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ワークショップ


FNCA 2009 研究炉利用ワークショップ
概要  会議報告  開会RRTNAAまとめ   プログラム   参加者リスト

2009年FNCA研究炉利用ワークショップ
概要

2009年9月7日〜9月11日
青森県八戸市


2009年FNCA研究炉利用ワークショップが、下記の通り開催されました。

開催日程 2009年9月7日〜11日
開催地 青森県八戸市
主催 日本 文部科学省(MEXT)
実施機関 (財)原子力安全研究協会
参加国 オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム

 今回のワークショップは、研究炉利用分野における2つのプロジェクト、「研究炉基盤技術」(RRT)と「中性子放射化分析」(NAA)のワークショップで構成されました。両プロジェクトとも3年間活動が予定されており、今回のワークショップは、その2年目の折り返し地点に当たります。2つのワークショップのトピックは、以下の通りです。

「研究炉基盤技術プロジェクトワークショップ」

 研究炉基盤技術(RRT)ワークショップには、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、タイ及びベトナムの8カ国が参加し、参加人数は事務局を含め計14名に上りました。

 

 本プロジェクトは、研究炉の効率的利用を促進するため、加盟国内で安全で安定した研究炉運転を確保する安全解析技術を向上させ、また、均等化する事を目的としており、研究炉のRIA(反応度事故)安全解析及びLOFA(流量喪失事故)安全解析技術の共有化を進めています。
 今回のワークショップでは、各国が、計算コードCOOLOD N2を用いて自国の研究炉に対して行った熱水力計算の結果を報告しました。個々の結果は、それぞれがこれまでに算出した計算値や測定データとよく合致していることが報告されました。
 また、もう一つの共有化対象である核熱水力結合動特性計算コードEUREKA2/RRの解析作業の実演やサンプル課題の実習等、各国間での共有を図る作業が行われました。各国は、帰国後、EUREKA2/RR を使って自国の研究炉のRIA安全解析とLOFA安全解析を行い、次回のワークショップで結果報告することになっています。
 今回、三島嘉一郎氏が、研究炉の熱水力解析全般を包括した学術講義を行いました。計算コード全体についての十分な理解がないと、安全解析を実施しても計算値がばらついてしまいます。この見地から、三島氏は安全解析に使う計算コードの考え方を一つ一つ丁寧に説明しました。本講義により今回のワークショップの参加者の理解が深まり、各国において、安全で安定した研究炉運転が一層確保されたものと思われます。
 2011年から始まる次期活動テーマを「先進的な照射用カプセルの設計」とする提案がありました。

「中性子放射化分析プロジェクトワークショップ」

 中性子放射化分析(NAA)ワークショップには、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、タイ及びベトナムの10カ国が参加し、各国からの参加者は事務局を含め計18名に上りました。

 

 NAAは、分析対象物(試科)に中性子照射することで構成元素を放射化させ、その放射能およびエネルギーの測定を通して元素分析する手法です。NAAは「対象試料を破壊せず、内部に存在する複数の元素を一度に高感度分析出来る」長所を持っています。本プロジェクトでは、社会経済的に大きな貢献が期待できる以下の3分野分野での利用促進活動を進めています。ワークショップでは、各国の研究炉におけるNAA利用の現状とFNCA活動の進捗報告、今後の活動計画等が議論されました。

「地球化学図作成と鉱物探査」
 参加国: オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、ベトナム
・   鉱物資源開発に関係した省庁との連携作業を促進するため、NAA技術を分りやすく紹介したパンフレットをFNCAで作成する提案があり、これから検討されます。
・   日本が配付する未知の堆積物試料(同一成分のもの)をNAAで分析し、その結果比較によって各国のNAA分析における手腕を検証することになりました。また、この結果を公表し、NAAの分析能力の高さを周知する計画にしています。

「食品汚染モニタリング」
 参加国: 中国、インドネシア、韓国、マレーシア、タイ、ベトナム
・   前回ワークショップで共通分析対象としました「米」の分析報告がありました。各国とも、米の砒素含有量が法定基準未満と見積られました。
・   次回ワークショップでは各国の「お茶」についての共同分析報告を行う予定です。

「海洋環境の汚染モニタリング」
 参加国: バングラデシュ、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、ベトナム
・   現在の汚染を示す堆積層の表層と、過去の環境を示す地質的に深い層の両方を採取できる「コア試料(表面から到達点までの土壌をまるごと掘削機器内のパイプに円筒状に取り込んだ試料)」を使った分析が、汚染の空間的な把握には有効であることが再確認されました。
・   (210)Pb(鉛)年代法を利用した地層の堆積速度評価が、共通の分析手法として今後広まりそうです。

「公開シンポジウム」

 ワークショップに関連し、平成21年9月10日に「未来に向けた原子力人材育成と青森地域の役割」をテーマとしたアジア原子力協力フォーラム公開シンポジウムが八戸工業大学において開催され、約100名の参加がありました。

[プログラム]
   第1セッション:地域における原子力を含むエネルギーと環境の教育・研究
    @八工大における教育・研究活動と地域課題への取り組み
講演者 藤田成隆氏(八戸工業大学副学長)
    A地域の特色を活かした原子力人材育成と基盤研究
講演者 齊藤正博氏(八戸工業大学教授)
  
第2セッション:文部科学省のアジア原子力協力とアジア諸国の原子力活動
    @文部科学省のアジア原子力協力フォーラム(FNCA)活動と成果
講演者 町 末男氏(FNCA日本コーディネーター)
    Aアジアの原子力活動(紹介)
講演者 ダルビス・イスナイニ氏(インドネシア原子力庁)
講演者 ブ・ドン・カオ氏(ベトナム原子力研究所)
  
第3セッション:研究炉の先進的利用の現状と今後の可能性
    @大学に開放されている研究炉利用の現状
講演者 山下清信氏(JAEA東海研究開発センター研究炉加速器管理部部長)
    Aホウ素と中性子を利用した効果的ながん治療などの現状
講演者 三島嘉一郎氏(原子力安全システム研究所技術システム研究所長)
    B環境、食品、資源などに適用される中性子放射化分析
講演者 海老原充氏(首都大学東京理工学研究科教授)

 上記の講演の後に、「パネル討論 −未来に向けた原子力人材育成と青森地域の役割への期待−」が行われ、参加したパネリストから、国際的な視点から青森地域が原子力人材育成のために今後果たしていく役割について、前向きなコメントや抱負の発表がありました。

参加者
  モデレーター: 町 末男氏
  パネリスト: 石井慶造氏(東北大学大学院工学研究科教授)
阿部勝憲氏(八戸工業大学異分野融合科学研究所長)
山下清信氏
海老原充氏

「施設訪問」

 ワークショップに参加した海外参加者は、9月11日に六ヶ所村内の原子力関連施設への視察訪問を行いました。(財)環境科学技術研究所、日本原子力研究開発機構青森研究開発センター、日本原燃鰍フ諸施設を視察しました。


(財)環境科学技術研究所 視察

日本原燃梶@視察

2009年FNCA研究炉利用ワークショップ
開会セッション
会議報告

2009年9月7日〜9月11日
青森県八戸市



主催 日本 文部科学省
実施機関 (財)原子力安全研究協会
日程 2009年9月7日〜11日
開催会場 青森県八戸市八戸グランドホテル
参加国 オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム

 平成21年度FNCAワークショップが、日本の青森県八戸市で開催された。本イベントは、2つのサブ・プロジェクト、研究炉基盤技術(RRT)と中性子放射化分析(NAA)のワークショップで構成された。両プロジェクトとも3年間活動が実施される事になっており、今年はその2年目に当たる。

開会セッション < RRT、NAA合同開催 >

 日本文部科学省を代表し田所隆司氏が開会の辞を述べ、FNCA諸活動の重要性を強調した。NAAに関しては、NAAの長所を明らかにし最終ユーザーと連携することの重要性を強調した。同様に、RRTに関しては、ワークショップで行う訓練により、参加国の研究炉の運転が更に安全で安定したものになることを希望した。

 FNCA日本コーディネーターである町末男氏が、平成20年と21年におけるFNCAの諸活動を主な成果に焦点を当て報告した。彼はまた、昨年の大臣級会合および今年の第10回コーディネーター会合における結論と提言を報告した。第11回コーディネーター会合で予定されるコーディネーターによる見直し作業に関する方針と計画が発表された。また、研究炉利用のプロジェクト・リーダーは、ワークショップの結果をそれぞれのコーディネーターに必ず報告するよう、求められた。

 次に、RRTのプロジェクト・リーダーである山下清信氏とNAAのプロジェクト・リーダーである海老原充氏が、ワークショップの目的と範囲をそれぞれ発表した。

 RRTの目的は、効率的な研究炉利用を促進するために必要となる、安全で安定した研究炉の運転を確実にするため、参加国内で安全解析技術の向上および標準化を図ることである。本ワークショップでは、RRTグループは次の項目の議論を行う。

 1. 定常熱水力解析コードであるCOOLOD-N2を用いた計算の結果
 2. 核熱水力結合動特性解析コードであるEUREKA2/RRの見本的な問題
 3. 次に行うプロジェクト活動

 山下氏は、研究炉利用は安全で安定した運転の下に行われるものであり、そのために人材養成が不可欠であると強調した。

 NAAの目的は、NAAについての最新情報および参加各国のNAA関連事項とを参加国間で交換し、最終ユーザーにNAAの利用を促すことである。八戸のワークショップは3年という活動期間の折り返し地点での開催となるため、海老原氏は全参加者に対し、期間前半におけるNAAプロジェクト活動の進捗を発表することと、3つのサブ・プロジェクト(地球化学図作成と鉱物探査、食品汚染モニタリング、海洋堆積物の汚染モニタリング)のゴールを確認することを求めた。

 参加者による自己紹介の後、各参加者はRRTとNAAどちらかのグループに別れ、それぞれのワークショップ会場に移動した。
 


2009年FNCA研究炉利用ワークショップ
研究炉基盤グループ
会議報告

2009年9月7日〜9月11日
青森県八戸市



1. 紹介
 RRTグループの活動対象は「研究炉のRIA(反応度事故)*1安全解析及びLOFA(流量喪失事故)*2安全解析」である。研究炉の効果的な利用を促進し、安全かつ安定した炉の運転を実施するためには、参加国間でこれらの安全解析技術の向上と標準化を図る必要がある。

 このため、本プロジェクトでは、次の計算コードが、安全解析の共有コードに選択された。
 (1) COOLOD-N2 :定常熱水力*3解析コード
 (2) EUREKA2/RR :核熱水力結合動特性解析コード

 本プロジェクトの第1回ワークショップは平成20年10月にベトナムのダラト市で開催され、成功裡に終了した。テーマは、各国の安全解析の現状についての情報交換、COOLOD-N2のインストールおよび使用法の説明ならびにサンプル課題に関する解説であった。

 *1 RIA(反応度事故):原子炉の炉心に、過度の反応度が投入され、出力が異常に増加する事象。
 *2 LOFA(流量喪失事故):給水系の故障等により、適切な冷却流量が得られない事象。
 *3 熱水力(ねつすいりき):流体の動きとそれによる熱伝達等の特性。


2. テーマ
 第2回ワークショップのテーマは、COOLOD-N2を自国の研究炉に適用し実施した安全解析結果に関する情報の交換と、EUREKA2/RRのインストールおよび使用法の説明とサンプル課題に関する解説である。
 
3. 開会
 日本のRRTプロジェクトリーダーである山下清信氏がプロジェクトの現状と昨年度におけるプロジェクト活動の成果を発表した。彼は、また本ワークショップの日程(表1)と3年計画(添付資料A)を報告した。
表1 第2回ワークショップのテーマ
ワークショップ開催前の準備作業 平成21年度ワークショップ
日本 - EUREKA2/RRのサンプル課題の提供 - EUREKA2/RRの説明
 (インプットデータの説明を含む)
 ・反応度事故
 ・流量喪失事故
- サンプル課題の解説
参加国 - COOLOD-N2を用いた自国の研究炉
 の計算
- EUREKA2/RRのサンプル課題の計算
- COOLOD-N2による計算結果の発表
- EUREKA2/RRのインストール状況と
 サンプル課題の計算結果の発表

4. 参加国
 ワークショップには、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、タイおよびベトナムが参加した。参加者リストは添付資料Bを参照。

5. 各国発表
(1)  バングラデシュ
 「COOLOD-N2によるバングラデシュ研究炉(3MW TRIGA Mark II)の熱水力解析」
Dr. Mafizur Rahman
 COOLOD-N2計算コードは、これまでバングラデシュのTRIGA MARK-II研究炉の熱水力パラメータ(変数)の計算に用いられてきた。定常運転出力状態で、自然対流モード*4と強制対流モード*5両方での炉心冷却の解析を実施し、燃料温度、被覆材表面温度および冷却材温度の解析結果が得られた。自然対流モードの解析結果は、NCTRIGA計算コードによる数値と比較した。被覆材表面温度および冷却材の温度は良好な一致を見たが、一方、燃料温度は合理的に納得できる程度の一致に留まった。同様に強制対流モードにおけるCOOLOD-N2とEUREKA-2/RRの計算結果を比較したが、両者は良好な一致を示した。最後に、COOLOD-N2はTRIGA型の炉の熱水力解析においても、適用可能と思える。

 *4

自然対流モード:暖められて比重が小さくなった流体が上に流れ、これにより冷却水が循環する状態。
 *5 強制対流モード:ポンプ等、外部に起因する力により強制的に冷却水が循環する状態。
 
(2)  中国
 「COOLOD-N2による中国先進型研究炉(CARR: China Advanced Research
 Reactor)の熱水力解析」
Prof. SHEN Feng
 COOLOD-N2を用いたCARRの熱水力解析を実施した。出力分布、燃料集合体の配列、流路の仕様、冷却材入口温度、圧力等の詳細な条件が、入力データとして使われた。定常時における重要パラメータとなる、燃料、被覆材表面および冷却材*6のバルク温度、ONB(沸騰開始)*7、冷却材の圧力および圧力損失、そしてDNB(核沸騰限界)*8およびOFI(流動不安定開始)*9の熱流束*10ならびにそれらに対する余裕、すなわちDNBR(限界熱流束比)*11およびOFIR(流動不安定開始比)*12をCOOLOD-N2を用いて計算した。COOLOD-N2による計算結果と中国が開発した計算コードCARRCOによる結果の比較が行われ、すべての計算結果において安全要件を満足していることが分った。CARRは高流量・高熱流束という特徴があるので、CARRCOでは異なった相関式が用いられている。このため、COOLOD-N2とCARRCOの結果が完全には一致しないことも理屈通りである。いずれにしても、COOLOD-N2は、CARRの定常時パラメータの解析を行う際の参考コードとして使用可能であろう。

 *6

バルク温度:冷却材の混合平均温度
 *7 ONB(沸騰開始):加熱により固体表面で冷却材が蒸気泡を発生し沸騰し始めること、およびその条件(固体表面の温度)。この時点から、沸騰の影響によって熱伝達が活発になる。
 *8 DNB(核沸騰限界):ONB以降加熱が進められ核沸騰による熱伝達が活発になっていくが、気泡はやがて巨大化し固体表面を覆う蒸気層を形成する。この蒸気層は固体表面と冷却材間の熱伝達を阻害するため、これ以上の加熱状態は固体表面の損傷を招く恐れがある。DNBは、蒸気層を形成しない限界点である。
 *9 OFI(流動不安定開始):加熱や圧力損失に起因して発生する蒸気の関わりによって、炉内の冷却材の流れが不安定になる条件。
 *10 熱流束:単位時間に単位面積を通過するエネルギー量。
 *11 DNBR(限界熱流速比):DNBが発生する熱流束を運転状態の熱流束で除した値。これが大であれば安全側である。
 *12 OFIR(流動不安定開始比): 流動不安定が発生する時点における温度等の値と使用状態での値の比較値。
 
(3)  インドネシア
 「COOLOD-N2による多目的研究炉RSG-GAS(GA SIWABESSY MPR)の熱水力
 解析」
Mr. Muhammad Darwis Isnaini
 RSG-GASは、かつてはMPR-30と呼ばれていたものだが、プール型炉であり冷却と減速に軽水を用いている。RSG-GASは材料試験炉(MTR)型研究炉*13であり、低濃縮ウラン(19.75 w/o)、ウラン密度2.96[g/cm-3]の燃料要素を使っている。炉出力は30MWであり、中央照射位置での熱中性子束は2x1014 [n.cm-2s-1]に達することが可能である。現在の炉心には、シリサイド燃料(U3Si2-Al)が使われている。COOLOD-N2を用いてRSG-GAS炉心の熱水力解析を行った。炉心の熱水力特性の調査ではRSG-GASの安全余裕に焦点を当て、種々のDNB相関式を用いて解析を行った。すなわち、Labuntsov相関式、Mirshak相関式、Bernath相関式、JRR-3一括相関式およびInteratom相関式を用いてDNBRを計算し、冷却に対する安全余裕を評価した。30MW運転時の計算結果では、JRR-3一括相関式から算出された最小DNBRの値が、安全基準である1.5より小さくなった。このため、運転出力は今後25MW未満に抑制されることになろう。通常時においては、RSG-GASは15MW程度の出力で安全に運転されている。

 *13

材料試験炉(MTR)型研究炉:様々な材料に中性子を多量に照射して特性の試験研究を行う研究炉。
 
(4)  日本
 「COOLOD-N2によるJRR-4(Japan Research Reactor-4)の熱水力解析」
平根伸彦氏
 計算コードCOOLODは様々なバージョンを含め、日本原子力研究開発機構(JAEA、旧「日本原子力研究所(JAERI)」)により継続的に開発されたものである。本コードはJRR-4の熱水力解析に用いられ、それらの解析結果は燃料および冷却システムの設計等に応用されてきた。
 このセッションでは、様々な条件下でのJRR-4の解析結果が紹介された。その内の一つは定常運転状態(強制対流モードおよび自然対流モード)のもの、他は過酷運転条件時のものであった。これらの解析結果によれば、定常運転条件において研究炉の設計上定められたすべての基準が満たされた。一方、過酷運転条件下の解析では、3,850 kWの出力で強制対流時に核沸騰が起こる可能性が示唆された。しかし、最大燃料温度および最小DNBRは、安全基準を満たすものであった。
 これらの結果から、いかなる運転条件においても燃料板に損傷が発生しないことが確認された。
 
(5)  韓国
 「COOLOD-N2による仮想の小規模研究炉の熱水力解析」
Dr. Jonghark Park
 ベトナムのダラト市で開催された2008年FNCA会合では、シングルチャンネル用の熱水力解析計算コードであるCOOLOD-N2が紹介された。COOLOD-N2は無駄のない構造で使い易く、板状および棒状の両方の燃料における熱水力解析に有効である。韓国は、本計算コードをHANARO炉心の熱水力解析に適用させるべく検討を行ったが、HANAROの燃料は、フィン付き棒状燃料であり適用が困難であることが判明した。残念ながら、COOLOD-N2はフィン付き棒状燃料には、まだ対応していない。韓国はCOOLOD-N2を用いた熱水力解析を行うため、小さな出力で板状燃料を使う、仮想の研究炉を用いて実施することにした。
 COOLOD-N2による小規模炉の熱水力解析結果を示す。計算は、冷却材の最小流速を算出する目的で実施した。これは、与えられた条件下で安全運転を確実に実施するための条件を求めるものである。炉心の入口圧力は、研究炉プールの水頭圧から1.68 kg/cm2とした。出力上昇の可能性を計算するために、5 MWと10MWの出力時の熱水力解析を実施した。炉心入口温度は、安全性に直接的に影響を及ぼす重要な値である。これは、最終放熱源である大気の温度によって異なる可能性がある。入口温度の上昇による効果を調べるために、様々な計算を実行した。
 この小さな研究炉についての熱水力解析の結果はすべて良好であり、今後、安全を評価する上での有益なデータになるものと期待される。
 
(6)  マレーシア
 「COOLOD-N2による原子炉PUSPATI TRIGA(RTP)の熱水力解析」
Mr. Mohd Fazli Zakaria
 COOLOD-N2によるRTPの熱水力計算を行った。本コードは、燃料温度分布、熱伝達係数、冷却材温度、流動不安定性開始における熱流束ならびにDNB熱流束を計算する能力を持っている。過去には、TRIGA型炉のメーカーであるGeneral Atomics社によりRTPの熱水力計算が行われている。RTPでは熱流束とDNBRを導くために、被覆材、燃料温度、入口および出口での冷却材温度等を計算した。かつては、RTPのDNB熱流束の計算に、主に棒状のTRIGA燃料に適用されるLund相関式が用いられていた。今回は、COOLOD-N2を用いて熱水力計算を実施する初めての作業だったため、好結果を得るまでに多大な労力を必要とした。このため、この計算コードをより深く理解するためには、専門家の教えを受け、また、他の参加国からの支援を得る必要がある。今後、充分な成果を得るために、実験による検証を実施し、また今回の解析結果をRTPの安全解析報告書に記載されているGeneral Atomics社による計算値と比較することになろう。
 
(7)  タイ
 「COOLOD-N2によるタイ研究炉(TRR-1/M1)の熱水力解析」
Mr. Chanatip Tippayakul
 2008年に、タイ国内での研究炉基盤技術プロジェクトに関する活動として、COOLOD-N2を用いたTRR-1/M1炉心の計算モデル化、炉内計測によるCOOLOD-N2計算モデルの検証、COOLOD-N2を用いた原子炉熱水力解析の訓練コースの設置、TRR-1/M1のCOOLOD-N2計算モデルの文書化等を行った。先ず、TRR-1/M1のCOOLOD-N2計算モデルを見直し詳細に再評価した。本計算モデルで使われる半径方向ピーキングファクターは、SRACによる核計算から求めた。COOLOD-N2の入力データに少し修正を加えた。次に、COOLOD-N2計算モデルの精度を検証するために実験を行い、軸方向の異なった位置で、様々な出力レベルにおける炉心内冷却水温度および燃料温度を測定した。計算値と測定値の比較により、COOLOD-N2はこれらの温度を実際の測定値より過大に評価することが判明した。しかし、このことはCOOLOD-N2計算モデルによる評価が安全側にあることを示すものであり、COOLOD-N2はTRR-1/M1の安全解析に適用可能と結論できる。
 更に、「COOLOD-N2を用いた原子炉熱水力解析」の訓練コースが、FNCAプログラムの一環として設置された。本コースには、タイ原子力技術研究所(TINT)、タイ原子力庁(OAP)、大学(工学、物理学専攻)といった国内の多数組織からの参加があった。本訓練コースについては、TINTにおけるCOOLOD-N2の知見が蓄積された結果と評価することができる。最後に、COOLOD-N2計算モデルの文書化は、TRR-1/M1の安全解析で使われたCOOLOD-N2計算の知識と知見を維持する目的で行われたものである。本作業は、TRR-1/M1の運転にとって究極的な安全を保障するものである。
 
(8)  ベトナム
 「COOLOD-N2によるダラト研究用原子炉(DNRR)の熱水力解析」
Mr. Tran Thanh Tram
 DNRRは、軽水により自然対流モードで減速および冷却を行っている。このプール型炉*14には、2種類の燃料集合体から成る合計104体の燃料集合体が装荷されている。内訳は、36%濃縮ウラン(HEU:高濃縮ウラン)VVR-M2型ウラン・アルミ合金型燃料(98体)および19.75%濃縮ウラン(LEU:低濃縮ウラン)VVR-M2型UO2-Al分散型燃料(6体)である。炉は、最大出力500kWの運転が可能である。
 DNRRの安全解析は、核解析と定常状態の熱水力解析および過渡解析*15により構成されている。幾つかの核計算コード及び熱水力計算コードを用いた解析により、2007年9月12日に一部炉心燃料の交換に成功した。その後、核計算コードSRACおよびMVP並びに熱水力計算コードCOOLOD-N2が、新しい20MWの新多目的ベトナム研究炉の想定炉心に対する安全解析に用いられている。これらの計算コードはDNRRのHEUからLEUへの全炉心燃料交換にも使用されたほか、現在のDNRR炉心の安全解析報告書や、MCNP、RELAP5/MOD3.2、PLTEMP等のコードによる計算結果との比較にも用いられた。COOLOD-N2計算コードは現在のDNRR炉心(2009年4月装荷)の温度分布計算に用いられ、その結果は測定値と一致した。更に、本研究炉基盤技術プロジェクトに基づき、計算コードEUREKA2/RRを使ってDNRR炉心の反応度事故解析および過渡解析等を行う予定である。

 *14

プール型炉:上面開放型の水槽(プール)に炉心が沈められている原子炉。構造が簡単で利用性に優れているため研究炉としては最も数が多い。
 *15 過渡解析:何らかの原因により原子炉の運転状態が定常運転状態から逸脱したときの圧力、流量、温度等の変化を解析すること。

6. EUREKA2/RRの概略と入力データの指導
 EUREKA-2/RRは、反応度事故に対する核計算と熱水力解析とを結合して解析を実行できる計算コードであり、研究炉の核および熱水力過渡事象を解析するために開発されたものである。EUREKA2/RRは、一点炉近似動特性モデル*16とRELAP4コードと同様のノードジャンクションモデル*17を採用している。EUREKA2/RRで用いられている熱伝達相関式とCHF(限界熱流束)*18相関式は、特に板状燃料を使用する研究炉のために開発されてきた。
 EUREKA2/RRを用いれば、制御棒引き抜きや冷却材の流動、温度変化等に起因する反応度変化によって引き起こされる過渡事象の解析が可能である。特に、研究炉の過酷な反応度事故における急激な過渡事象をうまく模擬することができる。
 このセッションでは、熱伝達相関式の選択の仕方やサンプル課題の計算結果の解釈等に関し、参加者から幾つかの質問があった。会合参加者の協力を得て、平根氏がこれらの質問に答え、参加者の理解を得た。

 *16

一点炉近似動特性モデル:原子炉全体を代表点一点としてまとめて取り扱い、この原子炉の反応度変化に対する出力応答を計算するモデルである。原子炉の出力応答をもとに炉心の温度や冷却条件等をを計算し、それらの変動による反応度効果を、反応度フィードバックとして計算に反映させることができる。
 *17 ノードジャンクションモデル: 解析の対象となるプラント全体を、構成機器を表すノードとそれらをつなぐジャンクションの集合としてモデル化したもの。
 *18 CHF(限界熱流束):DNBを超えて加熱しようとすると加熱面は蒸気層で覆われるようになり、急に除熱が悪くなり、加熱面温度が急上昇する。加熱面温度が急上昇する状態の直前の熱流束を限界熱流束と呼ぶ。

7. EUREKA2/RRのインストールおよびサンプル課題実施についての説明
 平根伸彦氏がEUREKA2/RRについて説明するとともに、参加者に配布したCDを用いて計算コードのインストールとサンプル課題への入力作業を実演した。参加者はインストール方法とサンプル課題計算について練習し、次に、全員で個々の計算結果と実演された計算結果との比較を行った。それぞれの計算は問題なく完了し、計算結果が実演した値と一致することを確認した。その後、平根氏がEUREKA2/RRのサンプル入力データについて説明した。
 上記実演後、参加者からプログラムソフトの運用面に関する質問があったほか、入力データ上の出力パラメータの選び方について質問があった。これに平根氏が回答し、すべての不明点は解明された。

8. EUREKA2/RR使用の現状
 すべての参加国がEUREKA2/RRのインストールに成功し、本ワークショップ開催前にサンプル課題を実施した。EUREKA2/RRの使用状況を添付資料Cに示す。

9. 特別講義
 三島嘉一郎氏が、研究炉の熱水力解析理論について講義を行った。
 本講義では、熱水力安全解析についての基本的な考え方と概要が示された。内容は、熱水力安全解析の目的、安全基準、熱除去の原理、定常および過渡時の熱水力解析、板状燃料およびTRIGA型燃料と多岐に渡った。燃料板および燃料棒からの熱伝達に関して、沸騰曲線、沸騰開始(ONB)、核沸騰限界(DNB)、限界熱流束(CHF)、流動不安定性等の説明の後、加熱平板表面におけるドライアウト現象*19のビデオ映像による観察結果が示され、関連事象への理解が深まった。また、熱伝達係数を計算するための相関式、核沸騰限界熱流束と沸騰開始条件の復習があり、実験結果との比較が示された。更に、解説はピーキングファクター*20と工学的ホットチャンネルファクター*21にまで及んだ。最後に、計算コードの検証と妥当性確認の重要性、品質保証とバージョン管理の重要性、そして熱水力安全解析において使用者個々の解釈の違いにより計算値がばらつく危険性あることが指摘された。

 *19

ドライアウト現象:炉心内などの沸騰を伴う流れでは、冷却水と蒸気の混在する二相流となる。二相流中の蒸気の流量割合が大きくなってさらに加熱を続けると、加熱面に沿って流れる液膜が消滅・破断し、加熱面が蒸気流に接することで加熱面温度が急激に上昇する。このように加熱面に沿って流れる液膜が消滅・破断することによって加熱面温度が上昇する現象を指す。
 *20 ピーキングファクター:炉心の平均出力密度に対する最高出力密度との比の値。局所での中性子束分布は、燃料の配置や制御棒位置など種々の要因によって炉心の平均中性子束に対して変動しているので、このような変動に対し、熱的により不利な状況を見込むため解析の際に使われる係数。
 *21 ホットチャンネルファクター:熱水路係数。燃料製作誤差等公称値と異なる状況や流路変形等により、設計上の熱水力学的条件が変わった状況を想定して、熱的に不利になることを見込むための係数。前項と同様に計算値の安全性をより高めるために使う。
 
10. 将来計画についての議論
 佐川尚司氏が、各国がEUREKA2/RRを用いて行った反応度事故および(または)流量喪失事故に関する自国の研究炉の安全解析の結果を次回ワークショップで発表することを提案した。内容は、表2の通りである。全参加者はこれに同意した。また、佐川氏は本プロジェクトの最終報告書の目次草稿を提案し、全参加者はこれに同意した。
 次に、この後に実施するプロジェクト活動についての議論があり、シミュレーター、中性子ラジオグラフィー(NRG)、機械的応力評価、確率論的安全評価(PSA)、放射性同位元素製造、中性子照射ドーピング・シリコン(NTD-Si)、照射エッチング膜、先進型研究炉の設計、遮蔽解析等が参加者から提案された。議論の末、参加国の照射技術が向上し、かつ標準化されると同時に安全で安定した研究炉運転が確保され、研究炉の効果的な利用が促進されるとして、暫定的にではあるが「先進型照射カプセル*22の設計」が次回プロジェクトに選ばれた。その理由は、すべての参加国で放射性同位元素が製造されている状況になっており、中にはNTD-Siを行う計画を持っている国も幾つかあるためである。山下氏が次回のコーディネーター会合で本提案を仮発表する予定である。
 すべての参加者は次回の研究炉基盤技術ワークショップを第1候補として中国で、また第2候補としてタイで開催することに合意した。

表2 2010年のプロジェクト活動
第3回ワークショップ準備 平成22年度第3回ワークショップ
日本 - 計算に関する助言
- 最終報告書の構成を発表
- EUREKA2/RRを用いて行った計算
 結果を発表
- 最終報告書発表
- プロジェクト活動の評価
- 次期に行う活動についての議論と提案
参加国 - EUREKA2/RRを用いて自国の研究炉
 における反応度事故と流量喪失事故
 について計算
- 最終報告書の準備

 *22 先進型照射カプセル:照射カプセルとは、研究炉を利用して対象物に照射を行う際に、照射対象物を収める容器の呼称。利用目的に応じた安全性に優れ適切な照射が得られるよう、カプセルの設計にあたっては構造、材料、寸法等に関しさまざまな工夫が盛り込まれる。照射目的に応じて照射条件を制御したり、種々の計測器を取り付ける等の高度の設計が要求される。

11. 結論
1. 本ワークショップは、バングラデシュ、中国、インドネシア、韓国、日本、マレーシア、タイおよびベトナムからの参加のもと、成功裡に開催された。
2. 各国は、計算コードCOOLOD N2を用いて自国の研究炉に対して行った熱水力計算の結果を報告した。個々の結果はそれぞれがこれまでに得た計算値や測定データとよく合致していることが報告された。バングラデシュ、マレーシアおよびタイは、本計算コードをTRIGA炉の棒状燃料に適用した。中国、インドネシア、韓国、日本およびベトナムは、本計算コードを材料試験炉(MTR)型の板状燃料に適用した。すべての参加者は、COOLOD-N2が自国の研究炉の安全解析に用いることが可能であると確信した。
3. 熱水力安全解析に関する情報および経験が、参加者間で充分にやりとりされた。特に三島嘉一郎氏の専門的な講義は有益であり、研究炉の熱水力学に関する広範かつ深遠な見識が参加者に示された。
4. 日本側が共通計算コードであるEUREKA2/RRのインストール方法と使用法を説明した。すべての参加国がインストールを完了し、サンプル計算課題を解くことができた。すべての参加者はEUREKA2/RR を用いて、自国の研究炉の反応度事故と流量喪失事故の安全解析を実施することに合意した。
5. 暫定的にではあるが、先進型照射カプセルの設計が、次期研究炉基盤技術プロジェクトのテーマに提案された。
6. すべての参加者は、本研究炉基盤技術プロジェクトが研究炉の先進利用および安全かつ安定した運転にとって重要であることを確信した。
 

2009年FNCA研究炉利用ワークショップ
中性子放射化分析(NAA)プロジェクト
ワークショップ報告書

2009年9月7日〜9月10日
青森県八戸市



参加者:
1. ジョン・W・ベネット氏 オーストラリア代表
2. イムティアズ・カマル氏 バングラデシュ代表
3. ニ・バンファ氏 中国代表
4. セトヨ・プルワント氏 インドネシア代表
5. 海老原 充氏 日本 (プロジェクト・リーダー)
6. 松尾 基之氏 日本
7. 田中 剛氏 日本
8. 福島 美智子氏 日本
9. 松江 秀明氏 日本
10. 関本 俊氏 日本 (オブザーバー参加)
11. ムン・ジョンファ氏 韓国代表
12. ナザラトゥル・アシファ氏 マレーシア代表
13. プレシオサ・コラゾン・パブロア氏 フィリピン代表
14. アルポーン・ブサモンコン氏 タイ代表
15. ブ・ドン・カオ氏 ベトナム代表
16. 町 末男氏 FNCA日本コーディネーター

 平成21年度FNCA NAAプロジェクトのワークショップは、研究炉基盤技術(RRT)プロジェクトと合同で開催された。開会セッションでは、日本プロジェクト・リーダーである海老原充氏が「中性子放射化分析プロジェクトの平成21年度ワークショップの目的」の演題で講演した。開会セッションは、参加者自己紹介の後、終了した。
 NAAの冒頭のセッションでは、海老原氏が開会挨拶として本ワークショップで行う以下の活動を説明した。

1. 研究炉を使ったNAA利用の現状に関する各国報告
2. 個々のサブ・プロジェクト(下記a、b、c)の進捗について、参加各国からの報告
a) 地球化学図作成および鉱物探査のための地球化学試料のNAA
b) 汚染モニタリングのための食品試料のNAA
c) 環境モニタリングのための海洋堆積物試料のNAA
それぞれのサブ・プロジェクト・セッションでは、冒頭に基調講演を行い、最後に包括的な議論を行う。
3. NAAプロジェクトの今後について、自由討論

I. 研究炉を利用したNAA利用の現状に関する各国報告
 以下の各国報告が代表者から発表された。発表は、国名のアルファベット順で行われた。

オーストラリア: J・W・ベネット氏
 20MWのOPAL研究炉のNAA設備は、この12ヶ月間で、稼動に関する大きな進捗があった。高い熱中性子束が数時間に渡り安定して出力されるという、NAAにとってほぼ理想的といえる状態が確立されたのである。一連の合成多元素標準試料(SMELS)の測定により、広範囲な元素に対して、測定の正確性および再現性の良さが示された。

バングラデシュ: I・カマル氏
 NAAグループの活動は4分類に大別出来る。すなわち、研究開発業務、分析サービス、企画、学術的連携である。研究開発業務は2件あり、1つは0.0536evの微弱な熱エネルギーを利用しNAA技術により行った中性子捕獲断面積の測定、もう1つはベンガル湾から採取した堆積物試料6個のNAA分析である。後者の分析結果は、原子吸光分光法(AAS)による結果と比較検討された。

中国: B・F・ニ氏
 中国は、次のNAAの操作および利用に関し、自国製のK0ソフトウェアを用いている。1. グラムサイズからミリグラムサイズに至る標準試料(RM)中の多元素について行ったサンプリング挙動の研究。2. 中国北部における、米、小麦、飲料、野菜および肉等の食品構造についての研究。3. 大気汚染源の同定と越境状況および今後の見通しの把握。4. 幾つかの準安定核についてのK0値測定。大きな進捗が達成された。

インドネシア: S・プルワント氏
 2009年度、インドネシアのNAA研究グループは以下の3プロジェクトを行っている。「食料資源に関する有毒元素の分析」、「工業地帯における環境汚染モニタリング」、「プロ・パンジャン・バンテン地方の地球化学図作成」である。NAAの普及、そしてエンド・ユーザーとの連携を図る方策として、国内でNAAのセミナーとワークショップが開催された。

日本: 松江氏
 日本原子力研究開発機構(JAEA)は、研究炉としてJRR-3とJRR-4を保有している。これらの研究炉は、主に中性子散乱技術、中性子ラジオグラフィー、即発ガンマ線分析(PGA)等の中性子線実験に用いられている。中性子放射化分析施設が幾つか作られたが、JAEAの利用者支援システムについては最適化の作業中である。

日本: 関本氏
 京大原子炉(KUR)は、平成22年初頭に再稼動する予定である。KURの運転は平成28年まで継続されることが確実になっている。再稼動後には、出力が1MWまで下げられ、圧気輸送管(Pn)1-3系統における照射時間が4-5時間にまで延長される予定である。ただ、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を行う場合には、5MWでの運転が行われることになるだろう。新規KUR利用プログラムとして、PGAシステムと短半減期核測定システムが導入される。

韓国: J・H・ムン氏
 研究炉HANAROでは多様な試料のNAAが行われてきた。最近では、コンプトン抑制システムの実施によって、より高感度な分析が出来るようになった。遅発中性子放射化分析(DNAA)と冷中性子即発ガンマ線放射化分析(PGAA)が、環境試料に含まれるウラン測定と、鉄鋼製品の主要成分分析に、それぞれ用いられている。

マレーシア: N・アシファ氏
 マレーシアでは、幾つかの研究プロジェクトやサービス業務でNAA技術が非常に良く利用されている。幾つかの研究プロジェクトは、地方省庁との緊密な連携の下に行われている。分析サービスは、組織内外の顧客に提供されている。FNCAの活動として行われている研究プロジェクトは2つあり、それはマレーシア湾の海洋堆積物試料中の汚染元素判定と国内地方市場における様々な米粒に含まれる元素の定量である。

フィリピン: P・パブロア氏
 フィリピンにおけるNAA活動は、高い反応断面積を持つ元素の分析のための中性子線源利用と、即発ガンマ線中性子放射化分析(PGNAA)施設の設置だけに限定されてきた。本プロジェクトにおいてフィリピン原子力研究所(PNRI)が関与できる可能性としては、主に、PNRI自身がエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)を用いて環境試料を分析することと、他のFNCA参加国の研究炉を利用し海洋堆積物試料のNAA分析を行うことに絞られる。これまでの諸活動は、国内での連携構築(特に環境管理局との連携)の面で成功を収めている。

タイ: A・ブサモンコン氏
 タイ原子力技術研究所(TINT)の原子力活動は、研究炉TRIGA Mark IIIの利用を通し実施されている。主な利用としては、工業および医療用の同位元素製造、中性子散乱実験、宝石への照射、そして様々な分野における中性子放射化分析が挙げられる。使われているNAA技術は、機器中性子放射化分析(INAA)、PGAAおよび予備濃縮中性子放射化分析(PNAA)、放射化学的中性子放射化分析(RNAA)である。NAAを用いた元素分析は、大気汚染、土壌および堆積物に含まれる重金属、タイシルク製品、労働者の爪の試料、そしてタイの食品中の無機毒素・無機栄養素の定量に利用されている。

ベトナム: C・D・ブ氏
 ダラト原子力研究所(NRI)における、中性子放射化分析(NAA)の利用と関連設備が発表された。NRIのNAAセクションでは、機器中性子放射化分析(INAA)と放射化学的中性子放射化分析(RNAA)も実施している。また、NRIには即発ガンマ線中性子放射化分析(PGNAA)のシステムがあり、こちらは核物理・核電子部門が運営、活用している。

II. サブ・プロジェクトについて、参加国からの進捗報告
 それぞれのサブ・プロジェクトごとに基調発表があり、そこではプロジェクトの概観が示され、到達可能なゴールが提案された。この後、それぞれのサブ・グループへの参加を事前に表明していた各国から進捗発表があった。

II-1 地球化学図作成と鉱物探査
J・W・ベネット氏(オーストラリア) - 基調発表
 鉱物探査、環境モニタリングおよび農業分野において、地球化学図の作成が持つ、潜在的な用途が強調された。成功の鍵は、到達可能で意義深いゴールを設定すること、利害関係者とすべての段階での最終ユーザーを包含すること、強力なプロジェクト運営体制を構築すること、参加者間の協力、そして、成功を公にすることであろう。各国は、その国の優先度や技術力そして利用可能な資源に応じて、参加の度合いを選べる。

田中氏(日本)
 サブ・プロジェクト「地球化学地図作成」に関し、日本が実施した3つの領域における進捗が報告された。1番目は、都市部における「金」汚染の発見である。もう一つは、自然地殻岩石中のOs(オスミウム)とIr(イリジウム)の高精度測定についてである。平成21年5月16日から21日に開催された「日本地球惑星科学連合大会」における地球化学図作成セッションの成功が、3番目である。

S・プルワント氏(インドネシア)
 2009年度に、教育省予算による「プロ・パンジャン・バンテン地方の地球化学図作成」が行われた。結果について、来年のFNCA会合で報告されることが期待されている。

II-2 食品汚染モニタリング
J・H・ムン氏(韓国) - 基調発表
 数種の調理米および朝鮮人参等の食品試料が、INAAによって分析された。As(砒素)、Cd(カドミウム)、Hg(水銀)等の有毒金属が試料内から検出されることは、ほとんどなかった。朝鮮人参の分析では、「多くの元素が人参の先端部に濃集する」という興味深い傾向が見出された。

B・F・ニ氏(中国)
 試料として、4種類の米(河北省産、四川省産、湖南省産、遼寧省産)、小麦、人参、セロリ、玉葱、豚レバー、海老、そして緑茶が市場から選抜された。約30の元素がK0法により測定された。毒物、栄養素、そして通常元素に分類された。結果は、元素の濃度について大きな異なりが見られた。しかし、レバーと海老には他の食材と比べてSe(セレン)、Zn(亜鉛)、As(砒素)の高い濃集があった。そしてお茶には、他の食材の10倍に達するMn(マンガン)の高い濃集があった。

S・プルワント氏(インドネシア)
 2008-2009年度において、食材に含まれる有毒元素、微量栄養素と主要栄養素の測定が中性子放射化分析を使って行われた。試料の種類は、野菜類、豆、メース(香辛料)および香味料である。試料は、セルポン・バンテン地方の市場から収集された。魚と米における砒素の濃度、そして魚と赤唐辛子における水銀の濃度は、政府が許可している数値を超えるものであった。

福島氏(日本)
 6種の食用海草がNAAで分析され、12の元素についての総含有量が得られた。また、海草から抽出した食物繊維の分析では、人体に吸収され得ない微量の元素が検出された。

N・アシファ氏(マレーシア)
 いわゆる水稲と陸稲の2グループの米が元素特性解析のために収集された。検出された元素は、必須主要栄養素、微量栄養素、その他に分類された。インドネシア産ブラック・グラチノス米からは多量のK(カリウム)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Znが検出された。ハスク・オープン米とブラウン米からは、高いAs成分が検出された。平均して米内のFeとMnの数値が高いが、これは花崗岩土壌という地質的な背景に起因していると考えられる。

A・ブサモンコン氏(タイ)
 高い栄養価、高カロリー、低コスト、そして日持ちの良さから、米はタイの大部分の人にとっての主食になっている。タイのバンコクにある3つの主要な地方市場において、選抜された6種類の米が購入された。これらの米試料の元素組成が、INAA技術により分析された。検出された元素は、Al(アルミニウム)、As、Br(臭素)、Cl(塩素)、K、Mg、Mn、Znである。KとMgはすべての試料で高い数値を示した。有毒元素であるAsとCdが検出されたが、タイ厚生省が推奨する基準を超えるものではなかった。

C・D・ブ氏(ベトナム)
 マーケット・バスケット方式で、ホーチミン市、ニンチュアン地方およびラムドン地方の数地点から収集された食材試料内の微量元素濃度が、INAA、RNAAおよび AAS手法によって求められた。これらの地域の成人における日々の元素摂取量が見積もられ、基準との比較が行われた。その結果、日々の元素摂取量はベトナム標準指針における許容値を下回っていることが分った。

II-3 環境汚染モニタリング
松尾氏(日本) - 基調発表
 プロジェクトの概観と最近の進捗についての基調講演が、松尾氏から発表された。環境試料の特長が要約され、これらの試料分析におけるNAA手法の有益性が強調された。プロジェクトの4つの目的が示された。国際的な協力を実施すること、共通した採取方法と取扱方法で実施することが提案された。コア試料による採取が、共通採取方法として推奨された。松尾氏の研究グループが実施した2つの事例研究が紹介された。

I・カマル氏(バングラデシュ)
 本セッションでは、バングラデュで実施された以下の研究活動が発表された。i)バングラデシュ東部地方地下水の砒素汚染。ii)ベンガル湾内の堆積物とバングラデシュの農地土壌の分析結果比較。iii)座礁船に起因する環境汚染モニタリング。iv)コックス・バザール地域における地球化学図作成と鉱物探査。

S・プルワント氏(インドネシア)
 インドネシアのバンテン地方の工業地域(PLTU Labuhan)では、環境汚染モニタリングが実施されてきた。土壌および植物試料中の汚染物質と重金属を測定するため、K0法による中性子放射化分析が行われてきた。河口の堆積物から、Na(ナトリウム)、K、Ca(カルシウム)、Sc(スカンジウム)、As、Br、La(ランタン)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Cr、Fe、Co、Zn、Rb(ルビジウム)、Sb(アンチモン)、Cs(セシウム)、Nd(ニオディユーム)、Tb(テルビウム)、Lu(ルテチウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、Th(トリウム)の各元素が測定された。

N・アシファ氏(マレーシア)
 サラワク海岸地域の堆積物試料が、11箇所の採取基地から収集された。合計29に及ぶ元素の分析結果が、NAA手法により得られた。すべての採取地において高いAsの集積が見られたが、幾つかの場所では10倍以上の濃縮係数(EF値)*が示された。本プロジェクトでは、サラワク海岸地域の環境汚染の現状に関する情報を提供してきた。本研究により得られたデータは、マレーシア海洋汚染データベースに盛り込まれる予定である。

*濃縮係数(EF値): 地殻の元素濃度に対して、どれだけ濃縮されているかを示す指標。数値が10を超えると自然起源ではなく、人為起源と見做される。

P・パブロア氏(フィリピン)
 海水中の微量有害元素を測定し210Pb(鉛)年代測定に基づく時系列データと相関するために、2つの採取場所(マニラ湾とソウソゴン湾)の海洋堆積物試料が収集されてきており、今後も継続される予定である。これらの研究は、主に湾へ汚染物質が混入した歴史を調べ、生態系への影響(一例を挙げれば有害な青粉(あおこ:藻の一種)との関係)を評価するため実施されたものである。

C・D・ブ氏(ベトナム)
 バ・リア・ブン・タオ沿岸の海洋試料を分析するために、INAA、AAS等の核関連の分析手法が用いられた。調査によれば、海面採取試料中の元素濃度は、As (0.16-0.24 ppm), Cd (0.23-0.74 ppm), Cu (銅、0.78-1.33 ppm), Hg (0.039-0.062 ppm), Pb (0.45-1.59 ppm)と、ベトナムの標準指針に記載されている制限値に比べはるかに低いものであった。

III. 方針、ゴールとその実施についての議論
 すべての進捗報告の発表の後、各サブ・プロジェクトリーダーと海老原リーダーを議長として、個々のサブ・プロジェクトについての包括的な議論が行われた。これらの議論では、方針、ゴール、協力面の潜在的可能性、作業分担および今後の道筋が検討された。いずれの場合でも、潜在的な最終ユーザーに焦点が当てられた。

III-1 地球化学図作成および鉱物探査
 たびたび強調されたのは、資源および鉱物開発を所管している省庁との打ち合わせが極めて重要ということである。初期の方針は、地球化学的分析におけるNAA利用の能力と便益性について情報発信すること、そして、潜在的最終ユーザーのニーズを理解するということになるだろう。最終ゴールは、国家レベルの長期プロジェクトに繋がるような強固な連携を構築することである。
 地学分野でのNAAの利用と協力を促進するため、FNCAで高品質のパンフレットを作成する提案があった。このパンフレットでは、地球化学図作成と鉱物探査における利用をイラストで示すことが出来るだろう。「NAAは、広く利用されているXRFやICP-MS等による分析を補間するものである」と示すべきであり、品質管理面における潜在的役割も強調すべきである。このパンフレットは、最終ユーザーとの初期の打合せにおいて有益なものになるだろう。
 「3種類の異なる堆積物による研究所間比較調査」実施の提案が受け入れられた。本プロジェクトがもたらす成果として以下の諸点が考えられる。
 
a) 参加する研究所の手腕を示すことが出来ること、およびすべての差異に対する理由を理解出来ること。
b) 標準法(Ko法および関連手法)以外のNAA利用手法から求められた結果や、Ko法以外のソフト・プログラムから求められた結果、XRF等、異なる技術を利用し求められた結果との比較が出来ること。
c) 地球化学図作成に使用する3つの関連物質の特性分析データが提供されること。
d) FNCA参加国間における共同実施能力を促進。

 本活動について、専門誌への投稿が期待される。
 以下の国が、本研究所間比較調査への参加を表明した。オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本(およそ5施設の参加を含む)、マレーシア(可能ならICP-MSも利用)、フィリピン(XRFを使用)。
 NAA利用による地球化学図作成が、国家の発展に対し非常に大きな貢献を行う可能性があることを、全参加者が合意した。とはいえ、NAA技術が提供する極めて優秀な能力を地質関係の省庁が理解し、NAAを日常的な一連の手法の中に取り入れるようになるには数年かかるかもしれないという点もまた、理解された。

III-2 食品汚染モニタリング
 中国、韓国、インドネシア、マレーシア、タイおよびベトナムという食品分析のサブ・プロジェクトに参加している6カ国の代表者が、様々な食品試料の分析結果を発表した。初めに、共通の分析対象試料に決められた、米試料における元素濃度レベルが議論された。米試料内のAs濃度は、各国の法的基準値を超えるものではないと見積もられた。他の有毒金属に関しては、標準的なNAAでは検出されなかった。しかし、As以外のCu、Cd、Sb、Se等の有毒金属の検出には放射化学的NAAが有効であることを、ベトナムが明らかにした。更に、各国の目的に応じ選択された米以外の食品試料の分析結果が議論され、健康上、栄養があるかあるいは有害であるかを比較された。
 最後には、次年度のワークショップのための議論があり、共通対象試料として お茶 が選ばれた。なぜならば、お茶は参加各国で一般的な食品であり、また、他の植物試料より元素の含有量が多いからである。

III-3 環境汚染モニタリング
 サブ・プロジェクト3の実施計画が議論された。議論では、下記の3つの目的が再確認された。

 a) 海洋堆積物のコア試料を用いて、環境の変動を検出すること。
 b) 堆積物試料に含まれる、有毒または有害元素レベルを識別すること。(例:As、Sb、Cr、Cd等)
 c) 堆積物試料に含まれる汚染源を特定すること。(自然起源か、または人為起源か?)

 上記目的を達成するために、コア採取法なら表層部と同様に過去の環境部分を検出出来、汚染物質の空間的な変動を調べることができると、皆の意見が一致した。一部の国では、堆積率を知るために210Pb年代測定法が使われていた。願わくは、この手法がFNCA各国で標準的な手順になることが期待される。
 次の6カ国がサブ・プロジェクト3の最近の進捗を発表した。バングラデシュ、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピンおよびベトナムである。この内、バングラデシュ、インドネシア、日本およびフィリピンは、堆積物試料の採取ではコア採取法を用いることに合意した。一方、事情により、マレーシアとベトナムは、表層部採取を表明した。過去から現在に至るアジア各国の海洋環境汚染を評価するため、すべてのデータが次のワークショップまで蓄積されるべきとの提案があった。最後に、容易にお互いの連絡が取れるよう、メーリングリストを構築することが提案された。

IV. NAAプロジェクトの未来に関し自由討論
 今回のワークショップはNAAプロジェクト第3フェイズ3年計画の2年目に当たり、期間的には折り返し地点での開催となるため、海老原リーダーを議長として、将来計画についての議論を行った。議論の冒頭で、海老原氏が、FNCAワークショップに対する各国のスタンス(態度)について、各国の参加者に説明を求めた。各国はこの依頼の下で非常に前向きな意見を述べ、FNCAワークショップが個々の参加者およびその組織にとってとても重要であるという点で、皆の意見が一致した。こうして、次のコーディネーター会合で、FNCA枠組の下、NAAプロジェクトの継続を強く意思表示することが満場一致で合意された。次に、プロジェクトの内容に絞った議論が行われた。広範囲に及ぶ議論の末、次の結論に達した。
 
a) 我々は、NAAが適用出来る、様々な共通対象物質を選択していく。
b) 対象物質の候補には、犯罪の科学捜査に関連した試料、ハーブの葉とその関連物質の試料が含まれている。これら新規候補とは別に、地球化学的試料と食品および海洋堆積物もまた、対象の試料として推薦された。
c) 対象とする試料についての議論は、今後もwebと電子メールを用いて全参加国によって継続される。

リーダーである海老原氏が、参加者による貴重な貢献と、達成された非常に前向きな成果について感謝を述べ、ワークショップは公式に閉会した。


2009年FNCA研究炉利用ワークショップ
まとめセッション
会議報告

2009年9月7日〜9月11日
青森県八戸市



9月10日木曜日
包括セッション < RRT、NAA合同開催 >

 並行して行われたワークショップ終了の後、それぞれの参加者は合同の包括セッションに参集した。町末男氏が議長を務めた。

 初めに、RRTプロジェクトの日本リーダーである山下清信氏が、平成21年度RRTワークショップが達成した以下の事項を報告した。

1. 本ワークショップは、バングラデシュ、中国、インドネシア、韓国、日本、マレーシア、タイおよびベトナムからの参加のもと、成功裡に開催された。
2. 各国は、計算コードCOOLOD-N2を用いて自国の研究炉に対して行った熱水力計算の結果を報告した。個々の結果はそれぞれがこれまでに得た計算値や測定データとよく合致していることが報告された。バングラデシュ、マレーシアおよびタイは、本計算コードをTRIGA炉の棒状燃料に適用した。中国、インドネシア、韓国、日本およびベトナムは、本計算コードを材料試験(MTR)炉型の板状燃料に適用した。すべての参加者は、COOLOD-N2が自国の研究炉の安全解析に用いることが可能であると確信した。
3. 熱水力安全解析に関する情報および経験が、参加者間で充分にやりとりされた。特に三島嘉一郎氏の専門的な講義は有益であり、研究炉の熱水力学に関する広範かつ深遠な見識が参加者に示された。
4. 日本側が共通計算コードであるEUREKA2/RRのインストール方法と使用法を説明した。すべての参加国がインストールを完了し、サンプル計算課題を解くことができた。すべての参加者はEUREKA2/RR を用いて、自国の研究炉の反応度事故と流量喪失事故の安全解析を実施することに合意した。
5. 仮にではあるが、先進型照射カプセルの設計が、次期研究炉基盤技術プロジェクトのテーマに提案された。
6. すべての参加者は、本研究炉基盤技術プロジェクトが研究炉の先進利用および安全かつ安定した運転にとって重要であることを、確信した。

 次に、NAAプロジェクトの日本リーダーである海老原充氏が、平成21年度RRTワークショップが達成した以下の事項を報告した。

1. 本ワークショップは、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、韓国、日本、マレーシア、フィリピン、タイおよびベトナムからの参加のもと、成功裡に開催された。
2. 最初のセッションでは、各国が研究炉を使ったNAAの現状を報告した。
3. 次のセッションでは、それぞれのサブ・プロジェクトのリーダーにより基調発表があり、そこではプロジェクトの概観が示され、到達可能なゴールが提案された。サブ・プロジェクトは以下の通りである。
 a) 地球化学図作成および鉱物探査のための地球化学試料のNAA
 b) 汚染モニタリングのための食品試料のNAA
 c) 環境モニタリングのための海洋堆積物試料のNAA
個々のサブ・プロジェクトごとに、参加国から進捗報告があった。
4. すべての報告完了後に、3番目のセッションとして包括的な議論が実施された。これらの議論では、方針、ゴール、協力面の潜在的可能性、作業分担および今後の道筋が検討された。いずれの場合でも、潜在的な最終ユーザーに焦点が当てられた。
1) 地球化学図作成および鉱物探査
 地学分野でのNAAの利用と協力を促進するため、FNCAで高品質のパンフレットを作成する提案があった。また、「3種類の異なる堆積物による研究所間比較調査」実施の提案が受け入れられた。
2) 食品汚染モニタリング
 共通の分析対象試料に決められた、米試料内のAs(砒素)集積は、各国の法的基準値を超えるものではないと見積もられた。次年度のFNCAワークショップのための共通対象試料として お茶 が選ばれた。
3) 環境汚染モニタリング
 コア採取法なら表層部と同様に過去の環境部分を検出出来、汚染物質の空間的な変動を調べることができると、皆の意見が一致した。一部の国では、堆積率を知るために210Pb年代測定法が使われていた。願わくは、この手法がFNCA各国で標準的な手順になることが期待される。
5. 最後のセッションでは、今後のNAAプロジェクトについての自由討論が行われた。各国は非常に前向きな意見を述べ、FNCAワークショップが個々の参加者およびその組織にとってとても重要であるという点で、皆の意見が一致した。次のコーディネーター会合で、NAAプロジェクトの継続を強く意思表示することが満場一致で合意された。

 上記の2件の発表が済み、町氏が以下にまとめた。

 RRT
 1. COOLOD-N2とEUREKA2/RRは、研究炉運転の安全確保および研究炉利用の有効化に貢献するものである。
 2. また、COOLOD-N2とEUREKA2/RRを使った訓練は、今後、発電炉用解析コードを使うための良い足がかりになる筈である。
 NAA
 1. 地球化学図作成および鉱物探査
各国の国益に応じて、鉱物資源を所管する部門との連携を図る働きかけを積極的に行う。オーストラリアと日本は、他の参加国と経験と情報についての共有化を図る。
 2. 毒性汚濁物質と微量栄養素を検出する食品分析
6カ国から、米とさまざまな食品における多くの興味深い分析結果が報告された。今後のチャレンジとしては、食品部門との連携を図るべきということが挙げられる。
 3. 海洋堆積物分析
海岸汚染のモンタリングに貢献している。
6カ国から、海洋堆積物についての幅広いデータが報告された。これらのデータは、海洋環境管理部門において活用されるべきである。
 4. 最終ユーザー向けに、XRFやICP-MSを補完するNAAの特性を示した簡単な手引きを作成する。

閉会セッション < RRT、NAA合同開催 >

 FNCA日本コーディネーターである町末男氏が閉会の辞を述べ、RRTとNAAで構成された平成21年度FNCA研究炉ワークショップは公式に閉会した。
 


2009年FNCA研究炉利用ワークショップ
プログラム

2009年9月7日〜9月11日
青森県八戸市



主催 日本 文部科学省
実施機関 (財)原子力安全研究協会
日程 2009年9月7日〜11日
開催会場 青森県八戸市八戸グランドホテル、八戸工業大学

 FNCA 研究炉利用ワークショップ (八戸)
 < 研究炉基盤技術(RRT)及び中性子放射化分析(NAA)プロジェクト合同イベント >

09:00-10:15










10:15-10:30
9月7日月曜日 (於:八戸グランドホテル)
開会セッション
開会挨拶 文部科学省
基礎報告
 ・第9回大臣級会合及び第10回コーディネーター会合報告
  (FNCA日本コーディネーター)
 ・今回の研究炉基盤技術(RRT)プロジェクト・ワークショップの目的について
  (RRT日本PL)
 ・今回の中性子放射化分析(NAA)プロジェクト・ワークショップの目的について
  (NAA日本PL)
参加者自己紹介
集合写真撮影
休憩
(以降2グループに別れ、会合)

 < 研究炉基盤技術(RRT)プロジェクト >



10:30-12:00
12:00-13:00

13:00-15:30
15:30-15:45
15:45-17:00
9月7日月曜日 (於:八戸グランドホテル)
RRT-1 : COOLOD-N2を用いて実施した自国研究炉の安全解析
について各国報告

 バングラデシュ / 中国 / インドネシア
昼食
RRT-1 (継続)
 韓国 / マレーシア / タイ / ベトナム
休憩
議論


09:00- 9:15
09:15-10:00
10:00-10:20


10:20-12:00
12:00-13:00

13:00-15:00
15:00-15:20
15:20-17:00
9月8日火曜日 (於:八戸グランドホテル)
RRT-2 : 計算コードEUREKA2/RRの実演と解説
 「EUREKA2/RR の概説と入力データの紹介」(日本)
 「EUREKA2/RRプログラムのインストール実演とサンプル問題の実施」(日本)
休憩
RRT-3 : EUREKA2/RRプログラムのインストールとサンプル問題の
実施の状況について各国報告

 バングラデシュ / 中国 / インドネシア
昼食
RRT-3 (継続)
 日本 / 韓国 / マレーシア / タイ / ベトナム
休憩
議論


09:00-10:30

10:30-10:45
10:45-12:00
12:00-13:00

13:00-15:00
15:00-15:30
15:30-17:00
9月9日水曜日 (於:八戸グランドホテル)
RRT-4 : 特別講義
・研究炉の熱水力解析全般について、講義を実施。
 三島嘉一郎(日本)
休憩
議論
昼食
RRT-5 : 今後の実施計画の策定
議論
休憩
RRT-6 : 議事録草稿

9:00-10:00
10:00-10:15
9月10日木曜日 (於:八戸グランドホテル)
RRT-6 (継続)
休憩・合同イベント総括セッション会場に移動

 < 中性子放射化分析(NAA)プロジェクト >


10:30-12:00
12:00-13:00
13:00-15:15
15:15-15:30
15:30-17:00
9月7日月曜日 (於:八戸グランドホテル)
NAA-1 : 研究炉を利用したNAAの現状について各国報告
 オーストラリア / バングラデシュ / 中国
昼食
 インドネシア / 日本 / 韓国 / マレーシア
休憩
 フィリピン / タイ / ベトナム


09:00-12:00




12:00-13:00
13:00-17:00
9月8日火曜日 (於:八戸グランドホテル)
NAA-2 : 個々のサブ・プロジェクトの進捗
 NAA-2-1 : 分布図の作成と鉱物探査に用いる地球化学的試料のNAA
 本プロジェクト参加国による活動状況報告
 オーストラリア(基調報告共) / 日本 / 中国 / インドネシア / フィリピン
 (休憩を含む)
議論
昼食
 NAA-2-2 : 汚染モニタリングに用いる食品試料のNAA
 韓国(基調報告共) / タイ / 中国 / インドネシア / マレーシア / ベトナム
 (休憩を含む)


09:00-10:00
10:00-10:15
10:15-12:00


12:00-13:00
13:00-17:00
9月9日水曜日 (於:八戸グランドホテル)
 NAA-2-2 (継続)
議論
休憩
 NAA-2-3 : 環境モニタリングに用いる海洋堆積物のNAA
 本プロジェクト参加国による活動状況報告
 日本 / バングラデシュ / 中国
昼食
 NAA-2-3 (継続)
 日本(基調報告) / インドネシア / マレーシア / フィリピン / タイ / ベトナム
 (休憩を含む)
議論

09:00-10:00
10:00-10:15
9月10日木曜日 (於:八戸グランドホテル)
NAA-3 : 議事録草稿
休憩・合同イベント総括セッション会場に移動

 < 研究炉基盤技術(RRT)及び中性子放射化分析(NAA)プロジェクト合同イベント >

10:15-11:30



11:30-12:00
12:15        
9月10日木曜日 (於:八戸グランドホテル)
総括セッション
RRTグループの議事録の報告と議論
NAAグループの議事録の報告と議論
閉会セッション
昼食
(公開シンポジウム会場に移動)

 施設訪問 (六ヶ所村)
 < 研究炉基盤技術(RRT)及び中性子放射化分析(NAA)プロジェクト合同イベント >

08:00-18:00
9月11日金曜日 (於:八戸グランドホテル)
施設訪問 (六ヶ所村内)
・環境研
・JAEA
・日本原燃

 公開シンポジウム (八戸工業大学)
 9月10日木曜日 (於:八戸工業大学)
13:00-16:20







13:00        



13:20        






14:05        






14:50        








15:35        






16:20        
文部科学省主催「アジア原子力協力フォーラム公開シンポジウム」
後援:青森県、八戸工業大学

1. 期日  平成21年9月10日(木) 13:00〜16:20
2. 場所  八戸工業大学 教養棟3F 大会議室(G301)
3. テーマ 未来に向けた原子力人材育成と青森地域の役割
4. 内容  (逐次ないし同時通訳:英語から日本語のみ)     (敬称略)

 挨拶 佐々木郁夫(青森県エネルギー総合対策局長)
     箱阜c一(文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当))
     庄谷征美(八戸工業大学長)

 講演
  (1) 地域における原子力を含むエネルギーと環境の教育・研究
   @ 八工大における教育・研究活動と地域課題への取り組み
      藤田成隆(八戸工業大学副学長)
   A 地域の特色を活かした原子力人材育成と基盤研究
      齊藤正博(八戸工業大学教授)

  (2) 文部科学省のアジア原子力協力とアジア諸国の原子力活動
   @ 文部科学省のアジア原子力協力フォーラム(FNCA)活動と成果
      町 末男(FNCA日本コーディネーター)
   A アジアの原子力活動(紹介)
      ダルビス・イスナイニ(インドネシア原子力庁)
      カオ・ドン・ウー(ベトナム原子力研究所)

  (3) 研究炉の先進的利用の現状と今後の可能性
   @ 大学に開放されている研究炉利用の現状
      山下清信(日本原子力研究開発機構東海研究開発センター
                   原子力科学研究所 研究炉加速器管理部部長)
   A ホウ素と中性子を利用した効果的ながん治療などの現状
      三島嘉一郎(原子力安全システム研究所技術システム研究所長)
   A 環境、食品、資源などに適用される中性子放射化分析
      海老原充(首都大学東京理工学研究科教授)

 パネル討論 −未来に向けた原子力人材育成と青森地域の役割への期待−
   モデレーター : 町 末男(FNCA日本コーディネーター)
   パネリスト : 石井慶造(東北大学大学院工学研究科教授)
            阿部勝憲(八戸工業大学異分野融合科学研究所長)
            山下清信(日本原子力研究開発機構東海研究開発センター
                   原子力科学研究所 研究炉加速器管理部部長)
            海老原充(首都大学東京理工学研究科教授)
 閉会
 


概要  会議報告  開会RRTNAAまとめ   プログラム   参加者リスト
Forum for Nuclear Cooperation in Asia