FNCA2010年 医療用PET・サイクロトロン ワークショップ
概要
2011年3月4日 - 3月5日 マレーシア、バンギ
2010年度医療用PET・サイクロトロンプロジェクトのワークショップがマレーシアのバンギで開催されました。この会合は、マレーシア原子力庁、マレーシア科学技術革新省(MOSTI)そして日本文部科学省(MEXT)による共同開催でした。会合には、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン及びベトナムの8ヶ国から計30名が参加しました。
本プロジェクトはマレーシアを主導国とし、病気の早期発見、早期治療によりアジアの人達の健康増進に資することを目的とし、核医学診断技術の向上と普及を目指して2006年度から活動を行ってきましたが、2010年度を持って5年間の活動を終了します。プロジェクト最後のワークショップでは、医療用PETとサイクロトロンに関わる各国の近況と症例報告、第2フェーズの活動テーマ「放射線安全」の下に実施された個人被ばく線量調査の結果報告、そして5年間のプロジェクト活動の成果のまとめが行われました。(内容については以下を参照)
カントリーレポート
以下は、参加者によるカントリーレポートの要約です。
バングラデシュ (モハメド・ファズルル・カビール氏)
バングラデシュでは、PET/CT検査にかかる費用は健康保険が適応されず、個人負担が困難であったため、これまでPET検査の事業化が進んでこなかったが、政府からの助成金が得られ、施設への投資や研究開発が可能となった。現在、ダッカに2つのPETセンターを建設中であり、1年以内での稼働を目指している。
中国 (チェン・シェンツー氏 及びダン・ヤピン氏)
2005年では国内のPET施設数は50であったが、現在は160施設に増えた。同様に、PET(PET/CT含む)の設置台数も55台から118台へと大幅に増えた。FNCAにおいては、ガイドラインの作成に積極的に参加した他、臨床診断アトラス用の症例も多数提出し、プロジェクト活動に貢献してきた。また、FNCAの活動を通して国内のPET/CTの臨床管理の標準化や改善、作成したガイドラインに基づいたPET・サイクロトロンの品質保証/品質管理(QA/QC)の実行にも努めてきた。
インドネシア (カルディナ氏)
2010年にFDG製造が開始され、厚生省とインドネシア原子力庁(BATAN)による医療サービス、研究及び教育プログラムが進展している。2010年時点で、国内では、民間が2施設、国立が2施設で、計4施設のPETセンターが稼働している。
日本 (岡沢 秀彦氏)
現在、日本人の3分の1はがん由来で死亡しているため、がんの診断、治療についての国民の関心は高くなってきている。2009年の調査では、PET検査の対象の98%を腫瘍が占めている。国内おけるPETセンター数は、1985年では5施設であったが、1995年には21施設、2000年に29施設、そして2010年では273施設まで増えた。273の施設構成として、デリバリーの18F-FDGのみ使用している施設が136、サイクトロンも保有している施設は137施設である。2005年から民間による18F-FDG※のデリバリーが開始した。現在国内の8拠点からサイクロトロンを保有しないPET検査施設に供給を行っている。
※18F-FDG:ブドウ糖の類似物質に放射性同位元素(F-18)をつけたもの
マレーシア (ファジラー・ハムザー氏、アブドゥル・ジャリル・ノルディン氏)
マレーシアのPET検査は2005年に始まり、2010年におけるPET施設は8施設、PET/CTの設置は8台である。サイクロトロンの保有施設が3施設、またサイクロトロン設置は3台である。2009年にはマレーシア厚生省(MOH)が核医学の検査は専門家による管理の下で実施すべきとして、専門家資格の登録制度を開始した。マレーシアの核医学専門委員会の委員7名のうち、3名は厚生省関係者である。
フィリピン (ジョセリト・マナロ・デラ・クルス氏)
2001年に国内初のPETとサイクロトロンが聖ルーク医療センターに設置され、現在、PET(PET/CT含む) 3台、サイクロトロン1台が設置されている。2011年3月より18F-FDG-PET検査において、従来の患者への高い18F-FDGの投与量を体重当たりの低めの投与量に変更し、被ばくを減らす試みを始めている。
タイ (ルジャポン・チャナチャイ氏)
タイには現在PETセンターが6施設あるが、サイクロトロンが設置されているのは2施設である。国立サイクロトロン・PETセンターは、サイクロトロンを所有しない4件のPETセンターに18F-FDGのデリバリーを行っている。国内全体でのPET検査受診者は毎年増加しており、その数は2006年では866人であったが2009年には2316人になった。最近の動向として、F-DOPA、C-11 Choline等のFDG以外のPETトレーサーが臨床検査に使用されている。
ベトナム (マイ・トゥロン・コア氏及びグエン・コン・ドゥック氏)
国内には核医学センターが27施設あり、そのうち4施設にPET/CT、3施設にサイクロトロンが設置されている。現在、PET/CTが設置予定の病院がホーチミン市に2件建設されており、近く完成する予定である。PET検査では、18F-FDGのみを使用しており、国がまとめた標準プロトコールに沿った検査を実施している。2010年にPET/CT検査費用の30-80%が健康保険で負担できることになったが、装置が十分でないこと、大部分の放射性医薬品を輸入に頼っていること、また医学物理士と技術者の不足によりQA/QCが充分に実施されていないことが課題となっている。
PET・サイクロトロン施設における線量測定調査
第2フェーズから(2009年度〜)の活動テーマである「放射線安全」に関わり、平成22年6月にマレーシアのPET・サイクロトロン施設(ウィジャヤ国際医療センター及びプトラジャヤ病院)で実施された医療従事者の個人被ばく線量及び環境測定調査の概要と結果について、マレーシア原子力庁のノリア・ジャマル氏より報告がありました。その後、タイのルジャポン・チャナチャイ氏からもチュラボンがんセンターの病院内で独自に実施された被ばく線量調査の概要と結果が報告されました。調査結果において、タイと比較して、マレーシアの職員の被ばく量が高いことが指摘され、マレーシアにおけるFDGの製造量がタイの約2倍であることが原因と推測されました。しかしながら、両国の調査結果において、高い線量の被ばくは見られず、安全管理の下で作業が行われていることが確認されました。また、各国におけるFDG製造後の品質管理テストの内容についても意見交換が行われました。
臨床診断アトラス(診断症例集)
マレーシアのファジラー・ハムザー氏より、臨床診断アトラス(診断症例集)のとりまとめにあたり、これまでの経緯や最近の動向が発表されました。その後マレーシアより、本ワークショップまでに各国から152件の症例が集められ、今後ベトナムからも20症例程度が追加予定であることが報告されました。さらに、MOSTIによりアトラス編集委員会が設立され、アトラスが製本化されることが発表されました。製本化にあたり、画像を最低半ページ割いて大きく表示すること、症例を疾患毎にまとめ重複する疾患は省くこと、また患者のデータで年齢や検査日を削除する等の提案がされました。刊行後は、関係者のみならず、各国のPET診療に携わる医師や教育現場に配布し、広く活用されるように努めることが確認されました。
ガイドラインのまとめ
2008年度までの第1フェーズの活動テーマ「イメージング装置」と「放射線安全とPET放射性医薬品」において作成された「放射線防護とPET/CT装置の動作評価のガイドライン」および「18F-FDGのQA/QC」の最終確認とまとめを行いました。セッション内での意見交換で確認された訂正・変更箇所をマレーシアが現存のガイドラインに反映させ、完成後はFNCA及びマレーシア原子力庁のウエブサイトに掲載することとしました。また、関係者はガイドラインの活用促進行っていくことが確認されました。
ワークショップのまとめ
最後に、本ワークショップの議事録と、本プロジェクトの5年間の活動を振り返り、成果レポートを作成しました。マレーシア原子力庁のモハメド・ノール・モハメド・ユヌス氏より、プロジェクトの活動を締めくくる挨拶があり、ワークショップは閉会されました。
|