アジア原子力協力フォーラム(FNCA)
第24回 コーディネーター会合
2024年3月12日・13日
東京 三田共用会議所(オンライン併用)
2024年3月12日(火)及び13日(水)、内閣府・原子力委員会の主催、文部科学省の共催により、第24回FNCAコーディネーター会合が東京において開催されました。FNCA日本コーディネーターである玉田正男氏が会合議長を務めました。会合には、FNCA参加12ヵ国(オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム)の他、RCA地域オフィス、シンガポールからオブザーバーとして代表が出席しました。
会合における10のセッションの結果概要は以下の通りです。
セッション1:開会
玉田議長の開会宣言により開会し、本会合プログラムが承認されました。
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(左)上坂原子力委員会委員長
(右)玉田FNCA日本コーディネーター |
セッション2:2023年度第24回大臣級会合の報告
事務局より、2023年11月にタイにおいてハイブリッド形式で開催された第24回大臣級会合(MLM)の概要が紹介されました。円卓会議のトピック「人の健康と医療福祉(及びRays of Hope)における原子力科学の貢献」に基づき、基調講演では、IAEA による「IAEAの“Rays of Hope” Initiative:原子力利用によるがん治療への機会の拡大」、及びタイ原子力技術研究所(TINT)による「タイにおける放射性医薬品開発の現状」の報告及び質疑応答が行われました。その後の円卓会議では、日本とベトナムからの報告が行われ、議論が行われました。
セッション3-1:放射線利用開発分野におけるプロジェクト活動成果報告
- 放射線育種
本プロジェクトは、「気候変動下における低投入の持続可能型農業に向けた主要作物の突然変異育種」をテーマとしています。参加国においては、特に高収量、早生、高品質、様々な生物・非生物ストレス耐性に着目した新品種の開発を目指しています。今次会合では、プロジェクトの活動について参加国の進捗状況が紹介され、新たにコメ10品種及びダイズ5品種が発表されたことや、新品種が経済効果や持続可能な農業に貢献することを期待していることなどが報告されました。
次期フェーズのサブプロジェクトとして、「主要作物の突然変異育種と持続可能な農業に向けた新技術の応用」が提案されています。
- 放射線治療
本プロジェクトは、アジア地域で多く見られるがんの「子宮頸がん」「上咽頭がん」「乳がん」に対し、最適な治療法を確立して、同地域の放射線治療のレベルの向上を図ることを目指しており、各国参加者は多国間での臨床試験を実施し、放射線治療における品質保証/品質管理(QA/QC)の活動や教育活動を行っています。今次会合では、FNCA 参加国においてこの3つのがんに関する標準治療プロトコルが確立されたことや、子宮頸がん治療における線量のQA/QC監査が行われた結果、参加国における放射線治療の質の向上が認められたこと、各プロトコルに関連する論文が多数掲載されたことなどが紹介されました。
継続提案として、子宮頸がん及び乳がんに対する放射線治療/化学放射線療法(RT/CRT)、骨転移及び脳転移に対する緩和的放射線治療に関する臨床試験などが提示されました。
セッション3-2:研究炉利用開発分野におけるプロジェクト活動成果報告
- 研究炉利用
本プロジェクトでは、参加国が保有する研究炉の特徴や利用状況等の情報を共有し、参加国の研究者及び技術者の研究基盤や技術レベルの向上を図っています。
研究炉利用グループ(RRU)では、各国へのアンケート調査により新しい放射性同位元素を含む放射性同位元素製造及び新規研究炉等のテーマに取り組んでいることが報告されました。
また、中性子放射化分析グループ(NAA)では、現行フェーズにおいて環境モニタリングに焦点を当て、浮遊粒子状物質(SPM)のような一般的な環境試料だけでなく、土壌や食品などを含む広範囲の試料も対象として分析を行うことが紹介されました。なお、研究炉が稼働していない一部の参加国においては、サンプルの分析方法として、NAA グループにおいてデータの比較と検証を行えるように、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)等の方法が推奨されることが示されました。
セッション3-3:原子力安全強化分野におけるプロジェクト活動成果報告
- 放射性廃棄物管理
本プロジェクトは、情報と経験から得られた知見を交換・共有することにより、参加国の原子力/放射線関連施設における放射線の安全性の向上、及び放射性廃棄物管理活動の充実を図っています。
現行フェーズの活動は、自然起源放射性物質及び人為的に濃度が高められた自然起源放射性物質(NORM/TENORM)に関する各国の状況を理解、要約し、それを各国の関連活動の中で活用することを目的としています。NORM/TENORMに関する統合化報告書が発行される予定であり、これによりFNCA地域における安全文化の醸成に役立つことが期待されています。
セッション3-4:原子力基盤強化分野におけるプロジェクト活動成果報告
- 核セキュリティ・保障措置
本プロジェクトでは、原子力平和利用の推進において不可欠な核セキュリティ・保障措置について、知識・情報の共有、並びに人材育成協力等による強化を図っています。今次会合では、ワークショップにおいて、核鑑識、輸出管理及び追加議定書(AP)の良好事例集に関する発表や議論を行ったことなどが紹介されました。
継続提案としては、核セキュリティ文化の醸成に関する良好事例の収集、RIセキュリティ、新たな脅威(AI、コンピュータ(サイバーセキュリティ)、Beyond DBT)、放射性物質の輸送セキュリティ、インサイダー脅威の軽減などが挙げられています。
セッション4:継続中のプロジェクトの活動報告
セッション4-1:放射線利用開発分野のプロジェクト
- 放射線加工・高分子改質
本プロジェクトは、農業・環境・医療分野における放射線加工の広範な利用により、新製品の開発・実用化を促進することを目的としています。今次会合では、「放射線分解したキトサンの動物飼料応用」、「ハイドロゲルの医療応用」、「環境修復」、「植物生長促進剤、超吸水材、及びバイオ肥料の相乗効果」、「植物生長促進剤及び超吸水材」、「ガンマ線照射によるバイオ肥料用微生物育種」、「放射線による滅菌及び浄化」、「リサイクルプラスチック」の8つの研究テーマに関する活動内容が報告されました。
- 食品産地偽装防止
本プロジェクトは、食品産地偽装におけるトレーサビリティの課題を軽減するため、FNCA 参加国間における情報共有、知見の移転及び科学的能力の向上、フィンガープリント・データベースや技術プラットフォームの構築を目的にしています。プロジェクトの成果は、参加国の科学的能力の発展に貢献すると考えられています。
- 気候変動(森林土壌炭素放出評価)
本プロジェクトの目的は、陸上生態系(特に土壌)における炭素循環を促進するプロセスと、陸上生態系の温度上昇に対する感受性を理解し、それにより地球温暖化への炭素循環のフィードバックを予測することです。FNCA参加国との連携を通じて、炭素14分析に基づくアプローチにより、森林土壌の土壌有機酸素(SOC)の特性に関するアジア規模のデータベースと土壌CO2放出モデルの構築を目指します。
セッション5:シンガポールの報告
オブザーバー参加しているタシンガポールより「シンガポールにおける原子力の開発・利用」に関する報告が行われ、FNCA参加国との協力を拡大していくことを望む旨が述べられました。
セッション6:今後の活動に関するFNCAプロジェクトの評価
継続中のプロジェクトである放射線加工・高分子改質、食品産地偽装防止、気候変動(森林土壌炭素放出評価)の3つのプロジェクトについて評価が行われました。
また、継続提案が行われた放射線育種、放射線治療、研究炉利用、放射線安全・廃棄物管理、及び核セキュリティ・保障措置の5つのプロジェクトについて、評価ガイドラインに基づいてコーディネーターが評価した結果が共有されました。議論の結果、すべてのプロジェクトの継続が合意されました。
セッション7:FNCA創立25周年イベントに関する提案
FNCAは2024年に創立25周年を迎えるため、記念イベントの内容が提案されました。
セッション8:IAEA/RCAの発表
RCAの活動及びFNCAとの協力についての紹介がありました。
セッション9:FNCA賞について
COVID-19パンデミックにより中止となっていたFNCA賞について、再開し2024年に開催される大臣級会合で表彰されることが報告されました。
セッション10:「結論と提言」の採択
玉田議長より、本会合の決議事項が紹介された後、議論が行われ、大筋で合意されました。会合後に参加国のコーディネーター等による確認が行われ、以下のように確定しました。
結論と提言(仮訳)
- コーディネーター会合(以下「会合」)は、第 24 回 FNCA 大臣級会合(MLM)の共同コミュニケに基づき、原子力科学・技術分野、原子力利用、原子力安全及びセキュリティ文化、持続可能な農業発展、食のセキュリティと安全、環境に配慮した工業開発、気候変動への影響緩和、自然生態系保護などの分野における放射線利用や関連するFNCAプロジェクトの価値を認め、 FNCAの主要な役割と活動目的は加盟国の社会的・経済的充実につながる研究開発、知識と情報の共有及び能力の構築であることを再確認し、FNCAの活動を更に発展させていくことに合意した。会合では、加盟国がジェンダーバランス及び世代の多様性の促進等を通じて、原子力科学・技術分野におけるジェンダー平等の達成を目指すことが合意された。
- 会合では、放射線育種、放射線治療、研究炉利用、放射線安全・廃棄物管理、及び核セキュリティ・保障措置の5プロジェクトについて、フェーズ終了の最終報告と新しい継続分の提案が行われた。
- フェーズ終了プロジェクトに関する評価と主なコメント
1) 放射線育種
イネやダイズなどの主要作物において、病害虫、暑さや寒さ、洪水、干ばつ、塩分などに耐性があり、肥料の低投入条件でも高収量の新しい突然変異系統が開発され、発売された。 これらの成果は参加国の農業活動を効果的に促進した。
2) 放射線治療
このプロジェクトは、FNCA加盟国において患者数の多い子宮頸がん、上咽頭がん、乳がんなどに対する最適な治療法を確立することを目的としている。放射線療法と化学療法に関する複数の臨床研究の実施により、標準的なプロトコルが確立され、地域の治療成績の向上に貢献してきた。緩和的放射線治療については、「緩和ケアにおける放射線治療の標準化(RCA)」との情報交換により、FNCAとIAEA/RCAの相乗効果が期待される。
3) 研究炉利用
このプロジェクトにより、研究炉の試験の特性や使用条件などについての相互理解や、研究炉を用いたNAA(中性子放射化分析)の研究者や技術者の技術及び能力レベルの向上が促進された。2023年のワークショップでは、研究炉の老朽化問題として研究炉の性能・耐用年数管理プログラム(PMP)が議論された。
4) 放射線安全・廃棄物管理
自然起源の放射性廃棄物は通常の法律や規制の対象ではなく、その管理に適していない。このプロジェクトは、このような自然起源放射性物質(NORM)及び人為的な過程を経て濃度が高められた自然起源放射性物質(TENORM)の状況を環境的及び技術的放射線防護の観点から調査し、FNCA加盟国における安全文化の醸成に貢献した。
5) 核セキュリティ・保障措置
このプロジェクトは、原子力の平和利用を促進するため、核セキュリティと保障措置の重要性に対する認識を高め、関連する経験、知識、情報を共有することにより、核セキュリティと保障措置に関する能力構築を促進した。
- 第17回大臣級会合で承認された、プロジェクト提案に関する改訂評価手順に沿って、FNCAコーディネーター全員が、新たに継続が提案された前述の5件のプロジェクトについて、妥当性、有効性、効率性、影響力、持続可能性の観点から事前評価を行った。
- 継続提案プロジェクトに関する評価と主なコメント
会合では、評価の結果、全てのプロジェクトについてどの評価項目においても「低」のスコアはなく、プロジェクトの予算費用については日本が負担することが報告された。プロジェクトの新たな継続提案は異論なく採択された。各プロジェクトの主なコメントは以下のとおり。
1) 放射線育種
- 加盟国は、気候変動による環境ストレスに適応するだけでなく、持続可能な農業、特に生物的および非生物的ストレス耐性品種の作出に貢献できる変異品種の開発を期待している。
- このプロジェクトは、突然変異の遺伝的メカニズムに関する有用な知見を獲得するとともに、スクリーニング工程に画像解析技術を導入し、気候変動対策に寄与する低投入持続可能な農業に関して突然変異育種技術の効率化することを目的としている。
2) 放射線治療
- FNCA 加盟国では、子宮頸がん、上咽頭がん、及び乳がんが主ながんである。 FNCA地域の患者の多くは疾患が比較的進行した段階にあり、死亡率が高くなる。 したがって、これらのがんに対する効果的な医療戦略の策定と確立は、地域の公共の福祉にとって非常に重要になっている。
- このプロジェクトは、子宮頸がん、乳がん、及び緩和的放射線療法の臨床試験を継続し、プロトコルの最適化を図るとともに、参加国のニーズを踏まえた新たな臨床試験を開始する。
3) 研究炉利用
- このプロジェクトは、FNCA加盟国における研究炉の相互利用を促進し、同位体製造、老朽化問題、必要な環境試料の中性子放射化分析などを通じて研究者の技術レベルの向上を図る。
- このプロジェクトでは、以下の課題を考慮する必要がある:人材育成、その他の研究炉の利用、新しい研究炉のための国内インフラ、新しい研究炉の戦略立案、及び既存の研究炉の老朽化管理に関連する活動など、より多くの活動と成果を考慮する。
4) 放射線安全・廃棄物管理
- 放射線安全の観点から、自然起源放射性物質(NORM)及び人為的な過程を経て濃度が高められた自然起源放射性物質(TENORM)の放射性廃棄物管理は、国内の原子力安全と放射線利用の維持、向上にとって非常に重要である。したがって、加盟国はこのプロジェクトへの参加を表明している。
- 提案されたプロジェクトは、環境的及び技術的な放射線防護を通じて公衆衛生上の貢献が可能であり、社会経済的発展に多大な影響を与えると考えられる。
5) 核セキュリティ・保障措置
- このプロジェクトは、核物質及び放射性物質の使用に伴う脅威とリスクの最小化に大いに関連する。
- 核セキュリティのステークホルダーマトリックスは、参加国が核セキュリティに対処する際の各ステークホルダーの責任について共通の理解を提供することができる。
- 会合は、現在進行中の放射線加工及び高分子改質、食品産地偽装防止、及び気候変動(森林土壌炭素放出評価)の3つのプロジェクトについて議論を行った。
各プロジェクトに関する評価と主な成果は以下のとおりである。
- 放射線加工及び高分子改質
このプロジェクトは、放射線加工、特に高分子改質によって開発された成果を、参加国からの要望に応じて技術移転することを目的とする。企業との共同研究開発は、特にバイオ肥料や止血剤の実用化につながっている。
本プロジェクトを通して、進行中の研究分野における技術移転の方向性や目標を明確にし、参加国のニーズに即した研究開発を進めることが推奨される。
- 原子力技術を用いた食品産地偽装防止
このプロジェクトは、水産物の原産地を特定するためのデータベース構築に関する共同研究を実施し、サプライチェーンにおける食品産地偽装の件数を削減することを目的とする。
会合では、食品産地データベースのプロトタイプが開発されれば、サンプリング現場でポータブル蛍光X線分析装置を使用して、流通する食品の産地を迅速に明らかにするデモンストレーションが期待される。
- 気候変動(森林土壌炭素放出評価)
このプロジェクトでは、今年度から第1回ワークショップを開始し、有力な森林タイプや土壌タイプの情報を共有し、最適な場所や土壌サンプルを選択した。
マニュアルに従った土壌サンプリングは、プロトタイプデータベースの精度達成のための重要なプロセスである。土壌採取のノウハウを参加国に的確に伝え、習熟度を向上させることが奨励される。
- 2023年度のFNCAプロジェクトに関する総合評価
- ほぼ全てのプロジェクトで、対面とウェブ形式を組み合わせたワークショップが開催された。このようなワークショップでは、COVID-19パンデミック下のウェブ会議では難しかった活発な議論及び情報交換、また、テクニカルビジット、実地研修、机上演習などの活動が実現した。
- プロジェクトリーダーは、ワークショップへの適切なメンバーの出席を要請した。 メンバーはプロジェクトリーダー、専門家、技術者などで構成されることにより、ワークショップではプロジェクトのテーマについて議論を掘り下げることが可能である。
- 会合では、2024 年度に加盟国政府が主催プロジェクトに関してワークショップが以下に示すとおり開催されることが合意された。それぞれのホスト国が速やかに準備を進めることを確認した。また、ワークショップは、対面またはハイブリッド形式で実施し、対面参加者が実践的な演習を体験可能とすることが奨励される。
- 会合では、昨年の大臣級会合で新規加盟に求めた報告に関して、オブザーバーで参加したシンガポールから原子力の開発・利用に関する報告が行われた。シンガポールからは、同国における原子力開発と利用(現状と今後の計画)について報告が行われた。
- 会合では、IAEA/RCAから、RCAで活動している6つのプログラム(農業、ヒューマンヘルス、環境、産業、放射線安全など)について報告があった。これを受け、FNCA が IAEA/RCA との協力を奨励し、FNCAとRCAの間で相乗効果とより広範な技術共有につながると期待されることが合意された。
- 会合では、COVID-19パンデミックよる影響で過去2年間実施されていなかったFNCA賞を復活し、2024年に開催される大臣級会合において表彰が行われることで合意された。会合では、受賞者の選考方法について議論が行われた。
- 会合では、FNCA創立25周年となる2024年に向けた「FNCA創立25周年記念イベントに関する提案」について活発な意見交換が行われた。会合では、25周年記念イベントを成功させるために協力することが合意された。
セッション11:閉会
玉田議長による閉会宣言をもって、会合は閉会しました。
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