2007年FNCA研究炉利用ワークショップ
中性子放射化分析グループ
会議報告
2007年10月29日〜11月2日
インドネシア、スルポン
参加者:
1. |
Dr. Syed Mohammod Hossain |
バングラデシュ |
2. |
Prof. Bangfa Ni |
中国 |
3. |
Mr. Sutisna |
インドネシア |
4. |
Ms. Muhayatun |
インドネシア |
5. |
Ms. Sri Wardani |
インドネシア |
6. |
Ms. Th. Rina Mulyaningsih |
インドネシア |
7. |
Prof. Mitsuru Ebihara |
日本 |
8. |
Dr.Yasuji Oura |
日本 |
9. |
Mr. Jong-Hwa Moon |
韓国 |
10. |
Mr Md Suhami Bin Elias |
マレーシア |
11. |
Ms Preciosa Corazon Pabroa |
フィリピン |
12. |
Dr. Sirinart Laoharojanaphand |
タイ |
13. |
Dr. Nguyen Ngoc Tuan |
ベトナム |
会議は参加者紹介から始まり、それぞれのFNCA活動における経験及び関与について紹介があった。
最初に首都大学東京の海老原教授による「2007年度FNCAワークショップ<中性子放射化分析>の展望」の発表があり、本ワークショップ中に実施すべき活動について提案を行った。提案は下記の通りである。
- カントリレポート1:「過去1年間の環境試料分析の進捗状況及び環境当局への反映状況」
- カントリレポート2:「第2期(2005-2007)のまとめ:試料分析及び環境行政への反映状況」
- 3ヵ年評価に対する報告・討議
- 全参加国から継続の必要性が示されている第3期についての討議
- サブプロジェクト
- ラウンドロビン実験
- その他
引き続き、各参加者によるカントリレポート1「過去1年間の環境試料分析の進捗状況及び環境当局への反映状況」の発表が国名アルファベット順に行われた。
カントリーレポート1
バングラデシュ:Dr. Syed Mohammod Hossainによる研究成果報告
2007年の活動計画に則って、INAA技術を用いバングラデシュのFaridpur、NarayanganjそしてMunshiganji地区から50箇所の掘り抜き井戸水とその井戸水の使用者60名及び30個の土壌試料を対象にヒ素汚染度を評価した。その結果、調査を行ったほとんどの掘り抜き井戸とその使用者は、高度に汚染されていることが判明した。幾つかの土壌も国際基準値に比べてヒ素汚染度が高かった。
中国:Prof. Bangfa Niによる研究成果報告
2007年はLiangxianサイトで月2回の浮遊粒子状物質試料採取を行った。2004年から2006年の浮遊粒子物質の多元素データについて、主としてEPA PMFと統計ソフトウェアのStatgraphic Plusを使って解析し、5つの発生源ファクターを見いだした。これは環境管理を担う現地EPAの判断にとって重要なサポートになり得る。k0‐INAAと相対法を用いて12個の生物標準物質から12〜33個の元素を特定した。
これらの結果は認証値を決める上で非常に有効となる。
インドネシア:Mr. Sutisnaによる研究成果報告
ジャカルタ湾及びBanten省北沿岸での海洋環境試料の成分分布の分析結果を報告した。ジャカルタ首都特別州の環境管理局との共同作業のもと、海洋環境汚染モニタリングがk0‐INAAを使って行われてきた。これにより得られた成分分布の情報は、現地・地域の汚染状況や汚染量の有益情報になり得る。
日本:大浦 泰嗣氏による研究成果報告
PM2.5微粒子の採取は、東京都環境保護研究所の協力を得て、東京郊外の八王子市と都内江東区で2006年より開始した。PM2.5の粒子濃度レベルは八王子と江東区どちらも同程度であり、約30個の元素濃度がk0‐INAAまたは比較NAA法によって定量された。江東区でのほとんどの元素濃度の平均値は、八王子よりも平均で約2倍高く、元素の相関関係は、八王子市と江東区では著しく異なった。
韓国: Mr. Jong-Hwa Moonによる研究成果報告
60個の浮遊粒子物質(PM25)試料をChungnam国立大学の第3技術棟の屋上から採取し、INAAを使って28個の元素を分析した。PM2.5の質量濃度の偏差は5.6〜64.5μg/m3で平均値は30.9μg/m3であった。分析結果によると、A1, K, FeやNaなどの要素が高濃度であり、Dy, Sc, HfやCsなどが低濃度であった。
マレーシア:Mr Md Suhami Bin Eliasによる研究成果報告
海洋環境試料の微量有毒元素の分析にk0‐INAA法を用いた。マレーシア半島東海岸の30箇所から採取された海洋堆積物の中から約29の微量有毒元素を特定した。これら微量有毒元素の主な発生源は、農業、産業、乗り物や鉄鉱業などの人為的なものである。
フィリピン: Ms. Preciosa Corazon Pabroaによる研究成果報告
報告はADMU、POVDEA、NAMRIAなどの試料サイトと比べて鉛(Pb)レベルの高いValenzuelaを主な焦点とした。
鉛の発生源ファクターは、PM10-2.5とPM2.5の両方に姿を見せている。CPF分析では、鉛の汚染源は、ほぼ全方向から来ていることを示している。Valenzuela市での分析結果は、鉛の発生源を特定するためにその地域に対する更なる総合評価を行い、環境濃度を下げるための対策を講じる必要性を示している。2006年の環境濃度の平均は、フィリピンNAAQ長期基準値とアメリカEPA長期基準値を超えている。
タイ:Dr. Sirinart Laoharojanaphandによる研究成果報告
2007年2月にTalaenoi保護地区の6試料サイトからコア堆積物を採取し、計188個の試料を比較INAA方式によって分析した。Mn、 AlそしてFeは深度変動と位置依存性を示した。さらに、幾つかの試料はタイの土壌最大許容量基準値に比べ高いMnを含有している。全試料のヒ素値は基準値より高くなっている。これらのデータは本プロジェクトのエンドユーザーである資源・環境省環境推進局で使用される。
ベトナム:Dr. Nguyen Ngoc Tuanによる研究成果報告
2007年は、Nha Trang, Phan Thiet そしてPhan Thietの3つの沿岸地域を試料サイトとして選択した。分析方法はk0‐INAA、RNAA 及びAASである。上記3サイトから採取された海洋環境試料(堆積物、海水、生物相)から20以上の元素を定量した。30種類の試料の中から700個のターゲットが本ワークショップで報告された。
カントリレポート2
第2期(2005-2007)のまとめ:「試料分析及び環境行政への反映状況」の発表が国名アルファベット順に行われた。
バングラデシュ:
バングラデシュはFNCA研究炉利用<中性子放射化分析>グループには2006年からの参加であるため、本ワークショップにおける第2期サマリーレポートの発表はない。「NAA技術を用いた工業廃水の排出による環境汚染分析」の研究について発表があった。INAA技術によって分析したダッカ輸出加工区の繊維工業から排出された廃水からは、物理化学パラメーター、塩分と重金属汚染を確認した。ガイドラインには、周囲の環境へ廃棄する前の廃水処理に対する費用効率の良い試験工場をどの様に整備するかを載せている。さらに、既存のHazaribag 皮革産業地と予定地であるTetuljhora 皮革工業地域の土壌からCr毒性が確認された。Hazaribag地域ではCr汚染度が高いが、Tetuljhoraの土壌は国際基準値と比べて通常レベルである。
中国:Prof Bangfa Niによる第2期の総括報告
北京のLianxiang地域では、2004年以来GENTサンプラー(試料採取器)と専用フィルターを用い、400以上採集し、k0‐INAAによる分析によって約40元素を定量した。データ解析は主に統計ソフトウェアを使って、主に土壌、石灰岩、酸化物、交通、粉塵などの5汚染源を確認した。これらの情報は、地域行政の裁決を支援している。幾つかの小さな炭鉱や石灰窯が地域行政によって閉鎖され、幾つかのセメント工場は移転させられた。石灰燃焼は、天然ガスまたは液化ガスに代替された。その結果から、Liangxiang地域の大気環境は改善されたことが示された。また、NAAや大気汚染研究における若手科学者たちの技術及び知識は極めて向上している。なお、INAAと統計ソフトウェアを使った大気汚染研究の有効性に対するエンドユーザーの支持と理解は高まった。
インドネシア:Mr. Sutisnaによる第2期の総括報告
ジャカルタ首都特別州の環境管理局(BPLHD)は、海洋環境モニタリングにおいて核分析技術を使う事に力を入れている。2005年末に開始された環境管理局との連携は現在も続いている。ジャカルタ湾の試料サイト30箇所及びBanten省北沿岸の試料サイト10箇所から採取した堆積物試料の成分分布を評価した結果、Sc, Cr, Rb, Sr, Ag, Sb, Cs, La, Ce, Nd, Eu, Yb, Th, U, Fe, Zn, Pb, Cu, Cd そしてBrの元素が報告された。本プロジェクトの分析結果は、非常に有用であると評価された。
日本:海老原充教授による第2期総括報告
2005年〜2007年における日本NAAグループの実施活動をまとめ、第2期当初に掲げた目標との比較評価を発表した。SPM試料採取を八王子(郊外)、坂田(地方)、江東区(都市)の3箇所で実施し、INAAによる分析を行った。また、試料採取は産業と人的影響から遠く離れた辺戸岬(沖縄)でも行った。結論として、掲げた3ヵ年目標は、ほぼ達成したと評価される。
韓国:Mr. Jong-Hwa Moonによる第2期の総括報告
環状デニューダ型サンプラーとINAAを使ってDaejeon市内の大気環境をモニタリングするために、質量濃度とPM2.5の28の元素濃度を特定した。
ここで得られたデータは、国内外の専門誌に研究論文として発表した後、環境省指揮下の環境当局に提供される。
マレーシア:Mr. Md Suhami Bin Eliasによる第2期の総括報告
国内外で開催された研究活動への参加を含め、様々な協力機関を通して研究開発活動に取り組んできた。マレーシア原子力庁は、UTM, UiTM, UPM, UKM, UMT, AELBそしてマレーシア水産協会など大学及び政府機関との連携をとっている。同時に国際レベルでは、マレーシア原子力庁は、IAEA及びFNCAプログラムと緊密に協力している。国外のみならず国内機関とマレーシア原子力庁間の連携目的は、核分析技術に係る研究活動を促進することである。海洋堆積物試料は、マレーシア半島東海岸から採取し、INAA技術によって分析した。この研究で得られたデータは、国の適切な管理を行うために、環境局にとって重要なものとなるであろう。
フィリピン:Ms. Preciosa Corazon Pabroaによる第2期の総括報告
2004年〜2006年の間にValenzuela試料サイトではPM10とPM2.5の平均値が上昇しており、2006年のPM10においてはフィリピンNAAQ長期基準値を超えている。2005年のValenzuelaにおけるPM10Pbレベルは、粗粒と細粒片分の両方の鉛源要素を示しているPMFランに反映されるPM10-2.5とPM2.5のレベルが上昇していることを示している。条件付確率関数(CPF)分析では、この汚染物質はほぼ全方向から来ていることを示している。環境管理局、Palawan地方自治体及びMakati環境保護審議会との連携体制を発足させた。POVEDAとUST試料サイトから採集した計40個のエアフィルターは、EDXRFシステム(PNRI)とINAA(TMU)の両方で分析された。特に鉛に関しては、INAAでは鉛の分析は出来ないためEDXRFのほうが有用である。
タイ:Dr. Sirinart Laoharojanaphandによる第2期の総括報告
FNCA活動としての研究炉利用は、2つのサブプロジェクト「Saraburi省における大気環境調査」と「Thalaenoi保護地区における汚染調査」として実施した。浮遊粒子データは資源・環境省汚染管理局によって活用された。Thalaenoiプロジェクトの結果は、資源・環境省環境推進局環境研究研修センター水中研究開発部での活用のために、その他情報と組み合わせて利用される。この成果は、Thalaenoiの持続的利用に対する国民意識を高めるために、環境推進局とPattalung省委員会主催による技術会議にて発表される。
ベトナム:Dr. Nguyen Ngoc Tuanによる第2期の総括報告
Nha Trang, Phan ThietそしてGanh Rai 湾で採取された海洋環境試料から18-25の元素を特定した。対象は、Al, As, Br, Ca, Cd, Ce, Co, Cr, Cs, Cu, Eu, Fe, Hg, K, La, Mn, Na, Pb, Rb, Sb, Sc, Se, Sm, Sr, Th, U, V そしてZnである。採取された海洋環境試料は海水(18元素)、生物相(22元素)及び堆積物(25元素) である。成分分析に用いた技術は、INAA、 RNAAそしてAASである。3箇所の湾岸地域から60以上の試料が採取され、得られた分析結果は、今後の海洋環境状況の研究と観察のためのデータベースとなるであろう。
3ヵ年評価(2005-2007)に対する報告及び討議
各国がそれぞれの自己評価を発表した。
添付1‐各国評価シート
第3期への提案についての討議
FNCA研究炉利用<中性子放射化分析プロジェクト>の次期フェーズ(第3期)継続の提案は、新しく本プロジェクト活動への参加に興味を示しているオーストラリアを含む全参加国によって承諾された。第3期の3つの共通ターゲットは、地球化学試料(6ヶ国)、食料試料(7ヶ国)そして環境試料(6ヶ国)である。2008年初期に開催される次のFNCAコーディネーター会合に於いて、第3期に向けたこれらの案が承認されれば、各国が本プロジェクトの全体目標や年度目標を設定するのに電子メールでのコミュニケーションを図ることになる。決定は、2008年度FNCA研究炉利用<中性子放射化分析プロジェクト>会議で下される。これまでの経験から、参加国のほとんどが自国のプロジェクトにおいてk0‐INAAを広く使用しているため、参加者は技術検証を第3期に実施するもう一つの課題とすることに同意した。タイは、自国でのk0‐INAAの実演開始に向けて支援要請の意を示した。第3期の成果として、幾つかの技術論文を国内外の専門誌に発表することが期待される。
第3期(2008-2010)の研究対象試料
国名 |
研究予定対象試料 |
オーストラリア |
地球化学試料 |
バングラデシュ |
地球化学試料、バイオマトリクス、食料品、ヒ素関連物質 |
中国 |
環境試料、食料品、地球化学試料 |
インドネシア |
環境試料(土壌、海水)、食料品 |
日本 |
地球化学試料、SPM |
韓国 |
食料品 |
マレーシア |
地球化学試料、 食料品、SPM、飲料水 |
フィリピン |
地球化学試料、SPM、食料品、玩具、化粧品 |
タイ |
食料品、(化学)肥料(農業試料) |
ベトナム |
土壌、堆積物、生物相、海水 |
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