2006年度FNCAバイオ肥料ワークショップ議事録
2006年11月20日〜24日
タイ チェンマイ市
2006 年 3 月 1 日から 3 日に東京で開催された第 7 回アジア原子力協力フォーラム( FNCA )コーディネーター会合での合意に基づき、 2006 年 FNCA バイオ肥料ワークショップが下記の通り開催された。
日 程 : |
2006年11月20日(月)〜24日(金) |
場 所 : |
タイ チェンマイ市 ロータスホテル
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主 催 : |
タイ原子力庁 (OAP)、タイ農業省 (DOA)、
日本 文部科学省 (MEXT) |
事 務 局 : |
日本原子力産業協会 (JAIF) |
参 加 者 : |
インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、バングラディシュ(オブザーバー参加)の8カ国から合計16名が参加 |
セッション 1 : 開会セッション
まず、 OAP 長官の Mr. Chouvana Rodthongkhom が歓迎の挨拶を述べ、次いで MEXT を代表して宮澤堅一氏が開会の挨拶を行った。続いて、タイのプロジェクトリーダーである Dr. Achara Nuntagij が参加者を紹介し、日本のプロジェクトリーダーの横山正氏が「 FNCA バイオ肥料プロジェクトの概要」と題した発表を行った。
セッション 2: 特別講演
基調講演と特別講演がそれぞれ 2 件ずつ行われた。タイ スラナリ技術大学の Dr. Nantakorn Boonkerd は、「タイにおけるバイオ肥料研究と生産の進展」と題した基調講演を、また同大学の Dr. Neung Teaumroong は、「タイにおけるバイオ肥料研究の 12 周年−遺伝子から農家へ」と題した講演を行った。新潟大学の 大山卓爾氏 は、「発光分析法による N15 分析」について、畜産草地研究所の 安藤象太郎 氏は、「エンドファイト窒素固定−第 3 の植物・微生物窒素固定システム」と題した講演を行った。
セッション 3: アジアにおけるバイオ肥料の将来−バイオ肥料利用拡大戦略
Dr. Nantakorn Boonkerd がリードオフスピーチを行い、続いてインドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムから「バイオ肥料利用拡大戦略」について発表が行われた。また、バングラディシュの Prof. Dr. Abdul Aziz が、「バングラディシュにおけるバイオ肥料の現状」と題した特別講演を行った。議論および合意された点は以下の通りである。
バイオ肥料の将来は、収量の増加、持続可能な農業、環境への配慮や経済性といったバイオ肥料の利点を判断する農業従事者やエンドユーザーに大きく左右される。参加者は、一般に認められた「バイオ肥料」という専門用語の整合性について合意している。バイオ肥料の利用拡大戦略には、農業従事者や、普及者、学生、一般市民の継続的な教育が含まれている。 FNCA バイオ肥料マニュアル、あるいはその抜粋版は教材の一つとして利用することができる。実地訓練に加え、展示、実演、新聞や放送といったメディアを通じた情報の普及など、一般の認識を高めるプログラムを通じて教育を行うことも可能である。エンドユーザーにとってより入手しやすい許容基準を備えた高品質のバイオ肥料を生産し、バイオ肥料を使用した農産物に特別な価値と地位を付与することは、特に世間で「有機農業」のコンセプトがよく知られていくなかで、バイオ肥料をより魅力的なものとするであろう。バイオ肥料の改善や新しいバイオ肥料用の微生物の発見に関する研究は継続されるべきである。バイオ肥料産業の存続には、特にバイオ肥料の魅力の宣伝やバイオ肥料研究への援助と財政的支援といった面において、政府からの継続的な支援が不可欠である。バイオ肥料提唱者間の国際協力とネットワークの強化もまた、アジアにおけるバイオ肥料の将来にとって重要である。
セッション 4: 放射線とオートクレーブによるバイオ肥料キャリアの滅菌効果比較
「放射線とオートクレーブによるバイオ肥料キャリア滅菌効果の比較」について、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムから発表が行われた。議論および合意された放射線照射キャリア滅菌の利点は以下の通りである。また詳しいデータは添付資料 3 にある。
キャリアの滅菌は、バイオ肥料の品質管理にとって重要である。滅菌の方法は多数ある。今回のワークショップでは、放射線滅菌法とオートクレーブ滅菌法が比較された。その結果は以下の通りである。
- 放射線照射
- プラスの効果
化学的および物理的特性に大きな変化がない。大量生産に適している。時間があまりかからない。労働量が少ない。様々なキャリアの材料に適している。適正線量で完全に滅菌できる。キャリアの扱いが容易である。根粒菌や Azospirillum の生存率を高めることができる。
- マイナスの効果
新規設備導入のコストが高い。輸送コストがかかる。専門知識と放射線照射施設の規制が必要である。
- オートクレーブ
- プラスの効果
小規模生産には安いコストで完全に滅菌できる。操作が簡単である。メンテナンス費用が安く、入手しやすい。
- マイナスの効果
大規模生産には時間と労働力がかかる。キャリア材質の化学的および物理的特質の変化の可能性がある。
放射線滅菌は実行可能なオートクレーブ滅菌の代替方法である。放射線滅菌は大量生産に適している。放射線滅菌法は、バイオ肥料の品質管理に関する意識が高まるにつれ、徐々に受け入れられていくであろう。キャリアの生物および非生物的特性に関する放射線の効果を解明するために、詳細な研究が必要である。
セッション 5: 放射線滅菌バイオ肥料キャリアの実用化戦略
日本原子力研究開発機構 の鳴海一成氏より、「バイオ産業への放射線利用」と題した基調講演が行われ、続いて、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムから、「放射線滅菌キャリアの実用化戦略」について発表が行われた。議論および合意された点は以下の通りである。詳細は添付資料 4 に記載されている。
いくつかの参加国にとっての制約は、照射施設を利用しにくいことと、輸送コストが高い、商業的な多目的照射施設がない(タイとベトナム)といった、バイオ肥料生産者/製造者にとって不便なことである。バイオ肥料生産者/製造者にとって、放射線滅菌キャリアを用いた商業スケールのバイオ肥料生産に着手するにはいまだ限られた情報しかない。現在、放射線滅菌キャリアの実用化に関する研究は限られている。
次のような戦略が提案されている。
- バイオ肥料と放射線滅菌利用の利点を含む包括的な情報の準備。これはガンマ線または電子線照射施設によるバイオ肥料キャリアの放射線滅菌に関する国家プログラム策定のため、政策決定者に提出する。
- 生産者、消費者、政策決定者を対象とした、パンフレット、マニュアル、 DVD 、テレビ、ラジオ、ウェブサイトなどによる自国言語でのバイオ肥料情報の提供拡大
- 農業従事者と一般市民を対象とした、生産者/製造業者および普及機関による実践的デモンストレーションの実施
- バイオ肥料の生産と適用に成功したプログラムを持つ国からの実例の提示
セッション 6: 評価と将来展望
プロジェクト評価が添付資料 5 の通り参加者によって合意された。
「 FNCA バイオ肥料プロジェクトの将来展望」が下記の通り提案され参加者によって合意された。
アジアでは、増加人口を支えるために持続可能な農業が不可欠である。 気候や、化学肥料や農薬の不適切で無思慮な利用による集約農業習慣によって、農業環境は劇的に変化している。そのような訳で 、持続可能な農業のためには有益な微生物が必要とされている。持続可能な農業のための新たな機能的微生物の開発に用いるため、ガンマ線あるいはイオンビーム照射法が提案される。現在のバイオ肥料プロジェクトを見直し、以下のトピックが今後のプロジェクトとして提案された。
タイトル : 持続可能な農業のための新たな機能的微生物の開発 「機能的微生物」の定義は、より効果的な共生・非共生的特質を持った微生物、生物・非生物的ストレスへの耐性がある微生物、作物の生長を促進し病原菌をコントロールする能力を持つ微生物を意味する。
計画 1: 農業における機能的微生物の選抜
- 放射線による機能的微生物の突然変異育種
--- 根粒菌、 Azospirillum 、菌根菌、 PGPR 、植物病害に拮抗性を示す微生物、といった共生・非共生微生物
- 機能的微生物の効果を評価するためのアイソトープ技術の利用
計画 2: 微生物のためのキャリアの放射線滅菌
- 適切なキャリア滅菌法の確立
- ガンマ線および電子線照射滅菌キャリアの実用化
テクニカル・ビジット
- Huai Hong Khrai 王立開発研究センター
同センターは、農業開発とともに森林、土壌、水の保全と開発を促進するため、タイ北部の流域地域に適した開発モデルを求めて研究と実験に重点を置いている。同センターは次の 10 部門で構成されている。(1)水資源開発研究、(2)森林調査と開発、(3)土壌開発研究、(4)作物栽培の研究と開発、(5)集約農業の研究と開発、(6)家畜・乳牛の調査と開発、(7)漁業の研究と開発、(8)カエル養殖の保全と開発、(9)センター周辺の村落における作業の実施、(10)ベチベル草利用の研究と開発。同センターでは、いくつかの植物に根粒菌バイオ肥料と生物有機肥料が利用されている。
- チェンマイ大学 バイオ肥料工場
チェンマイ大学で、当初は根粒菌バイオ肥料の生産を目的に建てられたバイオ肥料工場を訪問した。キャリアはオートクレーブで滅菌されていた。食用大豆のための生物有機肥料には、アゾトバクター( Azotobacter )やベイエリンキア( Beijerinckia )といった窒素固定菌、リン溶解菌( Aspergillus sp. )、カリ溶解菌( Bacillus sp )が含まれている。生物有機肥料は、燐灰土 15 %を含むコンポストと、リン溶解菌、カリウム源である長石を混ぜ合わせ、その後液状のバチルス( Bacillus sp )および窒素固定菌を混ぜ合わせて作られていた。混合物は一ヶ月間培養され、その後、回転機とペレット成形機での工程を経て砂粒状( 3-5 ミリ)にされる。生物有機肥料は 1 袋につき 5 キロずつポリエチレン袋に入れられる。野菜や果樹、花き用に、この量で 1 平方メートル( 13 トン / ヘクタール)に利用可能である。
この議事録はすべてのワークショップ参加者によって議論、合意された。これは 2007年2月に東京で開催される第8回 FNCA コーディネーター会合で報告される予定である。
添付資料 :
- 2006 年度 FNCA バイオ肥料ワークショッププログラム
- 2006 年度 FNCA バイオ肥料ワークショップ参加者リスト
- 放射線とオートクレーブによるバイオ肥料キャリアの滅菌効果比較
- 放射線滅菌バイオ肥料キャリアの実用化戦略
- プロジェクト評価 (英文)
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