2008年FNCA研究炉利用ワークショップ
中性子放射化分析グループ
会議報告
2008年10月16日〜10月23日
ベトナム、ダラト
参加者リスト
1. |
ジョン・W・ベネット氏 |
オーストラリア代表 |
2. |
シエド・モハメド・ホサイン氏 |
バングラデシュ代表 |
3. |
フアン・ドングイ氏 |
中国代表 |
4. |
スティスナ氏 |
インドネシア代表 |
5. |
海老原 充氏 |
日本代表
(プロジェクト内リーダー) |
6. |
松尾 基之氏 |
日本 |
7. |
田中 剛氏 |
日本 |
8. |
ムン・ジョンファ氏 |
韓国代表 |
9. |
スハイミ・ビン・エリアス氏 |
マレーシア代表 |
10. |
プレシオサ・コラゾン・パブロア氏 |
フィリピン代表 |
11. |
シリナート・ラオハロジャナファンド氏 |
タイ代表 |
12. |
ブ・ドン・カオ氏 |
ベトナム代表 |
13. |
ジアン・グエン氏 |
ベトナム |
14. |
町 末男氏 |
FNCA日本コーディネーター |
開催委員会議長であるベトナム原子力委員会原子力研究所長グエン・ニ・ディエン氏の歓迎挨拶に続き、各参加者により、自己紹介、FNCA活動への関与と抱負が述べられた。
中性子放射化分析プロジェクトのリーダーである海老原充主査が開会挨拶を行い、このワークショップで行うべき以下の項目につき説明した。
- 放射化分析活動と研究炉利用に関する各国報告
- 新中性子放射化分析プロジェクトがサブプロジェクトとして行う下記項目についての活動計画の作成。
- 地球化学図作成と鉱物探査
- 食品汚染モニタリング
- 環境汚染モニタリング
- サブプロジェクトごとに、基調講演、各国の活動と計画の発表、目的と目標及び実施計画に関する議論を行う。
I. 各国報告
各国代表者により、以下の各国報告がアルファベット順に報告された。
オーストラリア:ジョン・W・ベネット氏
20MW水泳プール型軽水炉であるOPALは、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)により運営されている。炉は、医療用及び工業用の放射性同位元素製造、シリコン塊への照射、冷及び熱中性子ガイドビームを利用した中性子散乱科学、研究用の材料照射、中性子放射化分析及び遅発中性子放射化分析に利用されている。3×1012 n cm-2 s-1から1×1014 n cm-2 s-1の中性子束が利用可能であり、中性子放射化分析用設備は、短時間照射用及び長時間照射用に分けられ利用されている。中性子放射化分析のデータ処理に当たって、DSM社のK0標準化法ソフトウェアを所用する予定である。現在、中性子放射化分析プロジェクトは、環境、地球科学、鉱物探査、考古学及び多くの場合材料科学の研究領域において計画されている。
バングラデシュ:シエド・モハメド・ホサイン氏
過去22年に渡り、バングラデシュ原子力委員会(BAEC)が、国内唯一の研究炉である3MW TRIGA Mark-IIを運転してきた。炉の業務には、放射性同位元素の製造、中性子散乱を用いた材料試験、中性子ラジオグラフィー利用による物性解析、様々なマトリクス組成を持つ対象試料の質的・量的評価を行う中性子放射化分析での利用などがある。研究開発業務の例としては、1) 最近実施した3軸スペクトロメーター(TSA)と中性子放射化分析を利用した、熱エネルギー0.0536 eV時の中性子捕獲断面の決定、2) ベンガル湾から採取した6堆積試料についての中性子放射化分析、及び原子吸光分析(AAS)との結果比較がある。中性子放射化分析研究室の大きな業務になっているのは、汚染地下水にさらされている人々の体内砒素に関する評価と軽減化のプロジェクトで行っている、砒素についての分析である。
中国:フアン・ドングイ氏
中国には、3.5MWスイミングプール炉(SPR)や数基の27kW小型中性子源炉(MNSR)を含めて、中性子放射化分析を実施できる様々な研究炉がある。60MWの中国新型炉CARRは、2009年には臨界に達する計画である。CARRでは、新しい中性子放射化分析用設備が次の5年で建設され、そこには遅発中性子放射化分析設備(DNAA)と冷及び熱中性子ガイドビームを利用した即発ガンマ線中性子放射化分析(PGNAA)が設けられる。中国では、およそ100人が中性子放射化分析業務を行っている。ニ・バンファ氏のグループが行っている最近の活動には、基準となる比較標準試料(SRM,RM)の認証作業及び更なる研究、K0法及び関連手法に関する中性子放射化分析手法の研究、RCA領域における大気環境改善の為の核解析手法(主に中性子放射化分析)の利用、従来から行っている試料分析作業等がある。
インドネシア:スティスナ氏
中性子放射化分析活動とBATANが保有する3基の炉の研究利用についての発表があった。これらの炉は、中性子放射化分析同様に、放射性同位元素の製造、材料科学、核計装等の幅広い領域で利用されてきた。すべての中性子放射化分析研究所には、K0法と比較法の両方を用いて中性子放射化分析を実施できる設備とソフトウェアが配備されている。バンドンとジョクジャカルタにある中性子放射化分析研究室は、国家認定機関によりISO/IEC 17025(2005年版)の認可を受けた。一方、セルポンの研究室は認証作業中である。計7名のスタッフが、中性子放射化分析作業に従事している。中性子放射化分析は、主に健康面(全血及び生検試料)、環境面(海洋汚染分析及び食品安全分析)、工業面(化粧品及び工業製品)、そして物性解析(ミクロン単位粒径の高分子微粒子やミクロン単位未満の超微小技術)の領域で利用されている。食品汚染と必須元素について予備的に行った分析の結果が、詳細に示された。
日本:海老原充主査
日本の中性子放射化分析の現在の活動と実施中の計画が、研究炉を利用できる度合いと関連して示された。中性子放射化分析を行える研究炉が3基あるが、その内の2基は現在停止中である。これら2基は2009年に再稼動予定である。多数のゲルマ検出器を備え、中性子源として陽子加速器を利用する、新PGNAA装置の建設計画が示された。加えて、放射化分析をテーマにしている団体である、日本放射化分析研究会(JA3)の活動が紹介された。
韓国:ムン・ジョンファ氏
韓国の中性子放射化分析の活動とHANARO研究炉の利用状況が発表された。HANAROは韓国唯一の研究炉であり、1995年の開始以来2000日を超え順調に運転されている。機器中性子放射化分析(INAA)、PGNAA及びDNAAの3設備が稼動しており、様々な試料の分析に利用されてきた。今回発表では、INAAを利用し、下水汚泥、火力発電所の主灰(焼却炉の炉底に落下した灰)、河の堆積物試料について行った、環境面での研究が説明された。
マレーシア:スハイミ・ビン・エリアス氏
1MW TRIGA MK II炉が1982年から稼動している。炉は、小角中性子散乱(SANS)、中性子ラジオグラフィーと中性子放射化分析に利用されている。中性子放射化分析は環境、地質学、食品試料についての元素分析に用いられてきた。最近では、サバ海岸沿いの9箇所で採取した海洋堆積物の分析に、中性子放射化分析が用いている。砒素、クロム、アンチモン及び亜鉛等の有毒物質を含め、29の元素が定量された。幾つかの採取場所で見られた元素による汚染の源を明らかにする為に、今後更なる調査が必要である。この調査データから、マレーシアの、特にサバ海岸沿いについての海洋環境汚染の現状に関し重要な情報が得られると思われる。
フィリピン:プレシオサ・コラゾン・パブロア氏
フィリピン原子力研究所は、FNCA中性子放射化分析プロジェクトとの係り方として、他国で行った中性子放射化分析結果との比較対照用データとなるよう、エネルギー分散形蛍光X線分析装置(EDXRF)を用いて環境試料分析データを作成する事に関心を寄せている。この方法なら、異なる分析技術を用いる事で、蛍光X線分析データの有効性を示す機会が得られる。調査は大気汚染、鉱物探査、同位体水文学研究(地球上の水循環を対象とする地球科学の一分野)の支援として行う水の元素解析について、行われている。PGNAA装置は、現在組み上げ中である。環境管理局、パラワン市地方政府、マカチ環境保護評議会、ANSTO、フィリピン大学及び科学技術学部と、協力或いは支援の関係が確立されてきている。
タイ:シリナート・ラオハロジャナファンド氏
原子力平和利用局(OAP)から最近分離し刷新された、タイ原子力研究所(TINT)の現在の組織図が示された。TINTの業務の一つとして、1.2 MW出力TRIGA Mark IIIスイミングプール型炉である、タイ研究炉TRR1/M1の運転を行っている。炉は、中性子放射化分析、放射性同位体製造、中性子散乱、宝石への照射、放射線育種の用途に利用されている。INAA、熱外中性子放射化分析(ENAA)、PGNAA、予備濃縮中性子放射化分析(PNAA)、放射化学的中性子放射化分析(RNAA)等、様々な種類の中性子放射化分析技術が使用可能である。多くの新技術開発も行われている。中性子放射化分析は、環境、食品と健康、鉱物と採掘、工業、農業、そして考古学等、様々な領域で利用されてきた。
ベトナム:ブ・ドン・カオ氏
TRIGA Mark II炉を改造した、現500kWダラト研究炉は放射性同位元素製造、中性子放射化分析、即発ガンマ線中性子放射化分析、基礎及び応用研究と訓練の用途に利用されている。地質学、油田調査、環境科学と考古学等の領域で、年におよそ1000もの試料が中性子放射化分析にかけられている。研究室では、ダラトK0法ソフトウェアからIAEA K0法ソフトウェアへの切替作業を行っている。カチエン及び他の先史遺跡で採取された粘土試料とれんが試料に関する中性子放射化分析調査の初回報告が示された。起源を決定する際には、多変量分析手法である、主成分分析(PCA)と集団化分析(CA)が用いられている。この作業は、考古学における起源調査に関する省庁プロジェクトの一環として、ダラト原子力研究所のINAA研究室で行われている。
II. 新しい期の計画
提案されているサブプロジェクトごとに基調発表が行われ、各プロジェクトの見通しが示されると共に、到達可能な目標が提案された。その後、各サブプロジェクトに関して、以前に参加表明した国による発表が続いた。
1. 地球化学地図作成と鉱物探査
基調発表−ジョン・W・ベネット氏(オーストラリア)
地球化学地図のサブプロジェクトは、鉱物探査、環境モニタリング、作物・動物・人間の健康、そして土地利用の方針決定に利益をもたらす事ができる。このサブプロジェクトは、国家的優先課題に関連して国家利害関係者に重要な利益を提供でき、中性子放射化分析の長所を活用できる側面をもつものと認識させる可能性を持っている。サブプロジェクトの範囲は充分広いので、個々の国は利用出来る技術資源に応じて、対象要素を選択する事ができる。「良い科学は違いを生み出す。」という命題のもと、このサブプロジェクトは、社会経済的利益として定量可能な成果をもたらせる。中性子放射化分析について、参加国内で標準試料を用いて研究所間の比較と評価を行う事が重要であろう。第1段階として、各参加国は、どういう形とレベルで中性子放射化分析の関与が可能かを決める為、適切な国内当局と研究仲間から情報を集める事が求められる。
シエド・モハメド・ホサイン氏(バングラデシュ)
コックスバーザールの海岸沿いの20km領域(ラボニ海岸からイナニ海岸間)における、重鉱物堆積物の地球化学的組成を調べる為に、最近調査を実施した。この作業は、海岸鉱物砂開発センター(BSMEC)との共同作業で行われた。砂の堆積物は、1kmずつ離れた21箇所の採取ポイントにおいて、深さを3段階に分け、採取された。重鉱物は、BSMECによって、イルメナイト(チタン鉄鉱:FeO.TiO2)、マグネタイト(磁鉄鉱:FeO.Fe2O3)、ガーネット[(Fe, A, Ca, Mg, Mn)(SiO4)]、ルチル(金紅石:TiO2)等に分離された後、それらの中の不純物を判定する為に回収された。分析実施中である。
フアン・ドングイ氏(中国)
このプロジェクトの目的は、新しい種類の認定標準試料(CRM)を開発する事である。この標準試料は、微量固体試料分析における品質管理にとって必要となるものである。認定作業では、中性子放射化分析を含め、利用可能な様々な核利用による分析技術が用いられる。こうした認定標準試料は、地球化学地図作成と鉱物探査のサブプロジェクトに、役立つものである。
田中剛委員(日本)
地球化学地図は、地球環境評価と資源探査の為の基礎情報を提供する有効な手段である。機器中性子放射化分析は、広範囲から採取された多数試料中の多数の元素を分析する手法としては、最も優れたものと認識されている。名古屋大学の地球環境科学部は簡便な手法を開発しており、これまでに、2000を超える河川堆積物試料の分析作業で開発手法を実施している。ジルコンのような不溶性鉱物内の微量元素については、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)より機器中性子放射化分析の方がより高い信頼性をもって定量できる。名古屋-豊田-瀬戸地域におけるLa(ランタン)、Ce(セリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロビウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、Sc(スカンジウム)、Cs(セシウム)、Au(金)、As(砒素)、Sb(アンチモン)、Th(トリウム)、U(ウラン)の地球化学地図は、興味深い特徴を示した。
スハイミ・ビン・エリアス氏(マレーシア)
マレーシアは、海洋環境汚染の評価、大気浮遊塵の特性解析、マレーシアの食料に含まれる必須元素・有毒元素や海及び淡水における無酸素堆積物内の地球化学的汚染物質の定量を、国家的な優先事項にしている。陸地の地球化学地図は、現在、優先事項ではない。
2. 食品汚染物質モニタリング
基調講演−ムン・ジョンファ氏(韓国)
中性子放射化分析は、食品中のI(ヨウ素)、Ca(カルシウム)、Fe(鉄)、Se(セレン)、Zn(亜鉛)等の必須元素及び、As(砒素)、Pb(鉛)、Cd(カドミウム)、Cr(クロム)等の有毒元素の定量において重要な役割を果たしている。主食、栄養補助食品、海産物、肉等に注目し、この技術を利用出来るかもしれない。その為には、プロジェクトで焦点を当てる対象と到達すべき目標についての参加国間の合意が必要となるだろう。中性子放射化分析技術の検出限界について、細心の注意のもとに検討する必要があるとの指摘があった。朝鮮人参の各部位の元素組成に関する詳細な調査が、実施可能なアプローチの一例として発表された。
シエド・モハメド・ホサイン氏(バングラデシュ)
果物と野菜の15試料がフェニ地区のウパジラの5地点から採取され、砒素汚染についての分析が行われた。分析結果では、3点のアルム(野菜の一種)試料以外は、全て、検出限界(0.6 mg/kg dry weight)未満の砒素レベルであると分かった。基準となるデータを作る目的で、原子炉周辺で育った13の果物と野菜が元素分析の為に採取された。この分析を、現在実施中である。
スティスナ氏(インドネシア)
バンテン及びジャカルタ周辺の市場で収集した、一連の主食食材に対して行った、元素分析プロジェクトの結果が発表された。カカオ、穀類、豆類、野菜及び米を分析し、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Se(セレン)等の必須元素及び、Cr(クロム)、As(砒素)、Sr(ストロンチウム)、Sc(スカンジウム)、Mn(マンガン)等の汚染元素を定量した。照射条件と分析データ、試料準備の詳細が示された。
スハイミ・ビン・エリアス氏(マレーシア)
多種に渡るマレーシア料理や異なる様式の食生活を検討しながら、マレーシア人の平均的食生活で使われている食料品の必須及び有害元素を定量するプロジェクトを現在実施している。採取地域、食料品と食料品供給場所(レストランや屋台)のタイプ等含めた採取上の提案を検討中である。活動の制約としては、限定された予算、炉の利便性の問題、消費者意識の中で優先度の高いものをうまく取り扱う必要性がある点が、挙げられる。
シリナート・ラオハロジャナファンド氏(タイ)
タイの食料品内汚染物質を監視するプロジェクトが、実施されている。このプロジェクトでは、栄養素と有毒鉱物に対する中性子放射化分析を行う。プロジェクトは、タイのナコンパトム県サラヤにあるマヒドル大学栄養研究所との密接な連携のもとに実施されている。4グループ(穀物及び穀物製品、でんぷんを多く含む根菜や根茎植物及びその製品、豆類・ナッツ・種及びその製品、ヒレを持つ魚・甲殻類・その他の海洋生物と海産物)の食材が採取されている。採取作業と試料調整は、専門的手順書に基づき、栄養研究所により実施される予定である。また、結果はタイの食料組成表を更新するために使用される予定である。
ジアン・グエン氏(ベトナム)
2009年実施予定のマーケット・バスケット調査(消費者が購入した物の分析調査)では、ラムドン、プュエン、ナトラン及びビンディン州の都市及び田舎から、100の食材を収集する。As(砒素)、Cd(カドミウム)、Cu(銅)、Hg(水銀)、Sb(アンチモン)、Se(セレン)、Pb(鉛)及びZn(亜鉛)等の微量元素の濃度が、機器中性子放射化分析(INAA)、放射化学中性子放射化分析(RNAA)及び原子吸光分析(AAS)の手法で求められる。異なる州における成人の1日当たりの元素取り込み量が、積算される予定である。
3. 環境汚染モニタリング
基調講演−松尾基之委員(日本)
対象物質として、大気浮遊塵(フェイズ1-2で実施済み)、堆積物(河川、湖、海洋)及び土壌等の固体環境試料を用いる事が出来る。第一候補は、海岸環境に特化した海洋堆積物と言える。主要及び微量元素、有毒または有害元素、天然または人由来等の論点があるかもしれない。堆積物コア試料を調査する事により環境変化を判定する所までサブプロジェクトの適用範囲を拡大することは、大変興味深い事である。その為には、共通とする試料・採取法・技術手法・ソフトウェアを含んだ分析手法に関し、参加者が合意する事が重要になるだろう。プロジェクトがもたらす利益を挙げるとすれば、アジア諸国の海洋環境汚染の定量化と、海岸地域の長期間における環境変化に対する定量化が行われる点である。調査結果は、質の高い学会誌に発表されるべきである。2つの事例研究が示された。
シエド・モハメド・ホサイン氏(バングラデシュ)
3つの事例研究が示された。最初のものは、砒素による地下水汚染に関するもので、地球化学的及び水文学的な係わり合いが検討された。2番目の研究は、ベンガル湾の堆積物の成分とバングラデシュの農地土壌を比較するもので、U(ウラン)、Th(トリウム)、As(砒素)、Sb(アンチモン)、Cr(クロム)の元素に注目したものである。3番目は、船舶の解体を原因とする環境汚染の監視をするために開始したプロジェクト研究である。汚染物質は、Cd(カドミウム)、As(砒素)、Zn(亜鉛)、Cr(クロム)、アスベストと難分解性有機汚染物質であり、これらはすべて、労働者と海岸の潮間帯の両方に脅威を与える恐れがある。
スティスナ氏(インドネシア)
提案テーマに合致していたが、予算の都合から見送りとなった多くの国内プロジェクトが示された。その中には、2008年活動として申請した「工業地域の汚染及び汚染源の分析」プロジェクトも含まれる。同時に、「南スマトラ、ムシ川の環境状況を判定するための中性子放射化分析の利用」プロジェクトも、研究技術省の2008年奨励プログラムの助成を受けられなくなった。2009年に開始する、バンテン工業地域の環境汚染に関する新プロジェクトが申請されているが、承認待ちの状態である。FNCA日本コーディネーターである町末男氏が、これらプロジェクトの潜在的重要性を伝える為、関連のインドネシアの決定権者と交渉する事を申し出た。
スハイミ・ビン・エリアス氏(マレーシア)
サブプロジェクトと合致する2つの国内プロジェクトが示された。最初のものは、海洋環境汚染評価に関するもので、海洋堆積物の有毒な微量元素を定量し、すべての汚染物質の源を明らかにするものである。試料採取場所はサバ州、サラワク州及びイベリア半島の海岸地域に分けられた。作業協力機関として3大学、3省庁が登録されている。2番目のプロジェクトは、大気環境評価の為に大気浮遊塵を特徴づけるプログラムが継続されたものである。
プレシオサ・コラゾン・パブロア氏(フィリピン)
バタンガス州カラカ市の石炭火力発電所地域の大気環境に関し、地衣類の一種Pyxine cocoesを生体モニターとして利用した調査が、現在実施中である。その地域で入手可能な大気粉塵と土壌試料もまた、適宜、エネルギー分散形蛍光X線分析(EDXRF)または機器中性子放射化分析(INAA)、即発ガンマ線中性子放射化分析(PGNAA)を用いて利用可能な範囲で分析される。もう一つ可能性がある調査地域は、多くの温泉がある事で知られている、ラグナ州マキリング山のロスバニョスである。比較的高い硫黄濃度が、この地域では測定されてきた。この場合に、カラカ採取時と同様の調査手順を用いる事が可能である。
シリナート・ラオハロジャナファンド氏(タイ)
タイ内湾の海洋環境汚染を監視するプロジェクトが、中性子放射化分析及び他の関係した手法を用いて実施されている。堆積物及び生体試料を対象とし、季節ごとの変化を監視するものである。採取作業は、タイのチョンブリー州ブラパ大学理学部海洋科学部との連携協力により実施される。試料の分析はタイ原子力研究所が担当する。この情報はブラパ大学経由で州の環境当局に伝えられる。
ジアン・グエン氏(ベトナム)
ニン・チュアン州は、ベトナム初の原子力発電所の建設予定地と考えられている。立地以前の当初の状態を評価する事を目的として、現状における海洋環境試料中の元素レベルの基礎データ集が、現在編集されている。このデータ集は、将来の海洋環境汚染負荷の変動を定量するために必要である。試料は、ニン・チュアン州のニンハイ地区及びニンピュオク地区の海岸地域から採取される予定である。堆積物、海水及び生物相が採取対象である。海洋環境試料から20以上の元素が、K0法と比較法による中性子放射化分析によって定量される見込みである。
4. 目的と目標及び実施計画に関する議論
発表の後、提案されたサブプロジェクトが順番に議論された。これらの議論では、目的、目標、協力の潜在的可能性、分担及び目標に至るまでの計画が検討された。いずれの場合においても、潜在的最終ユーザーに焦点が当てられた。
a) 地球化学地図作成と鉱物探査
議論で明確になったのは、このプロジェクトは、その性質上複合的なものであり、利害関係者、協力連携者及び最終ユーザーとの強力な繋がりを必要とするという事である。町氏は、鉱物探査が人類の未来にとって緊急なニーズである事を参加者に想起させた。
3つの行動が合意された。
- 各国代表者は自国の関連当局と打ち合せ、鉱物探査及び地球化学地図の為に如何なる国家プログラムが実施されているか把握する。そして中性子放射化分析の技術がその国家プログラムに如何に役立つかを説明する。
- 小さな地域の調査プロジェクトでも良いので、各国代表者は、土壌・岩・堆積物の試料分析の際に中性子放射化分析を用いるプロジェクトへの参加努力をし、地球化学地図と鉱物探査にとっての、本分析技術の価値を実証する。
- 中性子放射化分析と誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を比較する機会を模索すべきである。
関係当局との最初の打合せ以降、サブプロジェクトに参加する意欲があるか、各国は再調査する。
b) 食品汚染物質モニタリング
個々の国の参加可能性、対象試料の選択、活動計画の展開等の課題が議論された。要約すると、
- 参加予定国は、インドネシア・韓国・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナムである。
- 幾つかの食品が対象試料に選ばれた。米を共通の対象、卵を可能となる2番目の対象とする提案があった。有り得る問題として、試料となる米の前に、それを作る土壌が汚染している恐れが指摘された。ラオハロヤナファンド氏が、米の採取方法と試料調整及び分析についての実施手順の草案作りを申し入れた。ムン氏は、毎日の食事摂取を代表する混合の試料がふさわしい事を強調し、この提案はスハイミ・ビン・エリアス氏の支持を得た。
- 分析手法は、機器中性子放射化分析にすべきである。
確固たる結論には至らなかったが、詳細な到達目標と活動計画を作成する為に更なる議論が必要という点が合意された。ムン氏が食品プロジェクトの議論を開始し、調整を行う事が合意された。これらの議論は、参加国間のEメール連絡で行われる。
c) 環境汚染モニタリング
「海洋堆積物」という共通課題が、参加予定国の発表とそれに続いて行われた議論により、明確化した。湾か周辺の海岸線における有毒元素の空間的変動に焦点を当てている国がある一方で、コア試料の分析から、元素濃度の時間変動を判定する事を好む国もある。松尾委員とホサイン氏が、詳細な試料採取手順を共有する事を提案した。サブプロジェクトにおいては、大陸棚から採取された海洋堆積物に特化する事が合意されたが、河口の堆積物及び海岸の試料も含める事が出来るとした。採取方法と分析手順について、全参加国が合意する事の重要性が強調された。
III. サマリーと結論
FNC中性子放射化分析プロジェクトの第3期課題として、以下の3つのサブプロジェクトが選択された。
3.1 地球化学図作成と鉱物探査
3.2 食品汚染モニタリング
3.3 海洋堆積物内汚染物質の空間的及び時間的な変動モニタリング
表1は、上記サブプロジェクトと関連する対象物質及び参加国を要約したものである。
海老原主査が、全参加者に対し、参加者から得た様々な貢献と達成できた前向きな成果についての感謝を示し、ワークショップは正式に閉会した。
表1 FNCA 中性子放射化分析プロジェクト - 第3期
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