アジア原子力協力フォーラム(FNCA)
第9回大臣級会合
概要
2008年11月28日、マニラ(ソフィテル・フィリピン・プラザホテル)
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大臣級集合写真 |
内閣府及び原子力委員会は、フィリピン科学技術省と共催で、平成20年11月28日(金)にフィリピン・マニラ市(ソフィテル・フィリピン・プラザホテル)において、第9回アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣級会合を開催した(プログラム)。会合議長はフィリピン・アラバストロ科学技術大臣が務め、FNCA参加10ヵ国のうちオーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、ベトナムの9ヵ国(タイはバンコク空港閉鎖のため急遽参加中止)の大臣級、上級行政官、及び有識者が出席した(参加者リスト)。
我が国からは増原内閣府副大臣を代表として、近藤原子力委員会委員長、西川大臣官房審議官(科学技術政策担当)、櫻井文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当)、町日本コーディネーター、早田原子力安全委員会委員他、内閣府・文部科学省・外務省・原子力安全委員会事務局の担当官が出席した。
今次会合では、カントリーレポート及び活動報告に続いて、増原副大臣のリードスピーチのもと、「原子力発電の基盤整備のための協力」についての円卓討議が行なわれ、新たに「原子力発電の基盤整備に関する検討パネル」の設立が決定された。また、アラバストロ大臣のリードスピーチのもと、「放射線利用分野での研究開発に関する協力のさらなる促進のための方策」について円卓討議が行われた。さらに技術移転の促進方策を次回コーディネーター会合で主要議題として討議することが決定された。
会合は最後に、
1) |
昨年の第8回FNCA大臣級会合で署名した共同コミュニケに沿って、民生用原子力発電の地球温暖化対策への貢献の認識を世界的に高めていくこと |
2) |
原子力発電の基盤整備に向けたFNCAメンバー国間の国際協力を促進すること |
3) |
放射線利用について潜在的なエンドユーザーとの連携を強化することでFNCAメンバー国間の国際協力を促進すること |
を含む決議(レゾリューション)を採択して終了した。
なお、次回の第10回大臣級会合は我が国で、第11回大臣級会合は中国で開催される。
以下、会合の結果概要を報告する。
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会合風景 |
【会合結果概要】
(1) セッション1:開会セッション
アラバストロ大臣より開会挨拶、増原副大臣より歓迎挨拶が行われた。増原副大臣は、地球温暖化対策とエネルギー安定供給のための有効な手段としての原子力を取り巻く情勢や、FNCAにおける近年の取り組み、基盤整備への取り組みについて述べられるとともに、今次会合の成功への期待が表明された。続いて、出席者の自己紹介、大臣級会合の準備会合として前日27日(木)に行われた上級行政官会合(SOM)の結果報告(フィリピン・デラロサPNRI所長)が行われた。
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Dr. Estrella Fagela ALABASTRO
科学技術省(DOST)大臣 |
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Dr. Alumanda M. DELA ROSA
フィリピン原子力研究所(PNRI)所長 |
(2) セッション2:カントリーレポート
オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、ベトナムの各国から、原子力発電や放射線利用に関する活動について報告が行われた。セッション議長を増原副大臣が務め、我が国からは近藤原子力委員長が報告を行った。各国の報告概要は下記の通り。
オーストラリア
2007年の選挙で労働党が第一党となり、ラッド氏が首相となった。現政権は、原子力発電は導入せず、2020年までに太陽光や風力等の再生可能エネルギーによる電力供給を全体の20%にまで高めることを目標としている。しかし、原子力発電を行う国へのウランの供給は拡大する方針であり、また、他のFNCA参加国が核不拡散、原子力安全、核セキュリティを遵守しながら原子力発電を導入することは支持する。研究炉(OPAL=Open Pool Australian Light-water reactor)の中性子ビーム利用を重視しており、原子力科学および工学の研究プログラムをもつ。FNCAでは、原子力安全文化、放射線防護、廃棄物管理、及び放射化分析のプロジェクトに注力。
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Dr. Ron CAMERON
オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)理事長代理 |
バングラデシュ
最近承認された国家エネルギー政策では、2015年と2017年までに計2基の中小型炉の建設を計画している。原子力発電に向けた人材養成が最も重要としており、ダッカでFNCA人材養成プロジェクトのワークショップを実施した。今後、プロジェクト計画、マネジメント、エンジニアリング、サイト安全、調達、品質管理、機器製作、建設、試運転、運転保守等の各活動について、人材養成を進めていく予定。
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Mr. Shaikh Md. Wahid-uz-ZAMAN
バングラデシュ科学・情報・通信技術省(MOSICT)副大臣 |
中国
原子力発電については、現在11基、9GWeが運転中、16基、16GWeが建設中であり、2020年には40GWeが発電している計画である。また、高速実験炉を建設中であり、2009年臨界、2010年発電開始の予定。核燃料サイクルの拡充や再処理技術のR&Dも進めている。放射線応用分野では、2007年末時点で130ヶ所の電子線加速器(合計出力8.3MW)、及び120ヶ所のコバルト60照射設備(合計放射能1億Ci)があり、非破壊検査、材料開発、放射線育種、食品殺菌、がん治療などに広く使われている。FNCAの活動としては、2008年に原子力安全文化、電子加速器応用、原子力広報の3ワークショップを主催したが、今後はさらに農業分野においても貢献したい。なお、昨年3月に行政機構の再編が行われ、原子力安全規制が独立強化されて環境保護部の管轄となった。FNCAの窓口である国家原子能機構(CAEA)は、工業通信部の管轄であり、引き続き原子力産業、核燃料開発、輸出管理と保障措置、および国際協力を所掌する。
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Mr. WANG Yiren
中国国家原子能機構(CAEA)秘書長 |
インドネシア
放射線応用については、農業分野で各種穀物の放射線育種、バイオ肥料、収穫後照射(米、ブンドウ豆、もろこし、小麦)に取組んでいる。医療分野ではテクネチウム(Tc)ジェネレータの製造やフィルムレスのX線装置について良い成果が出ている。工業や環境分野では、トレーサや厚み計、水分検出など。
原子力発電に関しては、2015〜2019年に最初の原子力発電所を運転開始する計画である。これは、政府(エネルギー鉱業省)が示した2006−2025の国家エネルギー計画及び昨年(2007年)発効した法令(Act17)に裏打ちされている。規制庁であるBAPETENでは必要な基盤整備(許認可及び検査のための人材含む)を進めているところである。1号機の建設は2010年、運転は2016−17年を想定している。
人材養成を第一優先課題と考えており、これまでも日本の文部科学省(MEXT)の原子力研究者交流制度等を活用してきたほか、原子力庁(BATAN)の教育訓練センターが中心となり、国内外の大学やIAEAと協力を行ってきた。今後もANTEP等の国際協力枠組みに参加・利用していく。
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Dr. Hudi HASTOWO
インドネシア原子力庁(BATAN)長官 |
日本
商用発電炉は現在55基、49GWeが運転中であり、発電量全体の約1/3、一次エネルギー全体の12%を供給している。これに加えて3基が建設中、さらに3基が設置許可申請中である。2007年7月の中越沖地震の教訓を踏まえて、全国のプラントで耐震安全の確認作業(バックチェック)を行っているほか、6月にはIAEAのワークショップを柏崎刈羽地区で開催し、また、IAEAが設立した耐震安全センターをサポートしている。核燃料物質の輸送では、安全に最大限の注意を払いながらこれを実施するべく、周辺国との対話も積極的に行っている。核セキュリティや核不拡散への取組み、第4世代炉および高速炉に関する取組みを行っている。原子力発電のための基盤整備を希求する国に対して、3Sをベースとしたイニシアティブを7月の洞爺湖G8会合で提案し、8月にはベトナムでセミナーを実施した。また、放射線利用の促進も重要な領域であり、多くの活動を行ってきている。FNCAの枠組みのもとで進められている8分野11プロジェクトの成果についてはこれを高く評価している。我が国は、原子力科学および技術を各国の社会経済の進歩に供するべく、パートナーシップの精神でその平和利用を推進していく。
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近藤駿介
原子力委員会委員長
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韓国
現在20基(17.7GWe)が運転中で総電力需要の40%を供給している。今後2016年までに8基が運転開始する予定であり、合計28基となる。さらに2030年までに1400MWe級のプラントを10基追加建設する計画がある。また、「未来に向けた包括的原子力アクションプラン」という長期R&Dプラグラムを近く立ち上げる予定である。
国際協力としては、FNCAの他に、GIF、GNEP、RCAに積極的に参加している。また、IAEAと協力して、Webを使った教育訓練ネットワーク(ANENT)、及び国際原子力安全スクールを立ち上げている。
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Mr. OHM Ki Sung
在フィリピン大使館公使 |
マレーシア
現在のエネルギー源多様化政策には原子力発電は含まれていない。しかし、本年8月に大統領が政策を見直すよう国会で演説し、省エネや再生可能エネルギー源とともに、原子力発電もオプションの一つとすることになった。現在、包括的な国家エネルギーマスタープラン2010−2030を作成中であり、これに従って原子力発電に向けた制度や基盤整備の項目別達成度のマップを作る予定である。目標との乖離がある項目について、原子力発電の経験のある日本、韓国、中国のサポートを得たい。
原子力発電に向けた枠組み作りとして、国連安保理決議1540とIAEAの追加議定書を取り込んで、原子力安全と核セキュリティを含む法律を制定する予定。広報の重要さを理解しており、政治的アピールも必要と考えている。
FNCAプロジェクトとしては電子加速器応用と陽電子断層撮影(PET)を実施しており、2010−2011のもう2年間継続したい。また、FNCAと合わせてビジネスフォーラムを開催する等により、産業界との連携を深めることを提案したい。
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Dr. Maximus Johnity ONGKILI
マレーシア科学技術革新省(MOSTI)大臣 |
フィリピン
フィリピン科学技術省(DOST)および原子力研究所(PNRI)は設立50周年を迎えた。米国との2国間協定に基づき、研究炉を米国から導入して以降、農業、医療、地質、海洋、材料、生産技術、プロセス工学、及び環境の各分野で原子力科学および工学の利用を行ってきた。農業分野では、マンゴーにつくゾウムシの不妊化でよい結果が得られている。医療では、子宮頸がんと咽頭がんに対する最適なプロトコルを開発した。環境分野では地下水評価にも取り組んでいる。また、新しい分野として今後5−10年間に加速器利用の技術を確立したい。
一方、発電分野では、原子力発電は正式には承認されていないが、1986年に完成し、それ以降運転していないバターン原子力発電所(BNPP)の再立ち上げを検討中である。1月に来訪したIAEAミッションから、プラント中断の経験がある専門家チームによる技術的・経済的評価を受けること、原子力発電に必要な事項:適切な基盤、安全基準、知識等の整備を行うこと、の2点についてアドバイスを受けた。これを受けて、エネルギー省(DOE)と科学技術省(DOST)で共同チームを作り、BNPPのリハビリ評価、原子力規制庁を設立するための法律案を起案し、国営電力会社が韓国電力とBNPPのリハビリに関するフィージビリティスタディのMOUを結んだところである。これには18ヶ月を予定している。
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Dr. Estrella Fagela ALABASTRO
科学技術省(DOST)大臣 |
ベトナム
昨年12月に政府承認された第4次マスタープランでは、原子力発電プラント初号機を2020年までに建設して安全に運転することが目標となっている。また、今年6月には法規制枠組みの基本となる原子力エネルギー法が承認され、来年1月から施行予定。原子力発電の基盤整備に向けて、FNCAの活動を含めて国際協力を強化していきたい。
一方、放射線利用では10件のFNCAプロジェクトに取組んでいる。(研究炉利用、放射化分析、電子線加速器による高分子プロセシング、放射線育種、医療、広聴広報、廃棄物管理、人材養成、原子力安全、バイオ肥料)。FNCAのプロジェクトから得られた多くの成果は、ベトナムの社会経済的な発展に対して継続的に貢献している。
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Mr. HOANG Anh Tuan
ベトナム原子力委員会(VAEC)
企画・研究開発管理部副部長 |
(3) セッション3: FNCA活動報告
2008年度のFNCAにおける活動に関して、以下の3つの報告が行われた。
プロジェクト活動報告と年次計画
町FNCA日本コーディネーターより、2008年度のFNCAプロジェクト(8分野11プロジェクト)の活動報告及び本年度の年次計画の提案が行われた。農業・工業分野では、放射線を利用して製造したバイオ肥料や成長促進剤(キトサン)により、大豆やブンゲン豆、赤トウガラシや人参について収穫量の顕著な増加が見られた。また、医療分野では、子宮頸がん治療において5年生存率が73%という良好な結果が得られたこと、咽頭がんの最適治療法研究が進められていること、がんの早期発見のための陽電子断層撮影(PET−CT)技術の開発等の成果が報告された。さらに、研究炉利用、放射性廃棄物管理、原子力広報、原子力安全文化、人材養成の各分野についても最近の活動状況について報告がなされた。
FNCA活動の2008年度年次計画及び2009年度の会合予定は、全会一致で承認された。
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町末男
FNCA日本コーディネーター |
人材養成データベース
杉本JAEA原子力研修センター長(昨年実施した「アジアの原子力発電分野における協力に関する検討パネル」の議長)より、大臣級会合及びコーディネーター会合の決定を受けて実施中の、原子力発電に関する人材養成データベース構築の進捗状況が報告された。本データベースは、FNCA参加国で実施中の原子力発電にかかわる人材養成プログラムの仕様と内容を集めたもので、FNCAのウェブサイト上に構築して各国からオンラインで利用することを想定しているもの。現在、データベースの構成やデータ項目、利用法等に関して各国に出した質問状の回収が進み、それをもとにプログラム作成を始めたところであり、今後、各国のフォーカルポイントを通じて実際のデータを収集し、データベースを構築して来年4月には運用を開始する予定とされた。
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杉本純
(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)原子力研修センター長
第1回検討パネル議長(第2フェーズ) |
原子力安全基盤整備のためのパネル会合
本年9月1日-2日に東京で開催された「原子力発電にかかわる安全確保のための基盤整備に関する検討パネル」(第2フェーズ(2007-2008)第2回会合)の結果報告が、同パネル議長の早田原子力安全委員会委員から行われた。同パネルから今回大臣級会合へ向けて、「安全確保のための基盤整備を効果的かつ効率良く行うには国際協力の推進が有効であり、FNCA参加国間での知見と経験の共有や、FNCAと国際原子力機関(IAEA)のアジア原子力安全ネットワーク(ANSN)、東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本、中国、韓国)等の他の国際枠組み等との連携を促進していく必要がある」との提言がなされた。
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早田邦久
原子力安全委員会委員
第2回検討パネル議長(第2フェーズ) |
(4) セッション4:円卓討議1「FNCA参加国における原子力発電の基盤整備のための協力」
増原副大臣からリードスピーチが行われ、以下の3点が論点として提案された。
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昨年の大臣級会合で発出した共同コミュニケのフォローアップとして、原子力発電をクリーンエネルギーと位置付けるべきとの認識を国際社会に主張していくための方策、また、その前提として各国内でその認識を高める手段について、 |
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原子力を対象としたCDMプロジェクトの具体的な取組に関するフィージビリティスタディについて、 |
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原子力発電の基盤整備にかかわる取組の実際の経験を、FNCA参加国の担当上級行政官及び有識者で共有し、各国及び国際協力の取組に生かすことを目的とする、「原子力発電のための基盤整備に向けた取組に関する検討パネル」設置について。 |
議論の結果、今後、「民生用原子力発電が地球温暖化対策に貢献するとの認識を世界的に高めるとともに、クリーン開発メカニズム(CDM)の範囲を原子力発電が含まれるように拡大することについて、全ての利害関係者及び政策決定者達との議論を強化する」、及び「FNCAメンバー国間に蓄積された情報と実務経験、及び利用可能な他のリソースを利用して、原子力発電の基盤整備に向けたFNCAメンバー国間の国際協力を促進する」ことが合意された。また、のフィージビリティスタディについては、その具体化に向けた検討を来年3月11日-13日に日本で開催予定の第10回コーディネーター会合で行うこととなった。
また、の検討パネルについては、第3フェーズとして2009年度以降に設立されることが決定された。なお、このパネルでどのような分野に焦点をあてるか等の詳細については、第10回FNCAコーディネーター会合で議論することとなった。
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増原義剛
内閣府副大臣 |
(5) セッション5:円卓討議2「FNCA参加国における放射線利用のさらなる促進のための協力」
フィリピン・アラバストロ大臣からリードスピーチが行われ、放射線利用のさらなる促進のために、研究機関とエンドユーザーやステークホルダーとの間の連携を強化し、有望な取組については企業化を図っていくべきではないかとの問題提起がなされた。これに対して、増原副大臣は放射線利用を一層意義深いものとするためにエンドユーザーとの関係強化が不可欠との基本姿勢を述べ、町コーディネーターは各国が研究機関とエンドユーザーとの間のつながりを強化するための方策について、次回コーディネーター会合で検討するよう提言し合意された。
(6) セッション6:決議(レゾリューション)に関する討議
アラバストロ大臣より、今回大臣級会合の決議(レゾリューション)案及び会合サマリー案の紹介が行われ、その内容につき議論が行われた。決議内容について多くの国から支持表明があったが、オーストラリアは現政権の方針により決議に加わらない旨発言があった。また、会合に参加できなかったタイは決議国に加えないこととなり、最終的に8か国により採択された。(決議(英文)、決議(和文仮訳))また、会合サマリーについては誤記訂正のみで原案通り承認された。(会合サマリー(英文))
(7) セッション7:閉会セッション
フィリピン・アラバストロ大臣より、セッション6での議論を受けた決議(レゾリューション)および会合サマリー修正案を説明があった。
次に、増原副大臣より、次回開催国挨拶が行われ、来年11月か12月に第10回FNCA大臣級会合を日本で開催予定であることを報告した。
また、次々回の第11回FNCA大臣級会合の開催国について、中国より立候補の表明があり、全会一致で承認された。
最後にフィリピン・アラバストロ科学技術大臣より閉会挨拶が行われ、引き続き共同記者会見が行われた。
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大臣級・上級行政官集合写真 |
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