1. |
第21回FNCA大臣級会合(MLM)の共同宣言に記されたFNCAの新しい活動方針に沿って、コーディネーターズ会合(CDM)は、農業開発、食品安全、環境保護、健康、核の安全保障及び人材育成に関する諸活動を更に促進すること、また、プロジェクトの研究者や活動参加者の健康と安全に対し十分な配慮をすること及び加盟各国の健康安全保障の方針に従うことを前提に、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて停滞するFNCAのプロジェクト活動を出来る限り早く平常化する為、最大限の努力を払うことを申し合わせた。 |
2. |
CDMは2020年3月に終了した4プロジェクト、すなわちa) 放射線治療、b) 研究炉利用、c) 放射線安全・廃棄物管理、d) 核セキュリティ・保障措置プロジェクトについて、プロジェクト終了の評価を行った。評価結果とコメントは以下の通りである。 |
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a) |
放射線治療 |
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アジアに於いて拡大しているがんに対する最適療法を確立することを目的に、プロジェクトは20年以上にわたって放射線療法や化学療法の共同臨床研究を行ってきた。既にこれらの臨床研究結果はFNCA加盟国地域において、複数の放射線治療標準プロトコルとなっている。特に子宮頸がんに対するプロトコル(CERVIX-IV)は、東アジア、東南アジア地域で進行する子宮頸がんに対し、予防的な放射線治療範囲の拡大と化学療法の併用が非常に有用、有効であることを実証している。 |
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b) |
研究炉利用 |
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試験研究炉は原子力科学・技術開発の為の基本的ツールであることから、中性子放射化分析(NAA)、放射性同位元素製造、中性子散乱、原子核科学、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、中性子ラジオグラフィ(NR)、材料研究、そして新しい研究炉や研究炉に関わる人材育成について、3年間にわたり議論してきた。すべての参加国に、有用な放射性同位元素製造、またNRやBNCT実施のため、新しい研究炉を利用する希望があることから、以降もこの議論を継続するべきである。
NAAでは浮遊粒子状物質(SPM)研究サブプロジェクトの中で、参加国による分析結果がまとめられて関係科学誌に報告される予定である。また希土類元素(REE)サブプロジェクトの中ではラウンドロビン・テストが行われ、テスト結果がIAEAのワークショップで報告され、IAEAの関連文書にも掲載されている。 |
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c) |
放射線安全・廃棄物管理 |
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殆どすべてのFNCA参加国が低レベル放射性廃棄物(LLW)処分と長期保存施設の建設を計画しており、それらの安全特性や施設の具体的な設計、またそれら施設に対する公衆の受け入れについて議論してきた。FNCA加盟国其々のLLW貯蔵に関する基本方針や施設の安全審査に関する中間報告書が2020年3月にまとめられている。この報告書は各国の関連知識の共有と拡大に貢献するものと思われる。このプロジェクトではNORM/TENORM放射性廃棄物の特性評価処理や未利用物質の処分に焦点を当てた活動を次期のステージで計画している。 |
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d) |
核セキュリティ・保障措置 |
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3年間にわたるこのプロジェクト活動は、核セキュリティ・保障措置の重要性の認識を高めながら、関連情報の共有を通じて能力開発の促進につなげ、ワークショップや公開セミナーを通して体制の整備拡大をするという優れた成果を産み出してきた。核鑑識(NF)については、証拠標本収集、NFラボでの初期調査、また出所不明の核物質の特定作業について、FNCAのプロジェクトリーダーと警察機関による机上訓練(TTX)が行われた。これらプロジェクト活動は、関連のIAEA国際会議(2017)、INMMの第60回会合(2019)、またIAEAの核セキュリティに関する国際会議(2020)で報告されている。 |
3. |
プロジェクトリーダーから提案された6プロジェクトについて、第17回MLMで承認された提案プロジェクト評価手続きに沿い、全コーディネーターによる妥当性、効果、効率、影響力及び持続性の観点からの評価が行われた。その結果、4プロジェクト、すなわち放射線治療、研究炉利用、放射線安全・廃棄物管理及び核セキュリティ・保障措置について2021年から3年間の新規フェーズを立ち上げることをCDMとして合意、了承した。それぞれについてのコメントは第5項に記載されている。 |
4. |
新規のプロジェクト提案である前立腺がん177ルテチウム療法及びSMRとFNPPの総合的評価については、いくつかの評価基準で複数国が“Low”評価を記した為、新規プロジェクトの評価ガイドラインにより提案は採択されなかった。しかしながら、CDMとしては、これらの提案について以下を推奨したい。 |
5. |
a) |
放射線治療 |
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このプロジェクトは加盟国に対して常に新しい知見を提供しており、この研究結果が将来的にがん治療や患者の病状監視に対して有効に働くことに疑いはない。 |
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3D-IGBTによる実地トレーニングは加盟国の放射線治療従事者や医療関係者の新技能の習得に効果があり、今後もこのトレーニングは各国で続けるべきである。 |
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症状緩和治療の研究については、2021年4月の第43回RCA代表者会議で奨励されたように、IAEA/RCAとの協力を進めるべきである。 |
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既に研究対象となっている3種のがんに加えて、前立腺がん等に関する新しい取り組みの将来的可能性について、本プロジェクトの枠組みの中で議論すべきであろう。 |
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b) |
研究炉利用 |
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本プロジェクトは、FNCA加盟国にとって、研究炉とその利用に関しての情報共有、協働ネットワーク構築そして更なる技術的向上を図る上で大変好都合な基盤となっている。しかしながらワークショップの開催頻度は年一回であり、ワークショップに加えてオンラインセミナー等の活用による情報交換の機会をもっと増やすべきである。 |
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中性子放射化分析(NAA)について、PM2.5の元素組成分析などは環境科学の幅広い応用に大変重要であるため、ワークショップで包括的な議論が為されるべきである。 |
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研究炉利用プロジェクトは、研究炉の新規導入を考えている加盟国にとっては大変に有益であるため、関連する人材育成での協力についても議論がもっと為されるべきである。 |
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SMRやFNPPについての情報交換や議論も、本プロジェクト内の新しい研究炉についてのセッションで行う事を推奨する。 |
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また、経年研究炉の保護装置問題等、研究炉に関して加盟国が個別に抱える問題についても議論することを推奨する。 |
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プロジェクト会議には各加盟国から、研究炉設備の運転や運営を所掌する組織から1名、研究対象の選定を所掌する組織から1名、最低2名の参加者があることが望ましい。 |
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c) |
放射線安全・廃棄物管理 |
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本プロジェクトは、食品や環境の安全保障や加盟国への放射線安全の改善支援等を含む、電離放射線に対する公衆と環境の保護について、国家的組織能力の構築を目指すものである。 |
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アジア諸国で今後社会問題化するであろうNORM/TENORMに関連する廃棄物についてはこのプロジェクトの中で、徹底的に議論すべきである。 |
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超低レベル放射性廃棄物の除去に関して、本プロジェクトの中で議論することを推奨する。 |
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科学的見地からの視察や監視団の派遣、また原子力関連設備の廃棄やNORM/TENORM廃棄物に関して、加盟国が将来的に直面すると思われる実際的な取り扱い方法について、実地のトレーニング等も行うべきである。 |
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d) |
核セキュリティ・保障措置 |
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本プロジェクトでは、設定された目的に対して的確に活動が行われているが、加盟国からの実践例がもっと必要である。加盟国の学習例、実践例をもっと集めることを推奨する。 |
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2016年のワシントン核セキュリティサミットで指摘された、アジアにおける核鑑識の仕組みを発展させることをもっと議論し、3年間の内に実行に移すべきである。特に核鑑識の机上訓練は、核セキュリティについての各国の施策の向上と持続性のために重要である。 |
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またこの分野に於けるIAEAや関連機関との親密な連携を進めることは重要である。 |
6. |
会合は現在進行中の3プロジェクト、放射線育種プロジェクト、農業、環境、医療への放射線加工・高分子改質プロジェクト及び原子力・放射性同位体技術を利用した気候変動科学プロジェクトの進捗について議論し、いずれのプロジェクトも加盟国間の効果的な協力により、成功裏に進行していることを確認した。放射線加工・高分子改質と気候変動科学プロジェクトの終了報告、並びに放射線育種プロジェクトの中間報告は来年開催予定の次回CDMで行われる予定である。しかしながら、新型コロナウイルスが各プロジェクトに与えた負のインパクトについてはプロジェクト評価の中で十分に考慮する必要がある。それぞれのプロジェクトに対するコメントは以下の通りである。 |
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a) |
放射線育種 |
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加盟国で開発された複数の米、麦そして大豆の新しい変異株、変異種は広く流布し、流布先の経済拡大に貢献している。持続可能な農業や急変する気候変動に対する順応性を強化するために継続して努力が求められる。 |
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b) |
放射線加工・高分子改質 |
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本プロジェクトは放射線処理技術の幅広い応用を狙っており、既に動物飼料としての放射線分解したキトサンや医療応用のハイドロゲル研究に於いて、優秀な結果を出している。プロジェクト成果の実利用を第三セクター含む最終ユーザーと一緒に促進し、商業化の可能性を考慮しながら進めるべきである。 |
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c) |
気候変動科学 |
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本プロジェクトは、原子力科学をベースにした調査と分析方法によって、過去の気候変動のプロセスとメカニズムを洞察すること、さらに気候変動を起こす現象を読み解く知見を取得し共有することを目的としている。CDMは、「土壌標本採集のガイド及び炭素循環研究における炭素放射性同位体の分析」が2020年に編集されたことを評価し、さらに、この分析方法によって土壌有機炭素の不安定性に関するアジアスケールのデータベースが出来上がるものと期待している。 |
7. |
CDMはAnnexに示した通り、2021年度内のワークショップを其々の加盟国にて開催することに合意した。すべてのワークショップは2021年9月から2022年3月の間に開催される。プロジェクトリーダーは、各ワークショップに実参加するか、オンライン参加で参加することになる。実参加に場合は事前にワクチン接種を受けることを推奨する。新型コロナウイルスは2021年現在も未だにプロジェクト活動に影響を与えており、CDMは通常のプロジェクト会合の他に、個別のトピックについて会合を持つ場合はオンライン会合を推奨する。 |
8. |
FNCAプロジェクトはIAEAやOECD/NEAを含んだ関連国際機関との協力関係を強化する努力をして行くことについて合意した。 |