射されたKCには遷移は見られなかった。0.1から1 ms周辺、CTT以下の温度で、新たにより高速な緩和モードが現れた。このピークは、もっぱら75から175 kGyの間の線量で照射されたKCに見られた。このモードでのこのピークの高さは、以前に報告されたKCの最適生物的活性と一致する100 kGy で最も大きかった。重水中のKCからのSANSの強度はゲル化によって劇的に増加し、凝集を伴う螺旋形成などの空間的構造の転移がゲル化によって起こることを示した。しかし、めだった線量依存性は見られなかった。
d) 中性子施設の改造
中国における中性子散乱研究の需要の高まりに対応するために、China Advanced Research Reactor(CARR:中国先進研究炉)をCIAEに建設中と報告があった。
CARRは、出力60 MWプール内タンク逆中性子トラップ型研究炉で、平静熱中性子束は8x1014 n/cm2sである。9つあるうちの7つの接線ビーム管は中性子散乱実験用に設計されている。20 kの液体水素低熱源が設置される予定で、4つの冷中性子ガイドが冷中性子ビームをガイドホールに導くために使われる。CARRにおける中性子散乱計画の目的は、生命科学、材料科学、物理学、化学および化学工学、鉱物、環境科学、産業および工学利用などの分野における中性子散乱研究のツールとして一式の分光計を設置することである。したがって、CARRはFNCAの協力も歓迎する。
日本原研の森井氏より、過去2年間に渡って開かれている中性子ビーム利用専門部会の特別委員会によって、JRR-3Mの改造プランが作成され、2004年2月に発表されるとの報告があった。低熱源の改造およびスーパーミラー中性子ガイドの設置が強く望まれる。2007年に完成予定の大強度陽子加速器施設(J-PARC)の日本核破砕中性子源(JSNS)の能力(1部の研究分野においてJSNSの有効な強度はJRR-3Mの強度より100倍高いが、時間平均の冷中性子強度は3〜5倍高いだけ)について報告があった。
マレーシア原子力庁のMohamed氏から、MySANS(「ミニ」SANS施設)の最近の進展、また材料科学、技術研究、教育において現在行なわれているその利用について報告があった。研究炉利益団体(RIG)の設立が、MINTと現地の大学・研究所との共同作業で実施する複数の実験プロジェクトにつながった。
e) 将来計画
SANSがポリマーの巨視的属性を理解するのに有効であることを示す最初の実験結果を得たばかりであることから、2004年度以降も天然ゴム熱可塑性弾性体やカラギーナンのような天然ポリマーの研究の継続を強く提案する。2004年度のワークショップでは現在行なっている研究を取りまとめ、将来的な研究について検討する。参加国の社会経済発展のため、メーリングリストは中性子施設とエンドユーザーとしてのポリマー研究者の連携を強化するために継続して更新する。
今後、効果的に実験を行なうため、重水素化モノマーを準備する必要があり、また参加国間の研究者の交換が必要である。
@ 天然ゴム熱可塑性弾性体(NR-TPE)
FNCAプロジェクトを通し、天然ゴム熱可塑性弾性体の試料がタイおよびベトナムより提供された。中性子小角散乱法(SANS)はNR-TPEだけでなくポリマー混合物一般の機械的属性に大きく影響をおよぼす分相構造の界面の厚さを測定するための優れた技術であると証明された。インドネシアは、タイの試料で得たデータとSANS-J(JAERI)によって測定されたデータが対比し得ることを示し、SANS(BATAN)がNR-TPEの界面の厚さを測るのに有用であると証明した。これらは参加国にとって吉報であり、BATANのNR-TPEのSANS実験を介し、インドネシアのNR-TPEプロジェクトへの貢献の増大が期待される。
○マレーシアによる提案
世界第3位の天然ゴム(NR)生産国として、NR利用の多様化は新基盤製品を生産するための最も重要な活動である。ポリマー混合物はポリマー技術において急速に成長している分野の1つであり、NR-TPEポリマー混合物は多様化を進めるための第一歩として適当な候補である。
LNRはよりよいNR-TPEポリマー混合システムを施す親和材の1つとして認識されている。その分子状態と属性はこの親和性に大きな影響を与えるため、分子レベルでのこれらの研究が不可欠である。SANSは親和性過程の理解に関しての構造研究に適した方法であることが証明された。これはポリマー混合物の最終製品の優れた製造過程を援助するものである。以下に2つのプロジェクトを提案する。
・NR-TPE混合物の親和性に関する研究:LNRの役割
・NR基盤のNR-TPE混合物のための親和材の開発
2004年度に、マレーシアはSANSによる界面の厚さ測定用のNR-TPEと親和材の新しい試料を提供する。この実験が成功すれば、親和材効率のかけがえのない測定方法を提供することになり、参加国のNR-TPE産業に貢献する。
○インドネシアによる提案
インドネシアは重水素化ラテックスを準備し、BATAN-SANS機器を使用して粒子のサイズを観察する。BATAN-SANS機器で観察することができるq値域に適応させる必要があれば、タンパク除去された天然ゴムの研究も行なう。
界面の厚さはSANSのデータ測定から抽出できるもう1つの要素である。SANSポリマープログラムをさらに推し進めるために、文部科学省の「原子力研究交流制度」のような外部からの経済的枠組の元に、若い科学者を日本に派遣する。派遣される科学者はSANSおよびポリマー分野において適正な基本的知識をもつことを条件とする。
○タイによる提案
タイは以下の2項目について提案した。
・NR/PE試料
タイはSANSを利用した界面の厚さの構造と形態学の研究のため、NR/PE試料とシリカのような補強材を準備する。このNR/PE試料と補強材(シリカ)は自動車部品に使用される。構造を理解できれば、良質なNR/PEを生産できる。
・人材養成
SANS施設はJAERIやBATANなどの限られた場所でのみ存在するので、準備した試料を利用し、分析する演習を行なうために若い科学者を施設に派遣する必要がある。
FNCAには1-2週間のNR/PEの分析と実験に関するワークショップを開催し、参加国の若い科学者や技術者ならびにポリマー科学者にこのワークショップに関与する機会を与えることを期待する。
○ベトナムからの提案
)照射配合移植法によるNR-TPEの準備
・クレイや木紛のような賦形剤を混合したNR-配合-PMMA混合物
・NR-配合-ポリスチレン(PS)
・クレイや木紛のような賦形剤を混合したNR-配合-ポリスチレン(PS)
・異なった配合度の試料を準備する。
)ポリビニールアルコール(PVA)基盤の照射配合法によるコポリマーの準備
・異なったPVAの分子重量と配合度を持つPVA-配合-PAAM
・天然多糖類(CM-キチン/キトサン)を混合したPVA-配合-PAAM
)工業における研究製品の応用能力の評価
A カラギーナン
○フィリピンからの提案
)2003年度に開始された照射カラギーナンのSANS実験の継続。それによって予備実験を完了できる。
)KC-PVPハイドロゲルのSANS研究ガンマ照射によって得られたネットワークの情報の獲得が目的であり、最終目標はハイドロゲルの水への非常に高い吸収性を説明することである。この研究では、以下のような、必要な情報が得られる最適な試料を識別し、用意する。
・適度に調合されたゲル試料
・最適線量のガンマ照射ゲル試料
・最大限の水を吸収した照射ハイドロゲル
・すべての遊離カラギーナン、PVPおよび非結合水が取り除かれた試料
2004年月に、ユニークな生物学的機能の構造的起源を調査するために、60°Cおよび25 °CのD2O中で0〜300 kGy照射されたKCのSANS量的研究が計画されている。
B 中性子散乱施設、FNCA参加国間の関係
○中国からの提案
中国は、とくにSANSを用いた天然ポリマー利用研究において、継続してFNCAプログラムに参加し、支援していく。その間、中国は、さまざまなルートを通じた、この分野の若手科学者対象のSANSオンザジョブトレーニングプログラムを提案し、それに参加する。主な目的は天然ポリマー研究におけるSANS手法を習得することである。今後数年間中国は60 MW CARRの建設に専念するため、CIAEはSANSビーム時間にも天然ポリマー研究に適した試料にも貢献することができないかもしれない。CARRが臨界に達した後、CARRの設備はFNCAメンバーに開放される。CARRはアジアの地域的および国際的施設として建設されるので、今の時点で、中国は初期段階で貢献しFNCAから支援を得ることを望む。中国の中性子散乱研究者は、とくに実験処理、データ処理・分析において、FNCA参加国のポリマーおよびSANS科学者との天然ポリマー研究における協力を続けていく。
○日本からの提案
日本は2004年に計画されている天然ポリマーの研究のためにFNCA参加国と協力していく。計画されているSANS実験は、日本の激しく競合する環境下でビーム時間は限定されてしまうが、SANS-JおよびSANS-Uという装置において実施される。日本は、韓国とオーストラリアに、それぞれの国におけるポリマー科学および他分野のHANARO低熱源の設置とANSTOの研究炉の建設に合わせて、FNCAプロジェクトのために韓国原子力研究所(KAERI)のHANAROおよびオーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)のHIFARの利用が可能であるか確認する。
日本原研は国内の企業と協力して、日本における社会経済の発展のために、SANS-Jを用い、合成ポリマーの構造についての研究を継続していく。
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